テロリストも即座に投降する可愛い系美少女ダンジョン配信者
「現場は緊迫した空気に包まれています」
予告も無く
//なんか急に配信始まったけど、ウサミンの声じゃない?
//この声アナウンサーのリノちゃんじゃん! 確か苗字は~最後が『し』で終わるのは覚えてんだけど何だっけ
//上司に許可貰って仕事しながら見てます
統一された装備を身に纏う特殊部隊の面々が忙しなく動く中へ卯佐美がドローンを連れて歩みを進めると彼らは立ち止まり、『作戦本部』と張り紙がされた扉を開けて卯佐美を迎え入れた。その先で待っていたのはスーツ姿の警察庁刑事特課対冒険者犯罪係。その中の一人、軽薄そうな男刑事が卯佐美に声を掛ける。
「あれ? あれあれあれ、仕事人ちゃんじゃ~ん。んじゃとっととテロリストたちをキュッと――――グガッ!?」
//あ、キュッとってそうい事?
//チャラ男が釣るってか吊られてて草
//仕事人? って思ったけど納得……若い子に通じんのかな、これ
突然宙に浮かび上がり、首を押え藻掻くチャラ男。幾重にも首へ絡みついた髪より細い銀糸を申し訳程度に胴や肩付近にも巻き付かせてギリギリ死なない力加減で吊り上げたのは慈悲……などではなく面倒ごとを避ける為。
「き、貴様どういうつもりだ! 部下として育ててやった恩を忘れたか!?」
「失礼。卯佐美のやる気を削ぎに来たので彼はテロリストの仲間である可能性があるピョン」
//微塵も失礼と思ってない
//上司っぽいヒト顔真っ赤
//テロリスト?
//部下!?
鼻息を荒くするチャラ男の上司であるチョビ髭に卯佐美はアイテムボックスから取り出した書類を手渡す。
「これは何だ」
「テメェがやってきた不正の証拠ウサ。ヒトの手柄奪って出世したやつに育てられた覚えは何一つねぇぺこなんだが?」
//おっと?
//うわサイテーだな
チョビ髭はパラパラと書類をめくり、顔を真っ赤にして書類を破り捨てた。
「ははは、これで証拠はなくなった。残念だったなぁ?」
「残念なのはオメェの毛根を含めた頭ラビ」
//バカだバカがいる
//無能過ぎ、警察大丈夫かよ
//バッチリ配信されてるんですが、もしかして気付いてない?
書類など印刷物にすぎない。元データがあれば幾らでも印刷ができる上に、卯佐美は警察上層部から今回の依頼を受けるにあたり証拠類を警察庁観察室に提出して告発している。辞めるまでにかき集めていた古巣の悪習や彼らが揉み消した不祥事等の一切合切を。
「まさか……」
「そ、今の
「きさっ、きさm――――ゲェッ!?」
吊られるチョビ髭。
チャラ男とは違い辛うじて喋れる程度にしか絞めていないが、その代わり身体は一切の自由を許されていない。
「無能過ぎてテロリストが潜り込ませたスパイである疑いで逮捕……あ、違った。逮捕は別件だったラビ」
//捜査をかき乱して妨害する為に無能を送り込んだってことぉ?
//首狩られなくてよかったね、チョビ髭
「き、さま……なんの権限で」
「冒険者規定特記第三項」
「と、特記?」
//もしかして規定、全部暗記してんの!?
//あ~あれね、あれ……教えてあげてウサミン分かんないヒトの為に
//特記なんて授業でまだやってない
「『国家及び公権力を有する機関からの指名依頼を受けた冒険者は依頼者と同程度の権力を行使できるものとする』ってボウタイなら常識のはずペコなんだけど、あららご存じない?」
傾けた顔に凶悪な笑顔を浮かべた卯佐美のターンはまだ終わらない。
//相変わらずアイドルがしていい笑顔じゃない
「では冒険者犯罪取締法はご存じウサ? テロ及び凶悪犯罪に加担した冒険者並びにその協力者は最悪の場合……」
続きを言葉にせず卯佐美は舌をみせ、親指を立てた手を首の高さで真一文字に動かした。
//チョビ髭もチャラ男も顔真っ青じゃんwww
//全くもって敬意のない敬語……迷子な語尾混じってるけど
そして卯佐美はトドメの一言を告げて、入ってきた扉を開く。
「ちゃんと監察官に告発しといたから安心するピョン」
//この扉の前に立ってる厳ついおじちゃんが監察官?
//タイミング悪くラムネ食おうとしてて茶葉
正にラムネを口に入れる直前で固まっていた眼鏡の男はそのまま何事もなかったかのように音を立ててラムネを噛み砕き作戦本部の中へ。
「皆さん、そこの吊るされたバカ二人は無視して作戦に戻って下さい。作戦指揮は私が、と言いたいところですが門外漢が出しゃばっては救えるものも救えなくなります。ですので本作戦の総指揮は一応私が取りますが、現場指揮や細かい判断は卯佐美さんと特殊部隊の方々に一任します」
卯佐美が来る前の忙しなさが嘘のように手際よく作戦準備が着々と進められていく。その間手持ち無沙汰な卯佐美はコメントの相手をしていた。
//今日はダンジョンじゃないの?
「そうペコ。場所は言わなくても報道してるから分かるだろうけど突してくるバカの安全は保障しねぇウサ」
//刑事だったの?
「そこは説明が難しいラビなんだよな。実力を買われて一時期此処で働いてたぺこだけど、警察学校とかは行ってないウサだから」
//えっと失礼を承知で聞くけどウサミンっていくつなの?
「そこはダンライのホームページにある公式設定を参照してくれピョン。ただ此処で働いてた時は歴代最年少だったのは確かラビ」
//冒険者って対人戦もできないとダメなんでしょうか
「できるに越した事はないペコだし、もしできないなら非致
「卯佐美殿、作戦準備が完了しました。卯佐美殿の判断で作戦を開始してください」
椅子に座り対談姿勢を取っていた卯佐美は立ち上がり、軽くストレッチをして身体を解し発声練習と配信前のルーティーンをこなしていく。
軽く跳ねて深呼吸を入れると卯佐美は運び込まれたテレビカメラと特殊部隊に向けて作戦開始の合図を送った。カメラのランプが灯り、撮影が開始されお茶の間にも卯佐美の姿が映る。
「おはラビ! こんぺこ〜、こんウサー。アイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』の三期団、宇佐美・ラビットソンだピョン」
//あれ配信が始まった?
//なるほど、そういうことか
//テレビにもウサミンが映ってる!
卯佐美の声が乗ったのは地上波の電波だけではない。人質と立て籠もるテロリスト達に向けて設置された拡声器からも卯佐美の声が流れる。
「今日の卯佐美はテロリストが立て籠もってる事件の現場に来てるピョン」
卯佐美が移動して配信画面とお茶の間にニュースで流れていた現場と同じ光景が映った次の瞬間だった。
「見て下さい! 武器を持ったテロリスト達がこちらに背を向けながら出てきました。中にいる別のテロリストを警戒している様子です」
//びっくしたアナウンサーのリノちゃんか、またウサミンが語尾忘れたかと思ったぜ
//なんかテロリストの最後の一人が窓開けてなんか言ってる
「俺はう、卯佐美・ラビットソンさんのファンだ。あ、アイドルってんならファンの俺に酷い事はしないよな?」
//あ~あやっちゃったね
//終わったわあのテロリスト
「卯佐美のファンならファンネームが言えるペコだよなぁ?」
「えっと、ちょっと度忘れしちまって今すぐ思い出すから――」
「ねぇよ?」
「は?」
「卯佐美のファンがオメェらの様な屑と同一視されたら可哀そうだからファンネームは決めてない事にしたウサだから」
「はぁ!?」
「それに卯佐美のファンに悪いヤツは存在しないピョン。どうしてだと思うラビ?」
「それは俺が悪――」
「間違った道に進んだ卯佐美のファンには卯佐美が責任もって引導を渡してやるペコだけど……」
どちらのカメラも卯佐美の背中越しに顔面蒼白となるテロリストの顔が映る。
「ファンを騙ってすみませんでした。と、投降するので…………」
かくして冒険者テロリストによる事件はあっけなく幕を閉じたのだった。
「卯佐美はダンジョン配信してるから
//おつピョン
//おつラビ~
//おつラビおつラビ
――本日の配信は終了しました――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます