フラグもへし折る最強美少女ダンジョン配信者ギルド

「待たせたラビな。卯佐美が来た」


 配信画面にヒーロー着地を決めた卯佐美が映る。


//安心感がスゴイ

//トンデモねーモンスターの数だけど

//待って、モンスター達動いて無くない?


 卯佐美の後方に映る無数の、夥しい数のモンスター。小鬼ゴブリンを始め人型犬コボルト人型豚オーク悪鬼オーガと多種多様なモンスターの大群が背景を埋め尽くしていた。卯佐美が立ち上がるまで。


作戦会議ブリーフィングとか今回の配信を観る上での注意事項を話したりするのに邪魔だったピョン」


//恐ろしく速い首狩り、俺でなくても見逃しちゃうね

//安心感の正体はこれか

//がんばれー


 モンスター達の首が落ち切る前に撮影用ドローンは回り込んで反対側の光景を映し、狩られた首が落ちる音だけがモンスターがいた事を物語る。


「お察しの通り今回は原種ダンジョンぺこ。ヒトによっては刺激が強過ぎるウサだから無理だと思ったら観るのを止めるのおススメするラビ」


//なるほどグロ注意か

//ダンライが勢揃い……ではないね

//ウサミン達がここ担当なんだ


 Dアラートダンジョン災害予期警報が鳴り響いた翌日。卯佐美が所属するギルド『ダンライ』の面々は既に担当を任された原種ダンジョン『岐阜海』に到着していた。


「こちら巫女乃サクラ。特にやる事ないんですけど。どーぞ」

「『こちらNYAGOO。だったら準備体操でもしてて。サクラは一応最後の砦兼マリーネの護衛なんだから。どーぞ』」

「こちら砲主マリーネ。確認なんだけど、国からの指名依頼だから弾薬費と燃料代テイムモンスターの餌代は経費で落ちるのよね。どーぞ」

「『こちら……ねぇサクラ、この無線機ごっこは続けないとダメ? マリーネ、国の経費で落ちるからジャンジャン使って問題無し!』」


 ダンジョン災害には幾つか種類はあるが、共通して異常な量のモンスターがダンジョン内に溢れかえり外へと侵攻を開始する。今回の世界中にある原種ダンジョンが同時多発的に氾濫を起こすダンジョン災害『世界侵攻』は人類の存亡を左右しかねない事態だった――


//みこPONに艦長、ウサミンと……誰だ?

//NYAGOOは前線にでるタイプじゃないし、顔も違う

//美少女メカっぽい……ん、メカ?


HaAIはぁあい! アイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』の零期生、高性能AIのメカ子さんだよー。今日は僕もいるからねー」


 ――のは今や過去の話。ダンジョン黎明期ならいざ知らず『大ダンジョン配信時代』とも叫ばれる現代においては研究により発生周期等が判明している事もあって世界規模の祭典となっている。要するに冒険者のオリンピック、世界大会的なモノだ。


「いるからねーって、今日が配信デビューで良かったピョン? 卯佐美の枠だし」

「だって~やっと僕の素体ボディが完成したから早く見てほしくて~」

「だって~、じゃないでしょーよ。メカ子、あんたAIなのに人間臭過ぎんのよ」

「生体パーツはちゃんとお風呂入れてるし、他のパーツも毎日洗浄してるから僕臭く無いよ~だ」

「メカ子さん、そういう意味じゃねーって。それよりサクラより前でんじゃねーぞ」

「は~い」


//零期生って事はウサミンより先輩なん?

//ピンクよりの紫色したフレームがカッコイイ

//足からジェットで空飛べそう

//メガネ僕っ娘な美少女アンドロイド……良い


 祭典となった頃は国の威信を賭けた代理戦争を呈していた事もあったが色々あって今やダンジョン配信者ギルドの大型箱対抗企画感が強く、割と雰囲気も緩い。


「それで作戦って何か聞いてるラビ?」

「え? 経費国持ちで主砲打ち放題でしょ」

「サクラが階層出入口に立って敵を食い止めるにぇ」

「僕は勝手に来たから作戦に組み込まれてないと思うな~」


//あ、これさては誰も作戦聞いてないな

//作戦? ねぇよそんなもん、でイケる気がする

//勝手に来てたんかい


「『どうせ聞いてないだろうと思って話してないよ』」


「「「「あ~どーりで」」」」


 岐阜の海ダンジョンの景色を一望できる高い山だったせいか卯佐美達の声が木霊して配信画面の向こうではエコーが掛かっていた。


 地理関係がおかしい日本アルプスに似た山脈や岐阜県にある山っぽい地形に囲まれた海にはまだ多くのモンスター達が蠢いている。その先兵らしきモンスターが海を飛び出し卯佐美達のいる階層出入口を目指し歩みを進めようとして、卯佐美が始末してそのままにしたモンスターが邪魔となって進めないでいた。はいそこ、海じゃなくて湖じゃない? とか言わない。


「河童ってやっぱ淡水魚ペコかな」

「は~河童って魚だったん? 知らなかったにぇ」

「卯佐美、適当こかない。サクラ先輩信じちゃったでしょーが」

「え? 嘘なん!?」

「いや~たぶんウサミーは河童の生息域が淡水か海水かが気になっただけだよね」


//基本川だけど海にもいたって伝わってるけどダンジョンのとは別だろうし

//河童以外も来てる

//ウサミン狩ったのと同じモンスターが河童と戦い始めてて茶葉


 海(実際は淡水なので湖)を囲む山々から小鬼や悪鬼達各種モンスターも湧き出て宇佐美達がいる方を目指し、海(湖)から出てきた河童とかち合い三つ巴の戦いへ……とはならない。


「河童、負けてんで」

「そりゃ陸の上ウサだし」

「いい加減作戦確認しとかない?」

「い〜ね〜」


「『それでは作戦を説明する。と、言っても複雑な作戦なんてできないだろうから——』」


 作戦内容を要約するとサクラを盾にしてマリーネの連合艦隊テイムモンスター達が一斉砲撃して山と湖ごと吹き飛ばす脳筋作戦だった。


戦艦大和やまっちゃん戦艦武蔵タケクラも呼んじゃっていい?」

「上に落として押し潰すのもありペコだな」

「おい、それサクラも下敷きになんじゃねぇのか!?」

「なるね〜僕らも」


//戦艦落とし(物理)

//偶に艦長が弾薬節約するときに使うアレか

//いつもは駆逐艦だから迫力ありそう


「やらねーよ!? 国から経費出るんだから限定召喚で連合艦隊どころか全艦艇の主砲全部で一斉砲射フルバーストするワ」

「なぜかサクラ先輩も巻き込まれて無傷であっちゅあっちゅ叫んでるのが想像できるピョン」

「確かに〜」

「おいそれサクラを砲弾にしてにぇ?」


//みこPON弾頭は世界一硬いまである

//汚れるだけで服まで無傷なのは何でだろ、センシティブにならないからいいけど

//ウサミンは何するの?


「『宇佐美はマリーナの一斉砲撃の準備が完了するまで遊撃で敵の気を引いてくれ』」


「それは別に狩り尽くしてしまっても構わんペコ?」


「おい宇佐美、変なフラグ立てんな!」

「サクラを巻き込まんでもろて」

「あ、僕のやる事な〜い」


//ガハハ勝ったな風呂行ってくる

//ここはウサミンに任せて先に行くんだ

//首刈りウサギと同じフロアにいられるか


 宇佐美は特に何も言葉を返す事なく山肌を駆け降り、河童を蹂躙する悪鬼へと音もなく近づき——通り抜けた。


 落ちる悪鬼と河童の首。


 宇佐美が走り抜けた跡に動くモンスターの姿は無い。動きを止めたモンスターが宇佐美の軌跡となって配信画面に映る。


 その軌跡は動くモンスターがいなくなるまで続いた。


「おいこら宇佐美! 本当に全部狩るヤツがあるかー!!」

「あ、山と湖ごと吹っ飛ばせって言ってたけどぉモンスターを倒せとは艦長に言ってないような〜」

「確かに! 宇佐美ー戻って来ーい、マリーナの一斉砲撃に巻き込まれんでー」


//たーまやー

//海が、山が燃えて……は無いな

//まさか本当に狩り尽くすとは、正直ウサミンならやると思った


「おい、せめて宇佐美が戻ったの確認してから撃てウサ」


「あ、宇佐美お疲れ」

「お疲れー」

「お疲れウサミー」


「はぁ〜もぅいいピョン。あとは事後処理だし、配信はここまでにするラビ。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいピョン。乙ペコPONメカリーネ〜」

「「「「乙ペコPONメカリーネ〜」」」」


//おつペコ

//おつPON

//おつメカ

//おつリーネ

//おつペコPONメカリーネ〜


――本日の配信は終了しました――

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