吸血鬼も泣き震える銀髪美少女ダンジョン配信者

「突撃ペコ!」


 宇佐美の合図でバッファローの群れがダンジョンのフィールドを駆け抜けていく。そこにある岩や樹、果ては敵モンスターすらも呑み込んでバッファローの群れは突き進んで行った。


 全てを更地に変えて。


 微かに残る光塵の残滓だけがそこにモンスターがいた事を物語っている。


//出た! ウサミンの全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだぁ

//敵モンスターなんだったんだろ

//カットインって色んなパターンがあるのか


 配信画面では宇佐美がテイムモンスターであるバッファローの群れを召喚するところが見せ場とばかりにカットイン演出を入れて臨場感たっぷりに映しており、敵モンスターは一切画面に映っていない。


「お、開いたピョン。って事は相手も手持ちは一匹だったみたいペコな」


//一匹……

//そうだな一対一だったな(遠い目)


 テイムモンスター同士でのバトルにおける一匹はテイム枠一つ分と同義である。卯佐美が持つ唯一のテイムモンスター『群体バッファロー』は数えるのが億劫になる程の群れになろうと一枠とカウントされる為、ダンジョンにおけるテイムモンスターバトル略してテイムバトルでは一匹扱いなのだ。


「あ、消える前に首置いてくラビ」


 手持ちのテイムモンスターが敗北した事で光の塵化死亡演出が発生していた一角馬使役種ユニコーン・ロードに向けて卯佐美が二本指を横に振る。


//ユニコーンロードって事は敵は馬系だったのか

//ユニコーン脂肪のお知らせ……って、え!?

//恐ろしく速い首狩り俺でなくても見逃しちゃうね

//テイモンバトルのダンジョンって敵テイマーに攻撃効かないじゃなかったっけ


「うさ~やっぱドロップしねぇペコか」


 卯佐美がテイムモンスターでバトルを繰りひr……蹂躙しているダンジョン『帝紋リーグ四天王戦』はテイムモンスター同士を戦わせるテイマー向けダンジョンである。その特徴はテイムモンスターは死なない特殊な非致死性であること。そして敵味方問わずテイマーへのダメージは発生しないとされていた。


//え、なんでダメージ入るの!?

//これやばくね……

//俺、テイマーなんだけど今度のジム戦やめようかな


「あ、ちょっと待ってマネちゃんからメッセ来てる」


 卯佐美が腕輪型の情報端末を操作して連絡を確認するがその通知内容が配信画面に映る事はない。ダンジョン配信用のドローンは情報端末が投影する画像や文章が映らない仕様なので、配信者の個人情報しっかりと守られているのだ。稀にやらかすPONもいるけど。


「えーと非致タヒ性ダンジョンの安全性に関わる事なので今の現象について解説します」


//助かる

//いつもの迷子な語尾は?


「今、真面目な話をするとこだから」


//怒られてやんの


「怒られてねぇペコだから! 注意されただけだピョン!! オホン、テイモンバトルが終わって敵テイマーが消えるまでの間はダメージを与えれる様になってるラビ」


//なんでそんな事しってんの?

//語尾、語尾


「このダンジョンの挑戦資格集めてる時に物理無効の害悪戦法やってきた使役種モンスターに勝った後、八つ当たりしたんだピョン。そしたら何か首が狩れたペコ」


//あ~あのダンジョン対策してないと詰む

//八つ当たりwww

//その気持ち分かるわー

/ダンジョン協会/テイムバトル系ダンジョンではテイムバトル終了後、僅かな時間ですがダメージが発生する状態なのを確認しております。ただし、その間はテイマーにもダンジョンの非致〇性が適応されいるのを確認済みなのでご安心下さい。


「ダンジョン協会のコメントが来てるラビな。これ固定コメントにしとくピョン」


 その後、続く四天王の人面獅子マンティコアと妖狐の使役種を一方的に倒すが相手のテイムモンスターの数が増えるだけで焼き回しの展開だったので割愛。


 人面獅子と妖狐の首も落とし進む卯佐美は最後の四天王が座す第四層へと足を踏み入れる。


 ロウソク程度の灯りしかない鬱蒼とした階層に卯佐美は嫌な予感を覚えていた。


 血の池を彷彿とさせる赤い水たまりに洋館の柵らしき装飾の壁。極めつけは待ち構えているかの如く立て掛けられた棺桶。


 赤黒い液体が滴る棺がゆっくりと開――閉じた。


 暫しの沈黙が流れ、再び棺が開こうとして……開かない。


//何が起きてんの?

//ウサミンが首狩り過ぎてダンジョンがバグったか

//あ、そうだこんな時になんなんですけどファンネーム考えました『パイソンズ』とかどうですか?


「パイソンズ? パイソンって蛇ペコだっけ。なんで蛇ラビなのかな……π、損? π損!? おいコラ、卯佐美が貧乳だって言いたいのかピョン!?」


//まぁでもどっちかって言うと……なぁ

//元気出して、ウサミン

//そんな事よりさっきから変な音なってない? 何かをブッ叩く様な


「悲しくなるから慰めるんじゃねぇウサ! 小っさくないわぁ! 同期の連中がデカ過ぎんだよぉぉぉ……」


//それは……確かに

//だとしても……いや、これ以上はよそう


「……あ、力加減間違えたピョン」


 突然の破砕音が鳴り響いた。


//耳無いなっ……てない、さっすがウサミン音量調節も完璧だぜ


 音の発生源をドローンが映し出すと棺桶が粉々のバラバラに吹き飛んでおり、いかにもなドラキュラ然とした衣装をまとう幼女が頭を押さえて震えている姿が配信画面いっぱいに映る。


//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!

//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!

//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!

//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!

//ドラキュラ幼女、来てぃあぁぁぁ!!!


「おい、そのうーうー泣くのを止めるラビ」


 静まり返るダンジョンとコメント欄。


//鬼かあんたは……ってウサミンだった


 いち早く我に返ったリスナーの送ったコメントは凪いだコメント欄では固定コメントの次によく目立った。


「どーゆう意味だピョン!?」


 卯佐美の怒声に吸血鬼使役種ヴァンパイア・ロードの幼女は悲鳴を上げて手をかざす。


 血の色をした魔方陣が小さな手から広がり、虚空に空いた黒い穴から赤い霧が溢れ出した。


「我が名を分け与えし――以下略ぅ! 『ラビットソン』召喚!!」


 同じく卯佐美側に広がった虚空の黒穴から地響きを立てて現れる大量のバッファローの群れ。大地の凹凸もいつの間にか広がった血の池も、この階層に広がる一切合切を踏み均す暴力の濁流が呑み込んだ。


 ヒトの形を取ろうとしていた赤い霧も、ついで出てきた赤黒い霧も紫の霧も呑み込まれて霧散したのはまだ見せ場があった方だろう。黒い穴が保護色となってリスナーに認識される事無く散っていった幼女の切り札だった黒い霧に比べれば。


//結局敵のテイムモンスター見る事無く終わった

//吸血鬼の幼女いじけてて可愛い

//体育座りの吸血鬼たんは俺が保護するんだ

//俺、テイマー目指すよ今からでも遅くないよな


「この幼女吸血鬼からドロップしたアイテムを抽選でプレゼントするウサ。いつものハッシュタグで今日一番少なかった語尾で投稿してくれウサピョン。複数投稿は無効だから気を付けるペコ」


//あぁ、ウサミンのゴミを見る様な視線……良ぃ

//今日は少ない方だったかぁぁぁ

//アーカイブ見直さなきゃ


「今日の配信はここまでにするぺこかな。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価して応援してくれると嬉しいペコピョンだラビ。乙ウサペコでした~ラビラビ」


//おつラビ~

//おつペコ~

//おつウサ~

//今、ゴトッって音しなかった?


――本日の配信は終……


「あ!? 四天王の五人目とか聞いてねぇピョン! もう枠閉じちま――」


         ……了しました――



 

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