変身も覚醒も三つは残ってる小柄美少女ダンジョン配信者

「首が狩れてねぇぺこ……」


 確実に首を狩った感覚が卯佐美にはあった。だが目の前にいる小鬼ゴブリンの首から上は未だ健在で、当小鬼にも狩られた感覚があったのか首を押えて傾げているが一向に首が落ちる気配はない。


//恐ろしく速い首狩り俺でなくても見逃しちゃ……え?

//一瞬ゴブリンの首がズレて見えたんだけど

//嘘だろ……ウサミンの首狩りがゴブリンに通用しないなんて


 慌てふためくコメント欄だが此度もリスナーの反応は二つに大きく分かれていた。卯佐美の首狩りが効かないゴブリンに驚きコメントをするモノとコメントをせずにコメント欄を見て湯悦に浸るモノとで。


 湯悦に浸る彼らはただ驚く他のリスナーの反応を楽しむ為に黙っているわけではない。彼らは卯佐美との約束を守っているだけなのだ。概要欄にある『卯佐美が初見の非致〇性ダンジョンのネタバレ禁止』という約束を。


単独攻略ソロアタックだと難易度が爆上がりするって聞いてたラビだけど、確かに一筋縄じゃ行かなそうウサ」


 そう言いながら卯佐美は腕を振って再度小鬼の首を狩る。


 小鬼の首が落ちた。


//今度は効いたね……

//一筋縄じゃいかない?


 早くも前言が撤回されかねない状況に卯佐美の頬に朱が差した。


//赤くなった

//ねぇ今どんな気持ち?


「う、うっせーピョン」


 卯佐美は追従するドローンのカメラに背を向け、劇の小道具にしか見えない草が並ぶ草原を進む。


//なんか劇か舞台でも見てる気分

//草の絵を描いた板みたいなのが揺れてゴブリン出てきたけど

//また出た


 草の小道具から飛び出してきた小鬼に向けて腕を振り、首を狩りにかかるが小鬼の首は落ちない。それどころかブーイングの様な声がどこからともなく聞こえてくる。


「今のブーイング、小鬼テメェか?」


//ゴブリン相手にキレてる

//ウサミン語尾、語尾

//ゴブリンめっちゃ涙目で震えて首振ってんだけど


 卯佐美は周囲を睨みつける様に見渡しながら再度腕を横に振って小鬼の首を狩ろうとするが、失敗。またしても聞こえるブーイングの声。


 呼び動作なしの首狩り――失敗とブーイング。

 三度目の腕振りでも結果は同じだった。


「あ~これ、卯佐美の予想が当たってたらク……おほん。予想通りぺこなら面倒なダンジョンだピョン」


//え、どういう事?

//もう謎がとけたの!?


 卯佐美は片手を上げて、天高らかに指パッチンを一つ。


//鳴ってない

//鳴らなかったね

//なんで指パッチン? 鳴ってないけど


「お、音が鳴るかはどうでもいいラビ。それよりも見るピョン、今度はちゃんと狩れたペコ」


 顔を赤くしながら卯佐美が指差した先では首の無い小鬼が光の塵と化していた。


//つまり……どーゆーことだってばよ?

//あ、じゃあ次はジョ〇。立ちでお願いします


 約束は果たされたと卯佐美が挑んでいるダンジョン『劇ダン パフレ』の特性を知るリスナーのコメントに応え、卯佐美は指差しポーズを決めて次に現れた小鬼の首を狩る。


//やっぱ三部だよなぁ

//俺は五部推し

//次のアニメまだかな~

//この大歓声はどこから?


「卯佐美は四部が好きウサ」


//すげぇ全部再現度高いんですけど

//ゴブリンが出た瞬間ポーズを決めて首が狩られて笑う

//結局どういことなの?


「このダンジョン、一度使った技が通用しなくなるラビ」


//とんでもねぇ仕様きた

//俺、スラッシュしか使えねぇから速攻で詰む

//だからパーティ推奨なん……いやパーティでもきつくない!?


「卯佐美の首狩りはスキルでも何でもないからかポーズ変えるだけで通用してるし結構判定はてきとーペコだな」


 出現するモンスターが小鬼から人型犬コボルトへ。


「モンスターが変わっても技の制限は変わらねぇウサだな」


//もうジョ〇。立ちネタ尽きたぞ!?

//ジョ〇。立ちが優秀過ぎて生半可なポーズじゃ成立しなくなってる……

//どうするんだウサミン、もうポージング首狩りは通じねぇぞ


「はい――サイドチェスト! あ、ダメっぽいピョン」


 ブーイングは聞こえないがポーズを変える度に巻き起こっていた歓声も聞こえなくなっていた。まるでその程度では物足りないとでもいう様に。そして状況に追い打ちをかけるかの如く大量の人型犬が周囲の草むら(小道具)から現れる。


「イトノコイトノコシシダンダン」


//え?

//この状況でこの量はウサミンでもやば……はい?

//おどりだしたwww

//歌詞微妙に間違えてる……


「イトノコイトノコシシダンダン」


 独特なリズムと動きに人型犬もダンジョンも思考が停止する中、卯佐美が「ダン」と声を発するのに合わせて卯佐美を取り囲む人型犬の首が落ちていく。


 このまま問題無く人型犬達を狩れると思っていた卯佐美だったが、配信的な問題がある事に気付いてしまった。


 この状況、耐久動画ならまだしも生配信では続けるのはいかがなものか――と。


USAウサUSAウサBEAMビーーム!」


//なんだ!?

//ビーム出てる

//急なアイドルムーブで茶葉


 顔横両手ピースをして周囲を見渡す様に頭を動かす卯佐美。


 もちろんビームなど出ていない。いつぞやのスポットライトを再現したのと同様に眼の辺りから魔法で光を照射しているだけ。故にビームを出したままドローンのカメラに視線を向けても問題無いのだ。


//眼に五芒星が浮かんでるあたり流石ウサミン芸が細かい

//眩し……くない?

//これ魔法で光らせて物理で首狩りしてるだけだ


 光の照射に合わせて首を狩る事で人型犬の大群を一掃した卯佐美は次の階層へ。


「な、なんで『ウサミンナイトフィーバー』が通用しねぇピョン!?」


 このダンジョンの特性は同じ技が二度も通用しないという生温いモノではない。技としての判定こそガバガバなモノの一度出された技の劣化版と見做されても通用しなくなる。


 つまり卯佐美のオリ曲ダンスは先の即席ダンス以下と判定されてしまったのだ。実際、元ネタとの再生数と比べると大きく劣るのでこの判定は間違いではない。


 間違いないが、その判定は卯佐美の怒りに火を点けた。


「どーゆーことペコォォォ!!!」


 嘲笑する(卯佐美にはそう見える)悪鬼オーガを前に卯佐美の怒りが爆発。


 逆立つ銀髪が金髪へと染まり、迸る金色の光。


//これはまさか穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚め……いや、ウサミンに穏やかな心は解釈違いだな

//シュンシュン音が鳴ってる


「今の卯佐美はスーパーウサーダだラビ」


//黄金の超戦士きてぃあぁぁ

//いや、ダはどっから来たんよ

//こんな覚醒系のスキルなんてあったかな……


 卯佐美は変身・覚醒系と呼ばれる身体能力を爆発的に増大させるスキルを使っているわけではない。有名人御用達の変装系の色変えスキルで髪を染め上げ、魔法で光と音を出して演出しているだけである。そもそもが怒った振りなので。


「そしてこれがスーパーウサーダⅡペコォォォ」


 早着替えスキルによる色変えスキル対応のエクステ装着。


//その毛量は3なんよ

//もうやめてオーガ階層のライフはもうゼロよ


 階層変わって最終階層にて。


「これはスーパーウサーダⅡを超えたスー・ウサパーダ」


//また語尾忘れてるよ

//いやウサパーダってなに

//なんか刀みたいなの出てきたんですけど?


 卯佐美の手に握られた一本の刀……に見せかけた糸の集まりが糸製の鞘から抜き放たれる。目の前で宝箱を守護する竜へ向けて。


うぅ! かい!」


//もしかして卍のヤツ?

//うかいは漁法……


 卯佐美が光を纏おうと、どこからともとまなく武器を出そうと結果は変わらない。


 敵は等しく首を狩られる……というか演出を変えただけで全ていつもの首狩りである。


「これにてダンジョンクリアぺこ。まさか宴会芸がここまで役に立つとは思わなかったピョン」


//宴、会、芸!?

//そういえば敵の方はいつもと変わらないやられ方だった

//たぶんダンジョンもこの攻略法は想定外なんじゃ……


「それじゃ今日の配信はここまでだウサ。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価して応援してくれると嬉しいペコ。乙ウサペコでした」


//おつウサ~

//おつラビ~

//おつピョン


――本日の配信は終了しました――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る