ドラゴンも跨がず踵を返す美少女ダンジョン配信者

「首から下を置いてくピョン」


 卯佐美と対峙した竜が卯佐美の声に呼応するように鎌首をもたげる。首が持ち上げる頭を落っことしながら。


//置いてかれたのは生首でした

//恐ろしく速い首狩り、俺でなくても見逃しちゃうね

//頭が無いのに動いてるってことはゾンビ?


 既に無い頭からブレスを吐こうと予備動作仰け反らせた首をしならせて振り下ろした竜の首から飛び出たのはブレスではなく、真っ赤な鮮血だった。


「あ、やっべ。グロ画像処理設定してたペコかな」


/メカ子さん/してなかったから設定しておいたよ~

//鮮血のブレスだーって、それって吐血では……吐血か? これ

//ダイナミック・セルフ血抜き


「メカ子さん、ありがとうウサ」


/メカ子さん/ど~いたしまして

//メカ子さんいた

//お礼言えてえらい


 撮影用ドローンに向けて頭を下げる卯佐美の後ろで転がる竜の頭と巻き散らかされた血が光の塵となって消えていく。光が収まると少し綺麗になった竜の頭と何故か瓶詰めされた真紅の液体が置かれていたドロップしていた


「あー! やっちまった……ラビ」


//今、語尾忘れかけてた?

//首から下の方も何かドロップしてるよ

//竜の爪20枚セットだって


 光塵化が起きていることから分かる通り、卯佐美が配信しているダンジョン『ドラゴンの食卓』は非致死性ダンジョンである。そして食料系・食材系と呼ばれる中でも玄人向けとされていた。


「おらぁ! 次ぃ!! おめーも首から下を置いてけピョン!!!」


//もう下を、じゃなくて首から下もな気がする

//デジャヴ?

//今度は首の付け根……これも首狩りなんだろうか

//首が長いと首狩りが何回もできてお得だね


 時を巻き戻したかの如く同じ動きをした竜の長い首が落ちる。


「次は前脚! 後ろ! 羽! 尻尾!! っで胴体ィィィ……はどうやって解体バラしたらいいペコ?」


 巨大な木板の大地を踏みしめて巨体を支えていた四肢が斬り飛ばされ、枝葉を払うかのように落とされた羽と長すぎてちょっと邪魔と言わんばかりに切断された尻尾が宙を舞う。


//タツノコタツノコ四肢、断! 断!

//三枚におろす……は魚か

//竜の部位って牛や豚と一緒でいいんかな


 一瞬の迷いが致命的な遅れを招いた。切り分けられた竜の部位が光の塵となりドロップアイテムへと変わり果てる。


//レア泥祭りだー

//あれだけ切り分けて食材が一個だけで茶葉

/ロボ子さん/ドロップ結果SNSに上げとくね~

<ドロップ結果

 頭:逆鱗(素材) 頭殻(素材)

 首:竜骨鞭(武器)

 血:新鮮な竜血の瓶詰(素材)

 脚:鋭爪、重骨、重殻、厚鱗(素材)

 翼:剛翼(素材)

 尾:霜降り竜テール肉(食材)

 胴:竜玉(素材)


 このダンジョンが玄人向けとされる理由は登場モンスターの強さが理由ではない。討伐したモンスターのドロップアイテムがモンスターを解体した分だけ増加し、解体箇所に合わせたドロップが出やすくなる仕様の為だ。このダンジョンで稼ぐには戦闘能力に加えて解体技能まで要求される。


「打ち上げ用の肉を狩りに来たラビなのに何でレア素材ばっか落ちるペコかな。解体はガチャじゃねーウサ」


//ガチャ? ……あ、察し

//物欲センサーが働いてますね

//素材目当てだったらかなり理想的な落ちしてるのに


 倒したモンスターの解体受付時間は戦闘時間に比例するのだが、卯佐美には戦闘時間を伸ばしてまで解体時間を確保するわけにはいかない理由があった。


 このダンジョンのドロップアイテムは戦闘時間に反比例してレアリティが上昇する。


「卯佐美は超高級ドラゴン肉でギルメンと焼肉がしたいだけラビなのに!」


 斬。


「ガチャってのは当たるまで引けば絶対当たるウサだよなぁ?」


 断。


「首――じゃねぇや肉、肉置いてけ……」


 解。


//すげぇレア泥の山だ

//ウサミン……語尾が、語尾が

//なんか接敵から首狩り、解体の速度が上がってきてない?


 戦闘速度がどんどん加速していく卯佐美を捉えきれないと判断した撮影用ドローンは空高く浮かび上がり、ダンジョンのフィールドである巨大なまな板を配信画面いっぱいに映し出す。


//ウサミンどこ?

//首狩ってセルフ血抜きしてる間に別の個体を狩ってる……

//移動して狩るのが面倒になったウサミンが竜を強制移動させたせいで工場のラインにしか見えなくて草


 流れる様に胴体に付随する諸々が狩られ、胴体の解体が試行錯誤されていった。


 三枚おろしや輪切りに四分割と雑なモノから皮を剥いで内臓を取り出し、骨と分けてから肉をそれっぽい部位ごとに切り分ける丁寧なモノと試していった結果卯佐美が辿り着いたのは――


「サイコロステーキになるペコ!」


//サイコロステーキドラゴン先輩

//最初に首狩りする辺り流石ウサミン

//丁寧に解体して肉が出たのになんでそっちに落ち付いちゃったか……あれ? 雑にカットしてる様に見えてメッチャ丁寧だぞ


 ――格子状に寸断サイコロステーキにする事だった。血抜きの工程を省き頭を落とした残りをサイコロ状へ。尚、頭を落とすのは首狩りの様式美だ特に意味はない


「ロース、ヒレ……あと何か色々! でも手羽元とか鶏肉っぽいのもあるラビな」


//まぁ羽もあるし

//ワニ肉って鶏肉っぽいって聞くしドラゴンも……

//ドラゴンの肝肉:胃(名称募集中)ってなんですか!? 胃ならラギアとか牛と同じじゃダメなんでしょうか?


「ラギア……牛の胃ならギアラじゃなかったウサ? あ、なんか採用されたっぽいペコだけど」


 ドラゴンの胃(食肉用)の名称が決まった歴史的瞬間である。


//え、ちょっなんか恥かしいんですけど!?

//間違って覚えてたのが採用されてるwww

/メカ子さん/なんか歴史的瞬間っぽいしSNSに上げとくね~

<速報

 ドラゴンの胃(食肉用)の名称が決定

 『ラギア』

 他のドラゴンの内臓、もつの名称も募集中みたいだから応援コメントで言ってみてウサミーが読み上げると採用されちゃうかも?


「……ゴメンって言うべきか、おめでとうって言うべきか迷うピョン」


//おめでとう

//どんまい! そんでおめでとう

//あの、えっと……おめでとうで大丈夫です。ありがとうございます


 卯佐美が所属するアイドルダンジョン配信者ギルド『ダンライ』の面々が、単独でのダンジョン配信を可能としている冒険者達の食事量が如何ほどか不安になる量の肉を狩っていく卯佐美。


/メカ子さん/一応僕らアイドルだから言っておくけど、この量を全部一回で食べ尽くすわけじゃないからね~

//ようやく肉がドロップするようになったからって狩り過ぎでは?

//そういや他のダンライメンバーも食材集めの枠立ててたような


「これ、もっと細かくしたらサイコロステーキ肉が出るペコじゃね?」


//まじでサイコロステーキのサイズに解体しちゃったよ

//なんかアイテム化の様子変じゃね?


「ドラゴンミンチ……ひき肉ってどういう事ウサ!?」


//そうか、ドラゴンからしたらヒト用サイコロステーキはひき肉と変わらんか

//ドラゴン丸々ひき肉になったからかすげぇ量


 しかも何故か超巨大な精肉用トレーに乗ってのドロップだった。


「サイコロステーキも出なかったし肉集めはこれくらいにするラビ……狩り過ぎたペコかな。あ、流石にドラゴン肉はプレゼントできないウサ。量が量ペコだから食べ飽きない様におススメの食べ方をいつものハッシュタグで投稿してくれるとありがたいピョン」


//ドラゴン肉だから仕方ないね

//おススメできるほどドラゴン肉食った事無いから適当に肉料理のレシピ投稿するね

//アイテムボックスっていう最高の保存方法があって良かった


「それでは本日の配信はここまでウサ。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいペコ。そんじゃ乙ラビでした~」



//おつペコ~

//おつピョン~

//おつラビ~


――本日の配信は終了しました――

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