ゾンビも近づくのを躊躇うスレンダー美少女ダンジョン配信者

「グロ補正強めにして正解だったペコ」


 配信設定を自画自賛して頷く卯佐美の後ろ姿越しに映るはフロアを埋め尽くす大量の腐死人ゾンビ腐死人ゾンビ怪我人ゾンビ?


 首の無い仲間だったモノを踏み潰しながら腐死人達はゆっくりと卯佐美の方へと近づいている。腕を上と横へ突くように伸ばし、交互に胸の前で一直線に重ねた腕を斜めに傾け、頭の後ろで組んだ腕を上に伸ばして身体をくねらせながら。


 その動きは機敏で統率されていながら遅々として進まない。


 卯佐美が対峙しているモンスターの名は『腐死人舞踏種ダンシング・ゾンビ』と呼ばれ、何処から仕入れたのか地上で流行っている踊りを高い完成度と協調性ユニゾンで繰り広げる危険なモンスターだ。


//や、やばい身体が勝手に

//くっそ前はス〇ラーだったのにwww

//大阪行きたくなってきた


 腐死人舞踏種の動き誘う踊りを見て楽しそうと思ったら最後、例え配信画面越しであっても精神抵抗レジストを無視して身体が勝手に踊り出してしまう。そして体力の限界を迎えて倒れたところを手厚く介護され、いつの間にか腐死人舞踏種の仲間入りをしてしまうのだ。


//なんでウサミンは平気なの? コメント打ちズラく仕方ないんだけど

//ちょっ!? お兄ちゃん!? 行方不明になったお兄ちゃんがいるぅ!

//これは……フフッいい運動に――吐きそう


 今回の配信で卯佐美が訪れたダンジョン『UDJホラーナイト』は非致死性ダンジョンの中でも屈指の未帰還率と観光集客率を誇る人気ダンジョンである。

 階層によっては本物が出てくるお化け屋敷でしかないが、調子に乗って奥へ踏み込めばどうなるかは推して知るべし。


「別にダンスは好きペコだけど団体行動は嫌いウサなんだよね」


//ウサミン、あなた一応アイドルでしたよね?

//そんな理由で回避できんの!?

//陰キャな僕でも踊り出したのに……


「一応って何だピョン! 卯佐美はアイドルダンジョン配信者ペコなんですけど!?」


//アイ……ドル……?

//HAHAHAご冗談がお上手で

//なるほど、つまりダンス対決ってわけだな


「しゃーねーラビだな。ここはいっちょ卯佐美の本気ダンスで魅せる時が来たウサ。さぁ、卯佐美のダンスで踊り狂うがいいピョン」


 そう言って卯佐美は骨の音を鳴らしながら顔の隣でゆっくりと握り拳をつくる。


//もう言動が魔王のそれなんよ

//おい、スポットライトなんてどこにあったんだよ


 卯佐美を照らし出す、薄暗い階層に差す一筋の光。当然機材のスポットライトによるモノではない。単に卯佐美が魔法で照らしているだけだ。


「ミュージックゥゥゥ、スタート! ペコ」


 光源魔法によるスポットライトの数が二つ三つと増え、より鮮明に卯佐美の姿を照らし出す。スポットライト機材の動く効果音付きで。


//こ、この曲は……

//ウサ耳ナイトフィーバーきてぃあぁぁぁ

//え、しらない曲


 撮影用ドローンから鳴り響く重低音に片手を当てた腰でリズムを取る卯佐美が一方の腕を天に向け、人差し指を立てる。


 一瞬の暗転。


//ふ、増えた……


 団体行動が嫌いなら一人で団体行動すればいい。そう言外に語るかの如く卯佐美がスポットライトの数だけ増えた。


 土曜日の夜に騒ぎたくなる名曲をイメージしたであろう楽曲に合わせ卯佐美達はキレッキレの動きで踊り出す。ドローンが卯佐美達の周囲を旋回して配信画面に卯佐美達が踊る姿をダイナミックに映し出すと――


//お、おおお!?

//す、すげぇ身体が自由に……動く!?

//カッケェ、カッケェけど動きが凄すぎて真似できる気がしない


 ――腐死人舞踏種につられて踊っていたリスナー達が自由を取り戻した。


//ディスペル・ダンス

//このアーカイブ毎日観れば適度な運動になるのでは?


 ダンジョン配信のアーカイブに比べると芳しくない再生数のオリ曲を踊り終え、常人の筋力では難しいポーズを決める卯佐美とその分身達。


//ジョ〇。立ちだぁぁぁ

//分身一体一体ポーズが違う辺り芸が細かい


「卯佐美につられて踊りを変えたのは……チッ、たったこれだけピョン? ああ、そうペコいい事思い付いたウサ」


//どう考えてもいい予感しない

//お兄ちゃん、逃げてぇぇぇ

//恐ろしく速い首狩り……予想してても見逃しちゃうね


 リスナーの予想通りフロアを埋め尽くす腐死人舞踏種達の首が一斉に、落ちた。


「つられなかったのを消せば全員つられた事になるラビ」


//いやぁぁぁお兄ちゃぁぁぁん

//ほぼ全部逝ったな


「あ、そうだ。ゾンビの中に知り合いがいたかもしんねぇリスナーは安心するペコ。あれでゾンビ化から解放されて帰ってくるはずピョン」


//……え? お兄ちゃん、帰って来るの?


「よく見るウサ。光塵の残滓しぼー判定の光が出てるのアレ全部このダンジョンで行方不明になった冒険者ぺこだから」


/ダンジョン協会/依頼『未帰還者の解放』の達成、確認しました。いささか解放され過ぎててんてこ舞いですが

//よく見たらモザイク有ってもグロ過ぎて吐きそうなんですが

//あ、ファンネーム『首無し兎』でよくね?


「協会さん、報酬の方期待してますぺこ~。で、首無し兎ラビか」


 卯佐美の視線に追従してドローンが首の無い腐死人舞踏種の死体……死体? を映し出す。


「兎って身体だけみたらお肉ぺこだよね。前行ったフランス料理の店、美味かったウサなんだよな~」


//共食い……

//これ見てよくそんな感想がでるよね、流石ウサミン


「おい、誰だ共食いって言ったやつ!」


//ウサミンって兎獣人じゃないの?


「卯佐美のウサ耳はキャラ付けだから取れるペコ」


//キャラ付けwwwそれ言って大丈夫なやつなん


 獣人、エルフにドワーフ。ファンタジーにおける代表的な種族は実在する。より正確に言えば特定の条件を満たす事で成ることが可能だ。特にエルフは付属効果で美形化する事もあって目指す冒険者は多い。


「問題ねぇウサ。獣人化は卯佐美のビルドと合わないから見送ったピョン。それで首無し兎だけど……却下ペコかな。首の無い兎は可愛くないし」


//え、そんな理由!?

//あ、じゃあUSA民ってのはどうですか?


「卯佐美は女の子なので可愛いは大事ラビ。いや、女の子じゃなくても大事ペコだな。USA民……ゆーえすえー? おめぇらアメリカ人だったピョン?」


//違います

//Yes I'am

//アメリカニキも入るかもだけど俺は日本人

//あのそれ、ウサミンって読むのでは……


「お~せんきゅーくらいしか英語なんて分かんねぇし、ウサミンだと卯佐美と被るから却下するウサ」


//めっちゃ日本語な英語www

/ダンジョン協会/現在ダンジョン協会では帰還者の身元確認で人手が不足しております。ご協力ただける方はお近くのダンジョン協会まで来ていただけると幸いです。あ、こら上司! 定時退勤なんてさせねぇからな!? 待てゴラァ


「これ音声入力してたんぺこかな。面白れぇし、人手不足で困ってそうだから固定コメントにしとくピョン」


//あの……ウサミンが分身して手伝えば解決するのでは?

//上司がニゲテル!?

//俺、暇だし行ってくるかな。御駄賃くらいは出るよな?



「この分身、実体ねぇから手伝えねぇラビ。それに卯佐美に書類仕事手伝わせたら別の意味でクビが……」


/ダンジョン協会/御駄賃出すからウサミン以外の方、お願いしますぅぅぅ おい、離せ! 今日は誕生日なんだ だったら残業をプレゼントしますよぉぉぉ! あの二人とも音声入力が入


「それじゃ今日の配信はここまでにするピョン。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価して応援してくれると嬉しいペコ。乙ラビでした~」


//おつラビ~

//おつラビ

//おつラビ!


――本日の配信は終了しました――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る