雷も避けて通る艶肌美少女ダンジョン配信者
「やってみるもんラビだな」
少し癖のあるサングラスと薄桃色の
//と、飛んでる!?
//ドフr……そうか糸繋がりでその恰好?
//さっき海の上走ってたしウサミンから逃げらんねぇな
糸を雲に引っ掛けて空中を移動する漫画キャラの真似をしたらできてしまった卯佐美が進むダンジョン『偉業なる海路』は各階層が島からなり、その間の海を自由に移動して攻略順路を決められるオープンワールド型の非致死性ダンジョンである。
卯佐美はダンジョンに関するとある噂を聞きつけて海の遥か上を探索していた。超大型の台風を引き裂いて。
「フッフッフ……ハーハッハ、ファーッファッファッファッファ! 見つけたペコ隠し階層の空島!!」
//笑い方が混じって三段活用になってて草
//マジであった
//未だに台風引き裂いたの信じらんねぇんだけど
「別に引き裂いてねぇぺこ。ちょっと邪魔だったから通り道を作っただけピョン。その証拠にもう閉じ始めてるラビ」
撮影用ドローンのカメラが卯佐美の背後を配信画面に捉えると、真っ直ぐだった雲の切れ目が反時計回りに動く雲の流れによって閉ざされる瞬間が映る。
//閉じた
//待って、ウサミン普通に雲の上歩いてない?
「けっこうふわふわしてて歩き心地が面白いウサ。それに少し甘い匂いも……」
//そうそうふわふわな雲を手ですくって……食べた!?
//こら、地面? に落ちてるものを食べるんじゃありません!
「これ、綿あめだピョン。お土産に持って帰ろーっと」
//白い雲がごっそり消えてどす黒い雲ばっかりなんですけど
//今、幕放電起きてたぞ……積乱雲とかが光って見えるやつ
白い雲を回収して白景色を黒景色に変えた卯佐美は空に浮かぶ大地へと足を踏み入れた。待ち受けるは麦わら帽子を被った鼻の長い男の石像。腰には刀を模した三本の石材があり、足元は真っ黒に着色されている。
「麦わらの英雄像? これたぶん帽子とったら襲って来るやつペコだな」
石像に鑑定系スキルを使いながら観察する卯佐美が台座へと視線を落とすと祭壇風になっている事に気が付いた。祭壇――
//このドローン、簡易なやつだけど鑑定系スキル搭載してて便利だよな
//カーソル合わせると鑑定結果出てきた
「なるほど。こいつはガチャぺこだな?」
//え?
//ウサミン、今なんて
//ガチャ!? あ、察し……
卯佐美はアイテムボックスの黒穴を開き、先程採取した綿あめ雲をとりだして――アイテムボックスに戻した。
「いかにもこれでガチャれと言わんばかりな綿あめでレアものが出るとは思えんラビだからな」
卯佐美の勘が冴える。いや、冴えた気がしただけかもしれない。
「これでいくペコ! いいの、出ろ!!」
捧げたのはワイバーンジャーキー
//いや、在庫処分……
//あれ試作して没になったジャーキーじゃね?
//プレゼントのジャーキーは全部配ったんじゃなかったっけ
祭壇にワイバーンジャーキー試作品を置いた卯佐美が少し離れると石像は動き出し、供えられたモノを口へ。
//食べた
//石像でもあのジャーキーは硬いか
石臼で挽くかの如き咀嚼でなんとかワイバーンジャーキー試作品を石像が呑み込むと祭壇が光を帯びる。
「来てぃあ! 何が出るかな何が出るかなワクワクが止まんねぇラビ……あ?」
//すっげー光ってる
//お、光が消えたぞ…………どんまいウサミン
//輪ゴム?
眩い光が収束して現れたのは楕円の形をした細い紐状の樹脂。ホームセンターやスーパーなど日曜雑貨が売っている所、なんなら百均でも箱で売っているモノ。
そう、ガチャの結果はワゴーム……輪ゴムである。それも箱ではなくバラの輪ゴムが一つだけ。
「ワゴームって舐めてんのかピョン!? もう次を引く気が失せたラビだから先へ進むウサ」
//一応持ってくんだ
//ガチャ結果が何であれポイ捨てしないウサミンは冒険者の鑑
卯佐美は両手でワゴームを伸ばして遊びながら石像の奥にある天井の無い神殿を進む。何故か首を押えて現れる天使風モンスターの首を八つ当たり気味に狩りながら。
//おっさん天使に需要は無い(極一部の層を除く)
//あれって確か心を読んで動きを先読みしてくる強敵だったような……
//機嫌の悪いウサミンの前に出てきたのが運の尽きか
「いて」
卯佐美が反射的に声を上げたが天使風モンスターの攻撃が当たったわけではない。伸ばして遊んでいたワゴームが指から外れ、小気味いい音を立てて一方の手に当たった為だ。
//天使眼中に無しで首落とされてくのなんだか可哀そうになってきた
//ウサミンが痛みを? 妙だな……
//幹部ってか中ボスっぽいデザインの天使も雑魚同然だったんだが
首を狩られた天使たちが光の塵となって天へ消えていく光景を背後に卯佐美は天井が無い神殿の最奥地へと辿り着く。誰もいない御座を撮影用ドローンが画面一杯に移すと空の上なのにも関わらず暗雲が立ち込め辺りが暗くなった。
轟く雷鳴と強烈な閃光。ドローンはそれを光量と音量を調節して配信画面へ。
//びっくりした
//雷でも落ちたかとって誰かいる!?
//あのおっさん、電気が迸ってね?
雷と共に現れたのは翼の代わりに輪となった鼓が背中から生えた偉丈夫。太々しい程に相手を見下した眼で見てくる雷を纏った男――の首が落ちた。
//やったか!?
//首が落ちてるのに嗤ってやがる……
//あの背中の太鼓、雷鼓って言うんだっけか
「まるで効いてねぇぺこだな」
再び轟く雷鳴と閃光から配信画面が回復すると時間を巻き戻したかのように何事もなく立っている偉丈夫の姿が映る。偉丈夫は「何かしたか?」と言外に語る様に首を鳴らし、片腕を雷に変えて卯佐美へと解き放った。
「ファッファッファッ、ん~何かしたウサぁ?」
//なにが起きた!?
//ウサミンの目の前で雷が霧散したぞ
//このウサギ、煽りよる
偉丈夫は何度も身体を雷に変えては放ち、終いには全身を激しい稲妻に変えて卯佐美に襲い掛かるも一つとして卯佐美には届かない。
//なんか段々見えてきた糸の結界で雷を逃してる
//雷に耐える糸って何でできてる……って思ったけどウサミンのパワーに応えてる糸だしな
//ウサミン、渾身のドヤ顔で煽る煽る
//ところでワゴームはどうしたのウサミン? 落っことした?
雷のくせに痺れを切らした偉丈夫――
「海に落とせば海に電気が散らばって意識を保てなくなるラビかな」
//ウサミン、たぶんそれ別の漫画
//雷おやじがなんか凄そうな事してんのに無視してて茶葉
「あ、背中の太鼓鳴ったら出てくる木龍も警戒しとくべきピョン?」
//だから別の漫画だってそれ
//超大型の台風と合体した!?
//空島よりでっかくなってんじゃん
「あ、やっと変身終わったぺこ?」
台風と融合し卯佐美のいる天井が無い神殿など簡単に呑み込める大きさとなった雷雲の巨人へ向けて卯佐美は不敵に笑った。その直後、卯佐美の手を弾いた小気味いい音を何倍にもした轟音と共に雷雲巨人と化した堕精霊雷種の首が墜ちる。
//なんかゴムパッチンを何倍にも痛そうにした音が鳴ったな
//恐ろしく速い首狩り俺でなくても見逃しちゃうね
//え、いまのってまさか……ワゴーム!?
「さて、へんな雷おやじも倒した事だし今日はここまでにするウサ。そして今日取った綿あめ雲をプレゼントにするペコだから欲しいヒトはいつものハッシュタグに今日二番に多かった語尾で投稿するペコ」
//綿あめ雲を!?
//二番目か~数え直さないと
「んじゃ
//おつピョン~
//おつラビ~
//おつペコおつペコ
――本日の配信は終了しました――
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