反省も活かせる美少女ダンジョン配信者
「今日は案件配信ラビ」
ダンジョン配信における案件配信は大きく分けて二つある。卯佐美の同期である砲主マリーネがよく受けている企業からの
//あれ? ウサミンのテンションがいつもより少し低いような……
//どんな案件だろ~
//この時期の案件て言ったらまさか! おめでとうウサミン
公的案件は企業案件と比べると報酬額こそ少ないものの名誉や冒険者としての信頼度、普段見ない層からの導線等といった多くのメリットがある……のは卯佐美やダンライメンバーのような一線級ダンジョン配信者を除いた場合の話。それでも今回卯佐美が公的案件を受けたのには当然
「勘のいいリスナーもいるペコな。そう、この度卯佐美は殿堂入りの選考外期間を終えて再び『新米冒険者が選ぶ教えを乞いたい冒険者』の第一位に選ばれたピョン」
//なん……だと……おめでとう!
//おめでとうウサミン! 教わっても何も参考になる気しないけど投票した甲斐があったぜ
//殿堂入り開けって事は三年ぶり、いや二年? 一年だっけ……
普段は公的案件を断っている卯佐美でもファンが観たいというのであれば致し方なし。配信内容も『為になりそうなら自由』とあれば尚更。
「それで気になる今回の配信内容は~」
//わくわく
//なんか後ろにすっごい工場感あふれる機械がみえるけど
//なるほどココならある意味新米向けに……なるか?
撮影用ドローンが溜めて引っ張る卯佐美の周りを旋回し、三周回った辺りで卯佐美をアップで映す。
「てってれ~『役に立つか分からんスライム講座』 in スライム増産工場~」
//スライムか~スライム? スライム増産工場なのココ!?
//しっかり字幕でタイトルが上に出てる
//役に立つか分かんねぇのかよ
卯佐美が公的案件の配信舞台に選んだダンジョン『スライム増産工場』は冒険者・非冒険者に関わらず社会科見学等で多くのヒトが訪れた事のあるダンジョン。皆がよく知っているはずのダンジョンにも拘わらず多くのリスナーが初見のダンジョンと錯覚したのはダンジョンの設定上はスライムを製造する施設とされている見えない壁の向こうにある機械群にあった。
多くの人が社会科見学でこのダンジョンに潜った際は今配信画面に映っている程の物々しさは無く、直感的に理解できるほど簡易な機械から最後の配管を通って天井のダクトからスライムが現れて初めてのモンスター討伐を経験する場合がほとんど。
「あ~まず軽くこのダンジョンの説明をしとくウサ。ここは出てくるスライムを倒すと貰えるポイントで工場っぽいとこを拡張できるラビ」
//へーそうだったんだ
//為になるわ~
//どんだけ狩ったらここまでの規模になるペコなんだ……
「どれだけって、オメェらは今までに食ってきたご飯粒の数を覚えているピョン?」
//パンではなく!?
//スッ(遠い目)
//ダメだお茶碗一杯に何粒かが分かんねぇと数えようがねぇ……何杯食べたかは覚えてんだけど
初期状態の『スライム増産工場』では原種のスライムしか出現しないがスライムを倒す事で獲得できるポイントを使って拡張する事で出現するスライムの種類や出現頻度、同時出現数と設定できる項目が増えていく。
「ダンジョンに詳しくないヒト向けに説明しとくと原種ダンジョンって呼ばれてヤツ以外は基本的に冒険者個人かパーティに紐づいて攻略度とかが記憶されるウサ」
卯佐美個人に紐づいた『スライム増産工場』がサイバーパンクもかくやといった具合の機械群と化しているのは超絶レア個体スライムの出現を追い求めた三日に及ぶ耐久配信の産物であり、卯佐美のガチャ運の証明であるので安易に話題として触れるのはおススメしない。
「だから、まぁ……うん。あの工場っぽいとこがスゴイと思ったなら卯佐美が頑張ったと思っておけばいいピョン。な?」
//あ、はい
//おかしいな冷房はいれてなかったはずなんだけど
//あれは頑張った……ウサミンはよく頑張ったよ
画面越しでもヒトによっては鳥肌が立つ圧を向けられるので。
「それじゃそろそろスライムを出してくペコだけど、みんなが見た事あるようなのしか出ないように設定してあるし、ポップ数も一で固定してあるから安心するラビ」
そう言って卯佐美が携帯端末を操作すると部屋の奥にあるスライム生産施設が動き出し、天井にあるダクトから――
//出てき……た?
//ごめんウサミン、このスライム見た事無いや
――スライム色をした
//トコロテンスライム?
//スライム麺
//光の塵になって消えてまた新しい葛切りスライム……いや寒天スライムかもしれん
突然の新種スライム? に湧くコメント欄だが実態は新種スライムなどではない。そう簡単に新種が出るのなら卯佐美に紐づいた『スライム増産工場』の生産施設がディストピア感溢れるまで厳めしくはならなかった。
「やべ、ダクトに糸張ったままだったピョン」
卯佐美の呟きに反応した撮影用ドローンが天井にカメラを向け、未だ麺状になったスライムを吐き出すダクトを高倍率で拡大し映し出す。
//見えた! 鉄の糸!! (たぶん鉄じゃない)
//リスキルで茶葉
//スライムだったモノだったか~そういや麺状のスライムって見た事ないな
「丁度いいから解説しとくウサ。スライムってのはメッチャ不安定な生き物……生き物? 不安定なモンスターで、あの赤くて丸いコアが空気に触れるだけでダメージを受けて勝手に倒れるラビ」
//言い直した
//なんなら地面に落ちた衝撃でコア割れてる
//コア抜いただけで倒せるのってそんな理由だったのか
「ちなみにスライムの体液は基本アルカリ性ペコだから同体積のレモン汁で倒す事も理論上は可能なはずウサ」
//なんて?
//そっかだから塩でたおせなかったのか
//なんで知ってんのwww
「文房具の福袋に赤色のリトマス試験紙が入ってたピョン」
//説明になってな……なってるか
//アルカリ性は赤から青
//為になったね~
少し間をおいて麺状スライムの排出が終わり、ようやくリスナー達の見慣れたスライムが着地を決めた。ヒトの頭大はあるわらび餅のような半透明の身体に赤いコアが怯えたように点滅している。
「さっきも言ったぺこだけどスライムはメッチャ不安定で一部の特殊なヤツを除けば簡単にデバフが入るウサ」
卯佐美がスライムに手を向け、普段ダンジョン配信を観ない層にも理解しやすいよう魔方陣を展開して魔法を発射した。
「麻痺だと痺れる身体がないから凍結や火傷なんかが効果的ラビ。あえて硬化のバフを掛けることで動きを封じる事もできるペコだけど偶にそのまま突進かましてくるのもいるからやらない方が無難ウサ」
//あの、なんの魔法掛けたんでせう
//凍結も火傷も硬化もしてないんですけど
//生首化なんて状態異常あったっけ?
卯佐美に魔法を掛けられたスライムはみるみるうちに姿を変えて顔の無い生首が地面から生えた様な不気味な姿へ。
「そして概念付与魔法で首の概念を付与してやればこうして首ができるピョン。ちゃんと弱点のコアも首のとこにあるラビ」
//トンデモねー魔法出てきた
//真似できなくて役に立たん情報
//恐ろしく速い首狩り、来ると分かってても見逃しちゃうね
「物理攻撃が効きにくくなってくるのはコアまで攻撃が届かないくらいデカいのか密度が高いので危険度が高いのは……スマン苦戦した事無いから分からんペコ」
半透明の首が中にあるコアごと狩られスライムは光の塵となって消える。
//だろうね
//武器の相性によるかな
//くっ、スライムでぬるぬるなウサミンはいなかったか……
「よし規定の時間も達成したしこの辺で終わりにするラビ。
//おつラビ~
//おつペコ~
//おつウサ~
――本日の配信は終了しました――
「カチカチカチ。今回は
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