英雄もお構いなしな美少女ダンジョン配信者

「殺風景なとこペコだな」


 卯佐美に足音を消して歩く習慣が無ければ靴音だけが響いていたであろう静謐な空間。撮影用ドローンが画角を上にあげれば満天の星空らしき光景が映り、壁の類は一つとして見当たらない。


//床にも星空が映っててなんか宇宙にでも浮いてる感じがする

//これは広いのか、ただそう見えるだけなのか

//ダンジョン入って早々これか……オープンフィールド型か?


 卯佐美は徐に片手を挙げ、指を鳴らし指パッチンして目を瞑った。


 二度、三度と続く指の音に合わせて動く卯佐美の頭部に装着されたウサ耳。


「反響音無し。か~なりだだっ広いのに何も無い空間ラビ……これ、たぶん少し進むと何か起こる気がするウサ」


//ウサ耳がピコピコ動いてて可愛い

//え、その付け耳動くの!?

//反響音? 違いが分かんないけど警戒し過ぎでは……


早期挑戦アーリーアタックで来てるペコだからな、情報を集める為にも警戒するに越したことはないピョン」


 撮影用ドローンでダンジョン探索の様子を撮る事は冒険者及びダンジョンに関する法律『冒険者規定』にて努力義務として定められているが、早期挑戦アーリーアタックでのダンジョン探索の場合は配信が義務付けられている。


 早期挑戦。そのダンジョンに関する情報が出揃っておらず、非致死性ダンジョンにも関わらず未帰還率高い場合や多くの冒険者が早期撤退(死に戻り含む)を余儀なくされるダンジョンに認定される制度。


 早期挑戦の配信が義務として『冒険者規定』に制定される以前は敬遠される要素であったが大ダンジョン配信時代を迎えてからは評価が一変。


//初見です

//情報収集にきました

//そういえば俺がウサミンを観始めた切っ掛けってアーリーアタックだったな~


「お、初見さんに情報収集でみてる冒険者さんもいらっしゃいウサ」


 今では普段のファン層とは異なる層からの視聴を見込めるとあって主にダンジョン配信を生業とする冒険者からは絶大な人気を誇る要素となっている。ただし、人気になった分情報が集まるのも加速度的に早くなっており『早期挑戦』として認定されている期間は驚くほど短い。普段は一般冒険者に譲っている卯佐美の様な逸般冒険者にお鉢が回ってくる場合を除いて。


//ダンライが参戦って事はここのアーリーアタックも終わりを迎えそうだな

//問題は攻略法が参考になるかどう……ならんか

//あ、流れ星


 卯佐美が歩みを進めるとダンジョンの床面に映る星空から漏れ出した光が両手を広げたヒトが収まるサイズの魔方陣を描き、星空の天井から光の流星が降り注ぐ。


 光の輝きは銀から金を経て虹色へ。


「これガチャだったら一番上のレアが出そうな感じするペコ」


//ガチャ? あ……察し

//ウサミンに最高レア確定演出!? 妙だな

//これがソシャゲのガチャ画面だったらテンション上がる


 虹色の輝きが混じり合い極彩色の光輪と化した魔方陣から巨大なカードが浮かび上がる。胸の前で剣を掲げる騎士が刻まれた銀白色のカードの全貌が露わになるとカードに亀裂が入り、黄金色のカードが中から現れた。


「手応え無し。これ実体ねぇラビ」


//なんか魔方陣とカードがブレると思ったら

//やっぱり妨害は無理か

//このヒュンヒュンって音はウサミンの糸だったか


 現れたカードは極彩色の光輪に合わせ回転。騎士が刻まれた表面が配信画面に映る度に絵柄が彫刻調から写実的なヒトの姿へ。


//美少女きちゃー!

//金髪碧眼の女騎士!? ダンジョンも良い趣味してんぜ

//え、ちょっと待ってもうこの段階からドローンの鑑定が反応してんだけど


『騎士王? あ~さ~』


 光輪がカードへと収束し、極彩色の光と共にカードが弾けるとカードに描かれていた鎧ドレスを纏う金髪碧眼の女騎士の姿がそこにあった。


「問おう。汝がわ――っぶな!? 何をッ、する――って、ちょ?! 待っ」


//急に盆踊り始めてて茶葉

//重機でも動かしてんのかってくらいえげつねぇ音してんだけど

//恐ろしく速い首狩り……を防いでる!?


「ん~見えない剣? いや鞘で防いでるペコだな」


 更に速度を増した盆踊りをする女騎士の手元へドローンがカメラをズームすると何かを持つ両手の間で瞬間的に空間が歪む光景が配信画面に流れる。


//まさかあ~さ~って……

//ウサミンの首狩りって防げるもんなんだ

//俺が挑んだ時と違う上に強いのが出てきてる


「クッ――これなら!」


「なんで糸が一本だけだと思ったピョン?」


 女騎士が糸を絡め取ろうとしたことで糸が巻き付き、卯佐美の首狩りを防いでいた物体が剣の形をしている事が視覚化された事でドローンの【簡易鑑定】機能が反映され配信画面に武器の名が浮かんだ。


勝利を約束せし聖剣エクスカリバー in 透明な鞘』


 伝承等に興味の薄い卯佐美でも知っている武器名に卯佐美の攻撃が止ま――


「エクスなんちゃら持ってるってことはオメェ、アメリカかヨーロッパとかのヤツラビだろ! なんで日本のダンジョンにいるペコ」


「そ、それは……ってぇぇぇ聞くなら攻撃を止めろぉぉぉ!」


 ――らない。卯佐美個人からすれば特段興味があるわけでもないので。


//ウサミン、ステイステイ

//気になるので攻撃を緩めてもらうのって可能ですかね

//そのヒト少なくともアメリカじゃぁねぇです


「チッ、しょうがねぇウサな」


 攻撃の手を緩めた卯佐美は何故か家猫幻獣ニャーバンクルのニャミを召喚して愛で始める。


「キャスパリーグ!?」

「猫違いピョン」

「そ、そうか」

「で、オメェはどこのだれペコ」

「フッまさかアーサー王の名を知らぬとは言うまいな」

「知らんウサ」「ニャ」

「え……」


//あ、ペンなんたらのヒトか

//知らなかったか~

//ショック受けてる


「ってか王なら男ラビだろ」

「それこそこっちが知りたいわ! 気付いたら女になってたんだが!?」


//あ、じゃあ日本のダンジョンで問題無いわ

//日本ですものしょーがない

//拙僧が挑んだ時は信長を名乗る美少女が出てきたでごわす


 ため息を一つ吐いた『騎士王? あ~さ~』改め『美少女騎士王 あ~さ~』は仕切り直しと言わんばかりに虚空より盾を取り出し構える。するとダンジョンのフィールドが古城がそびえる絶海の孤島へと様相を変えた。


「こっからが二回戦ってわけペコか」

「違う! 本当は問い掛けた後、フィールドがこれに書き換わって色々ある予定だった……」

「だったら尚更地の利を相手にくれてやる前に潰すが道理ピョン」

「そうだけど、そうだけども! ええい、プリドゥエンの力を思い知るがいい」


 あ~さ~は女神らしき肖像が描かれた盾を海へと投げ入れる。


「あ、プリなんちゃらなら卯佐美も持ってるぺこ」

「それの何処がプリドゥエンだ!?」


 卯佐美が取り出した大楯プリなんちゃらは描かれていた躍動感あふれる鯉の絵が剥がれ落ち、縫い付けられた翼も半分ほどで折れた見るも無残な姿だった。


「あ、同期と焼肉いった後これで遊んでぶつけてそのままだったの忘れたウサ」

「もう一度聞くがどこがプリドゥエンなのだ」

「リスナーがぽいって」

「よく見ろ、我がプリドゥエンを!」


 ドローンと共に卯佐美が海へ視線を向けると船首に女神像を拵えた巨大な帆船が配信画面へと映る。


「ん~どっちも水の上渡るのに使うだけだし大差ねぇピョン」


//大きさって意味では大差あると思うんだが

//的が大きくなって被弾率上がるとか思ってそう

//そういえば船にも首ってあるよな、船首って首がよぉ


「は? 首って……まさか!?」


 斬。


 女神像が静かに海へと沈んでいく。


 あ~さ~は声にならない悲鳴を上げるが悲劇は待ってはくれない。女神像ごと船首が刈り取られた船形態の盾プリドゥエンは浸水し海の底へ。


「まだだ、この聖剣がある限り私は負けん――」

「聖剣なのに魔剣負けんってギャグぺこか?」

「――違っ、ってあれ? 剣は!?」


「にゃ~ん」


 鳴き声の方へとドローンのカメラが向く。


//ニャミちゃん、その咥えてるのって聖剣では?

//シルエット演出からの画面ズレ演出入りましたー

//もしかして元になった伝承に攻略のヒントがあるかもしれん、もう一回潜ってくるかな


「どうやらこれでクリアっぽいラビだし配信はここまでにしとくペコ。本作品この配信を気に入ってくれたなら作品のフォローチャンネル登録レビュー高評価してしてくれると嬉しいピョン。そんじゃま、おつウサでした~」


//さてもう一度見直して情報を精査するか

//なるほどボスが強過ぎてクリア者が中々でなかった感じっぽいな

//おつウサ~


――本日の配信は終了しました――

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