第42話【幕間】 ブラトーはやさぐれたい
祝勝会も夜もなると、あちらこちらで酒に酔った者達が現れる。ある程度の騒ぎは容認されるが喧嘩にも発展すると警官に連行される。きついお説教で済めばいいが、反省がないと判断されれば問答無用に留置場にお泊りすることになる。
昔とは違って治安は改善されている。これも夜になっても女性の一人歩きができるようになったと領主である一真の功績だと領民は主を称える。
ブラトーは傭兵である。そんな彼が馴染みとなっている飲み屋にふらりと立ち寄り、一人酒を飲んでいた。
普段の彼なら、第二艦隊の連中と騒ぐか、適当な相手を見つけて一夜の思い出を作るのだが…。今日の彼は落ち込んでいるようであった。
「はぁ~」
酒を飲むがどうにうも酔えない…周りにいる連中は呑気に楽しんでいるのがいら立つ。
「どうしたの?」
声の主はこの店の主、ママである。ウェーブのかかった長いブロンドからはいい香りがする。黒のドレスがよく似合う。碧い瞳に見つめられると客はママに恋してしまう程と言われる。豊満な肉体を隠すことなくその魅力的な肉体を見せつけるような妖艶な雰囲気を醸し出していた。
当然ブラトーはママにもとちょっかいを出しているのだが、ママは慣れているかのようにブラトースラ子供扱いであしらっていた。そんな彼が一人で落ち込んでいるようで、自分にも声をかけないので心配になって声をかけたのだ。
「俺はこれでも傭兵として少しは名の知れたもんだとおもっていたんだけどなぁ…上には上がいると今回つくづく思い知らされたのさ」
それは星喰いとの戦闘、一真の駆る村雲の圧倒的な戦闘に圧倒されたのだ。自分もここで少しは腕を上げたつもりだった。クラーケン。彼の機動装甲騎も腕のいい整備員のおかげで性能が上がった。
だが…あの一真の村雲、あれは化物だ。
「領主の旦那が凄すぎたんだよ」
俺はあんなのの勝とうとやっきになっていたのか…。
「当たり前じゃない」
ママはさも当然のように呆れて言った。
「あの御方は特別なのよ」
特別…か。
「ほんの数年前まではこの星は見捨てられた星だった…前の領主は私たちを人間とも思っていないクソだったわ…私だって体を売るしか生きて行けなかったわ。」
普通なら隠したい過去のはずだが…ママはそれも自分なのだと話す。拭う事のできない過去だと。
「それを一真様は変えられたわ。…全てを…ね。」
名君が支配者になれば全てがいい方向へ向かう。専制主義のいい所ではある。だがそれは一真の子供、その子孫がそうであるとは限らないのだが…領民は一真の結婚、世継ぎを強く望む。
「私がもう少し若ければ一真様の子供を産みたいんだけどなぁ…」
ママが女の顔をして頬を赤らめる。
一真はこの店に訪れたことはない、当然ママの事も知らない。だが領主は知らずにこの店に訪れる客の憧れのママの心を射止めている。
「マジかよ」
ブラトーは一真に嫉妬した。英雄っていうのは凄いもんだわ。
「そう言えば…旦那の所にはいい女が揃っているけど…ハーレムは作ってないよな」
望めば後宮を造り、数千、数万もの寵姫を囲う事すらできるのに…もったいないとブラトーは思った。
「オレが旦那だったら今頃、子だくさんのパパになってるな」
ようやく笑顔を見せたブラトーにママは呆れながら笑みを浮かべた。
「あんたが領主じゃなくてよかったわ」
女で身を亡ぼすタイプよねぇとママは笑った。
「いいねぇ。機動装甲騎の中で死ぬのもいいけど、どうせ死ぬなら女の膝の上で死にたいね」
「ダメよ、どうせなら一真様の盾になって死になさい。」
「ママきっついよぉ」
ふふっと笑いながらママはとっておきの酒を出し、それに合うつまみを用意した。
おぉっとざわめきが店に響く。モニターからミタマのコンサートが開始されるのだ。ブラトーもモニターを見ながら、ママの出した酒を飲み干した。
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