第8話 皇子様にご挨拶を
帝都を発してから前線に到着するまで、半月かかった。
それだけ帝国の版図は広大だと実感した。
最前線につくまでの間、オレは自分の機動装甲騎の操縦をしていた。
のだが…
宇宙空間に出て試運転と操縦そして宇宙に慣れるため、他の機動装甲騎の練習に参加していた。
「おっそ! なんでこんなに重いんだよっ!」
重い装甲をあちこちに付けすぎだろ あきらかに重量オーバーだよ。
エネルギーゲインがどうこう言ってたが、これじゃ意味ないだろっ。
装甲を外すよう班長に言ったがなぜか 拒否された。今はそんな余裕はないと…
むぅ…自分でカスタマイズできたらなぁ、
ただ 他の機動装甲騎のパイロット達とは仲良くなれたのがうれしかったな。
皆気のいい奴らばっかだ。
中でも 小隊を預かる隊長が女性だったのが以外だった。いかついおっさんのイメージだが実力があれば誰でも上にいけるのが皇女殿下の方針らしい。
艦内のトレーニングルームで運動に誘われ、隊長さんと一緒に運動もしたな。ぶるんぶるん色々動いて目の保養になったのは秘密だ。
でっなぜかオレの部屋で皇女を含めた女子会(麻雀大会)が開かれる オレは麻雀わからないので見てるだけなんだが、隊長さんまで参加してるし、
そんなこんなで最前線まで来てしまった。とは言えここはまだ後方、本隊の艦隊が衛星を利用した補給基地と共に待機していた。
でっオレはなぜかタキシードに身を包み、お貴族様が多数参加している。パーティに参加していた。
前線で必死に兵士が戦っているだろうに、お貴族様は補給基地でパーティをしている。
あえて無重力にし浮遊感を楽しむ…という趣旨らしい。
飲み物には重力を付与する装置が仕込まれているので空中にぶちまける心配はない。
今日は皇女殿下を迎えてのパーティなので、この戦場に来ているほとんどの貴族は参加しているらしい。
「一真殿」
ふわふわと浮きながらこっちに向かってくる セシリア皇女。
ロングスカートに身を包み、髪をポニーテールにまとめて、まさしく皇女にふさわしい振る舞いを見せる。
周りの貴族たちが熱い視線を送っている。
…だがオレはもう騙されない。なぜ持っていたのか知らないが、ミタマが出したジャージを着て麻雀をしていた皇女様の姿を…
ちなみにミタマは相変わらず 酒と立食形式で出された食事を端から端まで食べている、
だから頬をリスのように膨らませるな。
…タッパー出さないか冷や冷やする。
ふわっとオレの前に降り立ち、皇女の後ろをついてきた男を紹介してきた。
「兄上、こちらが勇者 八神一真殿です。」
兄上と言われた紳士、イケメンである。お上品な軍服に身を包み、肩まで伸びたカールかかった金髪
長いまつげ 宝石を散りばめたかのような青い瞳 全てがイケメンである。
うん 気に食わない。
パーティが始まる前の長い演説をしていたな…そう言えば…内容は覚えていない。
「へぇ…君が…妹がご執心の…ね」
オレを下から上まで値踏みするように見る皇子。
ふっと笑う。
「まぁ 頑張ってくれたまえ。魔王討伐の称号は私がもらがな」
はっはっはっと笑う皇子。いつの間にか皇子の周りに来ていた貴族たちも
そうですよ皇子。まさしく魔王討伐の称号は皇子にこそふさわしいですぞ
などと言っている。取り巻きかな…。
「えぇ 兄上が出陣されて以来、まったく戦況が好転しませんが私は信じています。きっと兄上が魔王を打ち倒す事を、きっと今まで敗戦続きだったのは幕僚たちの怠慢だったのでしょう。皇帝陛下も事態を憂いていますし、兵たちを無駄に死なせて自分たちだけ安全な後方にいる者たちを陛下は許さないでしょう。きっと兄上の指揮の下 貴族もその義務を果たされる事でしょう。そして魔王軍撃退の時は帝都の民衆は歓喜の声で皆さまを迎えるでしょう。その功績は後世の歴史家に賞賛されることでしょう。」
おっと凄い早口で笑顔を絶やさず皮肉をまくしたてる皇女様。
その言葉の一つ一つが鋭いナイフのような鋭さがある。
お貴族様方は居心地が悪く苦笑いを浮かべて去っていく。
「ははっ 相変わらず怖いな…我が妹は」
「口だけの方って私嫌いですもの。」
「なになにー?なにかおもしろい事してんのー?」
ミタマが皿に料理を山と乗せてやってくる。
ドレスを着て見た目は美しい淑女なのに台無しだよ。
「美しい…」
皇子がなにやらミタマに熱い眼差しを送る。
「今まで見た目だけ豪華に美しく着飾った後宮の女たちは見たが…あなたはなにか違うものを感じる。」
まぁ 頬いっぱいに元気よく食べる女なんて貴族にはいないだろうな。
「お名前をうかがっても?」
「天之御霊乃大御神 女神やってるわ。長いからミタマでいいわ…よ」
よ…と言い終わる前にミタマの手を取る皇子。
「女神!まさしくその美しさ女神そのもの! ミタマ嬢どうか私だけの女神になってはくれまいか?」
「はっ?何言ってのこの人 怖いんだけど一真」
「大丈夫オレも怖い」
皇子がオレを鋭い目つきで見る。
「…君はミタマ嬢とどういう関係なのかな?」
はて…?関係?
「パートナーよ」
ミタマがオレの側にきて言う。
なんだろう?さらに凄い顔つきでオレを見る皇子さま。
「あるいは 従者?しもべ?」
…おい。
皇子がオレに向かって何かを言おうと口を開いた時、警報が会場に響いた。
「魔王軍第二次防衛ライン突破!繰り返す!魔王軍第二次防衛ライン突破!」
アナウンスがとんでもない事を知らせてくる。
皇子はすぐさま端末を操作し、状況の確認をする。
「おい!どういうことだ!」
映し出されたオペレーターは慌てた様子で皇子に状況を知らせる。
「まっ魔王軍が攻勢に転じ第一、第二防衛ラインを瞬く間に突破しました!殿下、お早く艦橋にお戻りください!」
「くそっ!」
皇子はすぐさま側近と共に会場を後にした。
「私たちも参りましょう。」
皇女様に促されオレたちもこの場を去る。
「あっお姉さん これとこれタッパーにつめといて 後で取りに来るから」
ミタマさんはどんな状況でも変わらない。
魔王軍襲来! この知らせに本陣は右往左往に混乱していた。
なんとか陣形を組もうとするが、ままらなず、戦艦同士で衝突している所もある。
それを涼しい目で自分の戦艦の艦橋で眺めているセシリア。
指揮官が座る豪華な椅子に座り、足を組んでいる。
オレとミタマそして合流したアリスは艦橋に入る事を許されたので、その様子を見ている。
ちなみに旗艦に移動中に皇女はドレスから軍服に着替えており、右手の端末を操作して一瞬で着替えを済ませていた。 魔法少女のような変身バンクなどなかった。残念。
「まさに烏合の衆ね」
「兄上はここにピクニックにでもきたのかしら?」
ぽつりとつぶやく
両脇に控える参謀は苦笑した。
ちなみに皇女の艦隊はすでに陣形を整えていた。
皇女の前でいくつもホログラムが浮き上がり 皇女指揮下の提督たちが報告を始める。
「各艦隊陣形を整えました、いつでも出撃可能です。殿下」
それを聞いた皇女は
「結構」
右手に持っていた指揮棒を軽く振り左手で受け止める ぴしっと軽い音が響く。
「さて…兄上はどうするのかしら…」
一方 カエサルが乗る帝国軍艦隊総旗艦は混乱の中にあった。
オペレーターから様々な情報が乱立し、どう処理すればいいのかわからなくなっていた
「いったいどうなってる!敵はすぐ来るんだぞ!」
いらだちが頂点となりカエサルは幕僚たちに怒鳴る。
魔王軍の動きは重要拠点惑星を占領してから動きが鈍化していた。周辺惑星を襲っては略奪を繰り返したためである。そこにカエサル率いる討伐軍が来て、局地的な戦いには帝国軍は小さな勝利を得ていたが戦局そのものは変わらず、魔王軍は動かなかった。それが突如として魔王軍全軍が攻勢に転じたのだ。油断を突かれた状態であり第二陣まで突破されてしまった。
「とっとにかく陣形を整え迎撃態勢をとりましょう!」
幕僚がそう提言するが
「当たり前だ!さっさとしろっ!」
幕僚たちも無能ではない 幾度となく、作戦を提言するもそれをカエサルが歪曲してしまい自分勝手な行動を皇子派閥の貴族たちに許してもいた。
このままではダメだ…いらだち貧乏ゆすりまでしだす皇子。
「そうだ!陣形を整えるため後退しよう!」
「しっしかしこの状態で後退はさらなる混乱を招きます」
「私直属の艦隊だけでいい! その間の指揮をセシリアに任せよう」
「はっ?」
耳を疑う言動だった。
恐れ多くも皇帝陛下より賜った勅命を妹に放り投げるとは…
幕僚たちも呆れてしまった。
「丁度後ろにいるのだろう? ならば我が妹に任せようではないか」
カエサルはここで後方に下がり陣形を整える時間を稼ぎ、あわよくば政敵の排除が出来ればいいと考えた。
セシリアが指揮する旗艦にオペレーターから総旗艦から命令が伝わる。
「指揮権の譲渡…」
はぁっとため息をする皇女様。
だがすぐ立ち上がると
「全艦隊に通達しなさい!現時刻をもって全指揮権は帝国第一皇女セシリア・フォン・ヴィクトリアが執る 我が命は皇帝陛下の勅命と心得よ!命に背く者は軍律により厳罰に処す!」
「はっ!」
全クルーが敬礼!すぐさま全軍に通達した。
おぉーかっけぇ まさかこの姿からジャージ着て麻雀するとは微塵も思えないな。
指揮する者が変ると軍そのものが変わるのか 艦隊は瞬く間に陣形を整えた。
皇女様の幕僚が優秀揃いなんだろうなぁ…
「ねぇねぇお茶ない?玉露がいいなぁ」
ミタマが幕僚の一人にお願いしてる。
すいませんとオレはミタマの頭を掴んで謝る。
陣形が整ったがすぐ後 魔王軍は現れた。次々とワープアウトしてくる。
紡錘陣形を取っていた。
「はなから突撃を仕掛けてくるつもりか…」
中央突破を図る攻撃的な陣形で、指揮する者の性格をよく表してると皇女は続けた。
「いるわね…魔王ドゥルガー」
これだけの陣容をもって好戦的で戦場が大好きな魔王であると彼女は分析していた。
魔王がこの宙域にいる事を皇女は確信した。
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