第9話 開戦

魔王軍は突撃を繰り返してきた。


激しいレーザーとミサイルの押収。魔法陣も展開され戦艦があちらこちらで爆散する。


これが…戦争…か。


オレはただその光景を見ていた。


ゲームのようにも見えるが 戦艦が光に包まれ爆発すると確かに命が消えていくんだ…。


「戦艦グロワーヌ 駆逐艦グーロンヌ爆散!」


「損傷が激しい艦は後退させよ!」


オペレーターから戦況が報告されると幕僚たちが次々と指示をする。


オレは皇女を見る。モニターに戦場の全体図と互いの戦力を図解でリアルタイムで表示される。




皇女は目を離さずそれをずっと見ていた。 味方の戦艦が爆発し、皇女の横顔を光で照らす。その光景を目もくれず彼女は戦況を分析していた。




「敵 魔装騎兵を出撃させました!」


帝国に人型のロボ 機動装甲騎があるように魔族側にも魔装騎兵と呼ばれる機動装甲騎が存在する。


「こちらも機動装甲騎を出撃させろ 制宙権をとらせるな!」




幕僚が命じる。


「待ちなさい」


皇女が命令を下げさせた


「殿下?」


「これで何度目の突撃かしら?」


皇女は側に控えている参謀に尋ねる。




「六度目です。」


戦闘が始まってすでに五時間が立っているが魔王軍は絶えまなく突撃を繰り返していた。


「そろそろね」


彼女はずっと防衛の陣形をとっていた。


「左翼 右翼を広げよ!敵を半包囲にして!中央は装甲の厚い艦を前に出しバリアーを全面に集中させよ!」




この命令に魔王軍はみるみるうちに撃破されていった。


「機動装甲騎出撃 食い込ませなさい!」


艦隊の開けた穴から機動装甲騎が魔王軍の艦隊を食い破っていく。




「すげぇ…」


オレは感嘆な声を上げた。見事な指揮だ。




「疲れるのを待っていただけよ。いかに人間よりも身体能力が優秀な魔族でも疲労はあるのだから」




「ただ…これで勝てるなら、簡単な事はないでしょうね」


「てっ敵軍中央に異常な魔力反応!」


オペレーターが検知した魔力に驚く。


モニターにその威容が映し出される、


ひと際大きな魔王軍の戦艦から視界できる程の魔力が放出される。




その魔力が魔王軍全体に行き届くと 劣勢になっていた魔王軍の勢いが増していく。


味方の戦艦が次々撃破されていく。魔装騎兵が機動装甲騎を圧倒していく。


魔装騎兵の持つ剣が機動装甲騎の装甲を貫く。頭を掴みそのまま引きちぎり、残った胴体を踏みつぶす。




「これは…!?」


参謀が動揺する。




「魔王が持つ魔族を狂人化させる力。死すら恐れなくさせると文献にあるわ。」




艦橋の雰囲気が一段と重くなるのを感じる。


えっえげつない…オレはドン引きした。


そして嫌な予感がする。




「一真殿…勇者の責務を果たしてください。」


「…えっ?」


「今の状況は魔王一人によってなされているわ。」


「いやいや無理でしょ」


「倒せとは言いません。少しの間、魔王の注意をそらしてくれればいいんです。」


「大丈夫。ちゃんと作戦も考えてあります。魔王の前でかっこいい口上を言ってください!」


いつの間にか黒服がオレの両脇を抱えて引きずっていく。




「またこいつらかよぉおおお。」


「なになに?新しい遊び?捕まった宇宙人みたいで面白いわね」




一真とミタマが艦橋を退出した後、セシリアは参謀に聞いた。


「あれの準備はできているわね?」


「はい」




魔王軍の旗艦の中で魔王ドゥルガ-は敵軍の変化に興味を示した。


仰々しい玉座に座りながらその三メートルはあるであろう巨体は前のめりになり、敵軍の見事な艦隊運動を眺めている。




魔王ドゥルガー オーク族に生まれ、一族の中でも小さい身体だった彼は強さこそが全ての一族で迫害を受けてきた。ある日、彼は自身を徹底的に鍛えぬき 鬼神にまで進化し、魔王の一角にまでその名を知られる程となった。


鬼族特有の二つの角。肩まで伸びた銀髪 緑色の肌、軍服を着ているが豪華な装飾を施され、胸元を開けさせ筋肉を覗かせる。


「指揮をする者が変ったな」




今までの敵とは違う。粘り強さがある。




「敵軍の通信を傍受しました。今指揮を取っているのは帝国皇女セシリアという者だそうです。」


副官の女性がそう報告する。


サキュバスであり軍服を着ているがミニスカートに胸元を大きく開けており。副官ではあるが、ドゥルガーお気に入りの愛人でもあった。




「ほう!女か!見事なものだな!」


強さに男も女もない。肉体的な強さは男に軍配が上がるだろうが女はそれを補うテクニックで屈強な男を倒すような場面をドゥルガーはよく見ていた。その華麗な技も。




そして軍勢を指揮するのもある種の強さ、才能なのだとドゥルガーは理解している。




「よし!必ず敵将を生きたまま捕らえよ!。我の女にしてやろう」


高笑いをするドゥルガー。


「まぁ 私という者がありながら」ほほを膨らませる副官。


「はっはっはっなぁに 飽きれば捨てる。所詮人間、二~三回で壊れてしまうだろうよ」


実際ドゥルガー程の魔王に弄ばれて壊れる女は相当数いる。


我が望むは強者のみ!血沸き肉躍る強者をこの手で粉砕し、勝利の感動を味わう充実感!これが我が生きた証なのだ!




我は満たされる事はなかった…、他の魔王と戦いもしたが…結果は痛み分け、


しかもなぜか心が満たされる事はなかった…あやつらではダメなのだ…以来我は強者も求め続けた…


他種族を蹂躙し、強者を求めた…そしてこの地でおもしろい女に出会えた…。


魔王は皇女に会うのを楽しみにしていた。




セシリアが乗る帝国軍旗艦 機動装甲騎ドッグ




オレは自分専用の機動装甲騎の中にいた。…というか無理やり乗せられた


なぜかミタマも隣に乗っている。




ホログラムが映し出され、セシリア皇女が説明する。


「いいですか一真殿、まず機動装甲騎を無人の高速艇に収容し敵旗艦に突撃します。その後一真殿の機動装甲騎が魔王の下まで突入、一真殿は魔王にかっこいい口上でも述べて注意をそらしてください。機動装甲騎に搭載されてる装置でモニターしてるからと言う。


無茶苦茶だ。


「高速艇にはこれでもかという程の装甲、魔術防御、 シールドも施されてるから問題ありません。」


ある程度は防ぐでしょうと続ける。




「なぁ 要は時間稼ぎしろって事だろ?そんなんで戦局なんとかなるのか?」


セシリアはこれ以上ない笑顔を見せる。


「えぇ もちろんですよ」


「ねぇねぇ もちろん報酬はあるわよね?魔王を倒しちゃったりしたら」


ミタマが割り込む。


「えぇ ものすごい報酬を用意しましょう」


「言質取ったわ!いざ出発!」




「高速艇発進!」


整備班長の命令と共に高速艇が射出される


「ちょっとまだオレ心の準備がぁあああああ!」






射出と同時に凄まじいGがかかる!パイロットスーツに対G加工が施されていなかったらこの時点でオレは気を失っていただろう。


スクリーンにものすごい速さで戦場を駆ける映像が映し出される。




戦艦や機動装甲騎、魔装騎兵が次々と爆発、爆散していく…艦橋で見るよりも目の前で見るとは大違いだ。




ミタマはパイロットスーツを着ていないが大丈夫なのか?


「ぐぃぎぎぎぎぎ」


あっのめり込んでる。 見なかったことにしよう 女神が凄い顔してるし。




「正体不明艦 通常の5倍の速さで旗艦に迫っています!」


魔王は耳を疑った。


「なんだそれは?」


「迎撃せよ!」


副官が即座に命令する。




魔王の旗艦とそれを守る直属の艦隊から迎撃の攻撃が開始される。




「レーザー!!?? ミサイルあわわ 当たってる当たってる!」


激しい音と高速艇内に警告音がけたたましく響く


防御魔法陣がレーザーをはじくが続けて無数のミサイルや多数のレーザーにすぐ魔法陣は消え去った。


残るは防壁だけ。


「当艦の損耗率80%を超えました 搭載機を射出します。」


管制AIの判断でオレを乗せた機動装甲騎は宇宙に射出される。




高速艇はそのあとすぐ爆発した。射出の勢いで機動装甲騎はこれまでにない速度をだし、魔王軍旗艦に迫る!




「くるか…いいだろう…こい!」


魔王はそれを歓喜で迎える。




刹那、これまでにない衝撃が体を襲った。


機動装甲騎が分厚い装甲に身を任せ魔王の旗艦に突撃した。




敵が艦内に衝突 艦橋が大きな損傷を負った。辺り一面 煙と機器の損傷で火災も発生している。嫌な臭いが周囲に立ち込める。


機動装甲騎が開けた穴から宇宙空間が覗き空気が吸い込まれる。


艦橋にいたクルーたちが何名かが外に放り出されるのを副官は見た。すぐさまダメージコントロールのためのドローンが起動し、穴を即席の泡で覆う。泡は穴を塞ぎ固まる。




魔王様は一歩も動かず、侵入者を見ていた。


侵入者の機動装甲騎は四つん這いの恰好で動かない。衝突した衝撃で大破してるのがわかる。


中からがんがんと音がした。




中にいる者は生きている。


副官が魔王の前に出る。、身を挺して守ろうとする。


艦橋にいる兵たちも各々銃や武器を持ち、機動装甲騎に向ける。




「くそっ開かねぇ!」


その声がした後に起動騎士の胸部周りが小さな爆発した。


緊急解放ハッチを開放したため仕込まれた小さな連続爆破が起こり胸部の部品がそのまま落ちる。




起動騎士から降りてきた人間 刀を一振り持ち、黒髪の男。その男は魔王を見据えるとこう言い放った


「我が名は八神一真! 勇者として魔王ドゥルガーに一騎打ちを申し込みゅっ!」






…噛んだ。

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