第10話 魔王ドゥルガー

「我が名は八神一真! 勇者として魔王ドゥルガーに一騎打ちを申し込みゅっ!」


「噛んだ…」 「噛んだな」


あちらこちらの魔族の方々がひそひそと話す声が聞こえる。


ちきしょう オレって奴は。




「思いっきり噛んだわね かっこよく決めたかったのに 恥ずかしいわ」


ミタマさんが後ろで呆れたように言う。




機動装甲騎から送られてくる光景をモニターで見ていたセシリア。


「…噛みましたね」


アリスが頭をかかえる。




セシリアは左手にスイッチを握っている。


一真の機動装甲騎に埋め込まれている爆発装置それを起爆するための物だ。


いかに魔王といえどあの距離からの爆発には無傷ではいられまい。


それすらも魔王の目をそらす布石。


セシリアの奥の手…それは艦隊後方に控えている、天体級要塞その砲撃により魔王軍を消滅させる事であった。






天体級要塞


帝国の工廠が作り出した軍事要塞 直系50㎞もあり、独自で航行が可能で内部にある 巨大な縮退炉が三機もあり


その膨大なエネルギーを収縮させ要塞砲として巨大な光の円柱を放つ これ程の要塞は帝国でも試作段階で要塞砲も一度しか放てない。


20㎞程が今までの要塞級としては主流である。


 


皇帝の許可を得て、この戦場にセシリアが移動させてきたのである。






「…ふっ勇者か!とうとう魔王である我の前に勇者が現れたか!」


あー…噛んだことスルーしてくれるんだ、この魔王さん意外といい魔王さんだったりする?


恥ずかしくて顔が真っ赤になっていたオレは魔王に感謝していた。




主である魔王はこの勇者と戦うつもりだ。この場にいる配下の魔族たちはそ理解した。


主の邪魔をしてはならない。皆武器を降ろしこの戦いを見守る。




魔王は右手から魔法陣を出しその中に手を入れ身の丈もある 禍々しい剣を出す。


うわぁ あんなので切られたら死んじゃうなぁ…。






「さぁ かかって来い!…んっ?」


魔王の足元に筒状の形をした物がころころと転がった。


刹那 周囲が閃光に包まれ爆音が轟いた。


オレが投げた閃光手榴弾がさく裂したのだ。


「ぬぐっおのれ」」


魔王の視界が奪われる 他の魔族も目を覆い倒れ込む。


人間より五感が優れているという魔族の身体の仕組みは予習済みだ!


当然オレは投げた瞬間目を瞑っていたので無事。


「目がぁああああああ!?」




後ろからミタマの声が聞こえるが無視。




「ヴァカめぇ 弱っちぃオレがまともに魔王と戦うと思ったんですかぁ?」


腰に装備していた銃を取り出し すかさず魔王にめがけて撃つ!


「ぬぅううう」


魔王の身体に当たった弾丸は傷一つ付ける事なく跡を残しただけだった。


「貴様あぁああああ!」


今だ視界が回復していない魔王は所かまわず剣を振るう。


「まっ魔王さまっあぁあああ!」


サキュバスが真一文字に切り裂かれる。臓物と鮮血が辺りを汚す。




魔王の大剣がオレのすぐ側まで迫る! なんとかかわす事はできた


「あっ危ねぇ」


次にオレは銃をレーザーモードに切り替える


光線は魔王の胸に数発命中するが 貫通せず軽い火傷を負わせただけだった。


「これでもダメなのかよっ!」




「まともに戦え!それでも勇者か!」


激しい怒りの表情を見せる魔王。


視界も回復したらしい。


「一真、私さっきからなんも見えないんだけどっ!なんとかしてー!」


ミタマが壁にぶつかり痛がっている


「やかましい!それ所じゃないんだよっ!」


その光景を起動兵器から送られてくる映像を見ていたセシリアたち。


「なんか…想像していた勇者と魔王の戦いとは違いますね。」


アリスは呆れていた。


セシリアは一真の戦い方はともかく、こんなやり方もあるのだと感心していた。




「要塞砲エネルギー充填100%!いつでも撃てます!」


オペレーターからの報告があり、参謀がセシリアに確認を取る


「殿下、準備整いました。勇者殿は充分の時間を稼いでくれました。」


「えぇ そうね。」


あとは自分の命令を待つだけだった。


魔王の注意も勇者に向いている。


艦隊も要塞砲を避けるよう行動を完了している 魔王の魔力が敵艦隊から途切れたため敵軍にも同様が走り、今や守勢に回っていた。


砲撃するなら今だろう…だがっ…セシリアは砲撃命令を出さなかった…見て見たかったのだこの情けなくもおもしろい、なにをしだかすかわからない勇者の戦いの結末を。




「それでも勇者かっ!」


魔王の言葉は怒りに満ちている。


「だったら見せてやる オレの本気をなっ!」




オレは右手を地につけ、新たに得たスキルを発動する


「悪夢ナイトメア!」




「…なんだ?」


気づいた時には我は暗闇の中にいた…。我は我の戦艦の中にいたはず…なぜ誰もいない?


さっきあの勇者がなにかしたのはわかる…今のは…・


暗闇の中に光の粒子が集まり一辺を明るくする。そこに子供がいた…。


小さな…オーがの子供…うずくまり泣いている。


なぜ戦場に子供がいる?


我は近づき、子供に話しかけようとした時、我の後ろから走り抜ける者がいた。




「なにいじめられてぐらいで泣いてるのよドゥルガー」


我?…あれは…我か?


では…あの女の子は…。


オーがの女の子は手を腰に置き、小さなドゥルガーに説教している。






美しい銀髪を後ろでまとめてポニーテールにし、性格を表すように強い眼差し鼻筋は通り、可愛らしい女の子、そうこの子は…幼馴染のミスティア…


「でもミっちゃん あいつら五人もいて…」


「男なんて金玉蹴飛ばせば一発よ!」


蹴りの仕草をするミスティア


「えげつないよぉ ミっちゃん」




あぁ これは我の子供の頃の記憶…。




光の粒子は消え、右側から光の粒子が集まる。これは…。


ミっちゃんと学校の帰り道…いつも我はミっちゃんと一緒に帰っていた。


それをからかう奴らもいたがミッちゃんは蹴りで黙らせた。




「ドゥルガー強くなりなさい オークは強くなくちゃ」


「強く…でもぼくには無理だよぉ」


「誰よりも強くなったら…私ドゥルガーのお嫁さんになったげる」


夕日に照らされたミっちゃんはとても可愛かった。




次の場面が映し出される。


小学生がグランドに集まり。教師の前で整列している…


「よーし今日は組手をするぞー二人一組になってー」


教師が生徒に指示を出す。


仲がいい者たちから組になっていく


「先生ードゥルガー君が一人です。」


「しょうがないなぁ じゃあ先生と組むか」


あっ…。


次の場面。


中学生にまで成長した我…


夕方の学校…忘れ物を取りに教室に急いでいた。


扉の前で誰かの声が聞こえる。


「もう…先輩ダメですぉ 誰か来ちゃったらどうするんですかぁ?」


ミっちゃんの声だ。


そっと扉を開け中を覗いた。


そこにはオーガ族の一年先輩とミっちゃんが抱き合ってキスをしていた。…


あっあぁぁあああああああっ!




ミっちゃんは我を見向きもしなかった。…


やめろ…やめてくれぇええええええ!




その後、我は自身を鍛えに鍛え上げ魔王と呼ばれるようになった…ある日ミっちゃんから手紙がきた


私たち結婚しました。写真には我の知らない男と幸せな笑顔のミっちゃんが映っていた。




「うわぁ」悪夢 相手に悪夢をみせるというがこれは…


しかもなぜかこの映像 この宙域で戦っている者すべてに見せられていた。


全ての種族と問わず男たちは涙し、女たちはしらけた顔をしていたという。






「見るな!見るな!我をみるなぁあああああああっ!」


所かまわず 涙を流しながら、魔王は剣を振るった。


「魔王様っ!おやめくださっ」


止めに入った部下の首から胴が切断される。


玉座を破壊し、拳で部下の頭を砕き、目につくありとあらゆる物を破壊して回る。




「よし、逃げよう」


充分時間も稼いだろう、後は皇女様に丸投げしよう。オレの機動装甲騎動くかな?…




「あわわわ ようやく目が見えるようになってきた まったく一真ったら後でおしおきしなきゃ」


今だ視界がボヤけてるミタマが魔王の近くまで来ていた。


「あのバカっ!」


「がぁああああ!」


魔王の剣がミタマに襲い掛かる。




オレは天羽々斬を抜く。


魔王の五体が切り裂かれた。


居合の構えでオレは神速を超えた。


慣れた手つきで刀を鞘に戻す。ここまでがオレの意思とは無関係に体が動く。




「んんっいいわぁ 優しくね♡」


聞かなかったことにしよう。 


全身の骨が砕かれる音が聞こえオレは口から血を吐き出す。


言葉にならない悲鳴を上げる。


これだから…使いたく…ないんだ。




ミタマがすぐ傷を癒しにきてくれる。みるみる内に身体が修復される。


ミタマがオレを起こし立たせてくれる。


「一真…よくやりましたね」


見ると魔王が倒れ伏していた…五体がバラバラになって…




その光景はミタマの魔法でこの宙域にいる全ての者に映像として映し出されている。


「まっ魔王さまが討たれたぁあああああ!」


魔王軍は蜘蛛の子散らすように統制などなく逃げていく。


それを見逃さないセシリア。


「魔王は倒れた!これより全軍掃討戦に移る! 蹂躙せよ!」


皇女の号令以下 帝国軍は魔王軍を殲滅していった。




オレたちは今だ魔王の戦艦にいた。


魔王の遺体から光が溢れ出し 小さな球体を作り出す。その球体はミタマの中に納まっていった。


「あぁ…お帰りなさい」


ミタマは愛おしそうに自分の身体を両手で抱きしめた。


「今のは…?」


「私の欠片…魔王たちに奪われた半身たちの一人よ。これで力が少し戻ったわ」




コイツ魔王に力奪われてたんか…。




その後、帝国軍によって魔王軍は徹底的に攻められ、魔王領に帰る事ができたのは全体の一割程だったらしい。


セシリアの直属の部隊が魔王軍旗艦に乗り込んできた。戦艦の徹底調査、探索に来たらしい。傷もすっかり癒えたオレも探索に参加した。なんか面白そうだったから。


残党もいて小規模な戦闘もあったがここはプロの軍人さんに任せた。


彼らも 勇者殿は休んでてください! ここは自分らにお任せを!勇者殿!…と言って張り切っていた。




財宝部屋やら愛人の部屋、拷問の部屋など様々な部屋があったが…魔王によって捕まり奴隷になっていた種族もたくさんいた。その光景にオレはかつての自分の姿を見た気がした。


…早く地球も解放しなきゃな…。




この日、初めて勇者によって魔王が討伐された。この日が人類による反転攻勢の転機となったと歴史の書は記す。そして勇者八神一真の名も歴史の舞台に現れる事になる。


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