第11話 戦後が一番大変なのです。

オレは今帝都にいる。


帝都中の民衆がオレに歓喜の声を上げる。


オープンカーはゆっくり走り、前に帝都に来た時とは違う熱狂をオレは一身に浴びていた。




「一真様ーっ!こっち向いてー!」


「勇者様ーっ!」


ふふっ婦女子の黄色い声が心地よいぜ。




魔王ドゥルガー、勇者八神一真に討たれる!


この一報は帝都…いや銀河中に駆け巡った!


そして今日は皇帝陛下より勲章授与と褒美を賜るという事でオレはうきうきだった。




「ねーねーこの後ーパーティやるわよね?美味しいお酒でるわよね!」


隣に座っているミタマは車内に用意されてる酒を飲みながらイイ感じに酔っている。




勲章授与式は盛大に行われ、なんと皇帝陛下みずから勲章を胸に付けてくれた。


髭を生やしているが、アンチエイジングが進んだ世界で実年齢はわからなず 皇帝陛下は20代後半にしか見えなかった。


「来度の魔王討伐の功績大である。恩賞として帝国伯爵位と旧ヴィリアーズ領を与えるものとする!」




皇帝が高らかに宣言すると周りから 歓声とどよめきが走った。




…んっ?伯爵?つまり…お貴族様ーーーっ!




その後は後宮内でパーティが開かれ、どこの誰ともわからないお貴族様が次々とあいさつしてくる。


作り笑顔をするのも疲れる…


「お疲れのようですな 八神伯爵」


渋めのおじさまがそう言ってワインを渡してくる。ワインを受け取る。


「まぁ今回のパーティの主役ですからな…」




「まだ伯爵と呼ばれても…実感がありませんよ」


いきなりお貴族様の仲間入りだもんな。




「失礼、私はクライブ…クライブ・フォン・タウンゼンド 菲才の身でありますが帝国宰相を務めております」




宰相は右手をだし握手を求めた、あわててオレも握手する。




「伯爵の活躍はセシリア皇女殿下の報告の映像で見させて頂きましたよ。独特な戦い方をなされる」


くっくっくっと小さく笑う宰相。


はずっ!きっとあのジャージ皇女の事だ正確に報告してるに違いない。くそぉオレが編集した奴渡しとけばよかった!




「様々な貴族があなたのこれからの活躍に注目してますよ…私も含めて…ね」


がんばってくださいね…そう言うと宰相はその場を後にした。




「一真ーこのお酒めっちゃ美味しいわ! 樽ごとお持ち帰りしましょー!」


給仕のメイドさんが困ってらっしゃる。




「殿下…」


宰相はセシリアの下に来た。皇族専用の部屋でパーティ会場を眺められる一室だ。


今夜の彼女は白をベースにした紺の色を混ぜ合わせたドレスを着ていた。


「宰相…」


「今夜の殿下はより一層お美しい」


「ありがとう」




雑談を重ねた後、話題は戦後の話となった。


「捕らえた捕虜は三万を超えると」


報告があった数字に宰相はどうするべきかと思いセシリアの意見を聞いた。


「移民惑星に送って開拓事業に努めさせるのがいいでしょうね」


「返還交渉しようにも魔族領には国交事態ありませんからな やはりそれが一番ですか」




「貴族内には皆殺しにせよとの意見もありますが…」


「愚か者の意見に耳を貸す必要はないわね…侵略され略奪された領土の復興、艦隊の再編 滅亡した貴族たちの領土の事…やることはたくさんあるわ」




「頭の痛い話です。」


なにより金がかかる、官僚から苦情も出るだろう、調整も宰相の役目だった。


帝国程の大国ともなれば、各惑星からの苦情。陳情も多い。財政は滞りなく潤沢ではあるがまた支出も多い、帝国内部も腐敗も横行している、少し程度なら目を瞑るが度が過ぎると宰相はその者を抹殺するため暗部を使い暗殺する。帝国の闇を知り尽くしていなければ、帝国宰相など務まらないのだ。






「あぁ そう言えば、例の要塞砲使わずに済みましたね。」


「それが一番の戦果とも言えるわ…切り札は取っておきたいし、他の魔王にも知られずにすんだわ」


「あれの改良なんだけど…」


殿下との会話は続いていく…










「一真さん」


アリスがオレの下に来た。今日は赤いドレスを着ている。赤髪に赤いドレスは引き立つなぁ。


「紹介します。父です。」


「初めまして、八神卿 私はシド・エル・クラエスト。娘がお世話になっているね。八神卿」


卿と呼ばれ気恥ずかしくなるが挨拶をし握手を交わす。




「私もあの戦場にいたから、君の活躍に驚いているよ。」


ナイスミドルのおじ様に肩をばんばん叩かれむせる。


「うちのじゃじゃ馬を嫁にどうかね?」


「ぶっ」ワインを吹き出してしまった。


「おっお父様!」


はっはっはっ豪快に笑うシドさん。




周りの貴族たちがひそひそと話す


「ちっ田舎貴族ごときが…勇者と盟を結ぶつもりか」


「それよりもうちの娘の方が…」


「この際 妾でもかわまん、家の娘に…」








「あら…さっそく八神卿にアプローチですか?」


セシリアがオレたちの会話に入ってきた。


「これは…皇女殿下」




「古来より功のあった勇者に嫁ぐのは姫君であったとか…」


人差し指を顎に当て、小首をかしげる皇女。くそぉかわいい仕草しやがってこのジャージ皇女。


おぉ! と貴族たちがざわめく


「まさか…皇女殿下は伯爵と…!?」


「いや…ありえん 伯爵といえど身分が違う」




おっと…これは来たか モテ期!


「冗談です」


くすくすと笑う皇女。


だと思いましたよ。




ちきしょう!今日はもうやけ酒だ!


「あとこれとこのお酒も樽ごとお土産に頂戴ね」




「お姉さん、伯爵のボクと今夜一晩どうですか?お貴族様のお誘いです。ぜひKIMONOを着てくださいお願いします。帯を引っ張りたいんです。」




メイドさんにカラミまくるオレとミタマ


アリスに止められ、しこたま怒られました。


おかしい今日の主賓が怒られるなんて…。




「おのれ!おのれ!おのれ!おのれ!」


机に向かって何度も拳を叩きつける、血が滲もうと痛みが走ろうとこの怒りは収まらない。


「おのれセシリアァアアア!」


第一皇子カエサルはその評判を大きく下げた。


妹に責任を擦り付け、戦場から逃げたとされたのだ。


「俺は体制を立て直すために一時退いただけだ!それを!」


自分の派閥もほぼ壊滅状態。あれほど自分の周りにいた取り巻きたちも皆消えた。




皇子としての地位はあるが、もはや誰も自分が皇太子に選ばれる事はないと思っている。


今、皇太子に一番近いのは間違いなくセシリアだろう。だがなにが起こるかわからないのが後宮だ。




「このままでは済まさんぞ…セシリア…勇者め!」




魔王領 荘厳なる城に王はいた。


魔王の一人 玉座に足を組みその女性は報告を受けていた。


身体の線を見せつけるように漆黒のドレスに身を包み、大きな胸 すらりと伸びた足、張りのある臀部、全てが異性を魅了するためにある。種族はサキュバス。蝙蝠を連想させる宝飾 黄金を散りばめたかのよう長い髪、ルビーのように輝く瞳。


サキュバスの中でも群を抜いて美しい彼女 リリスはつぶやいた。


「あの子は役目を全うしたのね」




側近はうなづく。


「はい…死しても最後まで情報を陛下に…」


ドゥルガーの愛人としていたサキュバス、彼女はリリスの放った密偵…魔術が施され、死しても眼球から情報を送っていた。




情報は全てに勝る力だ。情報を制する者は勝者となる。リリスはそれを理解していた。




「三百年…停滞していた状況が動くわね…あの子を中心に…かしら」


「あの勇者…ですか」




側近は訝しむ


「あの勇者は脅威になるのでしょうか? 注意すべきは神器…それさえなんとかすれば」


「力は単純なレベルや能力だけで図るものではなくてよ…人間というのはね、成長するものなのよ」


リリスの鋭い眼光に恐縮してしまう。側近。


「でっでは我らにとって大いなる脅威になる前に刺客を…」




「おやめなさいな、今は他の魔王の動向に注力しなさい。脳筋のドゥルガーのように可愛くはない者たちばかりなのだから…」




「…はっ」




側近は玉座の間から退出し、リリス一人となる、


巨大な窓から満月が顔を出し、それを見上げるリリス




「楽しい時代が来るようね…」


氷のような微笑みを浮かべた。

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