第19話 機動装甲騎武闘大会

帝都に向けて、オレたちは出発した。護衛の艦隊は500隻。艦隊の指揮はティアに任せてある。


俺と共に帝都に行くのは、ミタマ、テン、ティア、村雲の整備を任せるニア。留守を任せてるのはアーシェ。




艦隊の指揮はアーシェに軍配が上がるし、領主不在に留守を任せる者が必要だった。アーシェは俺と共に帝都に行きたがったみたいだが…。






帝都に着くまでは一か月かかるので、その間、オレは村雲に乗り、戦艦から出て乗り心地を試していた。




前に乗った時よりもなじむ。反応速度、機動性、火力。全てが以前よりよくなっている。




ニアが言うには村雲はまだまだ性能が上がるかもしれないとの報告を受けている。


まるで生き物が成長するようにと。


いいね。お前がどれだけ強くなるのか…楽しみだ。




オレが旗艦としている戦艦の中には長い旅路のためレジャー施設も整っている。その中の一つ。温水プールに来ていた。


ホログラムで南の島に来ているように見えるし太陽もさんさんと輝いている。ヤシの木やら砂浜まである。


「あっこれ美味しいです」


テンはヤシの実ジュース?のようなものを飲んで楽しんでいるようだ。なぜかスクール水着を着ている尻尾の部分は出せるよう穴が開いてるようだ。






ミタマは白のビキニを来てかき氷を食べ、頭をきーんと痛め頭を抱えている。




ティアは黒の競泳水着を着てさっから海で泳いでいる。


オレはサングラスをしてビーチチェアで寝そべっている。


領地を離れて初めてのんびりしているような気がするよ。




帝都、後宮内の一室。帝国第一皇女セシリアの部屋。


セシリアの部屋にはアリスが来ていた。


アリスから一真の報告を受けていた。




「一真さんの家臣はおもしろい方々が揃いつつありますね…」




「そう…」


どうやら一真の領地経営は順調のようだ。景気がよくなれば人が集まる。その中に有能な人材もいる。


そしてさらに領地が発展する。良い循環が生まれる。




一真にはもっともっと力をつけてもらいたい、帝都より離れた辺境に領地を与えるよう仕向けたのも中央より離れていれば、自由に動けるからだ。




九尾の一族に移住先を進めたのも自分だったが…本人たちも自分らを救ってくれた一真に恩返しをしたいと望んで移住してくれた。優れた一族を他にやるのはもったいなかったし、帝国再建のうやむやに移住してもらったのは正解だった。




一真にはすでに勇者として名声はあるが、それでもまだまだ足りない。望むのは組織としての力。


いずれ一真には自分の派閥に入ってもらいたい。そのためにも…彼を今失うわけにはいかない。




帝都には続々、武闘大会に出場者が揃ってきている。


大会会場もすでに完成している。あとは開催日を待つだけとなっている。




「今だに兄上の思惑がつかめないけど…」


大会は実戦形式で行われる。その中で死亡者も出る。残念な事故として扱われるが、それ自体が観客の熱狂にも繋がる。毎回開催の際に死者が出ることに反対、規制禁止すべしとの声が出るが全てもみ消されてしまう。




兄カエサルが自分と一真の事を恨んでいる事は知ってるが…もしかしてこの大会で一真を殺す事を望んでいるのだろうか…。




兄に力を貸している者もいる…だがその正体もセシリアは掴めていなかった。




セバスはいち早く帝都に赴いていた。


目的は一真が帝都滞在中のホテルを手配、並びに屋敷から優れたメイド、従者を選び連れてきている。




一真が自分の領地と同じよう過ごせるようにと配慮である。


また安心できる者で固めたいとのテンの指示と拠点が欲しいとの事で、伯爵の名に恥ずかしくない一流ホテルを手配していた。欲を言うなら屋敷が欲しいところだが、さすがに時間が足りなかった。


ホテル一室ではなく階層丸ごと借りて、一真とその共も一緒に過ごせるようにした。






「これでいいでしょう」


一真の滞在する部屋の内装なども確認し、セバスは満足していた。




メイドや従者たちを並べてセバスは注意事項を述べていく。




「あと二週間で一真様たちがご到着します。 今回武闘大会に出場という大変名誉な事ですが…大会ではなにが起こるかわかりません。各位気を引き締ましめなさい」






帝都にようやく着いた。戦艦のブリッジから見下ろす帝都、モニター越しではあるが足元に帝都を見るのはなかなか考え深い。




帝都には無数の無人の防衛兵器、要塞級で守られている。これを突破するのは難しいだろう。






オレの艦隊は旗艦を除きこのまま専用の宇宙港のドッグに入る。


村雲も大会に出場するため、専用のドッグに収容される。ここでニアを中心とした整備班も専用ドッグについていく。






オレはミタマ、テンと共に宇宙港で簡単なチェックをし、帝都に降り立つ、後でティアとニアたちもセバスが手配したホテルに合流する予定だ。






「やっぱ帝都は違うなぁ…」


見渡す限りのビルビルビル。高い建造物でひしめいている。もちろん繁華街も自然公園もあるようだが発展がうちの星とは全然違う。


オレの星も大分マシになってきてるんだけどなぁ…。






「一真さま お待ちしていました。」


セバスが車を待機させて待っていた。


そのままホテルへ行き、部屋でくつろいだ。




「一真様」


ベッドでくつろいでいると地面から魔法陣が出てそこからフード被った男が現れた。


「無名か…」


暗部、蠢く者たちを束ねる棟梁。名を尋ねたら「…名はありませんが…無名とでもお呼びください」




というので無名と言う名前になった。




無名たちはオレの領地や周辺惑星、そして帝都にも忍びこませている。なにやら怪しいこの大会の事も調べさせている。




「やはり第一皇子が裏で様々な事を計画しているようです。」




ジャージ皇女の言葉通り、という事だな。オレへの推薦を善意でするわけないだろうしな。




「お望みならばカエサルの首献上いたしますが…」




暗殺するって事か…こわっ うちの者が過激な奴が多いきがするなぁ。




「いや…やめておけ」


せっかく帝都まで来たんだ。第一皇子が暗殺されれば、大会が中止になる可能性が高い。村雲のお披露目ができなくなるじゃないか。




無名にはカエサルが企んでる計画をわかってる段階で報告させ、必要ならば対処するよう命じた。




深夜、村雲にあてがわれたドッグ、人気のいなくなった無人のドッグではあったが、魔法による探知、並びに監視ドローンなど様々な警報装置が設置されてるが、その全てをかいくぐり、村雲に迫る影があった。




カエサルの手の者、暗部が村雲に迫る。


暗部の調べでは一真の強さの一環はこの村雲にある。ならばこの機動装甲騎の内部にある装置を組み込む 誤作動を起こす装置である、カエサルの計画の一つであった。




暗部がまさに村雲に触れようとした時、背後から暗部を拘束する者たちがいた。


一真の暗部、蠢く者たち。一瞬の内に音も気配もなく村雲に触れようとした暗部は首を折られ声も上げられないまま絶命した。




カエサルの暗部は完全に囲まれた形となった。


「きっ貴様ら何者だ?」




「暗部に言葉はいらぬ 一人だけ残して滅せよ」




無名は部下に命じると瞬く間に血も出ず絶命するカエサルの暗部。一人は気絶させられ闇に連れ込まれた。催眠で口を割らせるために…。






機動装甲騎武闘大会開催当日、会場には観客でひしめいていた。貴賓席には皇帝を始め皇族が座り、大貴族がその後に続く。


機動装甲騎が激しく戦う会場で観客を入れるのは危険ではないかと思うだろうが、魔法による壁が何十にも掛けられており問題ないようだ。




またTV局も入っており、帝国全土に中継されている。




皇帝が高らかに大会の開催を宣言し、機動装甲騎大会は開催された。




トーナメント方式でオレの出番はなんと一番目だった。


対戦相手は…ブラトーとかいう傭兵で有名な奴らしい。




オレはパイロットスーツに身を包み、村雲の近くにいた。ニアがせわしなく働き、整備員に指示している。




「ほぅ…これが勇者の機動装甲騎かい」




そう言いながら、無精ひげに手でなぞりながら男が近づいて生きた。




「何者だ 貴様」


ティアが剣を抜き男の首元に突きつける。


側にいた騎士も剣を抜き、兵も銃を構える。 整備員も手を止める。




「おっと失礼…俺はブラトー…伯爵の対戦相手さ ちょいと伯爵に挨拶に来ただけだよ」




オレはティアに剣を治めさせた。




「相当腕が立つ傭兵だと聞いたな」




「まぁそこそこだよ」


オレたちは握手をする。




「うれしいね せいぜい村雲が全力を出せるよう頑張ってくれ」






にやりと笑いその場を後にするブラトー。




準備が整い、オレは村雲のコックピット内で開始の時間を待っていた。


妙に落ち着いてるな…自分でも驚くぐらいに。




「一真様時間です」


ニアからの通信が入る。




村雲は空を舞い 会場に降り立つ。会場から歓声が巻き起こる。相手はすでに会場に立っていた。


重装甲に重火器装備か…。


色々カスタマイズしているようだ。






審判をするロボが試合開始の合図を出す。




先に動いたのはブラトー、重い装甲に重火器のくせにホバーを使い素早く動きながら右手に持つガトリングガンで攻撃してくる。


普通なら避けるだろうがオレはそのまま前に進む。進みながら銃弾を避けブラトーに迫る。




さすがに全てを避け切る事はできないが村雲の周りに魔法陣防御陣が展開され、銃弾を弾いていく。




「っ!なんて奴だよ」


ブラトーは驚きながらも笑みを崩さない。




村雲は刀を抜きブラトーの機体に切りつける。


しかしその瞬間にブラトーは背中に装備してるミサイルを一発放つ。周囲が光に包まれる。


「閃光弾か!」




一瞬視界を奪われるが村雲の自動アシストが働き、すぐにその場を離れる。


再び距離を取ったブラトーは両手、両足、背中に装備した武器を全て村雲にロックし、フルバースト攻撃をしてきた。




「おもしろい!」




村雲のツインアイが光り、凄まじい速度で左右上下に動き弾丸、ミサイル、ビーム全てを避ける。


あまりの速さにブラトーには分身が見え何機も村雲が存在しているかのように見えた。






捕らえた! オレは村雲の刀で真一文字にブラトーの機体を切り裂いた…かに見えた。そこに転がるのはブラトーの機体ではなく装甲と重火器。


見ると正面に重装甲をパージし、軽装になったブラトーの機体。




こいつ…斬られる寸前に重い装甲をパージしたのか…。




オレは追撃しようとした時ブラトーの機体が両手を上に上げる。




「降参だ…こりゃ勝てんわ」




審判ロボがオレの勝利を高らかに告げる。瞬間会場の観客が歓声を上げる。




ブラトーから村雲のコックピットに通信が入る。




「オレも機動装甲騎の扱いに関しては少しは自信があったんだが…いや上には上がいるもんだねぇ」




「あんた…まだ全力だしてないだろ?」




オレはブラトーに尋ねた。




「そいつは旦那も同じでしょ まっこんな所で命かけるもんじゃないからねぇ」




食えない奴。




(すいませんねぇ皇子様 どうも俺じゃ役不足みたいだ)




貴賓席の皇帝も感嘆の声を上げる。


大貴族たちも今の戦いには驚愕したようだった。




その中で一番驚いたのは帝国第一皇女セシリアであった。




(あっ…あんな化石も同然の機動装甲騎があんな活躍するなんて…)


手元に残しておくべきだった。


今更ながら後悔していた。




「いや、素晴らしい戦いでしたなぁ さすがカエサル殿下推薦の勇者殿です。」


「あれが熟練した者同士の戦いなのでしょうな!」




大貴族たちの声にカエサルは「あぁ」としか答えられなかった。


(役立たずめ!なにが傭兵か!あの場で殺してしまえばいいものを!)




(暗部も役に立たん!…だがまだ俺の策は終わってはおらんぞ!)




カエサルは席を立ち、貴賓席から人知れず出ていく。




専用ドックに戻ったオレはニアを始め部下の賞賛を浴びていた。




「あぁ すごい村雲ちゃん。すごいでちゅねぇ」


ニアが乙女として、していけない顔をしている。そっとしておこう。




「一真様さすがです。ティアはこの場にいられる事を誇りに思います。えぇ アーシェにも後で自慢してやります」




「それより」


俺はティアを隅に追いやり、こそこそ話になる。連れ込んだ形になり「あん♡」などティアは喘ぐが無視する。


「オレに賭けたよな?」




「もちろんです」


機動装甲騎武闘大会は賭けの対象になる。大金が動くものでもちろんオレは自分に賭けた。




テンに聞かれたら怒られそうなのでティアに頼んだ。




お小遣いの中でやってるからいいよね。




所代わり、一真の支配する惑星に近い宙域にアーシェ率いる艦隊が演習を行っていた。




領主の一真に代わって全軍の指揮を任されている。




一真の私兵軍は先の魔王軍の残党との闘いにより、軍の再編新型の戦艦の導入人員の確保を行っており、アーシェの元、厳しい訓練もあってその練度を上げていた。今や全軍で1万5千隻程の艦隊になっていた。




だが…アーシェは不機嫌であった。


アーシェ本人は一真と一緒に帝都に行きたかったのだが…。ティアより自分の方が艦隊指揮が向いてるとして、本星の留守を任されるのは信頼の証なのだが…それでもアーシェの乙女の部分が納得いかなかった。


指揮官のアーシェのピリピリしたムードに艦橋は重い雰囲気になっていたが、側に仕える副官の女性がアーシェのふぅっというため息を横顔を見て




「なんか恋する乙女のようですね」


と言ってしまった。 艦橋のクルーは地雷踏んだっ!とアーシェの怒鳴り声が艦橋に響くと思い身構えた。




「えっえぇ~?」


全然違った反応だった。


アーシェは頬を赤らめ、両手で抑える。


王女として生まれ、恋などしたことのないアーシェなのだが恋に恋する乙女な部分はある。




「とても可愛いですよ司令官!」




「そっそうかしら?」




きゃいきゃいと恋バナが始まっていしまいそうな雰囲気になってしまった。




その時、未知の宙域から多数の艦隊がワープアウトする反応がみられた。オペレーターからアーシェに直ちに報告される。


「この艦隊は…魔王軍です!その数…じゅ 10万以上!」




「このタイミングで10万…?」


アーシェは直ちに本星に連絡を取った。










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