第18話 蠢く者たち

勲章を授与するために、帝都から勅使が来た。


オレを含め文官武官が整列し、騎士は騎士礼、兵士は敬礼、文官はお辞儀をして勅使を迎える。


宇宙港から直接大型船が地上に降り、勅使がオレの惑星に降り立つ。


太ったおっさんだ。






オレの後ろに天狐のテン、騎士服に身を包んだ、アーシェ、ティアが続く。


ミタマは「興味ないわ」といって屋敷で食っちゃ寝している。オレもそっちがいいと言ったら、テンに笑顔のまま「ダメです」と言われた。怖い。






「遠路はるばるようこそおいで下さりました。勅使殿」


勅使は皇帝陛下の代理として来ているのでオレは深々と頭を下げた。




ふぅっとため息をつく勅使。


「さすがにど辺境は遠いですな…疲れましたよ はぁ 早く帝都に帰りたい」


ぴきっと後ろの二人がこめかみに青筋を立てる。




「屋敷までご案内いたします。とりあえず長旅の疲れをお取りください」


テンがすかさず勅使を車に案内する。




「そんなに早く帰りたいなら、戦艦のミサイルに詰めてに帝都に向けて発射してやりましょう」




「あの無駄なぜい肉を切り落としてあげましょうか?」


ティアとアーシェがなにやら危ない事を言ってるな。二人は帝国にはあまりいい印象を持っていないようだ。




式典は明日、政庁で行われる。オレたちもその場を去ろうとした時、懐かしい顔が船から降りてきた。




「お久しぶりですね。一真さん いえ伯爵。」


「アリス!」




燃えるような長い赤毛、最初にあった時は冒険者として、ドラゴン討伐の時も一緒にいた。貴族のお嬢様。


勅使と一緒に来るとは。




「どうしてアリスが…?」


「伯爵にどうしてもお会いしたかったので…」


おっとモテ期ってやつですか?


そう言えば、同じ伯爵のアリスパパがなんかオレとアリスとくっつけようとしてたっけ?あれは冗談だと思ったけど…。




そっとアリスが近づき、オレの耳元に背伸びして口を近づける。


いい匂いが鼻腔をくすぐる。


不覚にもどきどきする。


後ろでなにか剣を抜く音と拳銃を抜く音が聞こえたような気がした。




「皇女殿下からお伝えしたい事があってきました。詳細は後程…」




夜、勅使を迎えての食事会が開かれた。


「ふぅむ辺境の料理ですな…」




うちのシェフが出す料理に一々文句つける勅使のおっさん。そこからやれ帝都の高級レストランの料理がどうとか帝都のホテルの気品がどうとか延々と自慢話が続いた。




それだけならまだしも、給仕をしているメイドのお尻を触ろうとしたり、お風呂で背中流せだの。


ティアやアーシェの殺気が段々と強くなっていくのもわからないのか?このおっさんは。






食事を終え、酒をしこたま飲んでデロンデロンに酔っぱらった勅使を部屋に押し込んで、オレ、アリス、テン、アーシェ、ティア、そしてミタマが執務室に集まった。






「あの勅使には困ったもんだ。メイドさんにお風呂で背中流してもらうなんて、オレでもまだやってもらった事ないのに」




「お望みなら私がお背中お流ししますよ!一真さま!」


ティアが手を上げる。




「あなたでは筋肉ごりごりで一真さまのお背中が傷だらけになるでしょう。一真さまぜひ私にお任せください。」




「はっ?」


「なにか?」




「二人とも仲良くしなさいよ 飴ちゃんあげるから」




どっかのおばちゃんみたいな事言って喧嘩を止めるミタマ。


もぐもぐと飴をほおばり舐めながら、にらみ合うアーシェとティア。まぁ コイツラはほっといて。




「一真さんにはユニークな方々が集まっていますね」


楽しそうなアリス。


「それで?皇女様がオレになにを伝えたいって?」




「はい、伯爵に機動装甲騎武闘大会への出場が決まりました。」




「なにそれ?」




アリスが言うには、皇帝陛下が御覧になる御前試合で、帝国中から機動装甲騎乗りが集まり、その技量を競う…というものらしい。4年に一度開催され、立候補とは別に各皇族から指名され出場するという推薦枠があるらしい。そこにオレが選ばれたようだ。




「あのジャージ皇女め…」


オレがぽつりとつぶやく。




「いえ伯爵を指名したのはセシリア殿下ではありません。」




オレたちは意外な名前を聞いた。




「伯爵を指名したのは…カエサル殿下です。」




カエサル…帝国第一皇子 あのキザ野郎か…しかしなんでアイツが?。




「どういう事でしょうか?」


テンが首をかしげる。




「先の戦いでその名声を大きく落とし、皇太子レースにも名が挙がる事はないと言われてるカエサル殿下です、それゆえなにか企んでいるのでは…とセシリア殿下は考えています。」




気を付けるようにとアリスをオレの領地に送ったのだそうだ。それだけなら通信でもいいと思うが盗聴の可能性が高いので人づてに伝えるのが一番安全とアリスは語った。




「どう思う?」


皆に意見を聞いてみた。




「カエサルという皇子が一真様を恨んでいるのでしょうか?」


ティアが質問してくる。




「その可能性は高いでしょう。魔王ドゥルガーとの闘いで名声を上げたのは一真様とセシリア皇女殿下ですからカエサル殿下は戦場を逃げたとされていますし。」


アリスが答えた。




「指名を拒否する事はできないのでしょうか?」


アーシェが顎に手をやりながら質問するが…。




「皇族からの指名はとても名誉な事とされています、これを断るのは伯爵にとってよくありません。貴族としての名誉もまた勇者としても…」




名誉なんてオレにとってはどうでもいいんだけどなぁ。




「出ればいいじゃない」


ミタマがポテチぽりぽり食べながら言う。




「ばっと出てぱっと優勝しちゃいなさいな それで皇帝からご褒美もらえばいいのよ!出るんでしょ?」




「えっ?えぇ 優勝者には賞金5億、貴族でない者には男爵に…そして惑星一つが与えられます。」


アリスがとまどいながら語った。




ふぅん…悪くないな。


「でーっ大会はいつやるの?」


オレはアリスに聞くと半年後との事だった。


明日、勲章授与の式典で勅使から発せられるという。




「半年後か…なら村雲をもっと改良できるな…」


どうせ出場せざるえないなら、村雲を徹底的に性能アップしてやる。






一真とミタマ、アリスが執務室を出て、自室で休む頃、テン、アーシェ、ティアは執務室で話し合っていた。




「一真様は出場されるつもりですが道中、暗殺の可能性もあります。」


テンがそう言うとアーシェとティアは怒りの表情を浮かべた。




「もしそうならその皇子の首ねじきってくれる!」


ティアが言う。




「だが…私たちだけでは守り切れるかどうか…暗殺者はいつどこから来るかわからないわ」


アーシェが悩む。




「はん!あなたは守り切れる自信がないならお留守番でもしていたら?私が一真様にそれこそベッドの中からお風呂まで四六時中一緒にお供するから」


ティアが頬を赤らめ乙女の顔をする。






「あ?」


「あ?」




ぎゃーぎゃーと喧嘩をしだす二人をよそにテンは思考をめぐらした。…


「やはり…あれを本格的に調べてるしか…」






翌日、政庁会場にて盛大に勲章授与式が行われた。勅使のおっさんが延々と帝国の栄誉だの皇帝陛下の栄えある功績など語った。オレ?校長の長話なんて聞いてなかったし。勅使の話なんて右からはいって左から抜けていったよ。


授与式が終わると、その最後に機動装甲騎大会が行われる事と、オレがカエサルの指名で大会に出場される事が発表された。




勅使とアリスが帰った後、オレはニアと共に機動装甲騎ドッグにいた。




「本当にいいんですかぁ~♡」


ニアが涎を流しながら ミスリルやオリハルコン、アダマントやヒヒイロカネなどの希少鉱石の山を見つめていた。




「あぁ…みんな使って、村雲を強くしてくれ」


「もちろんでしゅぅ~♡♡」




金に物言わせての希少鉱石。


この時ばかりはテンも了承してくれた。




その後は、テンがぜひ来てほしいというのである場所に向かった。


古代魔法国の遺跡、深い森で覆われてる場所でまだまだ開発が行き届いていない場所。


遺跡があるので開発自体が遅れているのだが…。ここは発掘調査を命じていて、この場所で、ティアとアーシェの専属機のフレームも発掘されてるが…。




調査隊の隊長に案内されて遺跡の中に入る。途中で調査隊があちこちを知らべている。




一番奥までくると開けた場所に出る。




「これは…」




人が立っていた。それも数百…顔は見えず皆フードを被っているがそのどれもがコケムシほこりが固まり何百年もそこに立っているように見えた。




中心に石板があり、文字が刻まれている。


隊長が解説する


「これは蠢く者たちと呼ぶそうです。」




「蠢く者たち?」




「我が一族に伝承として残っています。古代魔法王国の時代 暗部…暗い仕事をさせるために作られた人口生命体です。」


テンの…九尾の一族に伝わってる伝説らしい。




「強靭な身体能力に特殊な魔法を使い古代魔法王国の繁栄の一旦を担ったそうです。ですがあまりにも恐ろしすぎた存在だったため王国の衰退期に封じれたそうです。」




「この石板にも似たような文面が記されています。」


隊長も語る。




「使えるのか?」




「この石板の窪んだ場所に一真様の血を一滴注げば…主と認識し絶対の忠誠を誓うかと」


現在は主不在の待機モードになっているとの事だという。




「おっお待ちください!この人口生命体の事は今だ解明できていない事が多く、もし起動したとしても一真様に襲いかかる可能性も…」




「決めるのは一真様です。ですが私はこの者たちの力が一真様に必要と愚行します。」




カエサルがなにを企んでいるかはわからないが暗殺も十分ありえる。自分たちでは予想はできてもそれを防ぎきる事はできない。、もし暗殺者を仕向けてくるなら暗部の…蠢く者たちに対抗させるのが一番だとテンは真剣な顔でオレに語った。




オレは懐の小刀を抜き、右手人差し指を軽く切る。血が溢れ石板の窪みに染みこむ。




石板が輝き、幾層もの魔法陣が浮かび上がり、周りにいた蠢く者たちが息吹を吹き返す。


「ひっ」


隊長がその異様な光景に尻もちをつく。




フードの顔は深く見えないが両目が二つ怪しく輝く。


そして…突如蠢く者たちは全員オレに膝をついた。




「我らが新しき主 御名をお聞かせ願えますでしょうか?」


ひと際大きい体躯の蠢く者が聞いてきた。




「八神一真」




「御尊名 承りました。これより我ら蠢く者 八神一真様に永久の忠誠を誓います。」




「…よかった…襲われなかった」


テンがほっとしながらオレの指に治療魔法をかける。




「襲わぬさ…小さき者よ 我らは動けずとも意識はあった。我らを躊躇せず封印を解いてくれた主を裏切るなどせぬ」




聞いてたのね。あそこで躊躇してたりおびえてたら、ヤバかったんかな?あぶねー。




こうしてオレは蠢く者たち 暗部を手に入れた。忍者みたいな隠密みたいなもんかな?。




蠢く者たちはオレ直属の暗部という事になった。




帝都後宮、カエサルの部屋。


高級ワインを飲みつつ、カエサルは手の者の報告を受けていた。




「殿下…全ての準備整えました。」


全身黒づくめで顔が見えないフードを被り、不気味な連中だとカエサルは思っていた。


今この部屋には三人いるが、恐らくそこら中に身を潜めているのだろう。暗部とはそういう影の世界に生きる連中だ。




「そうか…ご苦労」


カエサルは先の戦い以降、名声を高めたセシリアと勇者を恨んでいた。


派閥もなくなり、取り巻きたちもいなくなった…全てはセシリアと勇者のせいだと思い込んでいた。




だが捨てる神もあれば拾う神もあり、自分に力を貸す者もいる。今自分に手足となって働くこの暗部もその者が貸してくれている。


もちろんカエサルもその者にも思惑があって自分に手を貸しているのも理解していた。だが、それでもカエサルは復讐を果たしたかった。






「殿下、暗殺をお望みならば我らが簡単に闇へと葬りますが…」


暗部の一人が言葉をかけるが、カエサルはそれを一笑に付す。




「それではつまらないだろう? どうせなら派手にやらなければな」




暗部には理解できない心境だった。 邪魔な者ならばさっさと殺してしまえばいい。脅すのが目的ならば、家族をさらうなり拷問にかければいい。単純な事なのだ。それをわざわざ凝った計略など…。




「でっ?俺は勇者の小僧を殺ればいいんですね?殿下」


壁に寄り掛かり腕を組む男、傭兵として勇名を馳せる男 名をブラトーと言う


「あぁ、お前の機動装甲騎乗りの腕は聞いている 存分にやるといい 」




「報酬さえ頂ければやりますよ。俺は傭兵なんでね」




「暗部、お前たちにも働いてもらうぞ…」


深く頭を下げる暗部。


あぁ…楽しみだよ…本当に…。


この日の酒はいつもよりうまく感じるカエサルであった。




一真の支配するの宙域に空母がガイドビーコンを出し、その誘導に村雲が空母に着艦する。


スムーズな動作に作業員も感嘆の声を出す。


村雲のコックピットから出てきたのは、パイロットスーツに身を包んだティアであった。


ぴっちりとした体のラインが出るスーツで男の視線を釘付けにするが本人は気にしない。




ヘルメットが変形をし、後ろのバックパックに収縮される。


「…ふぅ いい機体だわ。これ程の性能とはね」


領主の一真が多忙を極めており、村雲のテストパイロットとしてティアが選ばれている。




ニアが作業員の計測したデーターを見ながら驚く…。


「これ…本当?」




「はい…現在できるだけの希少鉱石をも用いてもまだ、この機体はその性能を生かし切れていません」


それどころか希少鉱石を食らい自分のフレームの一部として成長しているかのようだった。




「成長する機動装甲騎なんて聞いたことないわ…」




まるで生物のようだ…それが正直な感想だった。




この子はどこまで強くなるのだろう…ニアは村雲のツインアイが光ったように見えた。




俺は今日はパーティに出ている。


うちが主催で、周辺の領主や男爵などを招いてのパーティだ。


ようはお隣同士で仲良くしましょうねという奴だな。


航路も安定しているし、交易も盛んになってきているので、皆すぐに来てくれた。


それぞれ互いに贈答品を送りあう仲になっている。




立食式のパーティで凝ったものではなく、気軽にできるものした。


「気楽でいいパーティですな!八神卿」


そう言いながら揚げたチキンをかぶりつつきながらオレに近づいてくる獅子の顔を持つ男。




「ライオネル陛下 楽しんでいられるようでなにより…」


ちなみに辺境周辺には亜人の国や領地を持つ貴族が多い。このワーライオン族のライオネル陛下も亜人の国の王様だ。


「うむ!なにより飯がうまい!」


食べてるのはシルフィが再現した白髭のダンディなおじ様が作ったフライドチキンの再現だ。


いやほんとよく作ってくれたよ。




「自分も凝った形式やら作法などは全然わかりませんので…」


「ほぅ 勇者殿もか はっはっはっ」


と大笑いをするライネル殿。




「大体こういうパーティなどはあまり美味しいと思った事はありませんでしたが…八神卿はいいシェフをお持ちのようで…」


翼持つ有翼人 ハーピーの領主代行を務める女性が近づいてきた。




「これはこれはフィオーネ殿か…お父上はまだ病が?」


ライオス陛下が心配そうに話しかける。


「えぇ 今だに…ですが、八神卿からいいお薬を頂けるようで…」




大体の病は治るこの世界のテクノロジーでもなぜかよくならないというので、うちからソーマを融通することにした。もちろん希釈したものだが…。




蠢く者たちの調べでは、呪いの類でしかも徐々に体が弱る類のものだと聞いている。どうやら後継者争いがハーピーの一族で起こってるらしい。




近いうちにフィオーネさんが領主になるだろうね。対立する派閥の奴らは謎の病死やら事故死が続くようだ。うちの暗部は怖いねぇ。


まぁ友好関係を深めているフィオーネ派閥が潰れるのはこっちとしてもよろしくないからね。




ちなみに暗部はすでにあちこちで活動し、帝都にも潜っている。情報収集も兼ねて。情報は力だからな。




「ところで八神卿、この星に来た時巨大な…あれはもしかして要塞級ですか?」


フィオーネさんこそこそと小声で聞いてくる。


「えぇ 買いました」




ニアに泣きつかれて購入した。拠点防衛には必要なんだと思ったんだけど、テンがぴりぴりしてた…。


ごめんよママと言ったら誰がママですかと怒られた。












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