第20話 弓引く者

機動装甲騎武闘大会も準々決勝へと進み、オレは順調に勝ち上がってきた。


だが、最初のブラトーのような強者と巡り合えなかった。村雲も不満な気がする。




準決勝まで来たが対戦相手は皇帝直属の騎士であるガルス・ハーケンという男だそうだ。


機動装甲騎も帝国の近衛騎士団が所有する騎士の甲冑のような姿のものだ。


審判ロボが開始の合図を出そうとした時、周囲に警報が鳴り響いた。




「なんだ?」




「敵襲?」


「ありえない!帝都だぞ!」




観客からどよめきが起こり、不安が会場を包んだ。




「一真様!大変です、帝都上空にある防衛兵器及び要塞級が暴走したとの情報が入りました!」


テンが連絡を入れてきた。






標的はこの会場にされていて、すでに全ての兵器が砲撃体勢に入ってるようだ。




「ハッキングされたのか?」




「わかりません 地上からの指示を一切受け付けないようです!」




砲撃が開始されればここら一体どころか惑星事態どうなるかわからない。


ましてや要塞級の主砲なんて撃たれたら…。


村雲だけならその機動性で一気に惑星外までいけるだろうが…。






観客席はすでにパニックになってるな。帝都で警報なんて経験がないからかどんな状況かも情報がなくても混乱状態になり、なんとか自分だけ生き残ろうと邪魔な人を押しのけ転んだ老人などおかまいなしに踏みつぶし、会場から出ていこうとする。




「はぁ…こんな時に、地球が魔王軍に襲われた時の混乱した状況を思い出す。あの時とそっくりだよ」




貴賓席を見れば、黒服もどうすればよいか迷ってるな。貴族たちはなんとか逃げ出してるし、皇族たちは…意外と冷静だな。


皇帝はどっしりと椅子に座ってるし、セシリアは配下になにか指示してる。


さすがにあの辺りには情報はいってるだろうな。






帝都防衛のための兵器が自分らに向けられるなんて、おかしな話だよ。




皇族を避難させるにしても宇宙からの砲撃の範囲が広すぎるだろうしなぁ。


『一真様!村雲なら一真様だけでも逃げ切れるはずです!』


テンが念話で話しかけてくる。 念話ということは他のオレの家臣にも伝えたくない事なんだろう。




『私たちの事はいいです。主である一真様が生き残れば八神家は存続します!ですから…』




『却下』




『一真様!?』




『一真様』


『無名か』




『御意』


『!私の念話に入り込んできた』




どこにいるかはわからないが無名はいる。そういう奴だ。






『カエサルが私邸の地下におります。 そこから防衛兵器に指令を送っておりました』




『すでに手の者がカエサルを捕らえ、停止信号を送りましたが、受け付けません。恐らく一度攻撃指令を送った後停止できぬようカラクリしていたものかと…』




ぬけめないというか滅茶苦茶だな。




「仕方ないな…」




村雲が得た新たな力…ここでお披露目と行こうか。




両手を胸元で広げる村雲。 肩と両足の装甲パーツがパージされ、意思を持つかのように空中に浮遊し両手の前方に変形し展開する。胸の装甲が開き様々な希少鉱石を錬金術で混合した光輝く石が露になる。


魔力が村雲の全身から溢れ、余分な魔力が背中のバックパックから放出され、両手の集まりだす。




胸の石に魔力文字が浮かび上がり、両手の魔力球がさらに巨大に光り輝く。






コックピットに攻撃目標が表示されその全てがマルチロックオンされる。




オレは立ち上がり、天羽々斬を抜く。 コックピットに刀を治める穴があり、そこに天羽々斬を治める。




「いっけぇえええええええええ!」




凄まじい程の光の粒子が解き放たれ、防衛兵器、要塞級を貫き、破壊した。


空のあちこちで爆発が起こり、村雲の雄姿を称えるような花火に見えた。




排気口から煙を出し冷却システムが作動する村雲。




「はぁはぁはぁ くっぅううっ」


オレは刀を両手で持ちそれを支えとして片膝をついた。


骨折までいかなくとも…ひびですんだか。


全身の骨にひびがはいる激痛になんとか…いや無理 痛い痛い痛い。ミタマさーん、助けてぇ。






「しょうがないわねぇ」どこから現れたミタマ様。


ミタマに回復してもらいながら…オレは聞いた。


「ふむ…これはこれでよかったな」




「あなた それ浮気じゃありませんこと!?」




「いっいや違うんだ妻よ」




久々に聞いた天羽々斬夫婦の声。








「おかしい」


一真の星にまたしても魔王軍が襲来した。だがその動きがおかしい。




総兵力は10万。アーシェは要塞級を中心に艦隊を展開していた。


要塞の主砲とその穴を埋める布陣なのだが…。




アーシェは魔王軍のおかしな所が多すぎる点を分析していた。


奇襲という性質上、暗唱空域から現れるのもわかるのだが…


魔王軍の軍旗が戦艦にペイントされているのだが、魔王ドゥルガーの軍旗なのだ。




ドゥルガーはすでに一真によって滅ぼされている。残党は壊滅させた。そもそも10万もの残党がいるなら前回の時に来ている。




しかもドゥルガーの軍は数に物を言わせての戦いをする。たとえ要塞があろうと前へ進めてくる。


「司令!偵察艦隊より報告!」




報告を受けたアーシェは疑いを確信する。




「そう…偽装なのね」


要塞級の射程に入ってこないわけだ。




「おいどうすんだよ!このままだと埒が明かねぇよ!」




先ほどから他の艦隊からの苦情が殺到している。


一真の星を急襲した艦隊の正体。それは魔王軍の艦隊に偽装した帝国軍であった。


正確にはカエサルの私兵。それだけでは数が足りないと、無法者や宇宙海賊までかき集めての10万なのだ。




「聞いていないぞ…たかが辺境惑星になんで要塞級があるのだ!」


簡単な仕事だと思った。星一つ滅ぼし、奪い殺し犯す。中央ではできない事だが辺境ならばできる。


そう思いならず共も奮起したといのに…。




どうする?要塞にバカどもを突っ込ませその隙に、敵艦隊を殲滅させるか…ならず共は全滅するだろうが…もし敵艦隊が粘り強く持ちこたえたら…次に要塞砲の餌食になるのは自分らだ。




撤退するか?いや…カエサル様が許すまいよ。




「しっ司令、背後よりワープアウトする艦隊あり!」




「なに!?」




完全に背後を突かれた状態になったカエサル軍。現れた軍は…。




「間に合ったようだな。あー…アーシェ殿…といったか?」




「ライオネル陛下!」




「いい所で参上…ですかしら?」




「フィオーネ殿、援軍ありがとうございます。」


「いえ…一真様とのお約束ですもの」




一真が周辺諸国との関係を築いていたのは有事の際、助け合うため連合を作るためのものだった。


テンの画策したものだ。


前後を挟み撃ちにされたカエサルの軍は要塞砲の餌食にもなり宇宙から消滅した。






機動装甲騎武闘大会はあの騒動もあって中止となった。


だが、オレの活躍はtvで帝国中に放送されていたので、オレの株はうなぎ登りだったのだ!。


あっカエサルは皇帝弑逆の罪で即刻、処刑された。


自分以外の皇族を皆殺しにすれば皇帝になれるとでも思ったのかねぇ。バカだわ。




「あっ勇者様っ!これ食べてって」


露店のおばちゃんからアイスを人数分もらった。


お金を払おうとしたが、。


「帝都を救ってもらった恩人にもらうわけにはいかないよ!ほんのお礼さ」




他にも、


「一真様!一緒に写真撮ってもらっていいですか?」


むちむちなお姉さん方に囲まれて写真も撮った。


きゃーっありがとうございます!などお礼を言ってお姉さん方は去っていく。


いてて テンが太ももをつねってくる。






街中を伯爵のオレがテンとミタマを連れて警護もつけずに歩いているんだが、警護なぁ…気軽に歩けないの嫌だしなぁ どーせ無名たちが人知れずに警護してるしなぁ。




ニアは3日連続徹夜で村雲のデーター収集に没頭して、ついに倒れて今寝てるし、ティアは本星に帰る準備に忙しい。




部下に全部丸投げして主のオレは帝都の街中をぶらぶら歩くのって楽しいわ。




「本星に襲撃もありましたがなんとかなりましたね」




ビルばかりの帝都にも森林公園はあり、オレたちは椅子に座りくつろいでいたがテンが事の顛末をまとめていた。




「連合がうまく機能してくれたな」


後でライオネス陛下やフィオーネさんら連合の面々にお礼とお歳暮でも送っておこう。


アーシェラの報告ではやはり、カエサルの私兵だったようだ。




ミタマがぱんぱんと手を叩くと鳥たちが近寄ってくる。おぉ、まるで女神の周りに集まる小鳥たちのよう…に、あっ。ミタマの持ってるお菓子が奪われた。






本星に帰るのは3日後だが、明日王宮にお呼ばれしている。なんでも今回のご褒美がもらえるそうだ。




皇帝はさすがに自分の息子がしでかした事、処刑しなければならなかった事に心労から寝込んでいるそうなので、他の皇族が代わりを務める旨連絡があった。




あのジャージ皇女かな?。




「あ…あの」


公園でだらけていると、眼鏡をかけた清楚な雰囲気のいかにも後輩女子的な女の子が近寄ってき来た。


「もっもしかして、八神一真様…ですか?」




「そうだけど」




「武闘大会凄かったです!あとあと帝都を守ってくれてありがとうございます!よろしければ連絡先を」




「ダメです」


テンが無言の圧力をかける。


「ひっ」


ごめんなさい~っ!と言って彼女は逃げてしまった。


もったいない。




「一真様!女には気を付けてくださいね!ああいう清楚そうに見える女ほど中身はビッチな性悪なんですから!」


テンさんが辛辣な言葉をだしてる。…大体一真様は貴族なんですから云々。テンさんのお説教は続く。










後日、皇宮に赴いたオレは一室にて待たされる。


きちんとした礼服に身を包んでいるが、こういう服は着なれないなぁ。


オーダーメイドなので目玉が飛び出るぐらいの値段がするのだが、普段着の着なれたジーパンTシャツのラフな感じがいい。




そんな服を来て屋敷を歩いてるとテンにお小言をもらうわけだが…。




扉が開き数名が部屋に入ってくる。


おや?知らない女性だ。背中まであるストレートの黒上に黒い瞳。どこか着物を連想させる服に身を包んでいる。




御付きの男が言葉を発する。


「帝国第二皇女咲夜・光武・フォン・ヴィクトリア殿下である!」




第二…あのジャージ皇女の妹か。


オレはそのまま片膝をつき礼をする。




「面を上げよ」


咲夜は澄み切った声でそうオレに語り掛けた。




「来度の功績大である。皇帝陛下より恩賞を取らせる。」


「はっ!ありがたき幸せ。」




恩賞は資源惑星3つとの事だった。オレの領地近くの惑星で元々は帝国の直轄地であったが中央より離れていたため放置されていた物だ。


くれるというならもらっておくさ。




簡素な式典もさっさと終わり。皇宮を去ろうと長い廊下を歩いていると、オレを呼び止める声があった。




「お久しぶりですね 一真殿」




メイドを数名連れたセシリアだった。




人払いを…と言ってメイドを下がらせるセシリア。


白のドレスに今日はポニーテールか…最小限の宝飾で着飾ってるが、美しさは際立ってる。見た目はね…






「今回の大会…活躍は見させてもらいました。」




「オレだけの力ではないですけどね」


そう…オレだけではここまではこれなかった。




「兄上も道化を続けていればこんな結末にはならなかったでしょうに…。」




カエサルに力を貸していた者はついにわからなかった。処刑する前にカエサルに事情聴取も行われたが発狂していてまともに問答できる状態ではなかったそうだ。




「お姉様…」




セシリアにそう言いながらにこにこ笑顔で近づく女性。さっきの第二皇女だった。皇帝の代理としての皇女ではなく、今が素の状態なのかな?。




「一真殿、先ほど会ったから知っているとは思うけど彼女は…」




「帝国第二皇女咲夜・光武・フォン・ヴィクトリアです。以後お見知りおきを」


カーテシーをして挨拶をする。




じーっと彼女の容姿をまじまじと見てしまう。


「気になりますか?私の黒い髪と瞳を」




「あっいやすいません」




「私は一真殿と同じ地球という星の出身だそうですよ…確かニホンという国とか」




まったく同郷じゃん!




「私の母は勇者の称号を持っていたそうです。皇帝陛下が勇者の血を帝室に入れたいと母を側室に願ったそうです。」




それで…どこか懐かしさを感じるんだろうか?。




「すでに母は鬼籍に入っていますけど…」


咲夜皇女はオレと同じ18歳だそうだ。




会ってみたかったなぁ。同じ星出身で勇者の称号持ちなんて…ん?という事はミタマに会ってるって事だよな。




帝都より遠く離れた田舎、とは言っても、発展した街なのだが、皇宮がある中央より緑が多い。




民家の庭で小さな畑を作り土いじりをしている男がいる。


中央から離れ、暮らそうとする者もいる。ごく少数ではあるし変わり者とされる。




「ご報告申し上げます」




黒装束の男が畑をいじっていた男にかしづく。




男は振り向きもせずそれを制した。




「どこで誰が見てるかわからない」




「申し訳ございませぬ」


黒装束の男は姿だけを隠した。




「それで…?」




「影武者は処刑。あの者の計略は全て失敗しました。」




「そうか…」


それが男の…カエサルの感想だった。




処刑されたのは影武者であった。いや…影とされた者でさえ、自分が偽物だとはついに思わなかった。


少しの整形と自分が帝国第一皇子だと洗脳で思い込まされていたのだ。




「最後は暴走気味だったが道化を演じてくれたよ」




「本人はいたって真面目でしたが…」




「こちらで処分する手間がはぶけたな」


さて…といい立ち上がり土を払う。


これでカエサルという皇子は歴史から消えた。自分が皇位につく事はないだろう、だが悪い事だけではない。


自由に動ける…皇帝レースに勝ち抜き帝冠を頂く者がカエサルにとって操り人形であればいいのだ。


カエサルと言う男の考え方である。




セシリアではダメだな…あれは我が強すぎる。




誰を担ぎ上げるか…カエサルは思考を深めていった。


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