第21話 温泉回!

機動装甲騎武闘大会から二か月が経った。オレは自分の領地に帰ってきていた。




領地に帰っても、遊ぶ時間がなく、むしろ忙しくなっていた。


新たに手に入れた資源惑星が三つも増え、開発やら移民やら…しかもカエサルの私兵との闘いの事後報告を受け、被害とその他かかった費用などなど、各部署からの決裁などわからない事は全部部下に丸投げしたりしたのだが、領主の承認を得なければ進まない事はやらなければならなかった。






朝、屋敷の一室のドアがトントンとノックされる。


メイド服に身を包んだシルフィが屋敷の当主である一真を起こしにくるのだが…主からの返事がない。






数度ドアをノックしても返事がないのでシルフィはドアの前の端末に手を置き、次に眼鏡を外し、両目を端末の前に近づける。


ドアの鍵が開き、シルフィは主の部屋に入った。これはメイド長のシルフィとごく限られた者だけが許される事であった。






これはシルフィも知らない事だが、暗部が屋敷のあちらこちらに潜み主を守っている。


シルフィが主にもし危害を加えようとしたら瞬時に命を落とすだろう。






「旦那様 起きて下さい。朝ですよ」






「ん~?シルフィ。オレはこの星で一番偉い…そうだよな?」


はいと返事をするシルフィ。






「なら…法律を作るぞ…もし領主の眠りを妨げる者がいたら厳罰に処す…」




今だ半分夢の中のオレはそんな事を言った…らしい。




「だとしたら…私が一番最初に罰を受けますね」




「……いやダメだろ! 誰だそんなアホな法律作ったの?」


オレはすぐ起きた。




「旦那様です」


くすっと笑うシルフィ。






「はぁ…あーもー領主になってから遊ぶ時間がない」


オレはそのままベッドの枕に顔をうずめる。ふかふかで気持ちがいい。






ちらっとシルフィを見る ベッドに座るよう右手でぽんぽんとベッドを叩く。


シルフィは恐る恐るベッドに腰かける。






「オレは怠け者なんだよ。めんどくさい事は極力やりたくないし、できれば遊んで暮らしたい 領主になればそれができると思ったんだけどなぁ」




「私は難しい事はわかりませんが、皆、旦那様に感謝していますよ。」




嘘偽りない感謝には反論できないよ、まったく。




シルフィがそっと優しくオレの頭を撫でた…。




「昔…駄々をこねる孤児院の弟や妹達にこうしてあげるという事聞いてくれました。」


オレは駄々っ子か。




でも…気持ちいいや。






「一真ーなにしてんのー?さっさと起きなさいよ!朝ごはんよ朝ごはん!」


「あっ」


「あっ」


タイミング悪くミタマがばんっとドアを開けた。




うちでは食事はみんなでとる事になっているのだが…。


ミタマが今朝の事を言いふらしたのでちょっとした騒ぎとなった。






「一真様!シルフィを正室にするって本当ですか!」


ティアが凄い形相で詰め寄ってきた。


「なぜそうなる!?」






「ミタマさんが言ってました!」


アーシェが涙目で叫ぶ。




「無名!いるのでしょう!出てきなさい!」


ティアがそう叫ぶと床らから魔法陣が出て無名が頭だけ出す。


生首にみえるからやめろよ




「やれやれ…私を呼べるのは一真様だけなのだが…」


そう言いながらも出て来てくれるんだ。




「一真様とシルフィとの間になにがあったか言いなさい!どうせ見ていたのでしょう!?」




おいまじか!?


「なにもありませんでした。一真様、ご安心を。主の部屋には女の配下しか配置しておりませんので…」




いや、そういう問題じゃねーよ!いらん配慮だよ!




ミタマは我関せずと口笛を吹いて明後日の方を見る。吹けてなくてふすぅ~と空気が漏れてるぞ。


コイツ、はっ倒してやろうか…。


給仕をするメイドも聞き耳を立てて聞いている。




シルフィは耳まで真っ赤にしてるじゃないか。




「いや…違うし、ちょっと…頭を撫でてもらったというか…」




「夜伽なら私が立候補します!」


ティアが手を上げる。




「筋肉が固くて抱き心地が悪いでしょう?私なら満足いただけると自信を持って宣言しますわ!処女ですし!」


アーシェがアピールする。




「もう一度言ってみろやぁ!」


朝から取っ組み合いを始める二人。




というかお前ら屋敷出来てんだからそっちに移り住めよ。




こほんっと咳払いするセバス。


「朝からする話ではありませんな」




「不潔…」


テンが目のハイライトを無くしてまるでゴミを見る目でオレを見ている。




勘弁してくれ…。


その日の朝ごはんは味がしなかった…。


午後、執務室で雑務を片付けているんだが…資料などを持ってきてるテンがなぜか冷たい。




「そろそろ休憩を…」




「次はこちらの案件なんですが…」


…冷たい。




「んっ?」


渡された資料を見ると新たに手に入れた資源惑星で温泉が出たと報告があった。




屋敷でもホログラムなど風景を自由に変えられる銭湯を作っていて時折楽しんでいるが…天然の温泉か。




オレはすぐに温泉施設の開発を了承した。


政庁に命じて、すぐ予算を通し、開発はすぐ行われる。




民主共和制なら、ここで横槍やら文句言って邪魔してくる奴がいるんだろうけど、ここでは俺が権力者なので、すぐ予算が通る。




民主政治と専制政治、どちらも利点があり、弱点もある。貴族になり、領主になってからテンや他の官僚から学ぶ機会があったので、自分なりの政ごとを考えての行動をしているが、帝国はもちろん専制政治体制だ。皇帝を頂点として、一部の大貴族がこの広大な領土を支配している形となっている。






魔族との戦争もあるから、民主政治より専制政治の方がいいんだろう。




「テン…温泉が出来たらみんなで行こうか?」




「…温泉」


耳がピコピコと動き尻尾をぶんぶんと振る。




テンはお風呂が大好きらしい。


これは気合入れて温泉施設充実させようと思った。








「温泉?」


帝都 後宮内にある自然公園、その中にある皇族のみが使用できるティーハウスがある。


咲き誇る美しい花に囲まれ、庭師が技術の粋を凝らた庭園を一望できるこの場所はセシリアのお気に入りの場所の一つだった。




今日は、咲夜と共に紅茶とお菓子を楽しんでいる。その中の会話のなかで一真の温泉の話をしたら、咲夜が興味津々で聞いてきた。




「なんでも街全体が温泉のために作られたそうよ」






「…なんか凄い興味あります!」




私もお風呂は好きだから興味あるのよね…個人のお風呂にあれこれと注文をつけ、自分ならではのお風呂にする貴族はいるが…街全体をお風呂…温泉のために作るのは今までの貴族にはいなかった。






「行ってみたい…」


ぽつりと呟く咲夜。


咲夜もお風呂には目がない。ほっとけば一時間は入っている。


小さい頃はのぼせて大騒ぎになったこともある。




一真の領地までは一か月はかかる。とてもじゃないが、今の私が帝都を離れるわけには行かない。


でも行きたいなぁ…温泉。


はぁ…っとため息をつくセシリアであった。




温泉施設が完成した。詳しくは温泉街。


資源惑星として開発する予定だったのだが温泉が豊富に出てくるとの事で、温泉街にして観光資源として使う方がよいとの判断だった。




開発担当に日本の温泉街を伝えるのは苦労したが、まさに日本の有名温泉街のようになった。


硫黄の匂いに店からは温泉饅頭に温泉卵、スイーツなどにも力を入れた、また木刀に竜のキーホルダーなど誰が買うんだ的なおみやげも売ってる、正直これは売れないだろうなぁと思いきや物珍しく買っていく観光客もいるらしい。






ホテルや民宿など様々な宿泊施設も充実してる。




また浴衣なども作り、温泉街ではこれを来て歩く観光客が見られる。




オレもこの星に視察を兼ねて来ている。メンバーはオレ、ミタマ、テン、シルフィ、のだけだったのだがなぜかアーシェとティアも来ている。お前ら軍務は?と聞いたら有給とりましたと答えた。




まぁ提督が二人いないだけで回らない程、軍部はヤワじゃない。


オレたちは温泉街でも一番の旅館に泊まる事にした。




純和風の作りで、オレにはどこか懐かしさを感じる。


女将は九尾の一族の紺さんという若女将で、和服が似合う美人だ。






なにはともあれ温泉だ。オレは宿一番のお勧めである露天風呂に入る事にした。




脱衣所で浴衣を脱ぐ、露天風呂に向かうと広々とした温泉に目いっぱいに広がる景色。


身体を洗い、風呂に浸かると少し熱い天然かけ流しの温泉が体に染み渡る。






「あ~っ」


おっさんではないが思わず声が出てしまう。




こりゃ気持ちいいわ。


肩まで浸かりぬくぬくと体が真から温まる。




「うわぁ!すごい広いお風呂」


女湯の方から声が聞こえてくる。




「テン、お風呂に入る前にちゃんと体を洗うのが礼儀よ」




「あっはいミタマさん」




「おぉ これは凄い解放感ですね」


ティアか。




「あ…あの…誰にも見られないでしょうか?…その恥ずかしいのですが…」


アーシェか。




「メイドの私が皆さんと一緒に入ってもいいのでしょうか?」




「ティアは堂々とマッパでタオルで隠さずくるのね…アーシェ、大丈夫だから来なさいな。シルフィ、温泉はみんなで入るものよ。」




ふむふむティアは隠さずか…。




「ティアさすがに鍛えてるわね、無駄な駄肉がないわ ティアの肌はきめ細かいし、あっおっぱいが大きいわ」


「あっ…あのあまり触らないでください ミタマさん。」


ほうほう…なるほど。




「みなさん凄いですねぇ…スタイルよくて」


「これからよ これから、テンは凄い美人になるわよ」


同感。




「かーっ温泉入りながらのいっぱいは格別だわぁ」


乙女の中にオヤジがいる。








温泉から出たオレはキンキンに冷えたフル-ツ牛乳を飲む。これを再現してくれた料理長に感謝!。




その後、温泉から出てきた女子たちと合流し、それぞれ牛乳、フルーツ牛乳、コーヒー牛乳など飲んで一息つく。


みんな湯上りなので髪を上でまとめ、色艶のいい顔をしていて艶めかしい。




「なによぉ?湯上りで私が色っぽいからってムラムラしちゃった?」


ミタマが意味不明な事を言ってるので無視する。




食事も料亭で出てきそうなものばかりで美味かった。料亭でなんて食べたことないけどね!。






深夜、俺はもう一度温泉に入った。この星にも月に似たような衛星もある。しかも今夜は満月だ。


まん丸お月様を見ながらの露天風呂はなんとも贅沢な感じだ。




そう言えばオレは一人部屋なのだが、ミタマたちはなぜか相部屋なんだよな。一人部屋似たのにできたのになぜかテンが相部屋にしたいと言って来たんだが…急遽参加したティアやアーシェも相部屋にされてたし、うーんアレか?修学旅行的な感じなのかなぁ?


今頃は女子会で恋バナでもしてるんだろうか?




相部屋。


「どちらに行かれるんですか?ティアさん」


笑顔のまま笑顔じゃないテンがこそこそと部屋を出ていこうとするティアに問い詰める。




「と…トイレに」




「トイレなら備え付けのがあるじゃないですか? いちいち共同のトイレに行かれるんですかぁ?」




「…スイマセン」




「貴様っ!抜け駆けして一真様の部屋に行こうとしたな!」




アーシェが怒りながら枕をティアに投げ顔にクリーンヒットする。


「お前には関係ない!」


枕を投げ返すティア。本気でなげてるので当たるとかなり痛い。




ティアが投げた枕を避けるアーシェ。その代わり枕にあたったのがシルフィ。


「あ」


「ごめっ…」




無言のまま枕を取り、投げ返す。そこからは辺りかまわず枕が飛び交う状態になった。


ミタマは…大の字でくかーとイビキをかいて寝ていた。




「あら…先客がいたのね…。」




湯煙の中、温泉に入ってくる気配があった。女の声。ここって男湯だよな!?。




「ごめんなさいね、あまりにもいい月だったもので…」


彼女はそう言うと、オレの隣に腰掛ける。




まじか!?彼女タオルなど持たずその裸体をさらしている。そりゃ風呂に入るんだから裸なのは当然なんだけど、恥じらいというのがないのか、むしろ堂々としてるのでこっちが恥ずかしくなってくる。




均整のとれたというか…その胸は…豊満であった。腰はくびれ張りのある柔らかそうなお尻…。やばいな…これは…オレは自分の意思ではどうにもできない部分を隠すようにこのお姉さんから少し離れた。




「別に離れなくてもいいのよ…ボウヤ」


そう言って彼女はオレに近づく。




「それは自然な事なのだから…」




右手でオレの頬を触れ唇、胸元へそして腹部へとなぞっていく…


唇が触れるぐらいに近づく、彼女の鼓動が聞こえるぐらいに近づき唇が重なる…かに見えた時、


「お前…魔族だな」




「あら?バレちゃった」




「ドゥルガーに似たような魔力を感じる…ただものじゃないな?」




「へぇ…」






「悪鬼退散!」


ミタマが拳に魔力を込めて飛び込んできた。だが寸前で避けて、全裸のまま漆黒の翼を出し、


空中で浮いている。


闇夜の陰から苦無が数十と彼女に向かっていくが全て当たる直前で停止して落ちた。


無名はじめ数十の暗部がオレの前に現れる。






「申し訳ございませぬ!魔族とは思えませなんだ」




「ふふ…おもしろい子。また会いましょう勇者殿」




そう言って魔族は闇夜に紛れるように掻き消えた…。




「あー逃げられたぁ!」


体から稲妻がほとばしるミタマ。


「おい!止め あばばばば」


後に残るのは温泉に浮くオレと無名たち。




温泉街から離れた場所に現れた魔族。


「リリス様…」


部下が衣服をそっと体にかける。




「魔力も感知されないようにしてたし、勇者に私の魅了が効かないなんて初めてね…本当におもしろいわ、あの子」


魔王リリスは楽しそうにくすりと冷笑を浮かべる。










満月はそれを黙って見つめていた…。




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