第28話 アークトゥルス星域会戦
勇者の称号を持ち、帝国貴族の八神一真伯爵が支配する本星アステリオン。
魔族領域に接する領地であり度々魔王軍の侵攻を受け、前領主の悪政によって荒廃していたが、一真が領主となってからは改革が進み、今や地方でも指折りの発展を遂げていた。
領民達は一真を名君と仰いだ。まさに女神が遣わした勇者だと。
領主一真が住んでいる屋敷で一真達は朝食を取る時間になっていた。
うちでは、食事はみんなで取る事になっている。つまり今、食卓にいるのはオレ、ミタマ、テン、アーシュ、ティア、ニア、純佳だ。
ちなみに今日の献立はハムエッグにサラダ、味噌汁にほかほかのご飯、そして新しく得た惑星から捕れた鮭に似た魚の焼き魚。この鮭に似た魚なんと空を飛ぶ、トビウオのように飛ぶのではなく本当に空を飛んでいる。映像で見せてもらったが空を群れで飛んでるのはなんといえない光景だった。漁師は空中漁船に乗って漁をするのだから圧巻しかない。
それどころか野菜、大根に足が生えて走ったりする。農家さんが走って逃げる大根を追っかける光景がくると地元の人は今年もいい大根が取れる時期だなぁと言うらしい。大根足とは日本の言葉にあるがまさか実在するとは…。
メイドのシルフィなんかは「いい大根が手に入りましたよ!」などと言って調理してくれる…。
味?美味かったよ…この空飛ぶ鮭も脂が乗って実に美味い。
オレはハムエッグに醤油をかける。目玉焼きには醤油派だ。ちなみにアーシェは塩コショウ、ティアはマヨネーズ、テンとニア、ミタマ、純佳はオレと同じ醤油かその時でかけるものを変えてるようだ。
「マヨネーズとは…素材の味がしないでしょうに」
アーシェがチクリと言う。
「はっ?塩コショウだけで満足するとは…さすが貧乏王族よね味覚も貧乏くさいのかしら?」
ティアが返す。
「あ?」
「あ?」
睨みあう二人、
「おい、食事中だ。やめろ」
「「はっはい」」
ここで止めないと乱闘になる。ご飯食べてる時はやめろ…まじで。
というかお前らそれぞれ屋敷あるんだからそこで住めよ。
「目玉焼きはなにかけても美味しいのよ。あっ一真醤油とって」
ミタマは今日は醤油の気分らしい。
「そう言えば…」
テンが味噌汁を飲んで思い出したかのように言葉を続ける。
「軍部からミタマさんの歌を軍で正式採用したいと陳情がありましたが」
「却下」
「なんでよぉ!」
うちの軍部はなにを考えているんだろうか?
ちょっと前にミタマがカラオケで熱唱したのを軍の幹部が聞いていたらしいが、それでハマったらしい。いやあれアニソンだからね日本の…。
なんでもミタマの歌が精神にいい影響があるとか新兵の訓練でもいい成績を残したとか実戦で戦いながらバックで歌を流したいだの実際にミタマに生で歌ってもらおうなどと言って来た。
いやだよオレが戦ってる後ろでミタマのアニソン聞くの。どこの歌姫だよ。
しかしいつの間にかミタマの信者が増えてる気がする…今のうちに邪教認定して禁止にしておこうかな。
ウィリアムズ辺境伯領・伯爵邸近くに小川が流れている。小さな小川ではあるがそのせせらぎを聞きながらのんびり釣りをしている男がいた。ウィリアムズ辺境伯の長男シドであった。
貴族のたしなみなどの狩りや舞踏会、お茶会など誘われれば行くのだが、それらには何も惹かれない彼であったが、一人静かに釣りをするのがなによりも好きであった。
「…はぁ」
気がまぎれると思って釣りに来たが出るのはため息ばかりだ。
「釣れますか?」
後ろの方で声がしたので振り向くと、メイドがいた。
「ロゼか…いや全然、これは嫌われたな」
ロゼと呼ばれたメイドは父の代から仕えてくれたメイドで最近のメイド達の間で流行っているスカートを短くするような事はせず、足元まで長いロングスカートで眼鏡をかけ、金色の髪を束ね、美しい整った顔に長い鼻、ぷっくりと桜色の唇彼女が通ると男達はつい目線で追ってしまうという美貌の持ち主だ。
今だ未婚だという。
「はぁ…」
知らず知らずにまたため息をしてしまった。
「最近、ぼっちゃまはよくため息をつかれますね」
「ぼっちゃまはやめてくれ」
幼い頃から仕えてくれたメイドだ。私を子供のように扱う事がある。
そういえばロゼの年齢はいくつになるんだろうか?見た目は10代に見えるが、アンチエイジングで年齢と容姿が違う事などよくある事だが…いやそれでも女性に年齢を聞くのは失礼だな。シドは頭をふって彼女の年齢の事は忘れるようにした。
「ロゼ…私は…もう弟と戦わなければいけないようだよ」
次男ヴェルナーは要塞と化した資源惑星を拠点に艦隊を編成し、着々と戦力を増強しているらしい。
こちらの貴族達もヴェルナーの支配する要塞にほど近いアークトゥルス星系に戦力を集めている。双方いずれもどちらからか戦端を開くか待っている状況だ。張り詰めた弓の絃のように…後は放つだけ…。
「私には難しい事はわかりません。ですがシド様が思い悩んでいる事、できれば弟君と争いたくない事はわかります」
「ですが…あの方なら…あの御方にご相談なされば…事をうまく収める事ができるかもしてません」
「本当か!?…いやでもなぜお前が…一体それは誰なんだ?」
「私にもそれなりの人脈はありますわ。」
微笑むロゼ…そして眼鏡をくいっと上げる。
「そうなのか?さすがは年の功という奴だな!…あっ」
ロゼは笑顔を絶やさないがなぜか怖い笑顔だった。
「その御方は私が最も信頼し、力のある御方です。…お会いになりますか?」
シドの返事は決まっていた。
ヴェルナー軍動く!この知らせがシドの元に届いたのはそれから五日後の事だった。
ただちに伯爵邸内にて軍議が開かれ主だった貴族が会議室に召集された。
「ヴェルナー軍は総数一万五千、要塞から敵艦隊は出陣し、現在アークトゥルス星系に向かっている模様です。こちらは迎え撃つ形で同星系に布陣、総数八千です。」
現状を報告する兵の言葉が終わると一人の貴族が発言する。
「本星にいる艦隊は二千。合わせてもようやく一万か…」
「アークトゥルス星系に向かって来てくれたのは僥倖 あそこは小規模衛星群のたまり場 かえって兵力の差を補える」
地形を利用しての作戦をとるのが基本の作戦となる…これは劣勢を覆すためのアーレンベルク男爵が立案した作戦であった。
男爵は先発して軍の指揮を執っていた。
あとは、全軍の総指揮官であるシドの出陣を待つばかりであった。
皆の視線がシドに集まる。
『はっ始まる…始まってしまう…大丈夫であろうか?あの人は約束してくれたが…』
シドは内心焦っていた。これが彼にとっての初陣であったヵらだ。そしてメイドのロゼの仲介で秘匿通信という形で会った人物…それはシドを驚愕させる人物であった。そしてその人物の提案にも…だがそれが一番の解決策かとも思った。
「よし…全軍出陣する」
「「「はっ!」」」
ここまで来たらやるしかなかった。
二日後出陣式を終えたシドは旗艦の前で見送りに来た弟ロイと妹マリーとのこれが最後かもしれない会話をした。
「兄様…ご武運を…」
なぜ自分がこれから戦場に赴くのか…誰と戦うのか理解はしていないであろう弟…まだまだ甘えたい盛りの可愛い弟と離れるのが寂しかった。
「マリー…ロイを頼むよ」
「はい…お兄様…」
「シド様…お時間です」
「では…行ってくる」
側近の言葉に二人を後にする。
名君と呼ばれた父、ウィルアムズ辺境伯の急逝から始まった後継者争いはとうとう艦隊による砲火を交えるという形で決しようとしていた…。これが意外な決着を迎えるとはまだ誰も思ってはいなかった。
兄を見送って一週間になった。もう戦場に着いた頃だろうか…。
「んっ…」
ロイは一緒に寝て欲しいというので今日はロイの部屋で共に過ごす事にした。
すでにロイはベッドの中で夢の住人になっている。せめて夢の中だけはいい夢を…そう願ってしまう。
ロイを産んだ母は病ですでに亡く、父様もあのような最後を迎えられた…。
あのような急に衰弱して亡くなるなど…きっと毒殺されたに違いないと私は思っていた。医師もグルなのではないだろうか?でなければあのように亡くなるなど…。では父を殺めたのは誰か?…
私には次男のヴェルナー兄様としか思えなかった。
証拠があるわけではない…だが見たのだ…仮葬儀の時ににやにや笑っていた兄の姿を…兄は日ごろから後継者を願っていた。父様は日ごろから行いがよくない兄を後継者にすることはないと言っていた。あの兄を一族から追放しなかったのは父様の愛情だろうに…兄はそれを仇で返したのだ…私はあの人を許さない。
きゅっとロイが眠るまで握っていてと言って今でも離さなかった手が強く握られた。
「はぁ…いけない」
憎いとはいえ血の繋がった兄の不幸を望むなんて…。
向こうはそうは思わないでしょうけど…私と…兄そして弟のロイの母親は違う。私だけ亜人の母を持つ。それゆえに私は猫族の耳を持って生まれた。
メイドとして働いていた母は父、ウィリアムズ辺境伯に見初められて側室に上がった。そして私が生まれた。だが亜人への偏見が強いこの地で母は正妻、そして他の側室からの酷いいじめを受けていた。人知れず泣いていたのをよく覚えている。
父はそんな母と私を愛してくれたと思う。だが、私には継承権は与えてくれなかった。そう言われた当時は父を恨みもしたが…今となっては理解できる。亜人への偏見が強い領内で亜人が継承権を持つのがどういう意味を持つのかを…。
私の母が亡くなり、幼いロイが私の生きる意味になった。ヴェルナーが当主となればきっと私達は生きていけないだろう…どうか…シド兄様が勝利を得ますように…名もなき女神に祈った。
その時、屋敷内で人が争う声が聞こえた…それは段々と激しくなってきて、音がこちらに近づいてくる!。
ドアが激しく開かれ、その音でロイが目を覚ました。
「見つけた…」
知らない男がにやりと私達を見てにやりと笑みをこぼした。
手にナイフを持ち血がべっとりとついている。
「おっとそうだった」
男は端末を操作するとホログラムが映し出された。そこに現れたのは…。
「よう…久しぶりだな我が愛する弟に妹達よ」
次兄ヴェルナーだった。
「ある者の進言があってなお前達…特にロイが邪魔になった。悪いが死んでくれ。恨むなら継承権をやった親父を恨んでくれ、本当なら兄のオレがやるべきなんだろうが残念な事に俺は今、兄貴と戦争中だ、だから刺客を放った、兄の慈悲だ、せめて苦しまないようしてやれ」
「はっ」
男が返事をすると映像は切れた。
「というわけだ…覚悟しな」
ナイフがロイに迫る!私は咄嗟にロイをかばうように抱きしめた。
もうダメ!目を瞑る。しかしナイフは私達を貫くことはなかった。
恐る恐る目を開けると男のナイフを持つ右手を抑え私達をかばう様にメイドがいた。
「ロゼ!」
なぜロゼがここに!?いや細身のロゼが屈強な男の太い腕を片手で抑えている。
「お助けに参りました。勝手口からお逃げください。今なら退路は確保しております」
「ロゼ…あなた…」
「さぁ!お早く!」
私はロイを抱きかかえるように部屋を出た。
「てってめぇメイドの分際で…」
「…メイドを舐めない方がよろしいですよ…」
勝手口から外に出るとすでに夕闇に包まれていた。最悪な事に雨まで降ってきた。
「どこにいやがる!」
「屋敷内はくまなく探したのか?」
「動く奴はかまわねぇみんなぶっ殺しちまえ!」
怒鳴り声が聞こえる…
「姉様…」
「…大丈夫だよ」
震えるロイの手を握る。
私たちは暗い森の中に入って行った。
雨が降っていた…土砂降りの雨だ。バケツをひっくり返した雨とはこういうモノ言うのだろうか…。
太陽が昇っている時の森なら父上やお供の者と来たことがある。
あの時はハイキングで、みんな楽しく遊んで、旬の山菜やキノコを採ってたっけ…笑いキノコを食べてしまい。従者が大変な事になってしまったのが今では思い出となっている。森とは楽しい所だと思ったものだ…しかし…今は怖い、夜の森がこんなに昼とは表情が違うとは…。
見知ってるはずなのに闇がこんなに怖いなんて…。
ロイはガタガタ震えて私の手を離さない。これは雨と寒さからくるものではないだろう。
「姉様…」
「大丈夫…大丈夫よ」
そう言いながら私自身を励ます。
「いたぞ こっちだぁ!」
見つかった!私達はどこに逃げていいかもわからず森の奥深くまで走っていく。
「あっ!」
泥に足を取られロイが転んでしまった。手を繋いでいた私も…。泥で服が汚れ、顔にも泥がかかる。
私は顔に着いた泥をぬぐい、ロリを立ち上がらせる。ロイも立ち上がる、膝をすりむき血が滲んでいた。普段のロイなら泣きじゃくるだろう。だが今のロイは目にいっぱいの涙を浮かべながらも足を引き釣りながらも走ろうとしていた。
どれくらい走ったのだろう。
雨に打たれて身体が冷えていても息が絶え絶えになっても私達は駆けていた。
「ねっ姉様…もう走れません」
とうとうロゼも走れなくなっていた。
「ダメよ!頑張って!」
疲れ果て転びそうになる弟を励ます。
だがっ突如右足に痛みが走った。倒れ込み手を繋いでいた弟も倒れてしまった。
姉は熱い痛みとその後にくる激痛に思わず叫んでしまった。レーザー銃で撃たれた。右足太もも部分に小さな穴が開いた 焼かれたので出血はないが激痛にうずくまる。
あぁ…もうダメだ。私はここで死ぬ。だけど、どうか…どうか女神様、ロイだけは…。
そこから男達は私に乱暴しようとしそれを止めようとしたロイに銃を撃った。
私は目の前で弟が撃たれる瞬間を見てしまったのだ。
男達の下卑た笑みが私を見据える。汚らし男が私に乱暴しようとした時
「その小さなペーパーナイフしまえよ」
その人は来た。
助けられた私とロイは空中機動車に乗せられそのまま、大気圏を突破し宇宙へと上がった。
窓から見える景色はとても美しく、私は初めて自分がさっきまでいた故郷を見た。
ロイはカプセルに乗せられその中で眠っている。その中は自動で診断し。適切な治療を受けられる小さな病院のようなものらしい。見るからに高級な装置だ。
先ほど助けてくれた人が隣に来て心配そうにロイから離れない私に言葉をかけてくれた。
「ソーマを使ったからもう大丈夫だろう。」
「ソーマ!?」
「希釈したものだけどな」
そんな希少なものを惜しむことなく使ってた水のようにどばどばとロイにかけてたわよね…。
「あっあの 助けていただいてありがとうございました。」
「いやぁ…こっちこそ遅れた。危うくロイ君を死なせる所だった」
「あぁ 自己紹介がまだだったな。オレは八神一真。伯爵やってる ご近所だな」
知ってる!魔王を倒した勇者!。そんな人がなぜここに…。
「色々説明しなきゃいけないだろうな…だがその前に…」
宇宙空間に私は見た。戦艦を…それも多種多様の艦隊、大艦隊が布陣しているのを…。
いつの間にか私達を護衛するように巨人、機動装甲騎が編隊を組み、側にそって飛んでいる。
「このくだらない戦いを終わらせようか」
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