第24話 第二章エピローグ

魔王リリスの刺客、紫藤純佳の襲撃から一週間が経った。


破壊された施設は修復され、元通りになり今はもう営業を再開している。




そして今日、お忍びで来ていた咲夜皇女が帝都に帰る。


宇宙港までオレ、テン、ミタマが見送りに来ていた。




驚いたのが、皇女様がおみやげをたくさん買っていた事だった。温泉饅頭にキーホルダー、浴衣から木刀そしてタペストリーなどなど山と買っていて荷物が大変な事になっている。御付きの人が運んでいるが、さすがに多すぎるので宇宙港職員が手伝っている。いやほんとお買い上げありがとうございます。






「皇帝陛下や姉上もこれで満足してもらえます」


にこにこ笑顔でそんな事をいう皇女様。えっ?皇帝陛下もあんなお土産喜ぶの?




「喜んでいただけてなによりですよ」




「えぇ 温泉を持って帰りたいぐらいです」




襲撃事件があったのにこちらとしては申し訳ない気持ちです。本来なら帝国からお咎めがあってもおかしくないのに…。


お忍びという事もあってか不問にされたようだ。




「一真殿、次帝都に来られる時はぜひ訪ねてくださいね。お茶会にお誘いしますわ」




「私も参加でよろ~。」


ミタマが軽い感じで話しかける。それをくすりと笑いもちろんですよと答えた咲夜皇女。


「お菓子も高級な奴ね私。口が高級なものしか口にできない病だから」


ミタマの頬をひっぱり黙らせる。 


「ありがとうございます。あっコイツの事は記憶から消していいですから」


「なんでよ!」ぎゃーぎゃーひと際騒いだ後、船が出る時間になった。




お辞儀をするテン。両手を振るミタマ。


こうして咲夜皇女は帝都に帰っていった。






そして…。一真の本星。


屋敷内の一室。紫藤純佳は一口、紅茶すすった。


どうして私はここにいるのだろ…。


牢屋にでも入れられるかと思ったのに、こんな屋敷に閉じ込められるなんて。


当然自由はないし武器は持てない。監視があるのも気配でわかる。あの暗部だろう。今も監視されている。




部屋にも幾重にも魔術結界が敷かれ、24時間体制でドローンが飛んでいるのも窓から見える。




だがそれ以外は罪人とは思えない待遇だ。食事は三食おやつ付き、しかも美味しい。お菓子はお手製だろうか…作ってくれた人の温かみを感じる。




お風呂も備え付けで毎日入れるし…いいんだろうかこれで。




気絶した後、目覚めて見るとこの部屋に運ばれていた。ボロボロの制服からパジャマに着替えられていた。時間だけはたっぷりあったので、頭のもやもやが晴れた感じに自分でも気が付いた。


これが魅了チャームが解けた…という事なのだろうか。




はっきり記憶もあり自分が何をしたのか理解してるが…あれは自分の意思だったのだろうか。




「私の聖なるグーのおかげね…感謝しなさいよね」


声の方を見るとミタマがいつの間にか部屋に現れて、椅子に座り、今日のおやつのチーズスフレを食べていた。




「人の心の中覗かないでよって昔言ったよね」


「あとそれ私の!」




ミタマと会ったのは、地球が魔族に襲われた時。




朝、何も変わらない日常、少しだけ早く起きて、シャワーを浴びて制服を着る。母が用意してくれた朝食を食べ、携帯を見ながら食べてると母に注意される。それをうっとうしいと思いながら時間が来ると学校へと向かう。ごくごく自然な私の一日の始まり、これが終わってしまうなど考えもしなかった。




突如空いっぱいの艦隊が現れ地上に降りたった魔物としか表現できない化物たち。


目の前で人が殺され虐殺を楽しむ魔物たち。




必死で逃げた。助けを求める人 転んだおばあさんまで無視してしまった。ただただ自分が生き残る事だけを考えた。汗が滲み制服も薄汚れた。死体をかき分けようやく家についた…だがそこにはもう家はなかった。


燃えカスと瓦礫だけ…さっきまで家があったのに…母さんも…。




「母さん…どこ?」


探そうにも返事もない 瓦礫の山だけ…そこに魔族が現れた、四匹も…。ゴブリン…ゲームやアニメにしか出てこない化物が目の前にいる。




下卑た笑みを浮かべ。私に迫る逃げようにも瓦礫で足を取られ転んでしまった。


ゴブリン達は私の両手領両足を抑える。




ゴブリンの口から涎が出る、私の体に涎が落ちる。


いやだ!汚い!。


もがくもすごい力で動けない。




一匹のゴブリンが私のスカートを力任せに破る。 下着が露になり、それを見たゴブリンたちの下半身が大きくなるのが見えた。


いやっ!やだっ!やめて!これから起こる事を想像してしまった。気持ち悪い!誰か助けて!




恐怖のあまり失禁してしまう。漂う尿の匂いにゴブリン達は興奮する。




恥ずかしくて力のない自分に情けなくて純佳は悔し涙を浮かべた。その時、稲妻が走り、ゴブリン達を消し炭にした。


光が差し込み、後光で眩しい。純佳は立ち上がり、その人を見た。




「私は天之御霊乃大御神 あなたを勇者として迎えに来ました」




これが私とミタマとの出会いだった。




私は私の家族と地球をめちゃくちゃにした魔族に復讐するために勇者になった。




勇者の称号は私に魔族にも負けない身体能力とスキル、ソードマスターを与えてくれた。


星々を渡り、魔族を狩り、レベルと力を増し、私は勇者として歩んでいったと思う。




帝国に従属するある小さな王国にも賓客として迎い入れらえた。それが間違いだったと後で知る事になる。




王国は帝国を裏切り魔族に寝返ったのだ。




そして勇者の私は魔王リリスの下へ送られる。




「あら…かわいい娘ね」


魔王リリスは私を気にった。だが私は体の自由を奪っていた魔法陣を無理やり力で引き裂き、リリスに渾身の一撃を入れようとした…だがリリスは微動だにせず私の拳を受け止めた。その後私はリリスの瞳を見てしまった…おそらくその時魅了されたのだろう。


その後はリリスの命じるままに帝国と戦い無数の命を奪った。とても勇者のすることではない。




「これが全てよ」




私はミタマに事の全てを話た。


どうせ私は死刑だろう。隠していても仕方がない。


「ふぅ~ん」


ミタマは大した興味を示さずケーキを平らげ今は紅茶を飲んでいる。




彼女は床に正座し、ちょんちょんと前を指でさす。私にも座れということか。




私はミタマの前に正座した。


するとふわっと両手でミタマは私を抱きしめた。


とくんとくんと鼓動が聞こえ温かみを感じた。




ミタマは何も言わず頭を撫でてくれた。


なぜだろう…私は涙が溢れ止まらなくなった。










機動装甲騎のドッグにオレは来ていた。


佳純が乗ってきた魔装騎兵が保管されていて、鹵獲と言う形になるのでスタッフが調べていた。




「う~ん、機動装甲騎とは違うのはもちろんなんですが…未知のテクノロジーが使われてるんですよねぇ」


ニアがデーターをチャックしながら頭を抱えている。




今までの戦争で魔装騎兵が鹵獲され解析もされているのだが、この機体は今までとは全く違うものらしい。




「古代魔法王国のゴーレムにも似たようなものを感じるし…生体部品?も使われてるような?」




解体しちゃえば簡単なんだけど元に戻せないだろうしなぁ、などとぶつぶつ言っている。


こりゃまた徹夜かな。






帝都。


宰相は暗部より一真の報告を受けていた。


一真の暗部・蠢く者は優秀な暗部なので、一真の星に潜ませると消されてしまう。それ故、今回は第二皇女のお忍びに警護の者として同行させた。


詳しくは情報は掴めないが大体の形としては情報は伝わる。




「そうか…やはり中央より辺境の方が面白いな」


小さな領主、国が連合を組むのも悪くない。




「今はまだ小さい力ですが、このまま放置でよろしいのでしょうか?虎を野に放つようなものでは?」


秘書の女性が小さい芽の内に積んでおくべきと進言する。




「辺境が生き残りをかけて力をつけるのは帝国にとって悪い話ではない。」




それ自体が魔王軍から帝国を守る防壁になるのだから…。




魔王達が動けない今が帝国にとっても必要な時間、皇太子レースの勝ち残り、帝国軍の再建、国内の腐敗…やることは山ほどある。小さな辺境ばかりにかまってはいられない。




「せいぜい帝国のために頑張ってくれたまえ…伯爵」


椅子に座りながら宰相は笑みを浮かべ、政務に取り掛かる。






魔都グラストリア。魔王リリスが支配する都。


夜の都とも言われるこの場所で、リリスは純佳が捕らえられたのを部下から聞いた。




「…そう」




リリスはこの報告を予感していた。自分がかけた魅了チャームが解かれたのを感じたからだ。




いい駒を一つ失ってしまったわ。それがリリスの感想だった。




「あの一真って坊やは欲しかったけどしょうがないわね…」


魔王リリスが一真を敵として認識した時であった。






「随分楽しそうだな、リリス」


通信映像が開き、ホログラムからあの男が出る。




リリスは不機嫌な顔になったが、すぐ笑みを浮かべる。


「えぇ…あなたが出るまではね…魔王ヴリトラ」




魔族領を支配するもう一人の魔王。竜族の王。褐色の肌に銀色の髪。竜族特有の角を生やし、赤い瞳でリリスを見つめていた。敵対している魔王との通信をリリスは望んでいた。




「俺は人間なんぞに興味はないがね。ましてや勇者などどうでもいい」




「あなたらしいわね…でっ私の提案、答えはでたのかしら?」




「お前と同盟を結び、アスラを倒すって奴か…」




魔族領最大の勢力の魔王アスラを倒すにはヴリトラと同盟を結ぶのが近道…それはリリスの幕僚達からも進言されてた事だ。…私が気に入らなくても…どうせ首尾よくアスラを討ち取る事ができても、最後はこの竜族を殺さなければならないのだから…


そしてそれはヴリトラも理解してることだろう。




「いいだろう…同盟を結ぼう。」




アスラとでなくヴリトラとの同盟を望んだのは、御し易いと思ったからだ。アスラは得体が知れない。戦略面でも戦術面でも勝てたことがない。あのお方…真なる魔皇に仕えてた時からリリスはアスラが嫌いだった。




「これからよろしくね…ヴリトラ」


薄氷の同盟はこうして結ばれた。






一真の本星、佳純が執務室に呼ばれた。手には手錠をされている。


部屋には執務室の椅子に座る一真、その横に控えるテン、佳純の両脇に帯剣しているアーシェとティア、姿は見せないが無名も潜んでいる。ミタマはソファにくつろぎながら紅茶を飲んでいる。




純佳の処遇を決める日である。


罪と言うと、器物損壊、領民への殺人未遂、暴行、魔装騎兵を用いての破壊活動、そして領主であるオレの殺人未遂となる。普通なら死罪だ。






「紫藤純佳、オレのために戦ってもらうぞ」




「!っ。」


以外そうな顔をする純佳。




「別に刑を免除したわけじゃないぞ。生きて償ってもらう。正直そっちの方が辛いと思うし。」




本音を言うとこれほどの使い手を死刑なんてもったいないんだよね。




人材…それも優秀な人材は喉から手が出るほど欲しい。


とりあえずオレ直属の部隊にでも入ってもらうか。




「はいって言いなさいよ!純佳!言わないなら恥ずかしい過去もっと話すわよ!」


ミタマがこそっと言う。


「やめろぉ!」




「…はぁ 死刑を覚悟してたけど…そう…わかったわ。」




勇者紫藤純佳が仲間になった。




「ところで純佳の恥ずかしい過去の話詳しく…」


「おい!」




トントンと扉を叩きシルフィが入ってくる。




「旦那様 昼食の用意が出来ました」




あぁ、もうそんな時間か。今日の昼はオレのリクエストなんだよね。




「今日のお昼ご飯なに?」


ミタマが聞く。




「豚の生姜焼きです。」




「豚の生姜焼き!」


純佳が驚く。




「ふっふっふっうちのシルフィさんは地球の料理を再現してくれてるのだ!」


別にオレが偉いわけではないんだけど、自慢したくなる。ちなみにオレは豚の生姜焼き大好きです!。




皆で食卓へ向かうと人数分すでに用意してある。


キャベツの千切りにポテトサラダそしてお味噌汁、そしてごはん。最強である。


あー、地球が平和だった頃、こんな料理食べてたなぁ…。




「「「「「いただきます。」」」」」






ん~っこれこれ!しょうがが効いた甘辛醤油味。肉のうま味が口に広がる。ごはんがうまい!




純佳が夢中で食べている。


こっちの食事ももちろん美味いんだが、やはり故郷の味は忘れられない。




シルフィにはほんと感謝感謝だよ。




「あ~ごは~ん」


美味そうな匂いにつられてフラフラと歩いてきたのはニアだった。


連日徹夜続きなのか目にクマを作りながら、食事をしている。




「あまり無茶しないでちゃんと寝ろよ」


オレはニアにそう語りかけた。




「えぇ…でもおかげで色々おもしろい技術とか判明しましたよ。それを村雲や機動装甲騎に使えばさらに性能の向上が見込めますよぉ」




ぐふぐふと笑うニア。不気味だ。




「あっ一真様 うちの超ド級戦艦購入ありがとうございますぅ~」




「あ…あぁ 性能もよかったしな」


オレの旗艦にするため購入していたな。値段もとんでもないものだったが…。




「うちの上司も喜んでいましたよぉ あっ後ついでに新型戦艦も買ってください。」




「一万隻買うわ」




「そんな事言わずに百隻ぐらい…えっ?」




資源惑星も増えたし、軍の規模も増やさないといけない。軍部からの要請もあってテンや皆と話した結果だった。


当然戦艦の数を増やしただけ、新兵を募り練度を上げなければならないし、資源惑星の開発、移民、借金も徐々に返済したりしないとな…一気に返せるだけあるが、定期的に返済した方がいいとのテンの助言だ。




一気に返済すると、あそこなにかあるのか?と中央に睨まれる事もあるかもしれない。




「ありがとうございますぅ一真様!大好きぃ」




抱きついてくるニア。


「あー!」


「なっ!」


ティアとアーシェが引き離そうとニアを掴みかかる!




「おかわりー!」


「私も!」


お代わりをするミタマと佳純。




「お前らうるせー!」




「我が家は今日もにぎやかですな」


苦笑するセバス。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る