第25話 プロローグ 第三章 後継者争い

雨が降っている。土砂降りの雨だ。暗い森の中、時刻は深夜。明かりなどない、その中を二人の姉弟が走っている。


雨に濡れようと泥まみれになろうとおかまいなしに走っている。枝木に邪魔され肌に傷を作る。だが二人は足を止めることはない。






年の頃は姉が16歳、白金色の髪色に猫の耳が生えている亜人。弟が8歳。姉とは違い亜人ではなく人種、姉が弟の手を繋ぎ、何かに追われながら暗闇を走っている。


明かりなど付けずに…。




泥だらけになろうとも服装は平民が着るものとは違い高貴なもの、貴族が着る服装だ。




「ねっ姉様っ!もう走れません」




「ダメよ!頑張って!」


疲れ果て転びそうになる弟を励ます姉。




しかし幼い弟を連れての足など大人からすればすぐ捕まえられる。あえてそれをしないのは狩りを楽しんでいるようだった。




なんとか逃げ切らなければ…弟だけでも…それが姉の願いだった。




だがっ突如右足に痛みが走った。倒れ込み手を繋いでいた弟も倒れてしまった。


姉は熱い痛みとその後にくる激痛に思わず叫んでしまった。レーザー銃で撃たれた。右足太もも部分に小さな穴が開いた 焼かれたので出血はないが激痛にうずくまる。




「姉様っ!姉様っ!」


弟がかけよるが姉は激痛に答える事ができない。




「おいおい鬼ごっこはもうお終いか」




男たちが茂みから出てくる。人数は6人。


下卑た(笑)を浮かべながら。それぞれに銃や武器など所持している。




「くっ来るな!」


健気にも弟は姉をかばう。しかし男が弟を蹴り飛ばす。




「ロイ!」


「おっと弟の事より自分の事を心配しなぁ」




男が私にまたがる。


「おいおいお前も好きだな」




「貴族のお嬢様なんざめったにお相手できないからなぁ」




「このっ!離せ!離しないさい!」




両手両足を懸命に動き抵抗する。右足の痛みになど今はかまってはいられない。


「おい抵抗井するな!」


男は私の撃たれた足を掴む。


「あっぐぅうあっぁ!」


激痛が動けないくなる。




動けなくなったところで男は私に衣服を強引に引きちぎる。


下着が露になり、男の手が強引に胸を掴まれる。


「ひひひ、死ぬ前にいい思いさせてやるよ」




くやしさに涙があふれる。その時男の頭に石が当たった。


弟、ロイが立ちあがり、男に石を投げた。




「いってぇなこのガキィ!」


男は持っていた銃をロイに向かって発砲する。




糸の切れた人形のように弟は倒れた。




「あっあぁぁあああああ!」


ピクリとも動かない弟を見て私は叫ぶ。




「許さないお前ら!殺してやる!」




「おーおー殺してみろや、その前にオレの股間のどでかい剣でお前の股ぐらを貫通してやるからよぉ」




「その小さなペーパーナイフしまえよ」


その声と共に私にまたがっていた男は巨大な手に頭を掴まれ持ち上げられた。




男の頭はそのまま握りつぶされ捨てられた。


声の主は汚いものを払うように手を払った…主の手ではない…体から出るオーラ?のようなものが手の形になっている。




暗い闇が覆う森の中を昼間の太陽のように明るく照らす光が天空よりもたらされた。


空中装甲車や銃武装ヘリより照らされたライトだが、光に照らされたその人の姿が彼女には救世主のように見えた。空中装甲車から次々と兵たちが降下し、周囲を固める。




「一真様 片付きました」


フード深くかぶり顔の見えない黒ずくめの者らがいつの間にか私達を追って来た男達と倒し一真と呼ばれた男に跪く。




「まだ息があります」


フードの男の一人が弟を抱きかかえて来た。




「おしっ!んじゃこれで大丈夫だろ」


そのまま何かの液体をかける…すると淡い光がロイを包み、息を吹き返した。




ついでにと私にもその液体を太ももにかける。痛みが消え傷も癒える。これは!?。




「んじゃ撤収」


これが私、マリー・シャーロット・ウィリアムズと一真様との出会いだった。




話は数カ月前に遡る。




一真の支配する本星。屋敷内に作られた鍛錬場にオレと純佳が木刀を手に向かい合っている。




先に動いたのは純佳。相変わらず速い!、オレはトレースのスキルを使い同じ動きをする。




身体能力を魔力で上げてようやく追いつける。




最近わかった事だが、トレースで動きをまねるとそれ自体が経験値となり、オレの剣の腕も上がっている。


そうなると剣術も楽しくなってくる。




オレと純佳は激しく木刀を交える。魔術付与で強化された木刀で打ち合う度に火花が舞った。


純佳は距離をとると斬撃を飛ばして来た。




なにそれ!?。


見えない斬撃がオレに向かってくる。トレースしてるのでオレも同じ動きをする。


魔力を剣に乗せてるのか。すぐに仕組みを理解し同じように斬撃を飛ばし空中で衝突し掻き消える。


おぉ出来た。自分でもびっくり。




「これもダメか」




純佳は抜刀術の構えを取る。


紫電一閃か。純佳必殺の一撃。オレは魔力の鎧を纏う、あれはこの鎧を着る事はできない。そrは純佳も知ってるはずだが…。




「紫電八極しでんはっきょく」


言葉を残し純佳は消える。即座に八つの斬撃を同時にオレに襲い掛かる。


斬撃の余波で室内が台風の直撃を食らったかのように吹き飛ぶ。




純佳がオレの後ろに立っていたが、木刀が根元から折れ無くなっていた。




「木刀でこの威力かよ」




「無傷の人がそれ言う?」




恐ろしい攻撃だったが、オレの鎧はびくともしなかった。




「とんでもない魔力量ね…まったく…」




「あれまともに当たってたら死んでるんだけど」




「実戦方式って言ったのそっちだからね」




暇を見つけては純佳やティア、アーシェなどと鍛錬を積み重ねていた。




鍛錬を終え、シャワーでも浴びようかと思った時、テンから連絡が入った。




「一真様、帝都から連絡が入っております。」




「帝都から?」




それは帝国貴族ガリウス卿からの連絡だった。


…誰?。


執務室で侯爵の通信を繋いでもらった。


「初めまして伯爵、私はガリウス・ウィル・グルーベン。伯爵の勇名はここ帝都でも聞き及んでいるよ」


見た目三十代の口髭を生やした侯爵だった 長い白髪を後ろで束ね、いかにも高そうな服を着ている。








側にテンも控えている。念話でサポートしてもらうためだ。


「初めまして侯爵。高名なあなたから連絡を頂けるとは光栄です。」


オレは当り障りのない話から始めた。


こういう貴族の世間話というのは得意じゃないんだよなぁ。






『確か…ガリウスって』


『はい…帝国第三皇子シグルド殿下の派閥に入っていますね』


テンとの念話で確認を取る。








「ところで今日はどのようなご用件で?」




「ウィルアムズ辺境伯をご存じかな?」




面識はないが、うちの領土に近い辺境伯でかなりの領土を持っている力ある貴族だ。連合には加盟していないが確か…名君との誉高い伯爵…だったな。




最近亡くなったとの知らさがあった。


215歳との事だが、最近は平均寿命が500年とも言われてる時代で若死にと言われる。


暗殺とか毒殺されたのではと噂もあった。




侯爵が辺境伯の話をした時、なにを言いたいのかなんとなくわかった気がした。当然うちの暗部も情報収集しており、きな臭い話になってるからだ。




「お家騒動が起こりそうとか…」




「さすが伯爵…話が早い」


辺境伯は死の際後継者を示さず亡くなった。そのため跡継ぎをめぐって子供たちが争いを始めた。今はまだ大規模な事にはなっていないが、時間の問題だろう。




そしてそれは近所のうちにとってはよくない事だ。


「私としては…いや…さる高貴なお方は次男を推していてな」


辺境伯には四人の子供がいる。長男のシド。次男のヴェルナー。三男のロイ。そして長女のマリー。


…だったか。




『次男は第三皇子のシグルド皇子の派閥に入っています。長男はセシリア皇女の派閥です。』


テンが暗部からの報告をまとめ解説をしてくれた。


『三男は…確かどこの派閥にも入ってないんだっけか?』




『はい、まだ八歳の幼子です。…ですが継承権はあります』


『他に長女もいますがこちらには継承権はないようです。』




ふぅ…ん。


正直興味ない話だ。


構図としては辺境のお家騒動が皇太子レースの派閥の代理戦争になりそうになっている…てことか。




「伯爵にとっても対岸の火事とは言えまい?…どうかな?解決に力を貸してはくれまいか?もちろん協力をしてくれればそれ相応の厚遇を約束しよう」




『っ!一真様これは…』




『あぁ 第三皇子の派閥に入れって言ってるな』




「侯爵…すぐにお答えは致しかねます。正直、隣の家庭の事情に首を突っ込むのは個人的にやりたくないので…」




「そうか…こちらも今すぐ答えを望まよ。だが隣が起こした火事で自分の家に火が燃え移る事は避けたいものだよ。そうではないか?伯爵」








そう言って通信は切れた。




「なにあの上から目線!ムカツク!」


いや爵位上だけどさ!。




「脅しも入っていましたね。恐らくすでに次男にはシグルド派の資金と軍が導入されているでしょう。当然長男にはセシリア様の派閥の協力があるようです。」


協力しなければまとめて滅ぼすぞってか。


一つの家の問題が皇太子レースの代理戦争になっている。あーくだらない。




「テン、主だった者を集めてくれ。会議を開く」




帝都・後宮


帝国第一皇女セシリア フォン ヴィクトリアは湯あみを終えて、侍女が髪を乾かし身だしなみを整え、火照った体を冷ましていた。とんとんとドアをノックする音が聞こえ、侍女が持ってきたコーヒー牛乳を飲む。妹が温泉で味わったというキンキンに冷えた牛乳を再現したものなのだが、これが湯上りに最上の飲み物だとセシリアは思った。




ほのかの苦みと牛乳と砂糖の甘味が口に広がり冷えたのど越しが火照った体を冷やす。




「殿下、ガリウス卿が八神一真様に接触を試みました。」




このメイドはセシリアの暗部の者だった。魑魅魍魎が巣くう帝都で権力争いが当たり前の中、お抱えの暗部を持ち、内部工作。暗殺、情報収集など行う暗部は帝国貴族にとって優秀な駒であった。どれだけ優秀な暗部を持つかで出来る事は変わってくる。






「やはり…か」


想定内の事だった。


ウィルアムズ領内のお家騒動は私と弟の派閥間抗争に発展しようとしている。


火種の近くに有能な人材がいるのなら己の派閥に取り込もうとするのは当たり前の事だろう。




「一真殿の返答は?」




「保留しています」




でしょうね。彼はそんな事に巻き込まれるのを望まないだろう。


だが今はそれを跳ね除ける力はない。


「よろしいのですか?こちらも八神卿をこちらの派閥に取り込むべきでは…」




「無理やり派閥に取り入れても力の半分も貸してくれないでしょうね。ましてや脅しや力ずくなど一真殿が一番反発するやり方よ…ガリウス卿はそ辺りを考えていない交渉じゃなかった?」




無言でうなずく暗部。


権威や権力、爵位からしか見ない。いかにも貴族らしい考え方だろう。




「さて…」


一真殿がどう動くかでこちらの行動も定まる。派閥の主だった者を集めて、どう対処するか決めなければ…




セシリアは残ったコーヒー牛乳を飲み干すと思考を深めていった。






ウィリアムズ辺境伯爵領内。 


大きい屋敷の中で私は泣きじゃくる弟を抱きしめ、慰めていた。


「姉様…マリー姉様」


ぐすぐすと瞳に涙を浮かべる弟、ロイ。


弟にとって優しい父の突然の死は大きな痛みになっていた。私にとっても思い出されるのは優しい笑顔の父の顔ばかり…。




父の死後、元々仲が悪かった兄達の争う声が屋敷内にあちこちで聞こえた。


自分こそが跡継ぎなのだと…譜代の家臣らもどちらにつくかで兄達の顔色を窺っているようだった。




そんな重い雰囲気を感じ取ってか弟のふさぎ込む姿は見ていられなかった。






弟に協力的な家臣もいる。だがそれはまだ幼い弟を擁立すれば操りやすいからではないかとw他紙は疑っていた。笑顔で近寄る家臣の裏の顔を…。




父の突然の死だってそうだ。あんなに元気だった父が突然死を迎えた。誰かが父を暗殺したとしか思えなかった。


仮葬の時だって、家臣や兄達は心ここにあらずですでに跡継ぎの事で頭がいっぱいだったんだろう。




自分らにこびへつらう家臣との話に夢中になっていたのを忘れない。




本葬だっていまだに行われない。喪主である跡継ぎが定まらなければ行えないといのが彼らの言い分だ。




これが今までこの領地のために尽くして来た父への行いなのだろうか?。私は憤慨した。






泣き疲れて眠ってしまった弟を抱きしめながら私は弟を…ロイを守らなければと思った。








ウィリアムズ辺境伯爵領内の別荘で次男ヴェルナーは自分に組する家臣らを集めてパーティを開いていた。


当主が亡くなって今は喪に服するべきなのだろう。だがそんな事おかまいなしにヴェルナーは酒を飲んでいた。上機嫌で。


白金色の髪色に短髪にまとめた髪型。贅沢をして来たであろう腹部が出っ張り、運動など興味がなく。


好きなものは酒と娯楽と女。それが彼の全てであった。




今も、女をはべらせ、酒を煽っている。すべて高級なもので庶民の給料の何百倍もする。それをがぶ飲みする。


それを見て女たちが「きゃーヴェルナー様お強い!」などとはやし立てる。




「ヴェルナー様。状況は我らに有利に動いていると思われます」


家臣が微笑みながらワインを持ち上げて語った。


今も続々とヴェルナーの下に派閥から派遣された艦隊が終結し、資金も集まってきている。


つまり、第三皇子は自分に期待してるという事だ。と彼は思っていた。




「うむ…俺が当主になった暁には殿下に全力で貢献するとお伝えしてくれ」




そう隣に座っていた女に言う。煽情的なドレスで体のラインが出て背中が大きく開けている。


邪な目線で見てくるこの小男を女は笑顔で返す。




「えぇ お伝えしますわ」




女は派閥から来ていた。お目付け役として…。




「さぁ!皆飲め!俺の当主になる日は近いぞ!」


おぉ!と家臣から歓声が起こった。




女はそれを冷めた目で見つめていた。






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