第23話 勇者襲来!

「…ふぅ」


後宮の中にあるお風呂も広いけど温泉はそれ以上の解放感だった。外にお風呂があるのは抵抗が少しはあったのだが…この景色、ホログラムではなく本物の大自然とお風呂を楽しめる。これは贅沢なものだと咲夜は思った。




御付きの女性もはふぅ~っと言って肩まで浸かってる。




お風呂の前に食事も頂いたのだが後宮で出されるものとは違う咲夜が食べた事のないものばかりだったが、とても美味しかった。




一真殿が地球の日本で食べたものを再現したものらしい。母もああいうものを食べていたのだろうか…


卵焼きが一番お気に入りになった。




「あぁ 本当に気持ちがいい…」


このまま寝てしまったらどれだけいいか…うとうとして睡魔に襲われそうになる。 っ!いけないいけない


これでのぼせてしまってちょっとした騒ぎになった事があるのを思い出した。


名残惜しいが私は温泉から上がった。YUKATAにも挑戦してみた。なんとも着慣れていないので御付きの人も困ってしまうのだが、そこは従業員の方がいたので手伝ってもらってYUKATAを着れた。




時を同じくして温泉惑星に近い宙域にティア率いる艦隊が待機していた。第二皇女がいる惑星を守るために一真が待機を命じていたからだ。 ここは辺境。魔族領に接する領地なのだ。


いつ何が起こるかわからない。


ましてや、つい最近魔王リリスの侵入を許してしまったのだ。警戒態勢が厳しくなっても仕方ない。




本星の守りはアーシェが担当しているのでぬかりはない。




24時間体制で警戒をし、現在もティアは魔族領の近くまで偵察艦隊を派遣し、報告を受けていた。




「…動きなし…か」


旗艦のブリッジで報告を受けていたティアであったが安心はできなかった。




「テンの予測通り、魔王は三国拮抗状態で簡単に動けない状態だけど…」


互いに敵対しているのでどちらかを攻めれば残った勢力から攻められる、動こうにも動けないのが今の魔王達の状態だ…だからこそ魔王リリスは単独で来たのか…。




その時、オペレーターから報告があった。




「急速に艦隊に近づく反応あり!」




「っ!第一種戦闘態勢!」


ティアがすぐ迎撃態勢へと移行を命じる。しかし…。




オペレーターから信じられない報告が告げられた。






ぱたぱたとスリッパをはきながら機嫌よく咲夜は歩いていた。




お風呂上りのコーヒー牛乳というのを進められたまま飲んだのだが程よい苦みに牛乳の甘味。そしてキンキンに冷えたのど越しが温泉で火照った体に心地よかった。


これは帝都に帰ってもやってみようと思った。


御付きの人達はそれぞれフルーツ牛乳やイチゴ牛乳をのんでとても美味しそうだった。明日はどちらを飲もうか真剣に咲夜は考えた。


「…あれ?」




廊下から庭先へと通じる場所に出ると一真殿が一人、目を瞑りながら立っていた。


なにをしてるのだろうと近づくとテンと呼ばれた亜人の子供に止められた。彼女もそっと廊下から見つめていたようだ。




すると一真殿の周囲から燃えるようなオーラのようなものがあふれ出た。


「魔力…可視化するほどの高密度の…」




帝国にもお抱えの魔術師はいる。だが彼らでもここまで高密度の魔力を出せるだろうか?


御付きの人らが腰を抜かしてしまった。


「…ふぅ」




一真殿が一息つくと魔力は消えた。


「あれ…いたんですか?」




「一真殿…今のは」




「あぁ…最近魔力が増えまして…うまくコントロールするために日課にしてるんですよ」


最近…増えた?魔力ってそんなものだっけ?


聞いた事がある程度だけど、才能ある者が何年も修行してようやく魔力の流れを掴めるかどうか…そんな世界らしいけど…。




そもそもテクノロジーがここまで進化した世界で魔力や魔法・魔術を極めようとする者事態少ないのだが…それでも魔法が完全に滅びる事がないのは古代魔法王国の力が絶大であるとか…。




あなどれない、あなどってはいけないのが魔法なのだ。




「あっいたいた 一真ー。テン。咲夜姫様 お風呂上りに宴会しましょ!お酒もお菓子もいっぱい用意したわよー!」




ミタマが浴衣姿で歩いてきた。シルフィも一緒だ。ほほが赤い…さては付き合いで飲んでたな。




「お前、まだ飲むつもりかよ」




「何言ってんですか!これからが本番だからね!あんたも一発芸の裸踊りでもしなさいよ!」




「しないから! いやしませんよ?咲夜様!しませんからね!そんな目で見ないで!」




その時夜空から一条の星が降ってきた。


遠く温泉街から爆発が起こる。




ティアから緊急連絡が一真にもたらされた。




「申し訳ありません!一真様!敵襲です!」




「敵?」




「敵は一機!魔装騎兵で我が艦隊を信じられない速さで突破しました!」




さっきのあれか…。




「すぐに地上部隊を派遣します!一真様は咲夜皇女殿下を連れて逃げてください!」


「もう遅い…」




「…あなたが八神一真…」




目の前に異様な魔装騎兵が現れた。




見たこともない型だ…全身白銀で統一されている。各部位にブースターが付けられている…なるほどティアの言葉からしても今までにない高機動型のようだ…さっきの声からして乗ってるのは若い女のようだ。






するとコックピットが開かれ、中からパイロットが現れる。そして地上に降り立つ。




驚いた…この世界でセーラー服を見るとは…それに切りそろえられた前髪に背中まである長い黒髪に…意思の強そうな切れ長の黒い瞳。




「日本人か」




「えぇあなたと同じ勇者よ…名前は…」




「純佳!」




「久しぶりね…ミタマ」




「あんたどういうつもり!私を裏切ってまさか魔族についたわけじゃないでしょうね!」




「えぇ…そうよ…私目覚めたの…リリス様への愛に」


眼にハートを造り頬を赤らめ腰をくねくねさせながら持ってる刀に体を巻き付かせるように彼女は言った。


はぁはぁと吐息をかけながら…。




あかん…これはテンにはみせたらアカンやつだ。


シルフィが咄嗟にテンに見せにないように手で目を隠した。


「なっ何ですか?見えません!」




テンにはまだ早い!。




「あっいけない 用事があったんだ」


ふと正気に戻る純佳。




「八神一真…我が主魔王リリス様があなたを僕にするためにお待ちよ。私と一緒に来て。可愛いがってもらえるわよ」




「バカね!一真は勇者よ!ビッチな魔王の所になんか行くわけないでしょ!」


ミタマが怒りながら言う。あの魔王様ビッチなの?


「そうです!一真様は魔王を倒すんです!」


テンがシルフィに抱きかかえられる形で声を出す。




シルフィは無言でうんうんと強くうなづく。




「ねっ!一真そうよね!」


「……うん」俺は小さくうなずいた。


「一真?」


「一真様?」


「…っ!」


「いや行かないよ! うん行くわけないでしょ!そんな目でみるなよ!」


冷たい視線をみんなから感じて抗議する。






「そう…なら殺すだけよ」


純佳は刀の柄に手をかけた。背筋にぴりぴりしたものを感じ取り、辺りの雰囲気が重くなる。




純佳は突進しやすいように肩幅と右足を大きく開く。前傾姿勢になり重心の位置は前に全身から力を貯めてるのがわかる。




闇から暗部が背後左右から現れ純佳に襲い掛かる。しかし一瞬の内に暗部の手や足がバラバラに切断され空中に血しぶきと共に舞った。


「ひっ”」


咲夜皇女が小さな悲鳴を上げ口を両手で塞ぐ。


皇女様があんな血や切断される人体など見たことないだろうから当然だろう。




見えなかった…あれは…抜刀術って奴か…時代劇とかで見たことがあるが…斬撃が見えないとは…。




無名がいつの間にかオレの前に立ち、短剣を構える。




無言のまま純佳に迫る!無名は自分の影に苦無を三本投げ込む、瞬間、純佳の影から苦無が現れるが純佳は姿勢を崩さず苦無を切り伏せる。


無名は純佳に短剣で切りつけるが、純佳は刀で無名の腕ごと切り落とそうとするが無名は上半身を大きくひねり刀を交わす。すさまじい剣戟を辺りの風景を変える。斬撃が壁を切断し、無名の体術が穴を穿つ!。




凄まじい速さで動くからオレたちにはあちこちに二人が瞬間移動し、見えないところで建物が破壊されていく。




俺は魔法陣を出してそこから一本の刀を取り出した。魔力が底上げされてミタマが使っていた異次元にアイテムを収容できる魔法 アイテムボックスも使えるようになっていた。




刀は天羽々斬ではない。領地の名工に作らせた刀だ。この世界の技術の粋を集め、魔術により加護を乗せられるだけ乗せている。




オレの近くまで無名が着地をする。たいして怪我もないようだ。それは純佳も同じでセーラ服があちこち切られているが無傷のようだ。


「無名…下がってろ」




「……御意」




「あんた強いなぁ」




「これが私の勇者としてのスキル…ソードマスターというものよ」




俺は魔力を可視化できるほど放出し、それを纏った。鎧のように…。


「へぇ…丁度いいや」


「?」


俺は左手で来いと挑発するように誘った。


それを受けるように目の前から純佳が消えた。


斬撃がオレに迫る。だがっ…。




俺の刀が純佳の刀を防ぐ。


「??」


すぐに純佳は斬撃を繰り返すがオレは全て防いだ。




気づいているだろうか、オレが純佳とまったく同じ動きをしている事に。


新たに得たスキル。トレース。




相手の動きをトレースし、まったく同じ動きをする。


勝てはしないが負ける事もない。






更に魔力で身体能力を底上げし、純佳の動きについていく。


「!」


先ほどの冷静な顔から焦りの顔に代わっていく純佳。もう一人の自分と戦ってるようなものだ。やりにくいだろう。


純佳は俺から距離をとる。だが俺はそれを許さず、纏っていた魔力から小さな球体を無数に作り出しそれを純佳に向かって放つ!。


魔力球は弾丸となって純佳に襲い掛かる。




純佳はそれを瞬時に切り伏せる。


「はぁはぁはぁ」


息が切れかかってる。純佳は汗を一筋落とす。




「……ふぅ」


再び純佳は刀を鞘に納め抜刀術の体勢になる。空気が重くなる。…これは必殺の一撃がくるな。そう思わせるものだった。




「紫電一閃」


そう呟くと純佳は音を置き去りにした。


金属が激しく悲鳴を出す音が響く。


純佳がオレの後ろに現れた…純佳の刀が折れていた。




トレースを使っても動けなかった…認識できなかったのだ。だがオレの魔力の壁を斬る事はできなく刀は折れたのだ。




あっ…あぶねーっ!剣の勝負だけだったら間違いないく負けてたわ。


攻防一体の魔力の鎧使っててよかったぁ。






信じられない顔の純佳。放心状態にも見える。恐らくあの一撃は純佳の奥義なのだろう。絶対の自信をもった技。それを破られたのだ。




「純佳…」


駆け寄るミタマ。 あいつも何か思う所もあるんだろう。勇者とした者が自分を裏切り魔族の元に行ったのだ。 優しく抱きしめるのだろう母のように。女神らしく諭すのだろう。






「歯ぁ食いしばれぇえええ!」




グーで殴った。


盛大に吹っ飛ぶ純佳。


唖然となる一同。




「私を裏切ってただですむと思ってるわけないわよねぇ?起きなさい。聖なる聖拳をもっとおみまいしてあげるわ」




ぼきぼきと拳を鳴らすミタマ。




ふと動きを止めるミタマ。 あっなにかよからぬ事を考えたな。




「純佳。罰としてあなたの恥ずかしい過去をこの場で晒します。」


と言うとミタマは右手から魔法で映像を出した。あれは…小さい頃の純佳か。かわいい子だな。


「9歳の頃、あなたは河原で拾ったえっちな本で興奮しましたね?」






河原でうずくまり、えっちな本をはぁはぁと興味津々で見てる幼女純佳。


「10歳で兄のベッドの下に隠してあったえっちな本を毎日読んではぁはぁしてましましたね。」


この頃からSM]ものにも興味を!?いや兄貴も兄貴だよ!




「動物もののテレビで交尾のシーンが映るとやたらと両親に なにしてるのー?これなにしてるのー?と執拗に聞いて反応を楽しんでいましたね」


わかってる…この子なにしてるかわかってるのに純真な顔して心の中真っ黒だよ!。






「中学になるとその容姿から後輩女子に告白もよくされていましたね。あなたはクールに断り後輩を抱きしめましたね。ですが心の中ではハァハァと興奮し青い果実の体をまさぐってましたね 特にお尻辺りを」




ごめんね。と言い抱きしめてあげる純佳。でも抱きしめた顔はぐへへっと涎流してるし、お尻の触り方が電車で痴漢してるオヤジだよ!。




「さらに高校生になると陸上で汗を流してる女子を校舎から見ながら あー。あの食い込みに顔うずめてーと…」


「やめろーーーーっ!!!!」


純佳が耳まで真っ赤にして立ち上がった。




「一真様!ご無事ですか!」


見ると、ようやく地上部隊を率いたティアが専用機、紺色のパーソナルカラーも持つ 幻兎げんとと共に俺の近くに降り立つ。機動装甲騎50機が周りを取り囲み、地上部隊も続々と周辺に降り立つ。




一斉に銃器を純佳とその機体に向ける。




「あは…ははは…失敗しちゃった…はぁ…なんで私こんな事してんだろ…くだらない…もういいや」




小刀を抜いて自分の首元に向ける純佳。


だが自害する前に無名によって首に軽い一撃をうけ人形のように崩れ落ちる。本気でやったら首が落ちるんだろうな。




そのまま気絶し無名に抱きかかえられる。




「我が主の命を狙っておいて自害など許されませぬな。死を懇願するまで責め苦を味あわせなければ」




おっかない事言ってるよ…。




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