第41話第三章エピローグ

星食い騒動から二カ月が経った。


領民も落ち着きを取り戻し、いつもの日常が帰った来た。




今回の騒動は帝都にも報告済みだが、今回は救援を望まなかった。望んだとしてもとてもではないが軍の救援は間に合わなかっただろうし、役に立つかもわからない上に指揮権を取られる可能性が高い。そうなれば自由に動けない。




朝になり、俺はいつもの通りシルフィに起こしてもらう。最近は慣れたようでなかなか起きないオレを子供をあやすように起こしてくれるのでシルフィの膝枕をしてもらったりしてる。…いいなこれ。ふともも気持ちい。見上げるとシルフィの顔が半分しか見えないんだな…普段から思っていたが、シルフィってなかなか立派なモノをお持ちだ。




「あっ…あの旦那様」


困惑するシルフィを無視して俺はシルフィの膝枕に顔をうずめてみる…むちむちでほどよい感触で暖かい…すーはーといい香りが鼻腔をくすぐる。なんか今日はずっとこうしていたい。






「変態領主、ご飯なんだけど」


声のした方を見るとミタマがゴミを見る目でオレを見ていた。




「かーずまー様♡ 朝食ができましたよぉ 今日は私もてつだっ…」


「お前は焦しただけだろっ!一真様 私っ!私も朝食を手伝ったんで…」




ティアとアーシェが部屋を覗くとそのまま固まってしまった。




そこからはいつもの騒ぎになった。アーシェとティアは何を勘違いしたのか服を脱ぎ始めるし、騒動を聞きつけたテンがハイライトを失った目でオレを黙って見つめるし。


…怖いんだよ。




朝の恒例行事?が終わると食卓につく。すでに席についている者がいる。車椅子に座るミカであった。




彼女は星喰い騒動の後すぐ目覚めた。だが身体をうまく動かせず、リハビリが必要だった。ミカは事情を話すと涙を流しながら聞いていた。


アナスタシアはそのままメイドとしてミカに仕える事になった。彼女には山田さんのテクノロジー提供にうちの兵器開発も喜んでいると聞いている。




そうそう脱出の際、山田さんが持たせてくれた箱の中身は唐揚げだった。冷凍保存されていたもので、山田さんが生前に作っていた物らしい。


得意料理で。家族の…妻と娘ミカの大好物らしい。




普通の食事が食べれるようになった頃、シルフィが温め直してくれた。ミカが一口食べるとぽろぽろと( 涙を流して「おとーさんの味だ」…と一言つぶやいた。




ミカの扱いはリハビリもあるので、とりあえずうちで預かり、回復の後学園都市への入学となる。




今日の朝食はすこし焦げた卵焼きにあさりに似た貝の味噌汁、しゃけにごはんだった。


このあさりに似た貝、あしゃりというらしい、あさりでいいじゃねーかと思うのだがよく出汁が出て美味い。だがこの、あしゃりも地球のあさりと違い、旬の時期になると回転しながら攻撃してくるという。


あしゃり採りの時期は親子で採るのがあちこちで見かけるのだが主に父親がフル装備で格闘するという。潮干狩りの時期になると業者からレンタルで装備を買うのだ…父親も大変だな。




「そういえば祝勝会の事ですが…」


テンが味噌汁をすすりながら思い出したかのように言った。




勝利の後なのだから当然祝勝会はやる。凱旋はしたのだがあれは戦艦や機動装甲騎が星の上空を飛び回るだけだしな。内々でやるものからなぜか星全体で祝う事になったらしい。


「軍部と政庁から正式にミタマさんのコンサートを開きたいとの申請がきています…」




「許可する」




「なんでよーっ!ってあれ?」


ミタマが突っ込む、またオレが許可しないと思ったのだろう。




「えっ?…本当に?あんた熱でもあるの?」




「本当ですか!? 医師を早く!」


「一真様っ!今すぐ寝室へ!いや病院へ!」


アーシェとティアが立ち上げる。




「違うよ!…今回はお前の働きが大きいからな…ご褒美だよ」




「やった!ご褒美大好き!ご飯の次に好き」


あー…そうですか。






ミタマが主役?な感じになり祝勝会は様々な企画が軍部や政庁から持ち上がったらしい。オレは企画書などが山と積まれたのでそれらはスルーしてミタマに任せた。あいつが主役だしな。オレは丸投げした。


端末で情報処理される時代に紙を使うのだから、これは資源の無駄だし、嫌がらせじゃないかと思うわ。時折、執務室に顔を出したがミタマは生き生きとした顔をして仕事を物凄い勢いで片付けていった。




屋敷内のメイドや執事達もせわしなく働き、首都は華やかに飾られていく、祭りを楽しむように領民は準備をしていく。


政庁に顔を出せば皆オレを見ると頭を下げるのだが、こちらも準備に忙しいようだ。あちこちに走り出している職員。


「ミタマ様のステージのチケットはもうありません!」


なんかぎゃーぎゃーとわめく男と受付嬢がなだめている光景が目に映った。


「プレミアムチケットは? 君!私の分はとってあるんだろうね!」




「すいません!ネットですでに完売してて」




「なんとかしたまえ!私は人事部長だぞ!娘に懇願されているんだぞ!」




「というか政庁でチケット販売していませんので…」




「私は知っているんだぞ!チケットの管理は政庁なのだろう!ならば特別枠があるとネットで噂になっているんだぞ!」




「それはただの噂でして…」




男は受付嬢の襟首をつかみかかる。


「おい…」


後ろから男の首根っこを掴むとオレはそのまま後ろに投げる。ぐぇっと声を打診柄倒れる男。せき込みながらも顔を真っ赤にしながら怒り出す。


「なっなんだ貴様!私を誰だと…ひっ!」




オレの姿を見ると男はそのまま口を閉ざした。


さすがに主の顔はわかるようだな。


「消えろ」




「はっはいいいいい」


男はそのままどこかへと逃げて行った。 あいつが人事部長~?あとで入れ替えるか。




俺はそのまま受付嬢の方を向いてケガはないようだ。


ありがとうございますと受付嬢は深々と頭を下げた。




「チケットってそんなに売れてるの?」




「はっはい!もうすでに完売していると聞いております。」


まじか…。




街中を歩いてみるといつもと違い華やかな飾りつけがされている。屋台などもできているようで皆準備に忙しそうだ。




「一真様!」


ふと声をかけられる。前方よりかけてくる少年と少女。ロイと姉のマリーだ。


学生服を着てる。




ロイはオレの下まで来ると息を切らしていた。マリーはぺこりと頭を下げる。




「お久しぶりです。 一真様!」


ロイは息を整えると笑顔で挨拶した。




「ご無沙汰しております 伯爵。」


マリーは丁寧な挨拶だ。




「あぁ 二人とも元気そうだな。今日は学校は?」




「はい。今日は祝勝会の手伝いでお休みなんです。」


へぇ…どうりであちこちで学生達の姿を見るわけだ。




機械やロボに任せれば早くすむ作業なのだが皆祭りを楽しみたいんだな。




「一真様は御一人で?」


ロイが聞いてkる。




「一人でいたい時もあるんだけどねぇ…」


ちらりと後ろを見れば変装した警護の者があちこちにいる。当然暗部もいるし…まぁロイにも暗部はつけてあるんだけど本人は知らない。




こうしないとテンが安心して外出させてくれない。警護がつくので大人のお店にも行けやしない。まったく。


「ロイーなにしてるの~?さぼるんじゃ…ない…わ…よ」




学生服を着た女子が走ってきてそのまま固まった。




「ごめんごめんエレオノーラ 一真様がいらっしゃって…あれ?」


動かない同級生を不思議そうに見つめるロイ。




「はっはっかじゅ…はっ」




なんだ?この子??


大丈夫か?と右手で額に触れてみた…熱はないようだ。


「きゅう~」と倒れるエレオノーラ。危ないと思い地面に倒れる前に抱きかかえた。顔まで真っ赤だぞ。




貧血か?俺は端末を操作し、救急車を呼ぼうかと思ったがマリーが休めば大丈夫ですわと言うので近くに日陰になりそうな所で休ませることにした。


「彼女は伯爵にとても強い憧れをもっているようです。急に伯爵にお会いして舞い上がってしまったのでしょう」




オレに憧れるねぇ…よし後でサインでも書いてあげようか?と聞くと きっと喜びますね。とくすりと笑うマリー。






欲しいのかよ。




祝勝会当日。




朝から領民は大騒ぎしていた。ホログラム映像が映し出され、星喰い撃破の映像が繰り返し流され、TV局各局は戦況を解説し、アステリオン軍を褒めたたえ、領主の栄光を称えた。


第一軍総旗艦アマテラスを先頭に首都上空を艦隊が飛び、機動装甲騎が編隊を組みビームフラッグを立てて飛ぶ。それを見上げる領民達は拍手喝采し出迎える。




地上を見れば軍楽隊が一糸乱れぬ行進しながら演奏する。




道には屋台が並び、様々な軽食を楽しめるようになっていた。


オレはテンとシルフィを伴って屋台でチョコバナナなどを食べながら祝勝会の様子を眺めていた。




今回はミタマが主役という事にしたので、準備や企画の最終決済はミタマに任せたから、どんな出し物があるのかオレも知らないんだよな。




「そいや!そいや!そいや!そいや!」




大通りの奥からなにやら野太い男達の声が聞こえる。 はっ?そいや?




見ると神輿を担ぐふんどし姿の男達、……えっ?


神輿に乗りながらミタマがいつもの巫女装束をより派手に着飾った姿で担がれていく。




「ミタマ様ーっ!」


その姿を見て喚起する領民達。中には「ありがたや ありがたや」と涙しながら手を合わせる人も…。




手を振りその歓声に答え笑顔のミタマ。




勘弁してくれ。うちの領民達はどうかしてしまったらしい。……税金上げようかなぁ。




夜になるとあちらこちらこちら花火が上がる。夜空を彩る大輪は人々を魅了する。


今日この日のために突貫工事でミタマが歌うステージが作り出されていた。主要人数10万人ものステージでチケットを購入できなかった領民はTV中継で見る事になるのだが…オレは貴賓席が用意されていた。


別に観たくはないんだけどなぁ…。テンやシルフィが凄い楽しみにしてるんだよなぁ。


艦隊を指揮していたアーシェやティアも合流している。なんかわくわくしながらサイリウムなんか持ってるし。


純佳もいるんだが、なぜ自分がここにいるんだろうという顔をしている。多分オレもそんな感じだろうな。




会場の証明が落とされ中央に光が集まる。そこに立つのはミタマ。


演出なのか ミタマの周辺に小さな光の玉それぞれが赤や金色、緑や青色に光り、ミタマの周囲を飛びミタマの体の中に入り後光が差しているようにミタマが光り輝く。


「みんなー今日は集まってくれてありがとー!」


会場中にミタマが映し出されたホログラムが現れる。これなら遠くてもよく見える。




マイクを持ちながら叫ぶミタマ。 会場中から「うぉーっ!」だの「ミタマ様ーっ!」だの「結婚してくれー!」だの野太い声が聞こえる。 女子からも黄色い歓声が聞こえる。…アイドル気取りかよ。




「今日は私を誉めて称えて崇め奉りなさい!いいわねー!」


「うぉーーーーーー!」


うちの領民はもうダメだな。




「では一曲目ーいくわよー!」


「どーせアニソンだろ」


とオレが言うと。


「なんか有名な作曲家とか作詞家とかが曲を作ったそうですよ」




「まじかよ!」


ミタマがまさに歌おうとした時、突如として警報が鳴り響く。それは会場だけではなく首都全体に鳴り響いた。


これは…魔王軍襲来を知らせる警報だった。




「なんでよぉおーーーーーーっ!」


ミタマがマイクで叫んだ。


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