第40話寒い地域から来ました。

「こった所にふとが来だのは初めでだよ よぐ来だね」


……なんだって?




オレを含め、兵や騎士達もこの男が何を言ったのか理解できなかった。いや…オレはなぜか聞いたことがある訛りだったのだが…。




「なっなんて言ったんでしょう?」




「待ってください、今翻訳機を使います。」




「どこかの惑星の言語か?」




「おめ、こった所でなにすてんの?」




……えっ?


ミタマが不思議な言語を使い始めた。




「こぃは、驚いだ ミタマ様でねが。なにまだ会えるどは思いもよねがっただよ」




「こっちのセリフよ、ほんと懐がすいじゃ。元気すちゃー?」




「いやいや、もうどっくの昔さ死んでらだよ。こぃはただの本人の人格コピーすたAIだよ。 はっはっはっ」




「なんだぁ、そうなんだぁ。どってんすたわよ。神様どってんさへるんでねわよ」




二人して笑う。


「ちょっとまてーっ!」




「なによ一真うるさいわよ」




「何言ってるか わからねーよ!説明しろ」




「旦那様、それでは通じないかと…私が説明してもよろしいでしょうか?」


ふと声がすると男の座ってる玉座の背後から一人のメイド服を着た女性が現れた。




「皆さま、初めまして私はアナスタシア。メイド型アンドロイドでございます。」


そう言うとアナスタシアと名乗ったアンドロイドはカーテシーをして挨拶をした。




「こちらは私がお仕えした旦那様、この山田邸を造られた山田熊五郎様が残されたAIでございます」




やまだ…くまごろう…。思いっきり日本人だわ。


「山田邸…?家?」


オレが質問するとアナスタシアは答えた。




「はい…皆様方が通称星喰いと呼ばれるこれは山田様が作られた家でございます。」




「わっきゃ、明治の生まぃでな。女神様さ勇者さ勧誘されでな宇宙さ来だんだが、すたばってわさ魔族ど戦う力なんてなぐでな、オレにあったのは兵器作る才能授げらぃだんだわ。」




「俺は、明治の生まれでな。女神様に勇者に勧誘されてな宇宙に来たんだが、だけど俺に魔族と戦う力なんてなくてな、オレにあったのは兵器を作る才能が授けられたんだわ。」


アナスタシアが翻訳してくれた。




『お前、そんな時代から地球からさらって勇者にしてたのかよ』


俺は念話でミタマに話しかけた。


『さらってないわよ!ちゃんと説明して嫌なら帰してたもの。でも魔王軍に占領されてからは帰りたがる人はいなかったわね』




そりゃそうだろう。


アナスタシアの話は続く。


その後、小さな王国に仕え、様々な兵器を開発し貢献した。そして妻を娶り娘を授かり、幸せな生活を送ったそうだ。…だがある日、王に最強の兵器を造れと命じられ、その開発につきっきりになった時、妻が病に倒れ亡くなってしまったそうだ。




しかも娘にもその病が移り、当時は不治の病だったそうだ。絶望に苛まれ娘だけは救いたい山田さんは思ったそうだ。そして選んだのがコールドスリープ。病が治る時まで仮死状態にするという。




いつ治るかはわからないため半永久的に動き続けるこの星喰いに移送したそうだ。


ほぼ星喰いが完成した頃、仕えていた王国が魔王軍の襲撃にあい 滅んでしまったそうだ。当然魔王軍は星喰いにも攻撃を仕掛けて来たそうだが、山田さんと娘さんを乗せた星喰いは魔王軍を撃退した。




その後、宇宙をさ迷いながら星食いは残骸や襲って来た魔王軍、時には帝国軍をも飲み込みながら巨大化したそうだった。 




「王様の名付げだ名前もあったんだが、その王様ももういねはんで、山田邸って名付げだんだ」




「なっなるほど」


そこは翻訳されなくても理解できた。というか段々と理解できるようになってきた。




アナスタシアが話を続ける。




娘の治療法が見つかった矢先、山田さんが亡くなってしまった。その意思を継ぎ、山田さんの人格AIが作り出された。星喰いこと山田邸は宇宙をさ迷い続けていたそうだが娘を守るという命令の元、星をも喰らい巨大化していった。




「わっきゃやめろでしゃべったんだが、山田本人じゃなぎゃ止めらぃねじゃ」




ふむふむ、AIが止めろと言っても本人ではないから止められなかったと…。




玉座の間の柱と思われた部分が開いた。いくつものパイプに繋がれ、冷気が溢れ、医療用カプセルに似たものだった。見ると人が入っていた。女の子だ。そうかこれが…。




「ご息女のミカ様でございます」


アナスタシアが答える。


ミカと呼ばれた少女は眠っていた。それは静かな眠りであった。コールドスリープで仮死状態って奴か。




「なぜ、目覚めさせない?すでに治療は済んでいるのだろう?」


オレが聞くとアナスタシアは淡々と答えた。


「ご主人様の願いはミカ様の幸せです。それはここでお一人で過ごすことではありません。がっどの星ならばそれが叶うか…山田邸は星喰いと恐れられておりますので…」




まぁ そりゃそうだ。




「ですが、ようやくミカ様をお渡しできる御方が現れました。」




「はっ?」




「どうかお願いします。ミカ様に普通の幸せを送らせてください。」


そう言うとアナスタシアと山田さんは深々と頭を下げた。




「随分と手前勝手な事ね…星喰いによってどれだけの被害があったのか理解してる?」


純佳が無表情でだがその言葉一つ一つに怒りが感じられた。




彼女自身、魔王リリスの魅了によって人類と敵対し、命を奪って来た負い目を感じているからだろうか。




「暴走を止められなかった事についてはお詫びするしかありません。」


「申す訳ね」


アナスタシアと山田さんはまた頭を下げる。




「謝罪なんていいさ。謝った所で失われた星も命も戻りはしないのだから、それより、生きてる者になにができるかだ。オレにどれだけの利をもたらす?」




「わの全で」


「私の全てとおっしゃってます」




「オレのそっちの気はねぇ!!!!」




「ぶふっ!」


なぜか頬を赤らめ噴き出すアリシア。 冷めた目で見てくる純佳にミタマ。




なんなんだよ、まったく。




「勘違いすねでけ。わの今まで作り上げだ兵器、そのノウハウなもかも差す上げるんだ」




「勘違いしないでください。私の今まで作り上げた兵器、そのノウハウを全て差し上げるんです」


アナスタシアの翻訳にオレは確かにそれなら悪くないと思った。




「いいだろう。お前の娘、オレの領地で引き受ける。」


子供の1000人や10000人どうという事もない。オレが世話するわけでもないし、学園都市に丸投げでもしとけばいい。




「どうも…ほんにどうも」


オレの言葉に山田さんのAIは泣き崩れた。おっさんが顔をくしゃくしゃにし泣いていた。




これで終わり…という所に邪魔が入った。床下や天井から小型のヒルコが湧いて出た。




「ゴキブリかこいつらは」


オレはこそこそと温かくなると湧いて出てくる嫌いな虫を連想した。




「ヒルコ?あぁ あんた方がそう呼んでいるのですね。これは掃除用ロボ、ロボ太です」


星喰い内の清掃してたのはコイツらか。


アナスタシアが淡々と説明する。




「どうやらあなた方を異物、ゴミと判断したようです。」




「ゴミ…ね」


オレは地球にいた頃の奴隷時代を思いだしてしまった。ゴミのように扱われた頃…あぁ 頭にくるね。


ざわっとオレの雰囲気が変わる。周囲の兵達も主人や自分がゴミと言われて怒りを隠さなかった。


臨戦態勢になる。


オレは持っていた刀を抜く。魔力を開放し、いつでも切り伏せる体勢をとった。




純佳も抜刀の構えを取る。




「一応聞くが、止めることは?」


「無理です。」


だろうね。


「私はミカ様の身の回りをするだけのアンドロイドですので。中枢端末に命じる権限はありません」


アナスタシアはそう言うと、ミカを抱き上げた。




「なんとが逃げでけ。わのテクノロズーはアナスタシアさ託すてあります。それど…どうがこぃも持ってけ」


山田さんはドローンに冷凍された小さな箱を持たせた。




「幸せにな」


眠る娘の頬に触れるように山田さんは愛おしそうに触れた。




「一真様、爆弾のセット完了いたしました。」


エネルギー動力炉に向かっていたチームからの通信が入った。いいタイミングだ。




「よし、すぐ撤退しろ。ロボ太がくるぞ」




「ロボ太?」




「敵だ、いいから撤退しろ」


「はっ!」


 ロボ太達が四足脚で這いつくばりながら迫ってくる。それを切り伏せながら、オレ達は機動装甲騎の元まで駆ける!


ふと後ろを見ると手を振る山田さんがいた。




「気持ち悪い!」


純佳がロボ太を数体を一気にバラバラにする。兵は銃器で騎士は近接で剣を用いて破壊していく。


名前はかわいいがほんとコイツら気持ち悪いなぁ。




玉座の間を出て廊下に入るとロボ太がさらにあちこちの部屋からあふれ出てくる。こいつらこんなにいたのかよ。




狭い通路を埋め尽くすロボ太の群れ。感情も恐れもない無秩序に迫ってくるので押し倒されるロボ太の上を押し潰しながら走ってくる。なんとも凄惨な光景だな。


背後からも迫ってくるロボ太達。




「邪魔!」


ミタマが右手より稲妻を走らせ前方の群れを蹴散らす。


背後から迫るロボ太をオレが魔力を込めて斬ろうとすると突如天井、壁が吹き飛び、ロボ太達を巻きこんだ。




煙が辺りを包み込む視界が一時奪われる、だが煙が薄れると何があったかはっきりとした。




「これは…」




「まずい!」


兵達がオレの周りに集まり自らを盾にしようとする。


壁を突き抜けてきたのは巨大なロボ太…いや 宇宙で機動装甲騎と戦ったヒルコだ。




オレは先ほど迫っていたロボ太を一掃するために貯めていた魔力を刀に移し、兵達を頭上を飛び巨大なヒルコに剣閃を走らせた。


刹那の内にヒルコの首が飛び宙を舞った。




「おぉ!」


兵達や騎士達が驚嘆の声を上げるが首を失ったヒルコは何もなかったかのように動き出しオレを捉えようと右手を動かす。




オレは魔力の鎧を纏う。だったら五体を切り刻んでやるよ。オレが構えると同時に純佳が抜刀術の構えを取り ミタマが再び雷を手に走らせる。




「かずまさまぁあああああああああああああああっ!!!!!」


ティアのでかい声と共にティアの専用機、幻兎がヒルコを体でタックルする形でオレ達から遠ざけた。




あっけにとられるオレ達。


「ご無事ですか 一真様!」




「あっ…あぁ…よくこの場所がわかったな」


「潜入組には全員モニターされてますので!」




あーそうだったね。




「お急ぎください!工作員の爆発時間が迫っています!」


オレ達は幻兎の手の平に乗るとそのまま集合地点、村雲の場所に向かった。




そこにはすでに爆破に向かったチームが集結しており、襲い来るロボ太との戦闘が繰り広げられていた。


建物に隠れ銃火器や迫ってきた敵に騎士達が剣で応戦していた。


強襲揚陸艦からも攻撃を行い搭載されたガトリングで一掃しているが数が多い。天井や床下ありとあらゆる場所から現れるロボ太に苦戦している。




さっさと逃げればいいとも思うが主を置いて逃げるなどできないのだ。そう皆オレを待っていた。




「一真様!」


「おぉ ご領主様だ!」


上空を飛ぶ幻兎の手の平のオレの姿を見た兵隊が歓喜の声を上げた。




「ティア、オレをこのまま村雲に…」


そう声をかけた時、ヒルコが五体、幻兎を取り囲むように現れた。


「くっ!」


オレ達を乗せたままでは思う様に動けないであろうティアの苦悶の声が聞こえる。




だが三体何者かの狙撃によって撃ち落とされる。


「何をしている!」


アーシェの声が凜と鳴り響く。アーシェ専用機 「偃月えんげつ」白と紺色のパーソナルカラーの機体が残りのヒルコに接近し長刀で真一文字に切り裂き、ヒルコの攻撃を紙一重にかわし、右手を手刀の形にしエネルギーの収束によって短刀型の刃で胸部を貫いた。




「行け!」


アーシェの言葉にティアはすぐ動きオレを村雲に乗せる。他の者は強襲揚陸艦に搭乗し、この場を後にする。オレとアーシェ、ティアはそれに続き、星喰いから離脱した。




宇宙に出るとアーシェの艦隊が待っていた。すぐにオレ達を収容すると全速離脱する。




「時間です」




ティアの言葉の後、内部から爆発が起こり、星喰いは閃光と共に大爆発を起こしながらその姿を宇宙の藻屑としていった。






旗艦 アマテラスに戻ったオレ達は艦隊の陣形を再編し、星喰いが完全に機能停止したのかを確認した後調査隊と護衛する艦隊を残し首都星に戻って行った。




星喰いアステリオン軍によって破壊される。この報は領内にすぐに大々的に知らせられた。領民は領主を称え、軍を賞賛した。




惑星リスガテット。星喰いの侵攻先にあった星の代官は星喰い破壊の報に胸をなでおろした。




「よかった…本当によかった…」




経済的損害は出たが人的損害はなかった、星への物理的ダメージがないのは不幸中の幸いだろう。領民もすぐに戻ってきていつもの日常も戻ってくる。それが代官にはなにより安堵する事だった。




「閣下、奥様から連絡が…」




「んっ?あぁ あれも戻ってきたか」


部下の報告に代官は端末を操作し妻と回線を繋ごうとする。






「その…愛人の件でお話があるとか…」




代官がそれを聞くと椅子から立ち上がった。




「なっ……なぜあれがそれを知っている!?」




「どうやら以前より知っていたようです、人を使って調べていた形跡も確認取れました」




これからが大変な時に…代官はそのまま椅子に滑り落ちた。


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