第15話 二人の騎士

帝国の貴族たちは民から税を貪るだけ貪って贅沢三昧が当たり前らしい。領地を発展させるなど考えもしないのだろうか?


少なくともオレの前の領主はそうだったらしい。


オレの支配する領地惑星は三つある。今住んでいる惑星と資源惑星が二つ。


しかし、資源惑星はほとんど手付かず、宝の山を前になにやってたんだか…。




資源惑星の調査を指示して、二週間、調査隊の報告では、様々な資源があり、その中でも鉱石がオレの興味を引いた。


金、銀、鉛などのものから希少鉱石のミスリルや少ないがアダマントまで取れるとの事だった。






これはさっそくオレの村雲の性能向上に使わせてもらった。




そしてミタマの作るソーマなんだが…百倍に薄めてようやく売れるものらしい。純度が高すぎると買い手がつかないぐらい高値になるし、しかもこれを流通させると帝国に目をつけられる。ソーマを作る神樹の管理は帝国が独占してるからな。




ソーマの原液なんて売ったら、帝国が乗り込んでくる。


過去に神樹を隠し持っていた領主が帝国によって惑星事焼き尽くされたらしい。




おっそろしい。






そしてオレの惑星では古代魔法王国の遺跡が複数あり、その調査探索もさせた。


その結果…石像と思われた像がゴーレムであり、その中にから村雲と同じフレームが二体発見された。


「ぐふふ…村雲程ではないですが、これはいいフレームですよ」




運ばれたフレームを見ながら涎をながしそれを拭くニア。




黙ってれば美少女なのに…。


「伯爵、この子たちもウチで預かっていいんですよね?」




「あぁ、機動装甲騎に関してはお前のところが一番らしいからな」


というか他があまり力をいれていない。


あくまで戦場の主力は戦艦だという認識か…




「一真様、アーセナル工廠の方がおみえになりました」


テンからの通信が入った。




「はぁ!?アーセナル?なんで大手が来てるんですか!」


「戦艦の売り込みがあったから」


ニアが怒り出しながらオレに詰め寄る。




「うちの戦艦があるじゃないですか!」




「別にお前の所と専属契約結んだわけじゃないし…いい戦艦あるならそこから買うしなぁ」


最近うちの景気がいいのを聞きつけて売り込みに来るのが多くなった。


実際、ソーマや鉱石、その他事業の拡大で景気は随分と良くってきている。…借金はまだまだあるけどね。


「あんな所、見た目がいいだけですから!うちの戦艦買ってくださいよ!」




「今度オレの旗艦を買うつもりだから超ド級クラスの戦艦見せてみ 他と比べるからプレゼンしてみればいいじゃん」




「了解っす!」


後ろを向くとまた上司に連絡をとるニア。




「なに!超ド級戦艦?」


「私の設計したのがあるじゃないですか」


「いや…あれは確かに凄いが金がかかりすぎるぞ。」




「大丈夫ですって!性能はどこよりもいいのは私が保証します!旗艦にするって言ってますから、量産型の旗艦よりオーダーメイドのただ一つの戦艦の方が絶対欲しがりますって!」




「それに私が猫なで声でお願いすればイチコロですって」


だから聞こえてるんだよなぁ。




「お前、もしかして伯爵の正妻狙ってるの?」




「正妻なんてめんどくさいですよ 愛人枠でいいです」


…おい。










領内のひと際大きな病院。新しい領主が作った新しい病院の豪華な個室部屋に亡国の王女、アーシェラ・ウィル・アスターは入院していた。ソーマを使い、身体の修復は完了し、今はリハビリの日々を過ごしていた。




滅亡した王国ではあるが、王女としても身分を考慮されての個室部屋ではあるが、高級ホテルのロイヤルスゥイートとも見紛う程の豪華さがある。




他のキメラ被害者もこの巨大な病院に入院しているらしい。






「…はぁ」


今日のリハビリを終え、ベッドにもたれ掛かる。王女としてはやってはいけないような態度だが、誰も見ていないし、厳しいリハビリで体が重たいため仕方なかった。キメラの身体からソーマで新しい身体に作り替える程の治療を受け、当初は指先一つ動かせなかった程だが彼女自身の努力で今は歩くぐらいに回復していた。


ふかふかのベッドの感触が体を支える、


またこんなベッドに寝れるなんて…アーシェラ 親しい者はアーシュと呼ばれた王女は、これまでの日々


を思いだしていた。




厳しいが時折笑顔を見せてくれた父王も、優しく包んでくれた母も、親しい人も、守らなければならない民も、その全てを魔王軍に奪われた。


私を守って命を落とした兵士や騎士たちの顔が今も忘れられない…。


自分自身の力のなさが情けなかった。




燃える王城、そこから逃げるしかなかった…。帝国も助けてはくれなかった。人さらいに捕まり、衣服を脱がされ恥辱を受けた…処女の方が高く売れると、純潔は奪われなかったのは幸いだった。乱暴されれば彼女はその場で自決していただろう。






奴隷。人権も尊厳もない,,粗末な牢屋に閉じ込められ、質素な食事、なにもかも王女として過ごした日々とは違う生活…ただただ死を願った。だがその人はそれを許さなかった。




扉が開き彼女が現れた。


「やっ元気?」


ミタマと彼女は名乗った。時折病院を訪れて、キメラだった者の所にお見舞いに来るという。


「ミタマさん」


お菓子や果物、お酒も持ってくるがさすがにそれはナースに没収され正座して説教されてた。


彼女の明るさに助けられてるなぁとアーシェは思った。






ミタマと話す世間話はアーシェの表情を豊にし、笑顔を取り戻すきっかけになった。


その中で、アーシェが一番興味を沸いたのは一真の話だった。




「一真様も奴隷だったんですか?」




「そうよ 地球というド田舎の惑星で奴隷しててね。そこを女神たる私が勇者としてあげたのね」




自称女神のミタマさん…この病院にいるのは頭の方の治療できてるのかな?




だが他のナースに聞いた所、一真が勇者の称号を持ってる事、そしてあの魔王の一人を倒したという事は事実で、その功で伯爵号を授与され、領地を得ているという。




なにもかもが凄い…アーシェの中で一真は人類が待ち望んだ英雄として認識されていった。




英雄に憧れ恋をする姫のように…その秘めた想いは大きくなっていった。








「そう言えば、一真の話を熱心に聞きたがるのってティアもだったわね」




ティアベル・フォン・ヴェルナー 通称ティアと呼ばれる。その名を聞いたアーシェはぴきりと青筋を立てる。


自分と一緒の奴隷でキメラ手術を受けた公爵令嬢。アーシェはなぜか彼女が気に入らない、恐らく自分と同じ想いを一真に抱いているのではないかとミタマの話から推測できたからだ。




リハビリでも自分より早く回復しており、立つこともままならない頃、彼女は歩き始めていたのだ。


その時のティアの勝ち誇ったかのような表情がアーシェにとっては腹立たしかった。






病院内のリハビリ室内で彼女ティアは走り込みをしていた。


巨大な病院内のリハビリ室は広く、リハビリに必要なありとあらゆる機材がそろっていた。


肩まで伸びる髪を後ろでまとめポニーテールにし、走り込みに必要なカジュアルな体のラインがでる軽装。




引き締まった肉体に汗が滲む。




元の…奴隷に身を落とす前の状態に戻すにはもう少しかかる。


ティアには目標がある。自分の家を没落させた者への復讐。自分を裏切り人買いに売った裏切り者への誅を下す事。そして絶望の中、自分を救い、希望を与えてくれた一真への恩返し、それが今の彼女の全てである。


将軍家に生まれた彼女は一軍を率いるため、幼い頃から肉体の強化、騎士としての剣技を叩きこまれた。中でも機動装甲騎の操縦にはその才能を開花させた。






ティアは一つの要望を政庁に出していた。退院後に一真の騎士として家臣になる事。


それが彼女の望みを叶える近道だったからだ。


「あぁ…あの娘もそんな要望をだしてるんだっけ…」


ミタマよりアーシェが自分と同じ要望を出していると聞いた。


気になってしまうのは自分と似てる所があるせいか…同族嫌悪ってやつなのかしら…とティアは思った。




「まぁ…いいわ。今はそれ所じゃないし」


ティアは走り込みを再開した。




それはとある日の午後、オレの執務室に来客があった。




一人の男が訪ねてきた、名前をネル・シアール。


うちの御用商人だ。中肉中背であまり目立たない服装をしている。


二十代半ばのこの男は前領主の遠戚に当たり、先代の頃からなんとか領地の立て直しをしようとしてたが前領主によって全てが無駄になった。




しかも、一族から迫害を受け、追い出されたという。


父親の隠居に伴い商いを継いだらしい。


オレが領主となったと聞いて、生まれ故郷に帰ってきて、領地の発展に協力させて欲しいと言って来た。


最初オレは疑い、テンに身元を洗わせたが、なにも出なかった。まっとうな商売をして痛い目にあっているぐらいに生真面目だという。


商人に向いてないんじゃないか?。と聞いたが 本人はこれが性分でしてと笑った。




まぁ確かにオレを含め商いに詳しい奴がいないため、そこら辺に明るい奴が欲しかったんだが…。




ソーマの売買を持ちかけた時、帝国で独占してるもので、流通してるものはソーマもどきなのだと…それでもとんでもない値段がつくぐらいの効果はあるらしい。


という事で百倍に薄めた本物をもどきとして売る事になった。当然ネルにもこれが本物とは教えていない。






帝国はあくまで本物を独占してるのであって、もどきまでは禁止にしていないらしい。


案外、抜け道はあるものだ。


平時であればもう少し厳しいかもしれないが、今は動乱の最中だからな…一々もどきまで手が回らないって事か…。




「売上はどう?」




「効果が他とは段違いですぐ売り切れます。これほど儲けたことはありませんよ。」


怖いくらいだとネルは笑った。


まぁ 本物だからな、


「大量生産には向かないから、少量ずつ売る事だけ考えてくれればいいよ。」




「それぐらいがいいでしょうね。ソーマもどきの希少性が値段を吊り上げますから…あまり中央に知られたくありませんし」




「あまり目立つと帝国に目をつけられるからな…」


「痛くもない腹を探られるのはおもしろくありませんからね」






「でっ今回はソーマもどきの話だけ?」


「いえ 妙な噂を聞きまして…どうも宇宙海賊が消えたと…」




「いい事じゃないか」


どこかの領主が領土を荒らしてる宇宙海賊を討伐するのはよくある事だし、領主として当然だと思うが…




「…どうやら魔王領の付近で活動している宇宙海賊が消えていってるようで…その辺りで海賊討伐をしている領主の話も聞きませんし」




どうもきな臭い話のようだ。


宇宙海賊が魔族との国境付近にアジトを築くのはよくある事だという。


海賊からしてみれば国境付近を根城とすれば帝国から討伐軍を出しづらい、そのため、海賊は中央ではなく辺境によく現れる。迷惑な話だ。








オレはネルから詳しい話を聞いた後、テンを呼び出した。




そこは航路からも外れた、暗礁宙域に宇宙海賊のアジトはあった。暗礁宙域には様々な宇宙ゴミ(デブリ)や破棄されたり破壊された戦艦が浮遊しており、隠密性が高くレーダーも効きにくく、海賊のアジトにはうってつけだった。


アジトの中には宇宙ドックまでそなえつけてあり、艦艇の修理、補給までも可能としていた。




「お頭、次の獲物なんですが」




お頭と呼ばれた男、デラスは筋骨隆々の大男でスキンへヘッドに入れ墨を入れ、眼光鋭く配下の小男の言葉を聞いた。


「昔いた伯爵の領地に新しい領主が来たそうなんですよ」




この宇宙海賊団は元々は旧ヴィリアーズ領、ヴィリアーズ伯爵の私兵団に所属していた。


数だけ集めたごろつき集団で、ヴィリアーズ伯爵が魔王軍との戦いに赴いた時、いち早く離脱し、海賊になった者たちであった。


デラスは海賊の方が自分に合ってると思っていた。




交易船や貿易船を襲い、荷は奪い、男は殺し、女は犯す。単純な生き方が自分なのだと。




「あぁ 随分と景気がよさそうじゃねーか」




「どうです?久々に故郷に錦でも飾りに行っては?」




「くっくっくっおもしれーじゃねーか」




デラスは惑星を襲い、その全てを奪う、その高揚感に身震いした時、アジトが激しい揺れに襲われた、


そのすぐ後警報がうるさく鳴り響く。




「なんだっ!?」


デラスはアジトの管制担当をしていた配下に何が起きたか連絡をとり、報告させた。




「おっお頭っいっいきなり魔王軍がっ いきなり現れて襲ってきやがった!」




「魔王軍だぁ?」


ありえねぇ なんでやつらが海賊なんて襲ってきやがる、しかもこんな戦略上なんの価値もないこんな所に…。


続いて、爆発音と激しい揺れがアジトを襲う。




「お頭ぁ 奴ら乗り込んできやがったぁ!」




「ふざけるなっ!なんだってんだぁああああ!」




数か月後。


腫れあがる晴天の中、政庁の大広間にて二人の騎士の叙任式が行われた。




ティアベル・フォン・ヴェルナーとアーシェラ・ウィル・アスター、二人は文武百官が見守る中、騎士服に身を包み、オレの前で膝をつく、


騎士剣をそれぞれ肩に当て、これよりオレの騎士として二人は家来になる。




万来の拍手が巻き起こる。




…こういう式典なんて初めてだし昨日何度もミタマとテン相手に練習したんだけど…間違ってないよな?




二人は例のキメラ騒動の被害者で、元王女、元公爵令嬢ではあるが、奴隷身分だったため、いきなり騎士に叙任させる事に反対の声はあった。特に軍部から。


だがそれを黙らせたのは、二人の実力だった。




剣を合わせても、銃撃戦においても、また機動装甲騎の模擬戦においても他を圧倒した。


序列をつけるなら、ティアベルが一位、アーシェラが二位だろう。アーシェラは悔しがっていたが…。




元々王族、公爵家の出身で基礎などの積み重ねがあるとはいえ、相当厳しいと聞いているリハビリをわずかな期間で終え、領内で上位に食い込む実力を見せつけられては、反対派も黙るしかなかった。




まぁ反対があろうが絶対の権力者のオレが決めればそれが全てなんだけどね。


それに譜代の家臣がいないオレにとっては有能な人材は喉から手が出るほど欲しい。




ぶっちゃけ二人はオレより強いよ…魔王を倒してオレのレベルは60になってはいたが、それでも二人の方が強いと思える。怖いから彼女たちのステータス見てないけど、機動装甲騎の操縦はオレが上だと思いたい!。




二人にはそれぞれ騎士になった祝いとして、遺跡から発掘したフレームから作り出した機動装甲騎を専用機として与えた。強い奴に専用機を与えるのは正しいと思う。きっと活躍してくれるだろうからな。




授与式も終わり、ささやかな立食式のパーティを開く、


ミタマがさっそく料理を山と盛りほほを膨らませて食べている。


「一真、これなかなか美味しいわよ。でもいつも食べてるシルフィのご飯の方が私の口に合ってるけどね」


気に入った料理をおかわりー!と言って給仕におかわりを要求している うちの女神様。




「ニア殿!私の専用機なんですが、もう少し機動力を上げたいんですができませんか?一真様のお役に立つにはもう少しカスタマイズを!」




「ニア殿!それよりも私の機体のカスタマイズを」




ニアに詰め寄るアーシェとティア。


「アーシェ殿…あなたは私より訓練の成績は下なのだから、ここはあなたより優秀な私に譲るべきでは?」


「はっ?私よりすこぉ~し上だからなんなんですか?実戦と訓練は違いますわよ ティア殿、実戦となればすぐ証明できるのに残念ですわぁ」


おほほほと、両方笑顔ながら全然笑っていなく…怖い。




ニアが泣きそうな顔でオレに助けを求めて見ている。




うん…がんばれ。

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