第14話 ソーマ

「奴隷市場ぁ?」


その報告を聞いたのは、昼下がりの午後。


シルフィお手製のお茶菓子と紅茶を飲んで一息ついてた時だった。




ミタマがポテチをぽりぽり食べている…オレの分まで食べるな!




執務室でテンが資料をみながら、奴隷市場が秘密裏に開催されると、新設された諜報部が掴んだ情報だった。




奴隷市場 


貴族から没落し、奴隷に身をやつした者、人買いに攫われた者、様々な理由はあるが、奴隷市場はその奴隷を売り買いする場だ。


帝国は奴隷の売り買いを表立っては禁止はしていない。だがオレの領土では即禁止にした。




善意でやったわけじゃない。オレの地球での奴隷の生活を思い出して胸糞悪いだけだったから。




「奴隷市場は禁止したし御触れもだしたよな?」




「表立っては…しかし急激に禁止されて地下に逃げたようです。」




テンが奴隷市場が開催される場所と日時もその諜報部が掴んだと報告した。




その諜報員には後で恩賞を取らせるようにとテンに命じた。功があった者には恩賞を…これはテンのアドバイスだ。オレもそれには同感だった。




それはそれとして、


「オレの領土でいい度胸だ…」




「ねーねーなに決め顔してんの?別にかっこよくないわよ?」


ミタマがオレの顔をまじまじと見て言ってくる


「うるさいなっ!」




深夜、オレは一人、とある郊外のビルに来ていた。目立たないようにコートを着て。


そこの扉には表札もなかったがオレは三回ノックした。


ドアスコープからオレを覗く人の気配がある。ドアの向こうから合言葉は?と聞かれたので、


「領主のバカ野郎 イ〇ポ野郎」


と答えるとドアが開き、大男が何も言わずオレを通してくれた。




大男に会員カードを提示し、チェックを受ける。


くそっあんな合言葉決めた奴、重罪にしてやる。それにしても合言葉に会員カードまで調べ上げるとは諜報員できる奴。




部屋の隅には装置が置かれ、オレが武器を持ってないか調べてるようだ。なにも持ってないから当然ここは問題ない。


ちなみにオレは顔を変装して別人になっている。ホログラムで顔を隠せるとは凄いもんだ。




通された場所には階段があり下へ下へと続いていた。


奥へと行くと、広い場所に出た。


昔TVで見たオークション会場のようで、すでに何十人もの人間が椅子に座っていた。


どうやらまだ奴隷の売買は始まっていないようだ。




『聞こえますか?一真様』




テンの能力の一つ念話。脳内に会話ができる優れた能力だ。


盗聴器を耳に仕込んでもよかったのだが、バレる可能性もあったので止めといた。盗聴器を発見できる装置が設置されている可能性があったからだ。




『あぁ 聞こえている』




『我々は すでに予定の場所で待機できています。いつでも突入できます。』




『了解した』


テンと一個中隊もの軍を引き連れて来ている。テンは空中装甲車で待機している。これは優れもので


飛んでいても音がせずまた光学迷彩で周囲に溶け込める。


隠密作戦に適している。 また、なにが起こるかわからないので機動装甲騎も待機している。もちろんオレの村雲もだ。




なぜかミタマも面白がって一緒に来ている。




『私はまだ反対です。わざわざ一真様が奴隷市場に行くなんて』


どーせ潰すんだ。オレの命令を無視する奴らの顔を見て見たかった。


『あっわかった!美女の奴隷が見たいんだ! 裸が見たいんだ!』


ミタマが何か言ってるが、わけがわからないよ。




奴隷の売り買いはほぼ裸のような姿で行われる…らしい。




『なるほど…』


テンがゴミを見るような目でみてる…気がする。




その時、会場の明かりが消され、照明が一人の仮面をつけた男の注がれる。


「お集まりの紳士淑女の皆さま、ようこそおいでくださりました。本日の奴隷は趣向を凝らした一品ばかりでございます。」






「始まったか」




奴隷は次々と現れ、値がつり上がっていく、若い男の奴隷は女が買っていき、女の奴隷はよだれを流した太った男が買う。


オークショニアが競売を白熱させる度に根がつり上がっていくんだが、今回の奴隷にはある特徴があった。




その全てがキメラ…肉体改造を受けているとの事だった。


魔物との融合、戦場でも、また様々な用途にも耐えうるようにと。


胸糞悪い。


「さて本日の最後を飾るのはこの二人!」


見るとボロを纏った二人の女が立たされていた。


おぉっ!と会場がざわつく。それほどの容姿をしていた。


一人は背中に届くばかりの金髪の美少女。藍玉の瞳にぷっくらしているピンク色の唇。


もう一人は肩にかかる程の薄紫の髪の色を持つ美少女。紫水晶を散りばめたかのような瞳。


丹花の唇。


どちらもボロを纏っただけなので体のラインがはっきりしている。美しく豊満でいて引っ込むところは引っ込んでいる。それでいて悩ましいヒップライン。


会場の男たちは垂涎の的だった。






『一真様 よだれ』


おっとオレもその一人になっていた。




二人は絶望な顔…希望などどこにもない顔をしている。




「こちらの奴隷は亡国の王女!名をアーシェラ・ウィル・アスター!。魔王軍に滅ぼされた王国の元王女でございます!」


金髪の方をさしてオークショニアは言った。


「王国の姫として蝶よ花よと育てられ、国民の親愛を一手に集め、剣の才能も騎士以上であったとか


しかし魔王軍に敗れ、奴隷に身を落としました。」




「そしてこちらの奴隷は貴族同士の争いで敗れた某将軍の公爵家のご令嬢!名をティアベル・フォン・ヴェルナー!。権力争いに敗れ一族は反逆の罪を被り、その多くは処刑!彼女自身も信じていた家臣に裏切られ人買いに売られ奴隷となりました!」




皆オークショニアの言葉と彼女達をじろじろと体つきをねぶるように見ている。




「もちろん二人とも処女でございます!性奴隷として扱うもよし!乱暴に扱うもよし!全てはこの奴隷を落とされたご主人様の思い通りでございます!」


オークショニアは小さな短剣を出し、アーシェラと呼ばれた王女の太ももを刺した。


「きゃああああっ!」


刺された箇所から血が溢れ出す。


彼女はそのままその場に倒れる。


「っ!」


『ひっ!』


オレの見ている光景をそのまま見ているであろうテンが悲鳴を出す。




ナイフを引き抜くと瞬時に傷が塞がっていく。




「彼女たちも当然キメラ手術を施されております。多少の強引な責め苦にも耐えれます!」




「では500万からオークション開始でございます!」




「500万5千!」


「600万!」


「700万!」




次々と値がつり上がっていく。


「1000万!」


オレが叫ぶ!


『おい、5000万まで出せるか?』


『一真様…』


はっ!オレはなにを。




「さすがはご領主様 お目が高い」


オークショニアが不適に笑う。




と、会場の客が立ち上がりオレに銃を向けた。


「まさか領主様が釣れるとは…あの者に大金を掴ませたかいがございました。」




あの者…へー諜報員の事か…金で買収されたのか…道理で情報が正確だったわけだ。オレの領地もまだまだだな。




オレは座ったまま微動だにしない。


「本当は誰を招くつもりだったんだ?」


「政庁の高官であれば誰でも…金を掴ませるなり、脅すなり色々と方法はございますから…私どもの仕事の邪魔しないようお願いをするつもりでしたので」




ふぅ…ん。


「つまりお前たちはオレの命令に従わず、裏でこそこそ汚い仕事を続けるともりと?」


「それが私共の生きる糧でございますから…領主様どうでしょう?我々には潤沢な資産がございます。


領主様が望まれるなら我らがあなた様のバックになりましょう その代わり…」




「奴隷市場を見逃せと? お前たちのような悪行 うちの女神様が許さんよ」




その言葉と同時にビルのあちこちが爆破が起こり、武装した陸戦隊一個中隊が突入を開始した。


あっという間に会場を制圧。会場内にいた者たちを捕縛した 逆らった者はその場で射殺された。


終わってみればあっけなかったな。




会場から外に出て報告を受けた。


「ご無事でしたか? ご領主様」


部隊を率いる中佐がオレに敬礼をする。


「ああ 状況は?」


「会場は全て制圧。この場にいる全ての奴隷商は捕縛、あるいは射殺しました。生き残った奴隷商から事情聴取をし、背後にいる者がいないか確認します。奴隷たちは一か所に集めております。どうやら彼らは本物の奴隷のようです。また天狐副官が内通者を逮捕せよとの指令を受け、逮捕しました。」








さっすがテンちゃん有能。後で頭なでなでしてあげよう。本人は嫌がるが尻尾ぶんぶん振ってるから喜んでるんだろう。




その時、手錠され連行されるオークショニアがオレの近くに寄り、


「これで終わりかと思いましたか?」


にやりと笑った。






奴隷たちが一斉に呻き、叫び声を上げた。


身体が隆起し筋肉が膨張、どんどん大きくなりオーガにも似た化物になった。様々な魔物の掛け合わせ


まさしくキメラだった。大きいな8~10メートルはあるか?


近くにいた部隊の兵が潰され、肉塊になる。




「ひゃっははは!これがキメラですよ!この姿になったからには私の命令以外聞きませんよ!」


暴れ出すキメラたち。 混乱の最中、銃で交戦する兵たち。機動装甲騎も鎮圧に乗り出すが数が多すぎる。




「たとえ機動装甲騎といえどこの数のキメラではどうにもできないでしょう!さぁ 領主をこの生意気なクソガキを潰してさしあげなさい!」


キメラはオークショニアの命令を聞きオレに近づき、オークショニアを潰した。




どうやら命令を聞かなくなったようだ




「この手のパニック映画に出てくる悪役の末路ってこんな感じだよな」


でかいキメラはオレをまっすぐ見つめ向かってくれる。


「村雲」


空中から投下された村雲はオレとキメラの前に降り立ち、キメラを殴り倒す。


そのままオレの前で膝をつく。




「いい子だ」




ある程度の動きはAIで動けるからね。ほんとかわいい子だ。




オレは村雲に乗り込むと周囲の映像を見た。


あちこちでキメラが暴れている。


「オレの街で暴れるなよ」




村雲は右手に持つ。陽電子砲をキメラに向けた。その他に両肩のレーザーキャノン。腰のガトリング砲がキメラたちをマルチロックした。




『いやだ…痛い痛いぃい!』


『やめて…もうこんな事したくない!』


『殺して…ころしてぇ”』


なんだ?頭の中に…これは キメラたちの…奴隷の声か?




「あの子たちは無理やり動かされてるだけ…命令をきかせる装置も壊れてしまい、自分でもどうする事もできないようね」


ミタマか…あいつがこれを…。


「でっ?オレにどうしろと?」


「動きを封じるだけならなんとかなるでしょう?」




マルチロックを解除し両肩レーザーキャノンの脇に装備してる巨大な対艦刀を二刀を手に取る。




刀身には魔力文字が施されており、魔力を帯びる。


キメラたちが村雲に襲い掛かる! 足に高速で動くための車輪 高機動速走駆動輪が出て、こちらから迫る!




両手の刀でキメラたちの両腕、両足を切断する。高い回復・修復力を持つキメラと言えど魔力を帯びた刀で切断されそこから焼くので回復も修復もできない。よし!これなら。




オレは村雲で次々とキメラたちを無力化させていった。








ひと際大きなキメラが二体、オレの前に立ちはだかる。


一体は筋骨隆々な巨大なキメラ。もう一体は粘々状の赤いスライムの姿。


『お願い…終わらせて…もうこれ以上この姿を見せたくない』


『苦しい…誰か…たすけ…て』




ミタマが彼女たちの言葉を元の姿にしてオレに見せる。


機動装甲騎並みの大きさのマッチョのキメラが金髪の王女様でスライムの方が将軍の娘、公爵令嬢のようだ。




マッチョな王女様は崩れたビルの破片を持ち上げオレに投げつける。


それを避け振り向きざまに接近し、刀で切りつける、だが凄まじい速さでそれを避ける。


「でかい割によく動くな!」


スライムの公爵令嬢が粘液を飛ばす。左右に動き避けるが地面に当たった粘液が蒸気と音を立てて溶ける。




ビルの壁を掴みビルからビルへ移動するマッチョ王女。


村雲の肩のミサイルポッドからミサイルを発射する。闇夜を照らす閃光が走る!


閃光弾によって視力を一時奪われたマッチョ王女が落ちてくる。


その隙を逃さずオレは両手両足を切断した。




「最後!」


スライム公爵令嬢には刀の魔力文字が光り、村雲は刀を真一文字に振るう!冷気の刃がスライムを襲い、


瞬時に凍り動かなくなった。




全ての騒動が終わる頃、時刻は朝日を迎える。


負傷者の収容、動かなくなったキメラの調査、やることは山ほどあるがそれは部下に丸投げ、というよりオレが出来る事はないしな。




村雲の戦闘データーがとれたとニアは喜びそうだな。


オレは村雲から降り。その足元に腰を下ろしていた。




軍医から報告があり、キメラの治療は難しいらしい。




「どうやら人間体に戻す薬もあるようですが、急激な肉体の変化を無理やりさせるので寿命を著しく消費させるようです。」




「元には戻せないのか?」




「肉体をゼロから作り変えれば…しかしそれにはソーマを使う必要があります。もちろん希釈して使用しますが」




ソーマ 神樹とよばれる樹から採取される素材で作る最上級の回復役 病、呪い、寿命さえも伸ばす事のできるもので肉体の再生など簡単にできるという。


神樹の数が少なく、帝国の管理下に置かれ、その希少性からうすーく希釈したものでさえ、とんでもない値段がつく。




「あるわよ ソーマ」


ミタマが魔法陣から小さなビンを取り出す


中に入ってる液体は無色透明、それでいて淡い光を放っていた。


「おっおおお!これはっまさかソーマの原液!」


軍医が驚きあわてふためく。




「お前…これどこから盗んだの?怒らないから言いなさい」




「それ絶対怒る奴でしょっ!失礼ねぇ 少し力が戻ったから生成したのよ ありがたく使いなさいな」




「はっはい!」


軍医は両手で受け取ると落とさないようにそぉ~っと歩いて行った。




「なぁなぁ ソーマ作れるのか?」


「一日三本くらいかなぁ?」


「これ…商売になるんじゃね?」




朝日を浴びながらオレとミタマは商売の話を始めた。




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