第16話 魔王軍襲来?

パーティ会場も時間が経つと、酔っぱらう者や騒ぐ者 歌い出すものまで出て盛り上がっていく。




ミタマ…お前カラオケ好きだったんかい。さっきからマイクを手放さず歌を歌っている。なぜかうまく皆聞き惚れている。歌ってんの日本のアニソンメドレーなんだけどね。




だがそれを遮る緊急の警報が会場内に響き渡る。これ…なんかデジャヴ。


「緊急警報!魔王軍接近中!繰り返す魔王軍接近中!これは訓練ではない!繰り返す!…」




オレは端末を操作し、政庁内の管制に連絡を入れ状況を聞いた。


「魔王軍2万5千が領内にワープしています!通信で全ての食糧、資源を渡すよう要求しています。」




ん~?魔王軍が要求?




オレは直ちに会議室に向かい、軍を統括する提督、役人、 秘書兼副官の天狐、ティア、アーシェ、そしてミタマが集まった。




「魔王軍が物資の要求をしてくるとは…」冷や汗をハンカチで拭う官僚。


今まで魔王軍は惑星を襲い、略奪することはあっても、通信を送り要求することなどなかった。


この不可思議な行動に提督たちも困惑していた。




「向こうは2万5千 こちらは4千…帝国からの援軍も期待できませんな」


提督の一人が言葉に詰まりながら言う。




すでに帝都に救援の連絡はいってるが正直、間に合わないだろう。巨大な帝国からすれば一辺境が奪われたとて痛くもかゆくもないのだから。




「これは本当に魔王軍なのでしょうか?」


テンがぽつりと発言した。


「というと?」


オレがそう言うと、テンは思った事を言う。


「まず、今までの魔王軍の行動とは違い、物資を要求することです。魔族は好戦的な種族が多く、警告や要求などしませんでした。偵察艦の情報によると敵艦隊を詳しく調べて見ると、数は多いですが損傷した戦艦もあり、とても正規の軍とは見えなかったようです。」




「飢えている…と?」


官僚が発言する。


「我らからすれば2万5千は多いですが帝国に侵攻をするには少なすぎます。恐らく彼らはドゥルガーの軍の残党…魔王領にもいられずこちらに活路を見出して来たのでは…」


テンの言葉に納得がいった。




「最近海賊が消えてるのも、海賊の物資欲しさに残党に食いつかれたか」


ネルの情報と一致し、オレははた迷惑な連中だと思った。




「ですが、お気をつけください。飢えた獣ほど恐ろしいものはないと言います。」






「宇宙港は封鎖したな?」


オレは官僚に指示した事を確認する。


「はい すでに魔王軍襲来の情報は領地に知れ渡ってしまいました。民は混乱していますが宇宙港を封鎖した事で民間船が出る事はありません。軍の邪魔にしかなりませんから」




「民の誘導もしております。…がっ避難が完了するにはもう少し時間がかかります。」




これからの課題が残ったな。


まぁ 今は迫ってきている残党をどうするか…だな。




「要は残党狩りという事でしょう」


ティアが興奮ぎみに言う。


「数だけの烏合の衆、一真様!一番槍の名誉をぜひ私に!」


アーシェがオレに跪き、命を待つ。


「いいえ!ぜひ私に!」


ティアも跪く。




「二人で競争すればいいんじゃない?」


ミタマがぽつりと言う。


「それだ!」


「さすがです!ミタマさん!」


ティアとアーシェが天啓を受けたかのように立ち上がった。


おーい、オレを無視するなぁ。






向こうから攻めてきた以上、反撃するのは当然の権利だ。そこからはテンと提督たちの作戦が提言され、魔王軍をオレたちだけで殲滅することになった。






「グラフ様、向こうから何の反応もありません。」


一真の星を目の前に魔族の艦隊2万5千は待機していた。




魔王軍…魔王ドゥルガーの配下であった提督 グラフは主であるドゥルガーを失って以来、追い詰められていた。ドゥルガーの領土は配下同士で争い、三人の魔王に恭順する者さえ現れ混乱していた。


グラフもドゥルガーの後を継ぎ、領地の拡大を狙ったが敗北し、支配地を追われた。


人間の領土で海賊たちの物資を奪い、小さいドッグで艦の修理もしようとしたが所詮海賊、艦隊の再建までは無理だった。生き残る道は小さな領土を持つ辺境の領主の惑星を奪う事。それに賭けたのだ。






正直、戦闘は避けたい、負傷している兵や艦艇も多い。それゆえに脅しをかけたのだが…目の前の惑星の主はなんの返事も返してこない、惑星を守るように4千程の艦隊が展開している。…戦えば勝てる…だが無傷では済まないだろう。その迷いがグラフの判断を鈍らせた。






その時、部下から敵艦から通信が入ったと連絡が入った。


「モニターに出せ」


グラフはこの連絡が降伏の通信だと思った。これで我艦隊も一息つける、この惑星を拠点とし艦隊の再編・修復を行い、再び我が領地を取り戻すのだ!。


しかしモニターに映ったのは十代にしか見えない小僧であった。しかもふんぞり返り生意気そうな笑みを浮かべている。


「やぁ 始めまして魔王軍の諸君オレは八神一真。この星の領主をしている。」




こんな子供が領主だと!?いや…まて八神…一真だと。


そうだ!この顔見覚えがあるぞ!


「きっ貴様!あの勇者か!」


艦橋内がざわつく。


主を倒し、今の自分の状況を作り出した張本人があの勇者なのだ。




「オレを知ってるって事はやはりお前たちはドゥルガーの配下だったのか?」


「そうだ!いや…今やお前は全魔族の知る勇者よ!」




やっぱなぁ…有名人になっちまったぜ。全然うれしくないけどな。




「よくも我が魔王を…あのような卑怯な技で…」




「あっ? あぁ ナイトメアね。まさか魔王にもあんなトラウマがあるとはね、いや傑作だったよ。」


「我が主を愚弄するか!」


「事実を言ったまでだが?」




「全軍突撃せよ!あの痴れ者の首を取り、ドゥルガー様に捧げるのだ!」






グラフ率いる艦隊は突撃を開始した。


だが…。




「やはり統制はとれていませんね。艦列が乱れています。」




テンが敵艦隊の行動を見て、予測の範囲内の行動だと語る。




オレは自分の戦艦の指揮官の椅子に座り状況を見ていた。


敵の艦隊は縦長に伸び、足の遅い戦艦は後方に、速い戦艦は前に我先にと突出していた。敵旗艦は中央か。こちらが数が少ないと侮っているのだろう。


陣形もくそもない。




「陣形など必要ない!我らが数の上では多いのだ!ただひたすら蹂躙せよ!」




グラフは勝利を疑ってはいなかった。…その時までは…。


突如自分の周りの戦艦が次々と爆発、爆散していった。


「なんだ!」




オペレーターが状況を確認する。


「さっ左翼から敵が…奇襲です!。」


続いて右翼からも敵が中央に急襲を仕掛けてきた。




「慌てるな!奇襲と言っても数は少ない落ち着いて対処すれば…」


百隻程の艦隊で急襲など…だが敵本隊から一点集中砲火が浴びせられた。




前にいた艦隊が光の粒子、続いてミサイル群によって次々と撃破されていく。


高速艦というのは速度を出すため装甲を薄くしているという弱点がある。




急襲をしかけて来た右翼、左翼艦隊から機動装甲騎が発進し、次々と中央の艦隊を食い破っていく。




「こちらも魔装騎兵を出せ!」


だが二体の機動装甲騎が凄まじい戦果を挙げていく。




魔装騎兵のコックピットを執拗に持っている実剣で突き刺し、踏みつける。


「こんなものか?魔族、もっと私を楽しませろっ!」


ティアが次の獲物を選ぶと愛機の操縦桿を握り直した。




アーシェが駆る機動装甲騎が速度を上げて敵戦艦に接近する。対空砲火が嵐が降り注がれるが見事な回避運動をしながらビーム砲で戦艦の艦橋を撃ち抜き、対艦刀で縦一文字に戦艦を切断、機動装甲騎が通り過ぎると爆散した。




「私の目の前にいる魔族は皆全て!殺してやる!」


アーシェは肩に装備しているミサイルポッドからミサイルを発射、ロックオンされた魔装騎兵を落としていく。




「なんなんだ、なんだんだコイツらは!? ただの辺境惑星の私兵軍だろ!?」


グラフには理解しがたい状況になっている。たった4千程度の軍が2万5千を翻弄している。




「敵本隊、突撃してきます!」


前にいた艦隊を蹴散らし、紡錘陣形で敵艦は突撃をしてきた。




「ひっ!」




八神艦隊の砲火がグラフの旗艦に標準を合わせ今まさに、光の粒子が射出される…だがその戦艦が爆散した。




グラフ艦隊の後方にいた大型戦艦、、重装甲戦艦らがグラフを助けに入った。大型艦ゆえに速度は遅いが重火器を搭載できるため火力は高い。


グラフを守るかのように次々と陣形を整える。




「ちっ」




「くそがっ!」


アーシェもティアも割り込まれた形になり、一時後退した。




「やるじゃないか」


オレは敵を評価した




紡錘陣形で突撃したオレの艦隊と敵大型艦隊で正面からの砲撃戦でがりがりと双方が戦力を減らしていく。




「グラフとかいう敵の将の采配ではないでしょう…後方の艦隊を指揮している者でしょうか…」


「いずれにしてもさっきの突撃で決めるつもりでしたが…やはり実戦は思い通りにはいきませんね」




しゅんと耳を横に尻尾を垂れ下げるテン


九尾一族は成長と共に尻尾を最終的に9尾になるとか、尻尾の数がそのまま魔力の高さを示すらしい、


テンは一本しかないが…それでも黄金色で美しい毛並みをしてる。




オレはテンの尻尾を付け根から先へと撫でた。


「ひゃんっ!」




テンが叫びぞわぞわっと毛並みが逆立つ。


普段から手入れしているのか柔らかく、もふもふだった。


「場所をわきまえてください!ここではダメです!」




えっ?他ならいいの?


「悪い、つい触ってみたくなった。」




「セクハラ!せくしゃるはらしゅめんと!」


当然のようについてきたミタマが騒いでる。




こほんっとテンが落ち着きを取り戻した。


「戦闘が長引けば戦力が少ないこちらが不利です。」




なにか決定打を撃たなければ…テンが言葉にし、考え始めた。


「オレが行こう」




「っ!お待ちください!総大将が前線に出るなどありえません!」


テンが必死に止めようとする。まぁ普通はそうだろうな。




「だろうな…だけど村雲が暴れたがってるんだよ」




テンがミタマの側に行き、コソコソ話かけた。


「ミタマさん…一真様がおかしな事言ってます。病院に連れ行った方がいいんでしょうか…頭の方の」




「違うわよ。あれはね 中二病って言うの、男の子なら誰でも通る道なの。それで過去を思い出して恥ずかしくて死にたくなる病気よ。大丈夫、ほっとけば治るから」




おいこら。


なぜか…感じるんだよ、オレが高揚感に満たされるぐらいに…あいつが暴れたがってる事が…。






グラフの艦隊は混乱から落ち着きを取り戻しつつあり、陣形を整えていた。


「…ふぅ 」


なんとか一息ついたグラフは後方の艦隊に感謝していた。


「感謝する タナトス殿」


スクリーンからタナトスと呼ばれる指揮官は無骨な提督と知られていた。




「いえ…しかし敵も随分とやるものですな」




「あの勇者の指揮か…それとも有能な部下がいるのか…」


だが数はまだまだこちらが優勢だ。総力戦は避けたかったが…。


「司令…私の艦隊の指揮をお願いします。」


「タナトス殿?」




「私は本来 魔装騎兵乗りからのし上がった者。 我が戦場はやはり魔装騎兵の中にある。」




「…承知した」


やはり生まれながらの戦士だな。…だが嫌いではない…と思うグラフであった。




タナトスの駆る魔装騎兵は装甲が厚く、従来の魔装騎兵よりも大きい機体で、巨大な斧を両手で持っていた。


「ぬぅん!」


それを軽く振り回す。機動装甲騎を縦に引き裂いていく。






「タナトス様につづけぇ!」


周囲の魔装騎兵が勢いづく。


だが、タナトスの周りにいた魔装騎兵が瞬時に爆発した。とてつもない速さの機動装甲騎が落としていく。




「なにぃ?」


黒い機動装甲騎がタナトスの前に現れる。


「活きのいいのがいるじゃないか」




「何者だ!」




「八神一真」




「勇者か!」




「お前の性能テストに丁度いい相手だな なぁ?村雲!」


ツインアイが光り、タナトスに迫る!。




操縦桿を握り、オレの思い通りに動く村雲、機動力で相手を翻弄し、ビームライフルで正確に魔装騎兵の装甲を貫いていく。




「そこだぁあああ!」


タナトスは傷つきながらも相手の動きを予測し、村雲を捉えた!巨大な斧を振り下ろす、だが村雲は左手で斧を砕きながら受け止める。斧の強度を村雲はいとも簡単に片手で砕いた。




「見事なもんだ だが…」


村雲の背に装備されている刀を抜く。




「タナトスさまぁああああ!」


魔装騎兵がタナトスに援護に回ろうと集まる。




村雲の両腕、肩、足の装甲が開き、魔力を収束させたレーザーが無数に射出され次々と魔装騎兵を爆散させていく。その中をかいくぐる魔装騎兵もいた。




だが背後からアージェ、ティアの機動装甲騎が残りを片付ける。


「あのお方の邪魔はさせない!」




「一真様、お供します!」




「ぬぅううう」


タナトスはこのまま勇者事自爆しようとした。


だが…村雲の刀がコックピットを貫き、そのまま上に切り裂かれた。




「…あれか」


村雲が敵旗艦を捉える。




「タナトス…」


グラフは戦友が死んだ事にショックを隠せないでいた。艦隊の指揮を執る者は感情を出してはならない。


部下の動揺に繋がるからだ。だが…信じられない状況にグラフは立ち尽くしてしまった。


「敵機動装甲騎 こちらに向かってきます!」




「撃ち落とせ!」


副官が命じる。村雲のブースターが加速し、光学兵器が雨となって村雲に降り注ぐ、それら全てを回避し村雲は刀に魔力を注ぐ 膨大な魔力を背中の排出功から噴射し、刀の魔力文字が輝く、刀身に魔力が溢れl巨大な刃となって旗艦に迫る。




「あっあぁぁああああ!?」


グラフの最後は言葉にならない言葉であった。


村雲は魔力刀を振り下ろすと敵旗艦を真一文字に切り伏した。




爆散すると。周囲は一瞬静寂に包まれた。




「…ふぅ」




「敵旗艦は落とした!これより殲滅戦に移る。蹂躙せよ!」


敵は右往左往に逃げに回り、オレの艦隊は逃さず蹂躙していった。


皇女が言っていたセリフ。一度言ってみたかったんだよな。蹂躙せよ かっこいい。


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