第37話星喰い2

アステリオン軍偵察艦隊、魔族領と帝国領を定期的に偵察する艦隊であり、高速艦・駆逐艦からなる編成である。


定期的に巡回をし、なにか事態が起きればただちに本星に連絡するのが役目となる。




魔王同士の対立が起きているので帝国に侵攻する気配はないが、いつなにが起こるかわからない状況であるのは変わらない。




「司令、どうぞ」




「うむ」


侍従が持ってきたコーヒーを一口飲む。指令はモニターに映し出される宇宙へと目を向ける。




このまま進めば魔族領である。だが宇宙は静寂そのもの。


平和と言える…だがこの先は人類の敵、魔王が治める領域で、できれば指令にとってもすぐに帰りたい気持ちはある。




「んっ?貴様は歳はいくつだ?」


コーヒーを持ってきた侍従の見た目が若いので思わず聞いてしまった。




「18になります」


若いな…指令はそう思った。いや…領主様も確か同じ歳だったはず…麒麟児という言葉があるが、あの御方は…いや英雄に歳は関係ないのだろう。




「志願したのか?」


「はい…自分は軍医を目指しています。父も軍医でした…駆逐艦に乗っていましたが魔王軍との戦いで…」




そうか…と言って指令はコーヒーを飲んだ。悪い事を聞いたと思ったがこんな子供はたくさんいる。


軍に入れば衣食住は保証される。また勉学も無料となるので、志願する者は多い。




「軍医になったら私の主治医になってもらおうか」




「司令はお酒の飲みすぎでは?」


副官がつぶやく。


苦笑するブリッジの面々。


「おいおい、酒は人類の友だぞ。私に友と別れろというのか」




どっと笑いに包まれるブリッジ。だがその時警戒音が鳴り響く。




オペレーターが状況を確認するも驚愕し何度も端末を操作し間違いがないか調べる。




「どうした?報告しろ」


司令が冷静にオペレーターに聞く。




「ちょっ直系およそ45km!しっ質量50兆トンの物体がこちらに移動してきます!」




「45km!?惑星でも動いているというのか!」




モニターに出されるそれは黒い球体であった。確かに動いている。




「司令…これは」




「本星に直ちに連絡しろ!我々では判断できん」




「はっ!」




「艦隊は後退!監視だけでいい!敵対行動はとるなよ!」


まさか魔王軍が動いたのか?あれは魔族領から来た。であるならば魔王軍と考えるのが自然だが…。




司令はその判断は自分がするべきものではないと考え、謎の球体の監視を続けた。








惑星アステリオン。季節は夏。


オレが一番嫌いな季節だ。


暑いし、食材は腐りやすいし、この星にもセミはいるのだがミンミンうるさいし、とにかく暑いのが嫌いだ。


領主のオレは冷房が効いた部屋で外には出ず一日中まったりしたい。


公務?部下に丸投げだ。


ミタマも暑いのは苦手らしくかき氷をしゃくしゃくと食べている。時折食べ過ぎて頭を抱えている。




「お前、そんなにかき氷ばっか食べてるとぽんぽん痛くなって大変だぞ」




「バカねぇ 女神たる私がそんな事になるわけないでしょ」




「おあよぉ~ございます」


テンがぐったりしながら執務室に入ってきた。耳が垂れて尻尾も元気がない。どうやら彼女も暑いのは苦手のようだ。




屋敷内は冷房が効いているから外に出てたのか。


シルフィが入ってきて麦茶を持ってきてくれた。テンが「ありがとうございます」と言って一気飲みしている。




「この暑さでトマトが豊作らしいんですけど、元気が良すぎて暴れるって言うから見て来たんですよぉ」




暴れる?トマトが?


「あー活きがいいだろうからねぇ」


ミタマが頷く。


何を言ってるのか理解できない。




「収穫が楽しみですね」


シルフィまで…。




「トマトもいいけど夏ならスイカかメロン食べたいなぁ」


オレがぽつりというとその場の雰囲気が変わった。なんだ?重たくなった?




「スイカ…メロン…ですか」


テンが厳しい目つきになる。




「機動装甲騎が必要になりますね」




シルフィも険しい目になる。


なんで?スイカだよ?メロンだよ?




「あんた、すっごい事いうわね」


ミタマが呆れる。




なんで???。


後で知る事になるが、もちろんスイカもメロンもトウモロコシもある。ただ収穫期になるとやつらは合体してロボのようになり襲ってくるという。


その時期になると軍に協力要請が出て、機動装甲騎が出撃する事になるという。味は絶品らしい。




地球の感覚で物を考えちゃいけないんだよな…うん。




話題を変えようと端末を操作し、セバスを呼び出す。




「セバス準備はできてる?」




「はい万事抜かりなく」




「なになに?食べ物?」


ミタマが聞いてくる。いやお前さっきかき氷食べてたろ。




「プールだよ」


プール?そんなのあったっけ?首をかしげるミタマ。




「作った。」


広すぎる屋敷だ。その一角を工事していても気づかない者も多い。




やっぱ屋敷にプールはつけたいでしょ!




室内プールにしたので雨だろうがまた空調も完全にコントロールできるので冬だろうが関係なく楽しめる。


流れるプールとかウォータースライダーとかつけたレジャー施設にした。




ミタマが気に入りさっきから流れて来てる。




テンもスク水のような水着を着て浮き輪の上でぷかぷか浮いている。




シルフィも白のワンピースの水着を着て、楽しんでいる。




今日は無礼講という事で屋敷のメイド達にもプールを解禁している。皆楽しんでくれているようだ。


あーいいね、女性がきゃっきゃっしてるのは…男?そんな水着見たくないよ。オレはプールを楽しんだ後、用意されている果物を食べた。…これ…みんな農家の皆さんが格闘して採った物だよね…農家さんも大変だ。




桃もあるな…これって確か収穫期になると爆発するから採るの大変だって聞いた。…爆発って…。




あっ美味い。桃独特の甘い香りと甘さが口に広がる。




「今度桃を使ったデザートとか作ってみたいです」


桃を食べてるとシルフィがプールから上がって近づいてきた。




水に濡れてる水着姿のシルフィはなんというか…エロいな。




「なになに?なに食べてるの?あっ桃、私にも頂戴」




ミタマも来てオレから桃を奪っていく。おまえなぁ…。


ビキニを着て似合ってもいるがコイツは変わらないな。




「とぅ~っ。」


プールに飛び込んで大きな水しぶきを上げる者がいる。浮かび上がってきたので見るとニアだった。


あいつもなぜかスク水みたいな水着を着てる…小さい体型だとあれなのか?


「あ~~っ気持ちいい~」


おっさんが風呂に入った時のような言葉を出してるし。


色々溜まってるんだな。




ティアとアーシェも今日は軍務なのでいない。静かでいいね。あいつら揃うと必ずと言っていいほど喧嘩始めるからなぁ。




「一真様ちょっと聞いてくださいよ!あのブラトーって人なんとかしてください!」


おっとニアがいつの間にかオレの横に来て桃食べなら苦情言ってくるぞ。




食べ方がリスみたいだな。




「自分の機体をカスタマイズしたいって言うから注文通りしたらあれが違うこうしてくれだの言った通りにしてもなんか違うんだよなぁとか文句ばっか」




あー。なんかティアに模擬戦で負けたとか聞いたな。あいつ案外負けず嫌いなのか?。






いっその事原子爆弾でもかかえこませようかしら?とか物騒な事言ってるし。




「もうちょっと付き合ってやってくれ。あいつのこだわりで強くなるなら軍の強化にも繋がる。」


一個人の戦力はたかが知れてるが、その個人の奮闘で士気が上がるからなぁ。




「…一真様がそう言うならそうしますけど…」


ぷくぅっと頬を膨らませるニア。しぶしぶと承知した感じか。




「所で古代遺跡からまた色々発掘したと連絡があったらしいな」




テンが桃を咀嚼しながらあわてて端末を操作する。




「はっはい 発掘した中にまたフレームが何体か見つかったようです。」


発掘品はラボにて解析と分析が行われ、その後にいかされる。




「あっフレームはこちらで引き取りますよ。量産機にも使えますしね」


ニアはブラトーの件より、新型の開発の方がいいらしいな。






そんな中、緊急を伝える一報を受けたのはその後10分後であった。


政庁からオレに端末からホログラム映像でその報告を受けた時、意味が分からなかった。


「星喰い?」




数時間後、オレは執務室に主だった者を招集した。




秘書のミタマ、艦隊の指揮をしているアーシェ、ティアはモニター越しでの参加。国防総省本部にいた紫藤純佳、他に軍部及び政庁の役人、幹部達。皆が緊張の中、ミタマはシルフィが運んできたチョコレートケーキを食べていた。




「でっ状況は?」




軍の幹部が映像を出し、星喰いと呼ばれる物体をホログラムで見せる。




大きな黒い球体だ。周りの星々を反射し映し出しているのか、球体に星々が映し出されている。


うちの偵察艦隊からのリアルタイムの映像だ。




映像が出されるや、一同に動揺が走る


「あれが…星喰いか」


「あんなに大きいのか…」


「偵察艦隊の報告によれば直系直系およそ45km!質量50兆トンの物体でありまさしく星と言っても過言ではありません」




「星喰いはいつから存在するのか。また何を目的としているのかは不明です。ただどこからか現れ移動し星を食らうとされています。様々な説があり、生物であるとか魔族の秘密兵器であるとか…」


テンが補足説明する。






「私は魔族の兵器とは思えません。なぜならこんな兵器があるならもっと効率よく使っているからです」




まぁそうだよなぁ。どの魔王の兵器かはわからないが帝国領に侵攻するにせよ、魔王同士の戦いに使うとしてももっと使っていたはずだ。もっとも憶測の域を出ないし、秘密兵器という事もあり得るが…




「諜報部の情報では、魔王同士の戦いが起こそうな時に戦力を削ぐのは得策ではありませんし…魔族側として考えるなら…魔王の領土争いが片付くまで帝国に侵攻させないためには…帝国内で内乱でも起こさせるのが一番です。わざわざ国境付近でこんな星喰いを使う意味がありません」




諜報部…うちの暗部が調べた情報だな。魔王リリスと魔王ヴリトラが同盟を結び最大勢力のアスラとの闘いが近いらしい。




そんな中あんな兵器を国境に移動させたら、星喰いに対抗するため帝国軍を集結させてしまうからな。


…なるほど星喰いは魔族の兵器ではない…か。






「こちらをご覧ください」


幹部が別のホログラムを出した。




「これは星喰いが惑星を食らう貴重な映像です。今より450年前の記録です。」




黒い球体星食いが移動しながら惑星に近づく、映像ではゆっくりと見えるが実際はものすごい速さで近づいている。球体の真ん中が開き、タコの口のように見えた中が、らせん状の牙が凶悪さを彷彿させる。




そのまま惑星を吸い込み、砕き、咀嚼していき、まさしく星を食らっていった。




「この時、星喰いの接近をいち早く察知できたので、この星の住民の9割は逃げ出せたようです」




逃げ出す船に乗り遅れた者、浮浪者などが置き去りにされた…か。




「しかしあの姿は生物に見えますね」




アーシェが感想を言う。




「あんな生物が存在するのかしら?」


純佳が続く。




「宇宙には我々が想像もできに存在がまだまだいるという事ですね」


テンがぽつりと語る。




確かに帝国は広大な版図を支配下におく巨大な国家だ。魔王領にしても…だ。しかしそんなの宇宙のほんの一一部分に過ぎないだろう。




自分らがこそが、この宇宙の支配者などと思ってるならそれは傲慢に過ぎないだろうな。




「あれが生物なのか誰かが作った物なのかは今後の学者の研究に任せるとして…さてどうする?」


 


オレの問いに皆の意見を待つ。




「このままの進路を取れば、フィオーネ殿の領地に侵入します」


テンが星喰いの予測進路をホログラムぬ表示する。




「今までの傾向だと、星喰いは一つの惑星を食らうといずこかに姿を消すようですが…」


幹部が言う。


つまり進路上の星をわざと食わせてどこかにお帰り頂くというのもある…という事か。その星の住民を退避させる時間はあるだろう。 うちから助ける事もできるし、望むなら資源惑星に移住もできる。




「一真様」


すると魔法陣が展開しそこから無名が姿を現す。


「あの星喰いは魔族領の星をすでに捕食しております」




「という事は…今回は星一つではなく」


ティアが驚く。




「今までの前例には当てはまらないという事ですか…」


アーシェが顎に手をやり、考えながらつぶやく。




「随分を大喰らいのようだな」


オレは呆れて言う。






被害が一つで済まない可能性が出て来た。そうなるとこちらも黙ってはいられない。




「叩き潰すぞ」


オレの一言に皆の顔付きが変った。




「艦隊の出撃準備にかかります。」


「国防総省本部に緊急連絡致します。」


「連合に加盟している惑星。領主にも通達」


「マスコミも抑えとけ、あいつらが好き勝手やると混乱するだけだ」


「全軍に補給物資の確保は充分か?」


「星喰らいの予測進路を再確認しろ」




うーんいいね。オレの一言でみんなテキパキ動いてくれる。


持つべきは有能な部下だわ。


「これよりアステリオン軍は第一種戦闘配置に以降します。相手は星を喰らう化物です。未知の相手には戦力の逐次導入の愚は犯せません。予備兵力を含めた全兵力を導入する必要があると具申します。よろしいですか?一真様」


テンが確認する。




「オレの領地で好き勝手はさせない。やるぞ」




「「「「「はっ!」」」」」




「ねぇシルフィ、チョコレートケーキおかわり頂戴、あと紅茶もね」


「はっはい!」




…しまらねぇ…。










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