第36話星喰い
そこは、かつて魔王軍と帝国の戦場後であった。
漂う帝国戦艦、魔王軍の戦艦、機動装甲騎、そして魔装騎兵の残骸。
新兵の訓練の的には事欠かず、そして死ねばこうなると決意と覚悟を示すにいい練習場となっている。
ティアに指定された時間にブラトーは自身の愛機であるクラーケンと言う機動装甲騎に搭乗してこの宙域に来ていた。
彼女もすでにこの宙域に来ているはずだ。
索敵レーダーを先ほどから使用しているが、ティアの機体は関知できない。
残骸から今だにエネルギーがわずかに放出し、レーダー機器が使い物にならないでいるのだ。
「ったく…しょうがないなぁ」
レーダー機器や魔法による魔力探知も無駄のようだと…パイロットの勘に頼るしかない。
戦場で生きて来た者にしかわからないピリピリと肌を突くモノを感じる。
科学的にもまた魔法学にも立証されていないものだが、確かにあるとブラトーを始めとする戦士は思っている。
二人が模擬戦をする場所から少し離れた所に第三艦隊旗艦カグチツがいた。
護衛の艦隊数隻伴っている。
艦隊のクルーほぼ全員が二人の戦いの様子を固唾をのんで見守っている。
「どっちが勝つと思う?」
「そりゃぁ提督だろ 今までティア提督に勝った奴見たことねーよ」
「でもあの新入り、凄腕の傭兵って聞いてるわよ」
「あぁ 聞いたぜ、なんでも一真様がスカウトしたって」
「ほんとかそれ!領主様が」
クルー達がざわつく中、一人の男が賭けを始めた。
「ティア提督が勝つか、傭兵のブラトーが勝つかさぁ!賭けた!」
「こっちだ!」
「私はこっち!」
「じゃあ…俺は…」
旗艦でそんな事が行われている中、ブラトーは無断な探索レーダーを切っていた。
音もなく…見えるのは周囲モニターが映し出す残骸…。
静かに…神経を研ぎ澄ませる。
クラーケンは宇宙空間に漂う様に…残骸の中にあった。まるで残骸の一部のように…。
その時、背後からぞっとすつような悪寒が走った!。ブラトーは考えるよりも早く体が動き総樹幹を握る。
クラーケンは即座に反応し、その場を離れる。
すると背後から模擬弾がクラーケンのいた場所に撃ち込まれる。
体勢を整え、クラーケンは型のミサイルポッドからミサイルを撃ち込んだ位置に撃ち込む。もちろん模擬弾のミサイルで当たっても爆発はしない。
しかしティアが撃ったであろう場所にはすでにその姿はなく。また見失ってしまった。
「いい反応だ」
ティアからの通信が入る。
すぐ近くにいるのはわかる。だがどこにいる?
「そいつはどうも」
「今度は機動力勝負といこうか」
ティアがそう言うと。右側にある轟沈した戦艦から光が走る。
ティアの専用機 幻兎が姿を現す。
ブラトーは速度を上げ上昇する幻兎をロックすると肩と腰、そして手に持つミサイル、マシンガン、レールガンを一気にフルバーストした。
凄まじい、弾幕と光の帯が幻兎に襲い掛かる。しかしティアが駆る愛機はそれらを全てを置き去りにした。
「まじかよ」
「俺は重装甲が好きなんだけどねぇ」
クラーケンは重い武器を装備して火力を底上げし、それに耐えうるよう重装甲を身に帯びている。
ブラトーはこの高火力で相手を粉砕するのが好きなのだが…一真やこのティアのようにそれらをものともしない者がいる。
装甲をパージし、クラーケンは身軽になる。いやこれが本来の姿といえよう。
クラーケンは上昇し加速するティアの幻兎を追う。
幻兎から手に持つ銃から弾丸が放たれる。
それを寸前にかわすクラーケン。
すかさず反撃に転ずる。
だが幻兎も少ない動きで全て避けてしまう。
「速っ」
「まじかよ!幻兎に追いつくんじゃないか!?」
クラーケンが幻兎に迫る光景をモニターで見ているクルー達は驚愕した。
今までここまでティアと戦い続ける者はいなかった。
「これってまさか…本当にティア提督負けちゃうんじゃ…」
「嘘でしょ!私ティア様に賭けてるんだけど!」
「俺だってそうだよ! やべーよ一か月分の給料が!」
「お願いです!ティア様、勝ってください!家計が…嫁さんに怒られる!」
クルー達の悲痛な応援がティアに送られる中、幻兎とクラーケンは接近しつつ射撃をする。互いに遠距離攻撃をかわしながら近づき、幻兎が腰の剣を抜き、クラーケンも両手に仕込まれた剣を出し幻兎の剣を受け止める。
剣を交差しつつ、ティアは笑みを浮かべる。
幻兎が蹴りを繰り出し、クラーケンを吹き飛ばす。
即座に体制を整えるがティアが駆る幻兎の追撃が速い!。
とどめの一撃が繰り出されようとした時 ティアの視界が光りに包まれる。
クラーケンが閃光弾を上げたのだ。至近でそれを食らったティアは一時的に視界からクラーケンが消える。
「もらった!」
ブラトーは幻兎に向かって銃を放つ。だが幻兎は素早く上昇しそれを避ける。
視界が奪われようと、ティアは勘で即座に上昇したのだ。
視界が少し回復するが未だにぼやける。だがこれもすぐに治るだろう。
下からクラーケンが模擬弾を撃ってくるが、ティアはそれを避けて回転すると操縦桿を握りしめ加速していく。予備のエネルギーパックを投げつける。クラーケンではなく周囲にあった残骸に。
投げたエネルギーパックを模擬弾を撃ち抜くと残骸を巻き込み爆発する。
模擬弾であっても予備のエネルギーパックを貫く貫通力ぐらいはある。そして誘爆するが小さなものである。だが浮遊する残骸を巻き込み小さな破片などを無数に周辺にまき散らす。
「ぐっ!」
それをまともに食らったクラーケンは大きく体勢を崩す。
破片が関節部に突き刺さり、一瞬の隙が出来てしまった。
それを見逃さないティアはクラーケンに銃を撃ちこむ。
胴体部にペイントがべっとりとつき、模擬戦は終了する。
「あー…参りましたー」
「…ふむ、まぁ楽しめた。」
「お…おぉおおお!」
「やったぁああああ!」
クルー達の叫びが木霊した。
旗艦に帰った両者はそれぞれドッグに収容される。
整備員がクラーケンの状態を見て絶句する。
「これ…本当に模擬戦なんですか?まるで実戦に出たような損傷してるんですけど…」
あちこち損傷していて、なにより関節部の破片の除去が大変だと整備員は思った。
「悪いねぇ…相手の女性が激しくて…ね。ありゃ夜の方も激しいんだろうねぇ」
クラーケンから出て来たブラトーは整備員の所で損傷の確認をしていた。
軽口を叩くブラトーであったがその目は笑ってはいなかった。
「所でさ」と言ってブラトーは整備員をぐいっと肩に引き寄せる
「なっなんですか?僕にそっちの趣味はありませんよ」
「俺もそっちの趣味はないんだなぁ。一真の旦那の所には腕にいい整備員がいるって聞いたんだけど…」
「ニア・ニーイ・ニージルズ中尉の事ですか?確かにあの人は凄腕ですけど」
「そう…っちょ~っと紹介してくんない?」
「いいですけど…何する気ですか?」
訝しむ整備員、ニアの整備、改良、改造はアステリオン軍の中でも有名であった。整備員はニアにブラトーがちょっかいを出すのではないかと心配になった。彼女はあれでもファンが多い。しかも自称一真の愛人と言ってるので手を出す者はいない。
「このまま負けっぱなしってのは嫌いなんでね…」
密かに再戦を望むブラトーであった。
「ん~~っ!」
自室にてティアは腕を伸ばし、ベッドにダイブする。パイロットスーツを脱いで、脱ぐといっても端末で操作し、一瞬で下着に着替えられるので今のティアは下着姿だった。
誰に見せる予定もないので、色気のない黒の下着である。
いつか一真の夜伽のためにいわゆる勝負下着も用意している。…いつ使うかは未定ではあるが。
ティアは女性用の下着の通販で眺める時がある…。
一真はどのような下着が好きなのだろうか? いっそ夜這いしてみようか…だが未経験の事なのでまた乙女としてそれはダメだろうと思いとどまるのである。
皆が恐れ敬う提督が普段、こんな妄想してるとは誰も思うまい。
普段の軍務より開放されての一パイロットとしての模擬戦は彼女にとってのストレス発散になる。
特に今回の相手はよかった。あのぎりぎりの戦いはなかなかお目にかかれない。
ブラトー自身は嫌いなタイプだが機動装甲騎の腕は認めるところであった。
心地よい疲労感だが、このままでは汗で気持ち悪い。彼女はお風呂が好きなので、ベッドから起き上がり提督の大きな部屋に備え付けてある風呂に向かった。
魔族領とある宙域。
魔族の商船が護衛の船を伴って、航行していた。
乗っているのは、魔族、亜人など異種族である。
ダークエルフの用心棒の女性は豊満な体を見せつけるような薄着の服装でブリッジに来た。
「船長…もうすぐ目的地だな」
船長と呼ばれた男はゴブリン族の男で、商いを始めて50年ほどである。
宇宙では50年などあっという間に過ぎる時間であり、まだまだこのゴブリンは新参者扱いである。
商いの丁稚奉公でイロハを叩きこまれ、雑用にこき使われ、ようやく独立し、なけなしの金でレンタルではあるが船を持ち、商いを始めた。昨今はどこもかしこも治安が悪くなり物資の需要が多くなった。
武器が一番の人気商品ではあるが、それは大手の武器商人や国と取引している工房の独擅場となっている。
とてもじゃないが新参者の彼が入っていく隙などない。
魔王同士の勢力争いがあちらこちらで起きれば、それは商人にとってのかき入れ時だ。
なにも武器だけが求められるわけではない。 衣料品、食料、衣服などなど様々な物が求められる。
ゴブリンの商人が向かっている星も戦争で疲弊した星だ。船に山と積んだ物資がきっと高く買われるだろう。
当然、そんな時だ。商船が単独での航行など危ない。ゆえに多少高くつくが腕のいい用心棒を雇うのだ。
大丈夫、利益は出る。戦乱万歳だ。…とゴブリンの商人は思った。
いずれはもっともっと人手を増やしどんどん利益を出すのだ。いずれ…自分の店を持つために…。
「惑星マルダス あそこは美しい星でねぇ 私は好きなんだよ」
何度も訪れた事がある緑と水が豊富な星。様々な種族が住んでいる星だ。
魔王ドゥルガーが支配していた星だが…今は確か…魔王ヴリトラの支配地となっていたか…。
「魔王の一人が倒されてから、なんだか嫌な空気になったよ…あたしら用心棒にも軍に加入しないかって話がひっきりなしさ」
ピリピリした空気は誰もが感じ取っていた。
「話しに乗って軍に入る奴も多いって聞くね」
あんたは入らないのかい?と船長は聞く。
ダークエルフは呆れながら
「軍に入って一旗上げたいってバカな奴らだろ?。あたしは自分の仕事は自分で選ぶよ。軍に入って命じられるまま死ぬなんざ御免だね」
「ちげーねぇ」
そんな話をしていると目的地に着いたと船のAIが教えてくれた。
「んっ?」
「どうした?」
見るとブリッジのモニターには何にも映っていなかった。
画面にはいつものなら美しい星が表示されるのに…。
「座標はあっているのか?」
ダークルフは訝しみながら聞いた。
船長は座標を見て、ここが目的地であると確認した。
「…どういう事だ?マルダスが…消えた?」
「星が消えるなんて事ありえないだろう」
ダークエルフは自分の船にも確認を取るが、ここが惑星マルダスであると確認された。
「そういえば…なんだこの小惑星の多さは」
小さな瓦礫のような岩があちこちに浮遊していた。
「んっなんだあれは…?」
ダークエルフがモニターに映る物体を見つけた。
見るとそれは黒い球体であり、オペレーターが端末を使い詳細を告げてくる。
「直径およそ45km惑星級です。…うっ動いています!」
「なんだと!?あれは一体…」
「おい!船長、そんな事より逃げた方がいい!やばい予感がする」
修羅場を幾度も潜ったダークエルフは焦りながら船長に迫る。
「あっ…あぁ…そうだな ただちに反転し、」
だが船長はそれ以上言葉を続けられなかった。
突如現れた巨大な人型が船長の船に取りつき、大きな顎を開き、食らっていった。
護衛の船もなにが起こったかわからないまま捕食されていった。
「星喰い?」
魔王ヴリトラが支配する領地 魔都リグ・ヴェーダ。ヴリトラは自身の城でおかしな報告を受けた。
「はい…どこからともなく現れ、星を食らい、またいずこかへと消えてしまう。生き物なのか…帝国が造った兵器なのか…詳細が不明なのです」
執事が困りながら昼寝をしていたヴリトラに説明する。
「惑星マルダスが食われたようです」
「ほほぅ…それは凄いじゃないか」
にやにやを笑みを作るヴリトラ。
「俺が倒してやろうか…いや…生き物ならペットにでもしてやろうか」
冗談とも本気ともつかない主の言葉に執事はため息とついてしまう。
「でっ?その星喰いはどこにいる?」
「どうやら、帝国領に向かったようです」
「ちっ」
不機嫌になるヴリトラ、帝国領に行ってしまえばおいそれと手出しができなくなる。ましてや魔王アスラとの決戦が迫ってる時に無駄な戦力を削げない。
「ふぅ…む…そうだ捜索隊を編成しろ」
「はっ?」
「帝国に向かうならそれでもかまわん。 星喰いがどうなるか…見届けたい」
「承知致しました」
執事は深々と頭を下げ部屋を出て行く。
「さて…帝国はどう出る?」
ヴリトラは星喰いがどこまで帝国に被害を出すのか?執事が言う様に帝国が製造したものなのか?…いや…恐らく違うな…帝国が作った物ならこの時期に星一つ潰しただけで帰るのか?なんの戦略的価値のない星を…。
生物であったのならおもしろい…ぜひ欲しいと思うヴリトラであった。
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