第35話使える?傭兵

「でっ海賊とかの討伐依頼とかで食いつなごうと思ったんだけど、それも旦那の所が追い回しててここら辺だと依頼すらなくなるし。ほんとどーしてくれんの?」




ぐちぐちと愚痴を言い始めるブラトー。コイツ先に来た餃子とビールでいい感じに酔っぱらい始めた。




「ふーん 大変だな」


オレは一口餃子を口に運ぶ。野菜と肉のうま味が口に広がり、醤油にお酢とラー油が餃子の味を際立たせる。


美味い。テンは猫舌なので、ふぅふぅとしてから食べ餃子の美味しさに微笑んでいる。




「むかーーーーし冒険者登録してたから傭兵辞めて冒険者に戻ろうかなぁ…でもなぁ ダンジョンとかに機動装甲騎入らないしなぁ。いまさらキノコ採取とか薬草採取とかやりたくないしなぁ…ってなに人の餃子当たり前のように食ってんだよ!」




「えっ?目の前にあったし」


「食べていいものかと」


オレとテンが頭をかしげながら言う。




「自分んで頼めよ!領主だろ!」






「悪い悪い…なぁ行くとこないならオレの所にこないか?」




「えっ?」




「いい腕を持った機動装甲騎乗りなら大歓迎だぞ」


「ほっ…本当かよ…旦那」




「かまわないだろ?テン」


テンはブラトーを目を細めながらブラトーを見る。




「私はあまり傭兵というのが好きではありません。あなたは一真様に忠誠を誓うのですか?」




傭兵は金で動く、契約期間が過ぎて更新しなければさっさと出て行ってしまう。


そんな傭兵という存在がテンは気に入らないようだ。




「俺の忠誠心は金という神にある。一個人に捧げるものじゃないね」




「つまり報酬を払うオレに忠誠を誓うってわけだ」




「うまいこと言うね。旦那」


注文した料理が運ばれ、オレの目の前にあんかけ焼きそばが置かれる。


いやこれだよこれ。


テンも醤油ラーメンに夢中になる。




「まっいいでしょ あなたが万が一、一真様を裏切るような事をすれば、どこかの川にあなたの水死体が浮かぶだけでしょうし」




と言いつつラーメンを口に運ぶ。


「怖い事言うな、このお嬢ちゃん」




「でっうちくる?」




「もちろん♪」


即答するブラトー。急に機嫌がよくなったブラトーはおごりだと大声で言った。


すると店にいた客達もおごりだと思って 「きゃーやったぁ!」だの「太っ腹だねぇあんちゃん」だの


「ゴチになります」だの騒ぎ始めた。




小さくブラトーは「いっいや…あんた達にじゃなくて…」




もう違うとは言えない雰囲気になっていた。




食事を終え、屋敷に帰ると、ミタマがくんくんとオレ達の匂いを嗅ぎ、ラーメンとあんかけ焼きそば食べたわね!私も連れて行きなさいよ!と騒いでひと悶着あった。コイツは犬か。




ちなみにこの料理屋なのだが、領主が並んで食べようとした中華料理屋として有名となり、さらに行列が並ぶことになる。






朝、すやすやと眠るロイを起こしに来るメイドがいた。




ここは学生寮、学園都市内にある貴族達が在学中に住むために作られた施設。学生寮と言っても、貴族の子弟が住むのだ。三ツ星ホテルのように豪華で防犯も完備している。世話をするメイドや従者の部屋もあり、食事も専門のシェフがいる。




ロイは幼いながらも辺境伯であり、部屋の前のセキュリティは厳重であり、入る者は網膜チェックに指紋チェクが備え付けてある。


部屋の前にはカメラが備え付けてあり24時間体制で警護がつけてある。しかもロイには一真の暗部が密かに護衛が付けてある。




チェックを終えるとメイドはロイの部屋に入る。


この時間はまだ寝てるのでノックせず入る事を許されている。 彼女はメイと言う名でロイと共に学園都市に御付きとしてやってきたウィルアムズ家のメイドであった。




青い髪を束ね、すこし垂れている目元、鼻筋は美しく、ぷっくりした桜色の唇。雰囲気はおっとりとした感じをしていた。




「ロイ様…ロイ様…お時間です。起きてください」




主人を起こすため優しくロイを体を揺する。


「……んっ」




寝ぼけ眼をこすりながらロイは起き上がる。




「おはよう…メイ」




今だ半分寝ぼけている主を眠りの中に落ちぬようメイはロイの体を起こす。




「おはようございますロイ様、さっお着換えを…」




「……んっ」




貴族であれば着替えなどは自分でせず使用人に任せる。ロイも辺境伯であるのだからそうするのが普通なのだが、学生という身分でもあるロイは自分で着替える。メイはあくまで手伝いをするだけである。




ロイにとっては自分で着替えるといのは新鮮で生まれた時から誰かに着替えをさせてもらっていた。




ちなみに学園都市ではこれは貴族の子弟に最初に教えられる事であり、できうる限り自分の事は自分でやるように指導される。


学園都市に来るまで自分で着替えをするという事すらしたことのない,出来ない者がほとんどであった。




「それって人としてどうなのよ?」と一真の言葉で決められて、ルールとなっているのだがこの一言を教職員達が「さすが一真様、貴族としての生まれた特権などを当然だと思ってる者の価値観を変える意味がある!。」……と勝手に解釈して学園都市の基本方針となった経緯がある。




来た当初は、メイに手伝ってもらい、ようやく着替えをしていたが、今ではほとんど自分で着替えが出来る。歯磨きも顔を洗うのも…。


支度を済ませ学生服に着替えたロイは部屋をメイと共に出る。そして食堂に向かった。




食堂に着くとすでに同じ寮内に住んでいる貴族の子弟達が各々食事を取っていた。




メニューは自由に選べる。ロイは焼き立てのクロワッサンにコーンスープ、サラダにハムエッグを頼んだ。




ロイはサラダにあるきゅうりが苦手なので少な目と調理のおばさんに言うとやまもりにしてくれた。


「……ありがとう…ございます」




「朝食は一日の中で最も大切な食事だからね 若いんだからいっぱい食べな!」




貴族の食事にしては質素なメニューなのだが、ここにいる者達には逆に新鮮で美味しく好評だったりする。




ちなみにこのきゅうりは畑で収穫する際、飛び出して攻撃してくる、農家さんはフル装備できゅうりを確保しようときゅうりとの格闘が行われるのだ、農家さんは大変である。




食事を自分で運びテーブルに座ろうと席を探すと、同級生にこっちこっちと手招きされ、ロイも同級生達と共に食事をする。


メイドのメイは一緒に食事を取らず、ロイの後ろに控える。




ロイにも友達が出来た。






「あんた、またきゅうり山盛りになってるし、いい加減好き嫌い無くしなさいよ 農家の人が毎日格闘して採ってるんだから…ありがたく頂きなさいよ」




金髪のストレートに赤い紅玉のような瞳の女の子。エレオノーラ・マリア・スフォルツァはデザートのチョコティラミスを一口食べながらロイを冷めた目で見つめた。




あははと苦笑いするロイ。


「おい!ロイ様は辺境伯だぞ!田舎貴族の男爵の娘如きが偉そうに言うなよ!」




ぼっゃんヘアーのコンラートがエレオノーラにつっかかる。


彼はイチゴパフェを食べていた。




「あら、ここでは貴族の上下なんてないのよ、八神様が決められた校則よ」


別に一真はそんな事は決めていない。教員達が一真様ならこうするだろうと勝手に作ったものだった。




「ぐぬぬ…」


「そうだよコンラート君、ここではみんな平等に扱われるんだ…だから特別扱いは止めてね」




「…はい」


しゅんとしてしまうコンラート。敬語もいらないよと言われるが、ロイの取り巻きになりたいコンラートは敬語は止めなかった…。




「おはよぉ…ロイ」


寝ぼけながらも姉のマリー・シャーロット・ウィリアムズと御付きのアナスタシアが来た。


メイがカーテシーでマリーに挨拶をする。


中等科に通うマリーと初等科のロイは同じ寮に住み同じ食堂で食事をする。巨大な寮であり食堂も多数あるのだがメイド同士で連絡を取り合い兄弟が一緒に食事を取れるよう配慮している。




「おはようございます。マリー様」


ロイの同級生が席を立ちそれぞれ挨拶をする。




「おはよう、皆さん今日もロイと仲良くしてあげてね」




「はっはい!」


マリーはそのルックスもあって生徒達に人気であった。








椅子に座り、食事をするマリーではあるがその途中で瞼が重くなり、うつろうつろとしてしまう。


このままだとスープに顔から突っ込んでしまう所に、アナスタシアにフォローされて目を開ける。




「姉様は朝が苦手なんだよなぁ…。」




それはあなたもですよ…とメイは思った。








第三艦隊旗艦 カグツチ 提督室。




執務をしているティアに呼び鈴が鳴り、来訪者の画像が映し出される。




「えー、ブラトー少尉参りました」


見るとぶっきらぼうな顔で支給された制服の胸元を大きく開けたブラトーが立っていた。


一真が雇った傭兵で正式に少尉待遇で第三艦隊所属になったブラトーである。




「入れ」


一言そう言うとブラトーは部屋に入ってきた。




敬礼をしティアも敬礼で返す。




「少尉…隊には馴染めたか?」


ブラトーが機動装甲騎隊に入り一週間が経った。


これと言って問題を起こしたと報告は受けて受けてはいない。


軍務に関しては…


「はっ…皆いい奴らでよく飲みに行ってます」




「そうか…ではこれはプライベートの問題となるが…」




ティアは受けていた苦情の数々をホログラムにして空中に映し出した。




ブラトーの問題…それは女性問題である。あちこちの女性下士官や整備士、果ては上官にもまで口説こうとしていた。着任して一週間でである。


ほとんど失敗しているらしいが…中には純情な娘もいて、毒牙にかかった者もいるらしい。




恋愛事などは軍務に支障をきたさない程度であれば関知しないのだが、既婚者にも口説こうとするので苦情が来ていた…提督である自分の耳にまで入るまでに…。




普通ならば機動装甲騎部隊長に丸投げする案件なのだが、ティアはブラトーに個人的に話がしたかった。




「いやぁ…他の所なんてぶっさいくばっかなんですけど、伯爵の旦那の所は美人やかわいい娘も多くて…つい」




苦笑いしながらブラトーは悪びれる様子もなく言った。 




「まぁ貴様が痴情のもつれで刺されようが射殺されようが機動装甲騎で搭乗中に後ろから撃たれようが 戦艦の主砲の塵になろうが私はどうでもいいのだが…」




「…ひどいっすね」




「貴様の腕は知っている。私も一真様のお共をし、機動装甲騎武闘大会に来ていたからな。できる事なら私も参加したかった」




「あの大会では手を抜いていたのだろう?」




「旦那とあのまま戦っていれば確実に負けていましたからね…あの人は強すぎる…機体の性能も桁違いででしょうし…最近会って更に強くなってるように見えましたよ。あれは人の領域を超えてるんじゃないですか?」


勝てない相手には戦わず逃げる。それが傭兵として生きていきたブラトーのたどり着いた局地だった。




「あの御方は誰もなせなかった魔王討伐をなした。それだけでなく多くの民を導いている。英雄とは一真様の事をいうのだろう。人類の歴史に英雄とされる者は数多くいるが、そんな御方に仕えるのはどれだけ幸福か…至福だ…出来ればあの御方の…」


語るにつれ、興奮し。頬が赤く染まり、吐息が荒くなるティア。そこからだ先は言わなかったが、ろくでもない事だろうとブラトーは思った。






「提督も相当な機動装甲騎乗りの腕を持っていると聞きましたよ」


話題を変えようとブラトーは話を逸らす。




ティアも機動装甲騎乗りとして一真とブラトーの戦いを見ていた。そして自分も強者と戦ってみたいと、そして勝ちたいと強く思っていた。






「あぁ…そうだな。貴様を呼んだのは私と模擬戦をしてもらうためだ」




これはティアの艦隊の行事のようになっていたもので、これといった者を指名し、ティア自ら手ほどきをするのだ。そこで認められれば、ティア直属の部隊に入る事もある。




ティアに可愛がられるのがなによりのご褒美として一部の者は日々研鑽を摘む…という噂がある。




「一艦隊を預かる私が、実戦で機動装甲騎に乗る事はほとんどないのだが…執務やら指揮で私もストレスがたまる…今回は貴様に私のストレス発散に付き合ってもらおうか」




ティアの艦隊は突撃を得意とし、至近から機動装甲騎部隊を繰り出し、敵艦隊を食い破るのを常套戦術にしている。




「ベッドの上なら喜んでお付き合いするんですがね」






冗談を言ったつもりなのだがティアが携帯している銃をつきつけられ背中に冷たいものが走るのを感じるブラトー。




「今すぐその軽口を聞けなくしてやってもいいのだぞ?」




『…本気だ』




ブラトーも戦場で生きて来た人間である。相手の殺意を感じる術は長けている。




両手をあげて降参の意を示す。


小さく笑うティア。




「本日18:00時、第三ハッチから出撃しろ」




「はっ!」




敬礼をしつつもブラトーはまいったね…こりゃ。と思いつつ本日の夜のお相手に断りのメッセージを送った。


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