第34話エース(新兵)

「なんだぁ?てめーらぁ?」




ひと際大きなそして禍々しい機動装甲騎が二人の前に現れた。声から察するに、お頭と呼ばれていた男だろう。




商船はどんどん遠ざかっていく。背後から海賊船がそれを追う。


「レノ、海賊船を追って」




「えっでも?」




「これは私一人で十分」




「…わかった。あの海賊船沈めたら戻るからな!俺の分残しとけよな!」


レノは海賊船を追った。




「言ってくれるじゃねーか、声からして小娘だな。おい映像出しやがれ!」


海賊の頭は映像を送ってくるが、アリシアは無視する。




「嫌。気持ち悪い」


「あ?」




「どーせお風呂にも入ってないし歯も磨いてないんでしょ そんな顔、視界に入れるのも嫌」




図星であった。




「ざけんな小娘ぇ! 散々犯した後売っぱらってやる!」




海賊がアリシアに襲い掛かる。


他の手下とは違い機動力があり、あちこちチューンアップしているようだ。


装甲も厚くパワーもあるタイプに見えた。




海賊から奪った銃ではあの装甲を貫く事は難しいだろう。


アリシアは海賊が持っている斧を右にかわし、海賊の機体を分析し始めた。


機動力で勝る残月はアリシアの体のように動きまるで舞踏のように海賊の攻撃をかわしていく。




「なんだ?」何で一発も当たらねぇ!」


力任せに斧を振り回す海賊。だがどれも空を切る。




一瞬の隙をアリシアは銃を放つ。


だが、大したダメージを受ける事なく海賊はアリシアを笑う。




「効かねーよ!このアバドンの装甲はなぁ そんな銃で傷つけられるもんじゃねーんだよ!」




そんな海賊の言葉を無視してアリシアは攻撃をかわしつつ銃を放ち続けた。


弾切れになればすぐに弾倉を交換し、攻撃に転じる。




攻撃する海賊、避けるアリシア、幾度となく繰り返した時、海賊の機体アバドンの動きが遅くなる。




「なっなんだ?どうしちまったんだ」




「胴体はAXA-10。アームズテクス社製 パワーが出るが小回りはきかない」


「あ?」


「腕はVO101。バウバロス社製。これもパワー系。」




「あなたの機体はどれも重装甲パワー特化型。でもつぎはぎだらけの他社製品を無理やり繋げてる。だから不具合が起きる。」




「てめぇ…」




「そして…」


アリシアが持っている銃を撃ち込む。




「そんな攻撃なんざ!…あっ?」




警報音がコックピット内に鳴り響く。次の瞬間アバドンは爆発し右腕から胸部が吹き飛んだ。


「装甲が厚くても同じその隙間、同じ個所に命中し続ければそうなる。」


コックピットが丸出しになり、操縦桿を動かしても反応しなくなった。


「動きまわりながら…同じ場所を…?」




「粗悪品のマシンガンだから時間かかった。この子の本来の武器ならもっと簡単だった。」




「化物か…」




「可憐な美少女に酷い事いう。泣いちゃうかも」


いつも感情を表に出さないアリシアがいつもより棒読みな口調で海賊に返した。




レノから連絡は入った。


「アリシアこっちは終わった!今からそっちの援護に…」




「もう終わった」


「えっ?」


レノは海賊船と無理に戦わずエンジン部分を破壊し航行不能にしたようだ。やはりレノは腕がいいと思うアリシアだった。




それから三十分後、ミア・ハーネ中尉率いる機動装甲騎隊が到着し、事態の収拾を終え、アリシア達は帰投した。


襲われた商船も無事であった。海賊達は皆、拘束され裁判にかけられ罰せられる。




一週間後、アリシアとレノは候補生の制服を着て、国防総省本部に命令で出頭していた。


ミア・ハーネ中尉に正座でさんざん説教を食らって足は痛いわ、頭は説教でがんがんするわでひどい目にあった。


だが、それだけで済むわけがなく、今回の出頭命令は正式に処分が決定した事を意味する。






国防総省本部は巨大な建物であり、腕に着けてある端末から指示がなされ、待機室まで廊下である乗り物に乗って移動する。乗るだけでいい自動運転であり、待機所まで行ってくれる。




「あー憂鬱だ~」


乗り物に乗りながらレノがうなだれる。




いまさら自分のやった事を後悔しているようだ。




「また説教は勘弁してほしい」




アリシアはこめかみを抑える。




「オレは説教で済むならそっちの方がいい」


待機所に着くと乗り物から降りて部屋に入る。誰もいない部屋で簡素な椅子が二つ用意されていた。


椅子に座ると落ち着かないレノは貧乏ゆすりをしてしまう。




第一艦隊配属は絶望的になってしまっただろう。それどころか軍を追い出されるか、もしくは刑務所行きか?レノの不安は最高潮に達しようとしていた。冷や汗は出るし、顔色も悪くなってくる。




一報のアリシアはというと…。


『お腹へったな…』




ドアが開かれ、訓練候補生教官のミア・ハーネともう一人、黒髪の女性が歩いてきた。


二人とも軍の制服に身を包み、アリシアとレノの前に立つ。


アリシアとレノは立ち上がり敬礼をする。


ミアと黒髪の女性も敬礼を返すとミアが休めと言って立ったまま足を少し開ける。休めの姿勢を取る。




「 アリシア・ザレム候補生」


「はっ」


「レノ候補生」


「はひっ!」




「以上二名を少尉に昇進、第一艦隊所属を命じる」


「はっ」


「はい?」


ミアはそこまで言うとアリシアは普通に答え、レノは魂の抜けたような声を出した。




ミアはため息を一つすると。


「正直お前らの行動は問題外だ。命令違反 候補生が無断で機動装甲騎の使用 海賊との私闘 どれも重罪だ。…だが商船を海賊から救い出した功績。その商船からも感謝が届いている。なによりマスコミが聞きつけ、お前らは新たな英雄として報道している。上層部は正直、お前らの扱いに頭を抱えている。」




「すっすいません」


レノは頭を下げた。


「だが、ある御方の一言でお前らの第一艦隊所属が決まった。いいか、期待には応えて見せろ」


「「はっ!」」




「これからはこちらの紫藤純佳中佐がお前らの直属の上官となる。」




紫藤純佳、機動装甲騎部隊をまとめる隊長だ。アステリオン軍にいて彼女の名を知らない者はいない。


「よろしくお願いします中佐!」


敬礼するレノ 同様に同じ動きをするアリシア。




「訓練候補生は皆、第一艦隊に入りたがるけど運よく入れたとしてもそれを後悔する程しごくから…覚悟しなさい」




そう純佳は言うと部屋を出て行く。




「あの…ある御方の一言とは…」


レノが質問するとミアは…。




「この星でそこまでの権力を持ってる人なんて一人しかいないわ」


そう言って出て行った。








「いよっしぁあああああ!」


ガッツポーズをして喜ぶレノ。






うるさいなぁと思いつつも説教じゃなくてよかったと安心するアリシアであった。




夜、候補生が寄宿する施設からほど近い大衆食堂で騒ぐ候補生達がいた。




ここは出される食事がうまく量も多く、なおかつお財布に優しい学生街にあるような食堂で、代々の候補生達の胃を満足させてきたのである。




食堂を取り仕切るのは肝っ玉な女将さんで、成績が悪く落ち込む候補生を励ましたり、恋愛相談や人生相談をしたりなど候補生達の母親代わりにもなっていた。




「かんぱーい!」


訓練期間が終わり、それぞれどこの艦隊に所属となったかが決まり、お疲れ様の宴会が賑やかに行われていた。




レノに半ば強引に誘わリアメリアも参加していた。




「まさかレノが第一艦隊に行くとはなぁ」




「ったりまえだろ!俺の腕前ならなぁ」


酒を飲んでいるのか顔が赤く絡んでくる他の候補生と楽しそうに話している。




「レノはともかく、アリシアが第一艦隊に行くのは納得だわ」


今回の候補生の中で一真の艦隊に配属されるのは250名中20名ほど。それほど厳しいのだ。


「そう言えばこの前も艦隊出撃したんだろ?」




「あれは御隣の星系のお家騒動でしょ 戦闘らしい戦闘も買ったってなかったって聞いたわ」


ワインを飲みながら女候補生は言う。




「ぶっちゃけいつ戦争になってもおかしくないからな ここは」


レノと飲んでいる男がそんなわかり切ってる事を言うが、周りの者達はそんな事はおかまいなく。




「なぁ~に、俺が魔族だろうと魔王だろうとみんな倒してやるよ」


レノが余裕そうに言う。




「お前じゃ無理だろ」


「あんたじゃ無理でしょ」


「無理だな」


同期達が同じ意見を言った。




「んだとぉ!?」




「喧嘩なら外でやんな!ここは食事を楽しむ所さ!」




「…はい」


ここは女将さんの店であり女将さんがルールなのだ。




「女将さんの料理が食べれなくなのは残念」


配属が決まると寄宿舎から離れる事になる。そして皆それぞれの任地に赴くのだ。


そして、新たな候補生が集まるのである。


アリシアがそう言うと女将さんは感極まってアリシアを抱きしめる。




「いつでも食べにおいで いいかい?命だけは粗末にするんじゃないよ」




「……んっ」


アリシアはこくりとうなずいた。




「よぉーし!今日は吐くまで飲むぞぉおおおお!」




「おぉ!」




「そんなに飲むんじゃないよ!」




「女将さん女将さん」


アリシアがすでに泥酔してる同期達を抱えて放り出す女将を呼ぶ。




「なんだい?」




「私がしばらく留守にしている間、あの子達の事…」




「あぁ わかってるよ 任せときな」


あの子達それはアリシアが可愛がっている猫達の事である。アリスシアが留守の間は女将が面倒を見ていた。




「これ…エサ代」


端末を操作し、お金を女将の口座に振り込む。




「そんなのいいのに…」




「少しだけだし…」




「ほんとあんたはいい子だよ」


女将はアリシアの頭を優しく撫でた。




普段こういうのは避けるのだが、今はなぜかいいかと思おうアリシアであった。




「あーっレノが吐いた!」


「ぎゃー!」


「いい加減におし!」


こうして同期達との恐らく最後に集う宴会は過ぎて行った。




翌日


「第一艦隊に配属される新兵のリストです」




車で移動中に一真は同乗するテンの端末からデーターを転送してもらい。ホログラムを空中に表示させた。




「ふぅん…あっいたいた」


アリシア・ザレム。


訓練最後の日に海賊を狩ったパイロット。しかも実弾武器を現地調達して。


軍上層部は最初処罰する方向で動いていたらしいが、俺の方でそれを止めた。なんでかって?腕が立つから。


命令違反は確かに良くないが、それ以上の戦果を挙げれば問題ない…と俺は判断した。




普通ならいけないんだろうが。この星において絶対の支配者であるオレが決めた事だからな。




「んっ?」街中を通る中、オレはとある店で行列をみた。




車を止めさせるとオレはその行列にある人物を見た。




「どうしました?あっあのお店は最近出来た美味しい東方の料理を出すとかいう…」


テンがそう説明するが、オレはそんな店より行列に並んでいる者を凝視した。




車から降り、行列に近づく。


「なにしてんの? ブラトー」




機動装甲騎武闘大会でオレと戦った傭兵のブラトーが飯屋の行列に並んでいた。


「だっ旦那!?」




「いや…ここが美味い店だと評判だったから…」


「ふぅ…ん じゃーちょっとオレも食ってくかな ちょーっとお話したいしね あっ最後尾はこっちか」




しかしいきなり、領主が現れ行列に並ぶなど恐れ多いと行列にちゃんと並んでいた領民がどうぞどうぞとオレを前々へと進める。悪いなぁ、日本人として割り込みとか罪悪感が凄い。




お店の人がびっくりして、オレを店に案内してくれた。ブラトーもオレに引きずられるように連行した。


テンがちょこちょこと付いてくる。




こじんまりとした店ではあるが、この漂う香りに赤テーブル…。


「中華料理みたいだ」


ぽつりと言うとテンが驚いた。




「よくわかりましたね ここは中華連邦出身の料理人が出したばかりのお店らしいんですよ」 




食べ物が大好きなテンは人気店のリサーチは欠かせないらしい。


ちなみに中華連邦は帝国の東に位置する。帝国とは同盟を結んでいる大国で、幼い皇帝を要している




オレは中華料理は大好きで地球にいた頃はよくあんかけ焼きそば食べてたっけ…あの味が忘れられない。


うちで再現しようと試みた事もあったがなぜかお店の味にならないんだよなぁ。


何が違うんだろ?




ブラトーは渋々とオレの前に座るとメニューを見る。


オレもまず注文をしようとメニューを見る。


テンも同じく。そんなオレ達を…特にオレを見る他の客達。


領主様が中華料理屋に…とか すげー…本物だ…とか サインもらえないかな?とか小声で聞こえてくる。


テンちゃんかわいい~。という声も聞こえてくる。


まぁ、そんな声を無視ししつつオレはメニュー見ながらアレがあるか探した…そして…。




「あった…あったよ…あんかけ焼きそば」


オレは小さくガッツポーズをした。




ブラトーはチャーハンと餃子をテンは醤油ラーメンを注文した。




「でっ?なんであんたはオレの領地にいるの?」




注文したものが来るまでの間オレはブラトーが何故ここにいるのか聞いた。




「機動装甲騎武闘大会の後、これといった戦争もないし、貴族同士の争いもないしで仕事がなくなっちまったんだよ」




「でっ風の噂でウィリアムズ辺境伯の領地で後継者争いが始まるって聞いてさ…旦那の領地経由で御隣の星系まで行こうとしたら、もうすでに終わってるし。しかも終わらせたのは旦那だって言うし…最悪だったわ」




無駄骨ってわけか、そいつは残念だったね。






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