第6話 帝国皇女

「帝国第一皇女セシリア フォン ヴィクトリア殿下です。」


「ぶっ!」


オレは飲んでいた紅茶を吐き出した 


ミタマは我関せずとお茶菓子をもくもくと食べている。リスのように頬が膨らんでる。




紹介された皇女様は長い金髪に縦髪ロール…初めて見た縦髪ロール。


皇女様というには少しきつい感じがする目つきをしていた、だが高貴な感じを映像からも漂わせている


白い肌に薄紫の瞳。形のいいピンク色の唇 年の頃はオレと同年代くらいだろうか?


…くそっホログラムじゃ胸元から上しか見えない。


アリスがホログラムの前で膝まづく


「一真様」


アリスが小さくオレの名前を言う。


オレもあわてて膝まづく。礼儀なんて知らないからアリスの見様見真似だ。


ミタマも優雅に膝をついた。


「直答を許す 下賤の者よ。そなたが地竜を倒せし勇者の称号を持つ者か」




「…はい」




「友人であるアリスから子細は聞いているが、そなたから直接話を聞きたい。地竜を屠りし武勇聞かせるがよい」


公式の会見ではないのでゆるりとするがよい と言うのでオレ達は用意されてる椅子に座って話をした。


「いいでしょう」


オレは端末を操作し、地竜討伐の映像を出す。多少編集を加えたものだが、


これは酒場で地竜討伐の話を聞きたいという冒険者たちに見せるために作ったものだ。


映像の編集、加工 一々BGMや爆発エフェクトまでつける。そんな事もできるので端末の操作にこってしまった。




「ねぇ これ悪意のある編集されてない?事実の改変よね」隣でミタマが何か言ってるが聞こえない。


そこに映し出されたのは作業用のロボではなくかっこいい機動装甲騎に乗るオレ! 華麗なる操縦で地竜を圧倒し、とどめを刺す。


「私の存在自体消されてるだけど?」


いやお前、何もしてないのは事実だろ




「…なにやら聞いた話と大分違うが…まぁよかろう」


「今日は面白い余興であった、大儀である。」


そう言ってホログラムは閉じた。




ふぅ…なにやらどっと疲れた。


じとぉ~っとミタマが見ているが気にしない。




「さ…さぁ もう帰ろうかな」


「えっ帰るの? じゃーおねいさん私タッパー持ってきたからこのお菓子包んでくれる」


やめてください メイドさん達が困っています。




「ふふ…どうです?今日は私の家で泊って行かれては?」


「えっ?」


「ほんと? やったぁ じゃーこの家で一番高価なお酒出してね ご飯も!」


とまどうオレとは違いミタマはメイドさんに次々注文している。


「えぇもちろんですよ。ではお前達 お二人をお部屋にご案内して」


メイドさん達に促されてオレ達はテラスを後にする。


「それとね お風呂にも入らせてね 私一日一回はお風呂入らないと気持ちよく眠れないの!それから…」


「お前いい加減にしろ オレが頼みにくいだろ!あっオレはそんな注文しませんから、お風呂で背中流してもらえば…」


声が遠ざかりテラスに残ったアリスは端末を再び操作する。


「いかがでしたか?あの者は?」


ホログラムに皇女が映る。


「おもしろいわ…少なくとも今までの勇者とは違うようね」


「戦況を変える事ができますでしょうか?」




「でないと困るわね…女神の神託曰く 魔王を倒せるのは勇者の称号を持つ者のみ」


「名もなき女神の神託でございますが…」




正確に言えば名はある。ミネルヴァ トゥラン アナト 様々な宗教 様々な国で崇められる女神


様々な名を持つが同一とされるのが神託が全ての宗教で統一に伝わるからだ。ゆえに本当の名がわからなく 名もなき女神と称される。


「あとは手はず通りに」


「皇女殿下、私はまだ早いかと思います。彼のレベルで魔王にぶつけるのは…自殺行為です。」


「待っていられるほど余裕はないわね。ちゃんと考えてあるから安心なさいな」


「…はい」


通信は切れる。


「…ふぅ」


帝都 後宮の一室、セシリアの部屋で彼女は一息つく、


メイドがノックをして部屋に入るのを許可すると紅茶とお茶菓子を用意する。


「ありがとう、メアリー」


メアリーと呼ばれたメイドはセシリアの幼い頃からの仕えてくれるメイド。


だが、そんな幼馴染ともいえる彼女にも皇女は本心を見せない。そのように育てられ、それが必要だと彼女自身も思っているからである。


帝国内部 権力闘争で明け暮れ、血で血を洗う歴史そのものであった。見慣れた人 親しい人が微笑みながら裏切り、次の日にはいなくなっているのだ。


皇族だからと言って、安心など出来ない。皇帝が今だ次野を皇太子を選んでいない。誰が次の皇帝になるかで皇族の何人かが消えるのだ…兄弟も何人もいるが蹴落とすべき相手なのだ、


今も魔族との戦争が続いているのにそんな魑魅魍魎が跋扈するのが後宮。


重要なのは魔族 魔王との闘いではなくその後なのだ…




「殿下、なんだか楽しそうですね」


気づかなかった 鏡を見ると私は笑みを浮かべていたのか…


危ない危ない 表情をコントロールしなければ…でもあの勇者の言動 アリスが報告を偽るとは思えないならばあの勇者が見せた映像は…それが滑稽なのだ。


「勇者の歌ってなによ? 歌詞オレ 曲オレ 編集オレって」


それに勇者と一緒にいたあの女…回復魔導士だろうか?よりによって自称女神と名乗っているらしい。その女神が…タッパー持ってきてお菓子包んでもらうって…


一真との会見の後 監視カメラから覗いていた光景が忘れられない。




「くっ…あはは」


「殿下!?」


おかしくてお腹を抱えてしまう。


「ごめんなさい しばらく一人にしてくれるかしら」


メイドを退室させると我慢できずまた笑ってしまった。


こんなに笑ったのはいつ以来だろう?




あまりにも想像とする勇者と女神とはかけ離れていておかしくなる。


あれが世界を救う勇者と女神なら…こんなにおもしろい事はない


まぁ今までの勇者もひどいものだったが


「ふぅ…彼が本当に魔王を倒したら…私の側に置こうかしら?道化師として」


いや…ありえないか…彼が…勇者が魔王の下にさえたどり着けばいい できれば倒してほしいけど…アレは他の魔王に見せたくはないものね…今は




「それにたとえ彼が死んだとしても…女神様は次を用意するでしょうね。」


今までがそうだったように…








「さて…」


セシリアは戦場から送られてくる報告を分析していた。


軍上層部にいる貴族が自分の派閥に属していて定期的に送ってくれるのだ。


どれもこれも戦況がよくない 重要な拠点惑星を失っている。


三百万もの艦隊を動員しているのに、その戦力の半分程の魔王軍に押されている。


艦隊を指揮しているのは長子 カエサルである。とはいえ実際に指揮を取っているのは将軍たちや参謀だが…このまま負け続ければ長子の皇太子の目はなくなるか…もしくは遠のくだろう…




それはセシリアにはよいが帝国が大敗を喫するのはよくない。


程よい負けがセシリアにとっては都合がいい。


補給部門にもう少し手を回し、戦力の補充をするべきだろう…




皇女であっても軍部や補給部門に指示する権限などない、そこに所属している自分の派閥の貴族に動いてもらうのだ。結果自分の派閥の強化に繋がる。




「魔王ドゥルガー」


ぽつりと呟く


帝国領に侵攻してくきている魔王の名


現在魔王は四名確認されている。


それぞれが敵対関係にあり、我こそが真なる魔王と称し、にらみ合っている状況だったのに


その均衡を破ったのが魔王ドゥルガーであった。




「他の魔王がドゥルガーの背後をついてくれればいいんだけど、そんな都合よくいかないか…」


他の魔王は沈黙を守っている。


様子見…といった所かしら…






人類の勢力がここまで劣勢になったのは、三百年前からと言われている。それ以前は人類が魔王軍を圧倒していたと歴史は記している。


「三百年前になにがあったのか…」




「ちょっと調べてみるか」


セシリアの思考は回転を速めていった。




アリスの家 豪華な食事を楽しんでいるオレ達。


「これうっま!見たこともない不思議肉だけど」


口の中で蕩ける上質な脂が口の中に広がる。


「このお魚も最高!」


ミタマも酒と料理を楽しんでいる。


「あっこれとこれとこれ包んでね 私タッパー持ってきたから」


タッパーの女神め




さっき、お風呂にも入ったが…あれお風呂なんか? 温泉じゃないのかってぐらい広く豪華だった


メイドさんに背中流してもらおうとしたけど 笑顔のままのアリスに怒られた。怖かったです。


「一真さん 先ほど皇女殿下から連絡がありまして、地竜討伐をなした勇者に勲章を授与したいと。そのため私と共に帝都に行きませんか?」




帝都! 帝国の首都星、 人類社会の中心だ、勲章授与までしてくれるのか…行ってみたい!


「…行く」


二つ返事でオレは即答した。




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