第32話 ウィルアムズ辺境伯

「ヴェルナー…」


弟の最後をモニター越しに見て、シドは哀れに思った。




最近の弟の思い出は喧嘩ばかりだったが幼い頃は、仲が良かった。よく遊んだし、マリーやロイが生まれた時は二人して喜んだ。母親達の思惑や家来達の冷たい目線の意味など考えずに…成長するにつれ、仲が悪くなり、ヴェルナーはよく父に叱られる事が多くなった。それでも私は…いや最早過去を見ても仕方がない。


問題はこれからなのだから…。






後にアークトゥルス星域会戦と呼ばれるこの戦いは、三男ロイ・アーサー・ウィルアムズが当主となる事で決着を見る事となる。




この後継者争いで失いし艦艇 8536隻 戦死した将兵2万5千54名 負傷した者3万4千325名。


たった一人の後継者を決めるために、これ程の人命を必要としたのである。








一週間後、ロイを伴ってオレはウィルアムズ辺境伯の本星に向かった。


ロイが当主となる事、ウィルアムズ領の全領民に知らせるためである。




当然、貴族達の反対もあったが、前辺境伯の遺書と、オレの艦隊の前に口を紡ぐことになった。長男も認めてるしね。


後、最後まで認めず反感的な貴族達はブラックリストに載る事になり、うちの暗部の監視対象になった。必要ならそれ相応の対処される事になるだろう。




そう言えば、アーレンベルク男爵が輸送船を貸してほしいと言って来た。なんでも、惑星レダと周辺の星の住民に物資を返したいが、艇が足りないらしい。




オレは許可を出し、アーレンベルク男爵は自ら指揮と執って輸送船団は向かっていった。




怪しい行動を取らないか疑問を感じた部下もいたので、暗部に命じて監視付きにしたけど。この時点でそんな行動を取るとは思えないけどねぇ。




惑星レダ




物資を徴収され、住民は水やそこらの草、果ては家畜にまで食料にしなければならなかった。


物資の提供を断ったり、住民の暴動が起きなかったのはアーレンベルク男爵の人徳であった。




「村長…もう食いもんが底をつくだよ」




惑星レダの田舎に住む住民が困り果てていた。


「オラたちはまだ我慢できるけんど、子供達は…」


村長はそんな村民の苦情を聞いてなだめていた。


「わかっとる…苦しいのはみんな同じだ」




「子供達がひもじくしとるのを見てるだけなのは、辛いなぁ」




「アーレンベルク様は必ず返すと…いんや、徴収した以上に返すと言ってくださった。」


物資徴収部隊が来た時、映像でアーレンベルクは領民全てに説得していた。




「そんなん信じられねぇべ!」


「結局お遺族様なんだべよ」




途方に暮れてる時。子供達が騒ぎ始めた。


何事かと見れば、子供達は空も見上げて騒いでいた。




見ると空いっぱいに、空挺部隊が下りて来ていた。


「なっなんだべ!?攻めて来たんだか!?」




ヴェルナー軍が来た時、乱暴狼藉をし、怪我をした者が続出した。




子供を抱えて家に閉じこもる母親。


絶望に打ちひしがれる者、農具を武器にする者、様々であった。




だが、周辺に映像が流れ、敵ではなく物資を返却にきたと連続して放送された。




空挺部隊が着陸し、中から兵を降り立つ、そして物資が次々と運ばれていく。


村民たちは歓喜して兵達を迎えた。




村長が驚いたのは、指揮を取ったのがアーレンベルク男爵本人であった事であった。


自ら物資を運ぶ姿を見て驚愕した。




「あっあぁあああアーレンベルク様っ一体なにを!?」




「んっ?あぁ村長か 今回は迷惑をかけたからな 償いとは言えないがこれぐらいはな」




「へへ~っ!もったいない事でごぜぇます!」


平伏する村長に困ってしまうアーレンベルクであった。






ウィルアムズ辺境伯の本星、その首都星の当主が住まう屋敷は暗殺者の種激もあり、一部破壊されていたが、すぐに修復作業が行われ、今では元通りになっていた。




アステリオン軍は3万が随行し、その他の軍はオレの領土に戻した。大軍を率いてもいいが軍を動かすにはそれだけ金もかかる。


テンの機嫌が悪くなるので帰したのが事実だったりする。




本星に戻ってから一週間後、オレを始めとする、ライオネス陛下やフィオーネさんなどの連合の面々も参加し、ロイが新たな領主となる日を迎えた。


ウィルアムズ家の者も当然参加し、長男シド、長女マリーその他親戚や家来、今回の戦いに参加した貴族などなど、当主の座に座るロイを新たなウィルアムズ辺境伯として迎え、一族の繁栄を願った。




今回の式典は簡易的なもので帝都から勅使を迎え、大々的に式典を行う予定になっている。


夜になると屋敷にてパーティーが開かれた。祝勝会も兼ねてるので大いに賑わい酒も入っているので騒ぐ者も続出した。




さっきからミタマがカラオケでアニソンメドレー披露してるし、ウィルアムズ家の方々がなぜかのりのりで感涙してる者や、サイリウムまで持ち出してる奴もいるし、あれミタマのファンらしい。見るとうちの軍の幹部だ。頭痛くなってきた。




あぁ、ロイまでミタマの歌に頬を赤らめてる。あいつこうやって信者集めてるんじゃないだろうな。




頭が少しくらくらしてきたので、少し涼もうと思い屋敷のバルコニーに出て夜風に当たる。


心地よい風が体を通りにける。


屋敷から見る街並みは明るく街でも新しい当主の誕生を祝いあちこちで笑い声や乾杯の声が聞こえる。




前当主の訃報から後継者争いで暗い雰囲気が漂い、デモにまで発展したらしいから、ようやく落ち着いたといった感じで領民もようやく安堵したのだろう。




「凄いですね。あのミタマさんという方」


声をかけられ、振り向くとマリーが微笑みながら近くまで来た。


彼女は白と淡い青色のドレスを身に着けていた。




「場を沸かすのが得意なだけだよ」




「奥方様でしょうか?」


…………はっ?




「違うよ?あれはそう…道化師だよ?自分を女神だと思ってる頭がアレな道化師ダヨ?」


「はっはい!スイマセン」


オレの圧にびびるマリー。




「とっところで今回の件は本当にありがとうございました。」


彼女は深々と頭を下げる。




「礼を言われる事じゃないぞ こっちにはこっちの思惑で動いたにすぎないし、善意でやったわけじゃない」




「それでも助けられたのは事実です。この御恩はきっと返します。」




まったくそんなもんいらないって言ってるのに…。




「だったら倍にして返せよ」


そう言うと彼女は微笑み。


「はい!」


と答えた。






帝都、ウィルアムズ辺境伯が三男ロイに決まった事が帝国第三皇子シグルドの耳に入ったのは、派閥の主だった者を集めて会議をしている最中であった。




その一報を聞いた時シグルドは笑ったという。






「くっはっはははっは」


ここまで大笑いしたのはいつ以来だろうか。


「でっ殿下?」




「くっふふ…いやすまん。ここまで思惑とは外れた結果になるとは…」


だから面白い…いつも予想取りの結果ほど退屈な事はない。




「申し訳ございませぬ!」


ガリウスがシグルドの前に平伏し頭を下げる。




完全に一真と言う男を見誤った。勇者として魔王を打ち倒し地方の領主となった小僧。兵馬を多少持ち調子に乗っているだけどしか見ていなかった。勇者として一個人の力はあっても政の才まであろうとは!。それとも家来に恵まれているのだろうか?いずれにしてもシグルド様の派閥にも第一皇女セシリアの派閥にも組することなく、己の連合の一部にウィルアムズ家を取り込んだのだ。




おのれ!このガリウスの顔に泥を塗りおったなぁ!。




「シェラはどうした?」




お目付け役として、派遣していた女だが、シグルドはシェラの安否を気にして聞いてきた。




「はっ無事でございます。ただいまは帝都に帰還の最中との事。」




「ふむ…ならば事の詳細はシェラが帰り次第直接聞くか…」


八神一真か…おもしろい男だ。






後宮。


「そう…一真殿はまた勢力を伸ばしたのね…」




帝国第一皇女セシリアは自分の部屋で今回の顛末を知った。


「今や一大勢力となったと言っても過言ではないかと…」


暗部の言葉にセシリアはすぐには答えなかった。




暗部は今が一真を派閥に取り込む時ではないかと言っているのだ。




「派閥に入ってもらうのは…無理ね。彼はそういうのを嫌うもの。だからウィルアムズ家を連合に加えたのよ…それだけの力を…あなたの言う一大勢力を」




「そうね…派閥に入らなくとも力を貸してもらうのはいいんじゃない?」


「できれば…このまま友好関係を続けたいもの…ね」






惑星アステリオン。今や周辺領地の中心地になりつつある星である。人口も増え、商業も盛んになり交易船がひっきりなしに訪れる。


「ロイをうちの学園都市に?」


三か月後、ウィルアムズ家の後継者争いが終わり、オレは自分の領地に戻ってきていた。




執務室でテンからの報告にオレは驚いた、




オレの本星アステリオンには首都から少し離れた場所に都市丸ごと学園にした街がある。


文部科学省からの提案にオレが了承し実現させた。




各惑星から著名な学者、教師を招き勉学や芸術の教鞭をとってもらっている。


地方にはない都市丸ごとの学び舎なので地方領主の子息や貴族、果ては豪族の子供も学びに来る。




幼学部から大学まで学びたい者は学べる場所にしてる。


もちろん領民にも広く門戸を開き、6歳から18歳までは義務教育として学ばせている。


オレは一切口出ししていない。学校の事などわかるはずもない。地球にいた頃は学生だったのだから…


学校経営などできないし、官僚と専門家に丸投げしてる。




今は貴族と領民は別々の学校で分けているが、いずれは一つにまとめ一緒に学ばせたいとは思うが、なかなか特権階級の気位の高いおぼっちゃま、おじょうちゃまの領民への偏見はなくならないようだ。




ちなみに亜人も生徒として多く在籍している。


一度視察に行ったことがあるが、どこの学校もそれぞれ特徴のある制服があり面白かった。


しかし、女子はなんでスカートを短くしたがるんだろうか?ここら辺は地球と変わらないんだな。




そんな学園都市に辺境伯となったばかりのロイが留学したいと言って来たらしい。




「おいおい 当主になったばかりだろ」




「はい…ですが今だ8歳ですし、後見人であり、摂政となったシド様も賛同してると」




まぁ実権を握ってるのは周りの貴族だし、シドとアーレンベルク男爵が周りを固めてるからおかしな事にはならない…か。にしても幼い当主をうちで学ばせたいとは…。




「あっあれかぁ…」






それはオレがまだ辺境伯の本星にいた頃、ロイと話すようになって仲良くなった。


ロイはオレの魔王討伐の話だったり、領地の事だったり聞いてきた。


特に魔王との闘いはわくわくしながら聞いてきたっけ…。




「一真様の領地には都市丸ごと学校にしてると聞きました。本当ですか?」




「あぁ…学園都市ね。官僚が身分も人種も関係ない、公平な学び舎を造りたいと言って来たことがあってさ、最初の計画では小さな学校から始めるつもりだったらしいけど、オレ、チマチマした事嫌いなんだよねぇ だったら都市丸ごと学校にすりゃいいじゃんって予算付けて後はその官僚に丸投げしたら…そうなったよ」




「いいなぁ…ボク学校って言った事ないんです。」


領主の子供だと専属の家庭教師がつくから、まぁそうあろうなぁ。




当然友達などはできないだろうし。




「だったら、来れば?」




「いいんですか!」


「あぁ いつでもいいよ」






冗談で言ったつもりが本気にしちゃったかぁ…。




「まぁいいだろう。テンに任せるよ」




「はい」


当然寮生活になるので、身辺になにかあったらまずい、という事で暗部から警護をつける事にした。






当然、ロイが入学する事に難色を示す者もいた。ウィルアムズ辺境伯配下の貴族達である。


「当主となられたばかりのロイ様が留学など…」


賛成したのはアーレンベルク男爵であった。




『この者らは幼少のロイ様を自分のいいように動かす操り人形にするつもりだろう。だがそれではだめなのだ。ロイ様には多くを学び、経験し立派な当主になってもらわねば…』




「その件ならば執政のシド様がおられます。僭越ながら私もお助け致します。それでも不服か?」


半ば強引にロイの留学は認められたのである。










二週間後、一真から許可をもらい、ロイが留学するためアステリオンへ向かう。宇宙港で見送りに来ているシドとの別れの日である。




「ロイ…忘れ物はないかい?ハンカチは持った?」




「はい兄様!」


実はこの留学はロイから言い出したことであった。若干十代で魔王を打ち倒し勇者として領主として名をはせた一真。そしてあの大艦隊を率いての姿はロイにとって憧れの人となっていた。




目指すべき領主であると…。


「兄様、心配しすぎです。私も行くのですから安心してください」




今回留学するのはロイと姉のマリー。付き添い兼留学という形であった。そして従者としてメイド数人



「でもなぁ…心配なんだよ。ロイがぜひ行きたいって言うから賛成したけど…」


涙まで流す兄に飽きれるマリー。


この人に執政として任せて大丈夫だろうかとこっちが心配になってくる。アーレンベルク男爵の苦労しそう。




出発の時間になり、二人は一路アステリオンへと向かう。


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