第31話アークトゥルス星域会戦4

「我が名は八神一真 全艦隊、戦闘を停止せよ 繰り返す、こちらはアステリオン軍。全軍、戦闘を停止せよ」






シド軍とヴェルナー軍との中央に展開す突如として現れた艦隊。


自らをアステリオン軍と名乗り、八神一真と名乗った。


その名をこの地域で…いや帝国で知らぬ者はもはやいないとまでされる人物。




「あ…アステリオン軍 総数10万隻以上です。」




ヴェルナー艦隊旗艦のオペレーターがそう告げる。


隣の星系の領主がなぜ…?


疑問がアーレンベルクとヴェルナー双方に、いや先ほどまで砲火を交えていた両軍全てにあった。




前回線、そして映像が映し出され、一真の姿が全将兵の前に現れる。




双方の軍が一真の真意を探ろうとし一時攻撃停止命令が下った。






「紹介しよう。ウィルアムズ辺境伯の正統なる後継者 ロイ・アーサー・ウィルアムズである」


正装したロイが一真に紹介されながら映像に映し出された。


「なんだと!」




「どういうことだ!?」




アーレンベルクとヴェルナーは驚愕した。




二人が一真の旗艦 超ド級戦艦「アマテラス」に通信回線を開き説明を求めた。




「お初にお目にかかる八神一真殿、私はシド・アルフレッド・ウィリアムズ様の代理であるアーレンベルクと申します。さっそくではあるがあなたに問いたいことが山ほどある」


アーレンベルクと名乗った男は丁寧に名乗り、質問してきたな。暗部が調べた通りの男のようだ。




「待て!こちらの質問に答えろ!なぜロイがここにいる?貴様!兄を差し置いて何をやっている!」


こいつは次男か…こいつも調べた通りの男か…うん嫌いなタイプだ。




「生きているのが不思議か?」




「なに?」


オレの問いに何を聞いている?と不可思議な顔をする次男。




「正統な後継者のロイを暗殺しようと刺客を送ったのに生きてるのが不思議かと言った。」




「なっ…なにを言ってる俺は…」




「よう…久しぶりだな我が愛する弟に妹達よ」


映像が流れた。


「ある者の進言があってな。お前達…特にロイが邪魔になった。悪いが死んでくれ。恨むなら継承権をやった親父を恨んでくれ、本当なら兄のオレがやるべきなんだろうが残念な事に俺は今、兄貴と戦争中だ、だから刺客を放った、兄の慈悲だ、せめて苦しまないようしてやれ」




それはロイを暗殺しようと刺客が持っていた端末だった。


映像はそこで途切れる。




「酷い兄もいたものだ」


しかもわざわざ証拠を残すとはね…。


「あ…」


ヴェルナーは唖然とした。




「お待ちください…正統なる後継者とは…一体どういう事です?」


ヴェルナーを後目にアーレンベルクは当然の質問をした。




「辺境伯の遺書が見つかった。」




「遺書ですと!?」




「ありえん!」


ヴェルナーは抗議の声を上げる。




「なぜ ありえないと?自分が握り潰したからか?三男を後継者にするという内容が気に入らないから…」




「何を言ってる!?」




「今回の騒動、全て貴様が起こしたものだな…辺境伯を暗殺し、遺書を握りつぶし、後継者のロイを暗殺しようとし、邪魔な兄、シドを倒せば家を継げるものな…」




「違う!俺は…そんな事やって…」




「伯爵…まだ疑問が残ります、なぜあなたはここにいるのです?遺書もそうですが。なぜあなたはロイ様を助けるのですか?」




「辺境伯には個人的に親交があってな…伯の突然の死に不信感を感じ手の者に調べさせた」




「今現在、オレとロイは同盟を結んでいる。」




「同盟…それはつまり…」


伯爵を中心とした連合に組する事を意味する。




まっ嘘だけどね。遺書なんて存在しないが暗部が作った偽物がある。辺境伯のサインまで再現されてる偽物で法的にも完璧に仕上げてるようだ。次男が辺境伯を暗殺しようとした証拠なんてないし辺境伯に会った事なんてない。でっちあげ、だが次男…こいつはこの騒動を起こした張本人であるのは間違いない。




皇族の代理戦争に巻き込まれてはいるが、それを選んだのはコイツだ。








そもそも事の始まりは帝国貴族ガリウス卿からの連絡からだった。主だった者を集め、今度の方針を決めるべく皆の意見を聞いた。


つまり、艦隊司令を務めるティア、アーシェ。オレの副官兼秘書のテン、姿を見せないが無名。機動装甲騎隊隊長の純佳。それとシルフィお手製のイチゴケーキを食べているミタマ。こいつワンホール一人で食べてやがる。




「ガリウスとかいう愚か者を斬ります」


ティアが物騒な事言ってる。 どうやら俺に対する態度が気に食わないらしい。




「普段、この女とは意見は合いませんが来度は私も同意します」


アーシェまで…








「派閥に組するという事は第三皇子が皇太子 皇帝になれば受けられる恩恵は計り知れません」


テンがぽつりと言う。


「ですが今までと同じようには動けません あれこれと指示してくるでしょうし…すでに大きな派閥となっているシグルド様の派閥に入るという事は…新参の我々は使いっパシリになるでしょうね」




だよなぁ…元々オレは皇太子レースなんぞに興味もない。やるなら勝手に他でやってくれ。




「無名さん いるのでしょう?ウィルアムズ辺境伯の事調べていますよね?」




どこともなく声をかけるテン。するとテンのすぐ後ろに魔法陣が現れ無名が姿を現す。素顔を見えない用フードを深くかぶり全身黒づくめの姿を。




「やれやれ 何度も言うが私を呼び出せるのは一真様だけというに…」


とは言うが出て来てくれるんだよな。




当然、お隣の事なので暗部が前もって潜入し情報を集めている。報告はオレも受けているが、どれが役に立つのかオレにはわからない。




テンは無名から渡された資料を読みふけ、無名となにやら話し込み、その度にこくこくと頷く。




「どうしたもんかなぁ」




「貴族って生き物は腹黒いものよ、平気で人を裏切るもの」


純佳がそんな言葉を発した。




オレも一応貴族なんだけど。




「派閥に入りたくないなら入らなきゃいいじゃないの」


もぐもぐとケーキを食べながらミタマがぽつりと言った。




「それが出来れば一番なんだけどさぁ 絶対嫌がらせされるだろうしなぁ…」




「そんなの跳ね除けるだけの力を身に付ければいいのよ いい一真?面倒事は他人に押し付けるのよ。それでもダメなら明日の事は明日の自分にまかせるのよ 女神のありがたいお言葉よ 感涙して受け取りなさいな」




「お前はまたいい加減な事いいやがって!」


「いだだだだっ本当だって経典にも書いてあるんだからっ!」




「そんな邪教いますぐ禁止にしてやる!」


「なんですってぇ!」


オレがミタマの頬を引っ張るとミタマもオレの頬をひっぱる。


ぎゃーぎゃーとオレ達が騒いでいるとテンが啓二を受けたかのように考えをまとめた。




「そうか…その手があった」




テンは今後の方針を示した。




それが三男 ロイを擁立することだった。


どちらの派閥に属することなく、ウィルアムズ家を連合に取り込み一大勢力になる。




「ボクが当主に?」


元気になったロイ君が姉の後ろに隠れながら聞いてくる。




「おっお待ちください!伯爵、弟はまだ八歳で…無理です」


猫耳をぴんと立ててマリーは弟をかばう。




「遺書にはロイが当主にと書かれている。歳は関係ないんだよ 後は…ロイ自身の気持ち次第 当主になるなら必要な力はオレが用意してやる 君次第でこの争いを止められるんだ」




何も答えず縮み困ってしまうロイ。




「君はそうやっていついまでも姉に守ってもらうのか?」




はっとなるロイ。


「……やります!お願いします ボクに力を貸してください伯爵!」




「いいだろう…同盟成立だな」


オレは右手を出し握手を求めた。ロイは恐る恐る手を出す。握手が交わされ八神家とウィリアムズ家の同盟が締結された。






それが今までの経緯だ。


「私はロイが当主となる事を認める!」


突如としてシドが発言した。




「シド様っ!」


驚くアーレンベルク。 シドの派閥の者達は一様に驚く。




メイドのロゼの仲介から紹介された人物、それは一真だった。彼は私の状況をよく知っていて、このロイ擁立の話を持ち掛けてくれた。私はその話に乗ったのだ。




私を推してくれている者達を裏切る行為だろう。だが、ふさわしくない者が当主の座に収まってもそれはきっとよくない結果をもたらす、ならば未来があるロイに当主を任せ、自分はそれを補佐する。


それが私の決断だった。




「バカめ!馬鹿め馬鹿めバカめ! 兄貴はどこまで愚か者なのか!?ロイが当主だと? そんなの認められるか! 全軍アステリオン軍を攻撃せよ!あの痴れ者を殺せ!」




だがその命令が実行される事はなかった。 10万を超える艦隊に歯向かうなどまさに愚か者のする事である。




「なにをしている?、命令だぞ!」




その時後方から砲火が上がった。しかしそれはヴェルナー艦隊に向けられたものだった。




旗艦近くの戦艦が爆散し衝撃に揺れる艦内。


「なんだ?なにが起こった?」


それは、ヴェルナー艦隊後方に布陣していたウィリアムの艦隊からの砲撃であった。




「ウィリアムめ…裏切りおったか!」




「ふふふ。ヴェルナーはもうお終いだ。ならば私が彼奴めの首を伯爵に持参し、一番手柄にしてくれるわ」




ヴェルナー軍は大混乱に陥った。逃げ惑う者、混乱し、味方を攻撃する者、何が起きたかわからず閃光に包まれ消滅する者、もはや艦隊の体を成していなかった。




『うまくいったな』


オレは味方同士で撃ち合っている光景を見て姿を現さない無名に念話で語り掛けた


『我が手の者による策、反乱の誘導成功いたしましたな』




『後で感状を送るよ』




『感涙することでしょう』


大げさだなぁ。




さて…ここまで追い詰めれば当然次の行動は…。




旗艦から機動装甲騎に搭乗し、自分の従う直属の部隊をまとめたヴェルナーは裏切者の粛清に乗り出した。


「えぇい落とせ落とせ!」


ウィルアムは艦隊の砲撃でヴェルナー率いる機動装甲騎隊を掃討しようとした。






   


だがヴェルナーはそれらを避けつつ、ウィリアムの旗艦に迫った。


「ひぃっ!」




「うぃりあむぅうううううう!」


身の丈もある大剣を環境に突き立てるヴェルナー。ある者は押しつぶされ、ある者は空いた穴から宇宙空間に放り込まれる。


ヴェルナーはそのまま大剣を引き抜くと反乱の旗艦から離れ、胸に仕込まれたレーザーガトリングでウィリアムの旗艦をハチの巣にした。




「はぁはぁはぁ…後は」


ヴェルナーの次の獲物は眼下に広がる大艦隊にあった。




「敵機動装甲騎隊、こちらに向かってきます!」


オペレーターからそう報告を受けたアーシェは迎撃せよと命じた。


無数の弾幕がヴェルナー率いる機動装甲騎隊を襲う。


レーザーで焼かれミサイルで爆発四散していく部下達。




断末魔があちこちから聞こえるもヴェルナーは操縦桿を握りしめ、速度を落とすことはなかった。


それでも避けきれない攻撃にヴェルナー機もあちこち被弾していく。


                   


攻撃停止命令をオレは出した、アーシェは困惑の顔をした。


「一真様?」




      


「オレがやろう」


             


突如として攻撃が止み、ヴェルナーは何が起こったかわからなかった。


                  


「頑張ったじゃないか」   


目の前に黒い機動装甲騎が姿を現した。




声と共に映像が映し出される。


「八神…一真」




「褒美としてオレが相手をしてやる」




これほどの好機はない、敵の総大将が目の前にいるのだ。これを討てば状況は変わる!




「しねぇえええええ!」


右手に持っているライフルが乱射される。だが一真専用機 村雲の前に防御魔法陣が展開され、全てのレーザーが弾かれる。




「っ!これならどうだぁ!」


大剣を振りかぶりながら急速に接近し、上段から振り下ろす。


だが剣は根元から折れ吹き飛んだ。




村雲にヴェルナー機の首元を捕まれ持ち上げられる。




「きっきさまぁ」


胸に仕込まれたガトリングを近距離で撃たれるが村雲の装甲を傷をつける事はできなかった。




「化物め!」


「まっ頑張った方だな」


村雲の手首に仕込まれている槍が突き刺され、そこから超高圧電撃が放出される。  




「っっっ!!!」


言葉にならない断末魔を上げヴェルナーは絶命した。


そのまま手に持っていた機体を放り投げ、俺は自分の旗艦に帰投する。




「ヴェルナー兄様…」


その光景をモニターから見ていたロイは目に涙を浮かべながらも顔を背ける事はせず、まっすぐ見据えていた。


姉の手を強く握りながら…。




「強くおなりになりましたね…ぼっちゃま…いえロイ辺境伯」


声のした方を見ると、メイドのロゼが立っていた。




「ロゼ!あなた無事だったの?心配したのよ」


マリーとロイが駆け寄る。




するとロゼは眼鏡を外し、まとめていた髪をほどいた。


それだけで普段と雰囲気が違って見える。




「先代からお仕えしていたメイドのロゼは存在しません。」


「えっ?あなた何を言って…」    




「幻惑の術でそう思い込まされていただけ…でも今解いて差し上げます。私の事は記憶からも消えましょう」




「あなたは…一体…」


そこまで言うと二人は眠ってしまう。 ロゼと名乗った女は二人を抱きしめ呟く


「私は一真様に仕える暗部…それだけです」

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