17 正体不明の怪盗ってことで、よろしくお願い申し上げます。

 スッキリしてグッスリ寝て、バッチリ目覚めた僕たち。

 出発は明日だから今日は悪徳貴族退治と、勇者の髪の指輪を得るための準備をシッカリこなす日だ。


 マノンは動きのチェック。

 僕は変装用の素材を手に入れること。

 偽装のための買い物だから、変装して出掛けることにしよう


「では行って来ますね」


「お昼は?」


「適当に済ませます。夜は一緒に食べましょう」


「分かったー」


 買い物のあとに悪徳貴族の家も、チェックしておこうと思ってるからな。お昼ご飯には間に合わない。

 チンピラ団から、飼われるとかいう下衆い情報も得てる。


 暴れ散らかすにしても、捕らわれの女性がいる場所は把握しておかないと、危険だからな。

 間取りなんかを調べるついでに、悪事の証拠やら金品を強奪してこようかなって。


 あたくし、魔王軍ですので人間の貴族なんて怖ろしくないんですのよ、オホホー。

 テキパキやっていこう。

 まずは裏稼業もやってる店に行って、マノンの変装用素材の購入だ。


 僕がマノンの村に向かう時は、王都近郊のダンジョンをルートにしてた。なので王都での買い物は初めてじゃあない。そしてゲーム知識で合言葉も知ってる。

 場所も把握してるので、そんなに時間は必要ないはずだ。


 そのお店は王都で2番目に規模の大きな商店。

 だから品揃えは抜群だよ。


 買うものはダークエルフの肌用染料と耳の素材かな。

 あとは牙で作ったネックレスと、羽根で作った髪飾りみたいなのを装着させれば、どこかの戦闘部族っぽく仕上がるだろう。


「イネスさんから手紙を預かってきたんですが」


 買う物を書いた紙を渡す。

 今週はイネスさんが合言葉だね。


「お預かりします。お届けは手配いたしますか?」


「いえ、私が持っていきます。代金も預かっていますので」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 ついでに自分の買い物もすると伝え、一般的に売られている魔物素材製のアイテムを物色する。見ているうちに、楽しくなってしまった僕はイヤリングも着けさせることにした。


 素材は何が良いかな?

 やっぱ魔物素材が戦闘部族っぽいか。

 魔石を磨いたイヤリングにした。


 変装後の姿を思い浮かべると、ワイルドに骨付き肉を齧るようなキャラになりそうだ。


「お待たせいたしました。こちら合わせて──」


 買い物終わり。

 露店でササッと昼食を済ませ、貴族街に侵入する経路を吟味。


 結構育っているステータスやスキルを駆使すれば、誰にも気付かれることなく悪徳貴族の家に辿り着いた。精霊たちの補助もあるから、僕のパルクールはアニメの世界の動きになっている。


 ちょっと気持ち良くなってしまうくらいには凄いのだ。


「これは……」


 ボス貴族の私室を漁っていると、密書を発見した。しかもウチの魔王軍じゃない魔王軍とのやり取りのようだ。

 侵入の手助けをする報酬に、地位や土地を約束することが書かれている。


 しかし計画に邪魔が入ったようで頓挫したため、マジックアイテムの譲渡で決着がついたみたい。


「あのゴブリン兵団、ウチの魔王軍じゃなかったのか」


 マノンパーティメンバー候補の戦士と魔法士の故郷。そこを落とそうとしていた魔王軍が取引相手だった。

 裏設定ってヤツか?


 ゲームのシナリオに、こんな話はなかったぞ。


「思ったより……ややこしいことになるのかなあ」


 他所の魔王軍がチョッカイ出してきているのは、僧侶のところの子爵家襲撃で知ってたけど……そことも別の魔王軍じゃんか。


「国を裏切ってるし処刑と没落は確定だな」


 この密書はコッソリ宰相辺りへ届けるとして、捕らわれてると思われる女の子たちのことも知っておきたい。

 下手したら売ってる可能性もありそうだし。


「人身売買はしてないっぽい」


 そういった書類はなかった。

 単純に性欲を満たすだけのために攫ってるんだろうか。それなら……まだマシなんだろうけど。


 家探しを続けていると、隠し通路の先に"飼われている"という女性たちを発見した。地下牢のような場所。

 見張りには控室で寝てもらっている。


 捕らわれている女の子たちは、励まし合っている様子。

 そんな声が奥から聞こえてくる。

 ただ、無事って訳じゃあない。


 この館の主である悪徳貴族は、薬物の実験をしていたようで、レポートに色々と実験結果が書き込まれている。

 おもに性欲の処理をするための。


 そしてこの部屋には薬物と万能薬が結構な数置いてある。


「自分たちにも使ってるってことか」


 万能薬は高価なものだけど、手に入らないものじゃない。解放されたら女の子たちも治してもらえるだろう。明日には僕たちが退治するしな。

 足りないかもだし、手持ちの万能薬を置いていこう。


 僕は悪事の証拠を根こそぎ盗んで、宰相の家に置いてきた。子爵家救出の時の誤魔化しで宰相んちは調べてあるし。

 魔族の契約書だから魔力も込められている。


 一目瞭然なのですぐに動いてくれるだろう。

 金目のものは万能薬代に、僕がもらっておくことも書いておいたので安心安全の泥棒作業だ。


 正体不明の怪盗ってことで、よろしくお願い申し上げます。


「ただいま戻りました」


「おかえりー先生。どうだった?」


「ええ。悪徳貴族は悪徳だったので処刑しても問題ありません。手下も──」


 まとめてダンジョンの養分になってもらおう。

 マノンにも情報を共有して、悪徳貴族は本人不在のまま近いうちに没落するだろうことを伝える。


 退治は明日だしね。

 国を打った貴族だし、宰相もテキパキ働くだろうさ。


「マノンのほうはどうでしたか?」


「イイ感じだよ! 万全万全っ」


「明日のことですが、魔界では聖属性を発動しないように」


「ダメなの?」


「ええ。魔界の住人には現れない属性ですから」


 人間界には邪属性が現れない設定だよ。

 人間だってよこしまなクセにな?

 なんて理不尽な設定なんだ。


 夕飯を食べ、お風呂入った後に変装作業を開始。

 出発前だと早起きしなくちゃだし。


「ンッ、くぅぅ……すぐったいっ」


「動かないでマノン。塗りづらいです」


「だ、だってっ…………ぁぅぅ」


 あ、あれ?

 なんか段々えっちな声に……。


「せ、先生ぇ」


「な、なんですか?」


「しよ?」


 え、ちょ、待っ!? コラ! マノンッ!!


「ど、どうしよう先生ぇ……私、淫らな女の子になっちゃったっ」


「ぅゃぅぁぁ」


 知るかぁっ。襲われたのは僕だっ!

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