25 それはきっと薄着のせいだしっ。

 3日ほど経つとマノンも船に慣れた。フィジカルが強いからか、常に揺れ続けてるか。どっちか分からないけど3日で克服するのって早いのではないだろうか。

 そして船旅を始めて6日目の今、彼女は暴れ散らかしてる。


 バヂヂヂヂヂヂビヂャーン!


 雷無双ゲーしてる。

 一昨日はデモンホエール。

 昨日はシーサーペント。


「ソードフィッシュって美味しいんだよねーっ?」


「おうよ! たっぷり狩ってくれぇぃ!」


 今日はカジキの魔物を群ごと相手にしてたとこ。


「それにしても今回は魔物が多い」


 こんなに魔物から襲われるのは、そうそうないと船長がぼやいてるが……マノンは「儲かるから良かったね」とか言う。

 チョット余計な言葉を僕から学んでしまってる。


 つい……出てしまってるんだろうなあ。でも仕方ない。素材をなんでも集めて、たっぷりため込むのはゲーマーの仕様だし。

 ついでにお金が貯まっていくのもゲームの仕様だし。


 魔物が多いのはありがたい。


 とはいっても、いつもと違うくらいに多いっていう事態。もしかして勇者力のせいだったりするんだろうか。

 実は勇者力が美味しそうな匂いとか?


 だから魔王が嗅ぎつけるのかもしれない。

 もちろんマノンはハパのおかげでいい匂いだけどさ。

 魔王め──まさかの匂いフェチ設定だったか?


「港が見えたぞォォォッ!」


 見張り台からの声で、安堵した雰囲気が船員たちに漂う。魔物がいる世界での船旅って危険だからなあ。

 船長は「油断すんじゃねぇぃっ」って怒鳴ってるけど。


 この船の船長が今回の船団長らしいから、責任も重大なんだろうね。


「ようやく到着しましたか。長旅でしたね」


「へぃ姉御ぉ。お待たせしやしたぁ」


「プヒーッ、姉御先生っ! お疲れさまでやしたぁ」


「マノンの教育に悪いですよ、あなたがた」


 ヒィとか言われちゃったが、マノンはあとでオシオキ決定な!


「ネムさんよぉ、あんまりウチの連中を脅さんでやってくれぇぃ」


 大声で話すからこんな感じになるんだって。

 そんなわけないじゃん。

 運営の趣味に翻弄された人々な気がするよ。


 常夏の島に上陸した僕たちに、船長から今回は助かったとお礼を言われた。魔物素材のおかげで儲かるし、みんなで分けたしな。

 そもそも僕らのせいで魔物が多かった説があるからだけど。


「ねえ先生、今回も家を借りるんだよね」


「そのつもりです。ベニもいますし」


「じゃあまずは商業ギルドだっ」


 そう言って適当に歩き出すマノン。彼女には見たことない街だし、マノンに合わせてフラフラしながら向かいますか。でも家の重要性は分かっているようで、露店でオヤツの果物を買いながらギルドの場所を聞いてる。


「成長しましたね」


「私だっていつまでも新人じゃないもんねー」


 人見知りが発揮されるのは多くの視線を集めた時くらいかな。

 アジテーションを伸ばさないようにお願いしたのは正解だったようだ。だって使ったら注目されるし。


 商業ギルドに到着した僕たちは、大き目のお風呂と即日転入可能を条件に、借家を探してもらった。

 ゴブリン換算で月に250匹の家。


 そこしかなかったので即決。しかも浴槽はなくシャワーのみだった。

 でもまあ水の精霊ハパがウォータベッドを覚えたから問題ないかな。ハパ自身が浴槽になれるってことでもある。


 船の中でも着る洗濯機みたいな感じで洗ってもらってたし。掃除道具もインベントリに入ったままなので、契約を済ませてさっそく向かうことにした。場所は地図を見せてもらって、風の精霊ナギに共有している。


 空から見て把握できるから案内は不要です。


「テキパキ掃除を済ませちゃおう!」


「楽しそうですね?」


「見たことない物ばっかりだったっ」


 お出掛けしたいらしい

 でも掃除終わる頃には夕飯になるな。


「ではせっかくですので外で食べることにしましょうか」


「うん!」


 精霊の力も借りれば、家の掃除も完璧だし時短にもなる。まあまあ大き目の家だけど、予定通り3時くらいには終わった。

 シャワーを浴びて、お出掛けです。


「先生先生、凄くいい匂いがするよ?」


「これは──人が抗えない魅惑の料理です」


 僕たちはカレーの匂いに誘われて店に入る。久しぶりのカレーに、僕もテンションが上がっちゃうな。

 マノンは初体験だろうし、堪能して欲しい。


「マノンはどっちにします?」


「えーっとね、ナンのほうにする」


 じゃ、僕はライスにする。

 これならどっちも食べられるからね。


 僕はチーズハンバーグの辛口。

 マノンはカツカレーを選んだ。

 彼女は辛いの苦手だから、甘口をオススメしておく。


「先生のもちょうだい。ハンバーグ付きで」


 口を開けて待つマノン。

 ナイスゆりゆりだぞっ。


「でも辛いですよ?」


 ハンバーグには辛口カレーが掛かってるし。


「だってチーズハンバーグ美味しそうだし!」


 ダメな気がするが……口は閉じられていない。

 勇者の覚悟、しかと見た。

 "もぐぅ"したマノン。


「ヒィィ、か、辛いぃぃ」


「だから言いましたのに」


「れもおいひぃ……れもはらいぃぃ」


 ヨーグルトを頼んでおいて良かったかも。


「マノンのも私にください」


「いいよー。はい、あーん」


 アーンし合う僕たちの姿は、なんか不幸なカップルも生み出しちゃった。

 スマンかった。

 でも彼女さんよ、見てたのは彼氏だけじゃなくキミもだろう?


 というか周囲の客から結構見られてたけど。僕たちは外国人の美少女二人組。しかも僕はエルフだし。

 見られても仕方ないかもね。


 僕たちはもう、お互いがお互いのものなので、狙っても見込みはございませんことよ?


 のんびり帰宅しながら、香辛料で火照った身体を冷ます。


 常夏の開放的な気分で、広々としたリビング。

 夜風に当たりながら色々開放してしまった。

 それはきっと薄着のせいだしっ。


「アゥッ、せ、先生?」


「今日は私が攻撃したい気分なんです」


「えぇ~? 先生ってば……すぐえっちな気分になるんだから」


「マノンは?」


「なるかも?」


 スッキリして、もう一回シャワーを浴びてサッパリして、もう一回スッキリしたあとグッスリ寝た。

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