24 「お相手の魔界にもお邪魔しておこうと思います」

 現実世界になってるから、移動にも時間が掛かるね。

 しかも目的地は孤島の国。

 船での移動になる。


 そして他所の魔王軍が管理しているダンジョンへ向かうよう、ヒントが示していたということは厄介なパターンってヤツだ。このパターンは、レガリアのヒントやピースが広範囲に点在してる。そして守護魔獣が強い。


 逆にレガリア獲得が楽なパターンは、拠点側のダンジョンでヒントが揃うってタイプ。レガリアのピースも、離れた場所に点在はしてないので揃いやすいんだ。

 その代わり最後のピースを守るのが魔王になってる。


 この時だけは、魔王を倒すのに聖女が使う光のオーラが必要って設定だった。聖女は教会に足しげく通っていれば仲間にできるし、もしくはパーティメンバー候補の子爵令嬢を僧侶からクラスチェンジさせたらOK。


 しかし聖女は対アンデッドと対魔王の時くらいしか役に立たない。レガリアのピースを手に入れる必要がなければ、いなくてもいいクラスだった。

 だから育ててた誰かに借りるのが鉄板。


 なんだけど──今の僕には厄介パターンのほうがありがたい。ウチの魔王サマには今のまま運営を頑張って欲しい。だってそのほうがダンジョンで稼ぎやすいし。


 他の魔王のダンジョンを攻略していけば、素材のレアリティが高いものが集まることになる。ベニ本体に頼めば装備の強化がはかどっちゃうのだ。

 つまり安全度が増すっていう計算さ。


「チケットはちゃんと持ってますか?」


「ダイジョブだよー、先生。船は初めてだし楽しみ」


 ただどのくらいの期間が必要なのかは分かんないからな。王都の借家契約は解除してきたし、マノンの実家にも顔を出してきた。

 ママご飯も作ってもらったので、ステータス強化も継続できるね。


 ベニは睡眠モードでマノンに抱っこされている。

 船ってば襲いたくなる衝動が激しくなるんだってさ。ウズウズが止まらないそうだ。だから向こうで家が決まったら起動して欲しいと言われた。


「新天地かあ」


「孤島の国のダンジョンは王都のよりも深いですからね」


 問題ないとは思うが油断しないようにしないと。


「せっかく王都に住み慣れたのになあ」


「他所の魔王軍の弱体化もしないといけませんので」


 半年程度じゃ王国民はそんなに強くなってない。しかも他所から狙われてるし、僕たちが敵軍にチョッカイ出して猶予を持たせないと。レガリアのヒントかピース集めのついででも良い。


「お相手の魔界にもお邪魔しておこうと思います」


「何個か部隊を潰すんだね?」


「ええ。素材と経験値にしますよ」


 分かったーって元気良く返事をしたマノンだけど、船はダメだったみたいで顔色がどんどん悪くなっていく。

 初めてで楽しみだって言ってたのにな。


水の精霊ハパ、キュアリキッドをマノンに」


 これがあるから僧侶や聖女が要らない子になっちゃったんだよね。

 回復手段が他にあるっていう……。

 しかも下方修正があったせいでもある。


 元々はパラディンっぽかったからな。当時は強すぎた。僧侶がいればだいたい解決するじゃんっていう。課金で衣装揃えてた人は多かったから、批判も多かった。

 バランス調整、シッカリお願いします。


 今の僕には無関係だけど……。

 お金返して欲しいけど……。

 受け取れないけど……。


「ありがと、先生……楽になったぁ」


「まだ数日は船旅です」


「ちゅらぁい」


 ちゅらいか……これはどうしても慣れが必要だろうからなあ。先に馬車とかを経験しておけば良かったんだろうか?


 ハパにウォータベッドを作ってもらって、船の揺れに対抗するのはどうなんだろうか?

 イケそうな気がしたので、まずは僕が試してみる。


 余計に酷くなったら最悪だし。


「うん、大丈夫そうです。これで少しは良くなりますよ」


 頭のほうは冷やして、身体は冷えないように温度調節してもらう。少し経つと寝息が聞こえてきた。そのまま寝かせておこう。

 起きてなきゃ酔ったりしない。


 ただ船の揺れが大きくなってきている。魔物が出たのかもしれないな。海の魔物って基本的に大きいのが多い。この船は定期便だし、平和に進むから退屈だろうなって思ってたんだけど……。


 マノンがダウンしてる今となっては、平和であって欲しかったね。海の魔物とも戦闘経験を積めないしさ。

 出番があるか、甲板へ出て様子を見よう。


 魔物対策とかだろうけど、6隻で船団を組んでる。だから基本的には客が戦闘に参加する必要なんてない。でも僕はチョッカイ出したい。そのほうが早く終わりそうだし、マノンの負担も少ないはず。


「バリスタ準備良し!」


「魔法士はどうか!」


「すでに待機済みです!」


「来るぞッ!」


 船を絡め捕ろうとする触手が現れる。

 クラーケンだ。


「放て!!」


 バリスタから矢弾が打ち出され、魔法士はファイアボールやストーンランスで攻撃。弾幕を張って魔物の攻撃を防いでいる。

 やっぱり大きいってことは強いってことだ。


 防ぐだけで精一杯な様子。

 マノンなら雷撃で簡単に処理できただろうになあ。


「参加しても?」


「攻撃手段があんのか? ならありがてぇ!」


闇の精霊ヤヤ、デバフ盛り盛りで」


 定番の暗闇効果に防御力ダウン。

 さらに喰らうとヒドイ目に合うことが発覚した倦怠感付与。


風の精霊ナギは内部から攻撃」


 クラーケンは大きいから、外部からの破壊は火力が必要だ。ナギには傷口から侵入してもらって、巨大ダコの息の根を止めてもらおう。


 水の精霊ハパ木の精霊ジュカはお休み。

 ハパはマノンのベッドに専念してもらう必要があるし、ジュカは海上だと……その、ね? ゴメンだけど出番がないよ。


「魔力はたっぷり使ってください」


 スキルツリーでブーストしてある僕のMPは、膨大なものになってる。僕からほとばしる魔力で、魔法士がギョッとした表情でコッチ見た。


 小娘が何できるんだ? みたいな顔してたからチョット盛ったのだっ。「女子供は引っ込んでろ」「ママのおっぱいでも吸ってお寝んねしときな」とか思ってたんだろう。


 下品なヤツなんかは「俺が吸ってやってもいいぜ、吸うおっぱいがねぇけどな! ギャハハ」とか考えてそうな目をしてたからね。

 力を示しておくのだ。


「でかした! 動きが鈍ったぞ、火力を集中させろォィッ!!」


 美少女の二人旅。船の上なんて逃げ場がないし、チョッカイ出されると面倒なので、人間サイズならチョロイよってのを見せておいた。


 水の精霊ハパに水上歩行をさせてもらった僕は、クラーケンを引きずって船の側に。魔物は美味なので。

 ぱわーっ!


「解体のお手伝いをお願いします」


「了解でさぁ姉御ぉ」


「お任せ下さいでさぁ姉御ぉ」


 姉御はヤメロォィ!?

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