28 僕はそう確信してる。

「ほらマノン、もう行きますよ」


「もうちょっと探索したかったんだけどなあ」


「どうせたいしたものは出ませんから」


「はぁい」


 壁際に並ぶ円柱の陰まで気にしてたら進まないんだよね。僕もゲームでは探してたから、その気持ちは分かるけどさ。

 今は現実。


 勇者ちゃんも現実を見よう。

 アイテム、ないでしょ?


 言ってはいないけど、風の精霊ナギに頼んでこの辺り一帯はもう探索済みで、アイテムがないのは分かってたりする。

 だから余計に無駄な行動に思えてしまう。


 自分がやり込んだゲームの、初見プレイ実況を見てる感じが近い感覚かな?

 知ってるからって口出すのは厳禁だよ。

 失敗もマノンの糧になるから、ぐっとこらえているのだ。


 予定より遅れていることに気付けば、彼女の行動も変わると信じてーっ。


 "探索したい"がメインでも、時間の制約があることもざら。だからといって戦闘をおろそかにしてもダメ。

 教えるより気付くほうが大事かなって。


 先生はそう思います。


「敵発見っ」


「了解です」


 細く長く伸ばしたマノンの雷のオーラが、何かに接触したようだ。


「6体接近中」


 残念。もう少しちゃんと調べたら、オークの他に隠れているコボルトにも気付けたと思う。だけどマノンはオークパーティの数を感知したところで、索敵用のオーラを解いてしまった。


 まだ苦手だって言ってたけど、余裕で勝てる今の内に練習をして欲しい。

 先生はそうも思います。


 3層でオークチーフ率いるオークパーティと戦闘状態に入ったマノン。隠れているコボルトシーフは気をうかがっているようだ。コイツはダンジョンの魔物じゃなく魔王軍かもしれないな。


 1体しかいないし、暗殺しようと接近してきている。コボルトアサシンにクラスチェンジするための行動だと思う。

 ダンジョンの便利機能を使って、僕たちを見つけてやって来たんじゃないかと。


「うわっ」


 オークパーティを仕掛けて、その隙にという作戦だったはずだ。


「動きが雑ですよ、マノン」


「は、はいっ」


 しかし残念ながら、初心者なのはマノンだけ。

 そのマノンも戦闘力は高い。


「ギャイィィィン──」


 不釣り合いな階層で暴れてる僕たちに、ちょっかいを出したのが敗因ということで、ここはひとつ……お許しください。


 マノンは警戒を怠ったせいで、コボルトシーフから攻撃を喰らってしまった。でも樹皮の肌バークスキンと闇の衣で強化していた。

 だから彼女に被ダメはないよ。


 相手が弱いからって油断してるな。

 偽装や隠蔽をして襲ってくるヤツなんて、いくらでもいるから気を付けないとダメなんだ。


「マノンが覚醒した時のゴブリンキングと同じ思考ですね」


「ウッ」


「格下と思っていた私にもてあそばれたアレですね」


「ハウゥッ」


「力を抜くことと、油断することは別ですよ」


「はい!」


「ブキィッ」


 常に全力全開も違うからな。

 必要な時に必要な分を、だ。

 おかわりされたオークも退治しながら注意喚起する。


「きゅー」


「はい? 私がマノンを甘やかしすぎ?」


 そんなわけないじゃん。


「精霊の保護が過剰?」


 マノンに傷を付けるわけにはいかないじゃん。

 アホなのか?

 このドラゴンはアホなのか?


 まあ……一番傷つけたのは僕なんじゃないかって思ってるけど。

 しかも心を。

 偽装とはいえ僕が死ぬところを見せたし……。


 だ、だってゲームのシナリオみたいに、村のみんなを殺すわけにはいかないから仕方ないじゃん?

 分身体がリアルに殺される現場を見せるのが、勇者覚醒の手段としては最適。


 僕はそう確信してる。


「ううん、先生。ベニちゃんの言う通り──ってなんでそんな裏切った! みたいな顔してるの」


「バ、バカな……」


「ピギィィィ」


 保護なしでやるというのか?

 じゃ、じゃあ索て──


「索敵も、やり過ぎないでね?」


「──分かりました」


「ブ、ブヒ……」


「きゅー」


 このダンジョンの敵戦力バランスなら、10層くらいまではソロで平気。ベニは運営サイドの思考でそう言っているようだ。

 なかなか鋭い。


 僕もゲームで知ってるからそう思う。だけどマノンの"勇者の力"に気付けば何を送ってくるか分からない。

 今のところ、気付かれた様子はないけども。


 だからといって油断していいわけじゃないからな。

 ベニだって気付いたしさ。

 僕か……原因は。


 マノンの髪の毛渡して、ベニの研究熱をブーストしてしまった。

 で、でもそれは仕方なかったと、確信している……。

 だ、だって魔王軍を誤魔化すには最適な手段なんじゃないかって……っ。


「きゅー」


「そうだね。過保護も敵かもしれないね、ベニちゃん」


「くっ」


「ブィィィィッ」


 過保護だったか?

 そんなことはないと──僕は確信しているのだがっ?


「そんな不思議そうな顔してる先生に送る言葉があるよ。先生は過保護です」


 賛同は得られなかった。

 僕は過保護らしい。


「言い直しただけじゃないですか」


「だ、だって先生たちが頭の良さそうな話してるもん」


 なんかカワイイ理由で賢そうな言いかたがしてみたかった様子。

 カワイイ。


「ギピィィィィッ」


「それに先生まで手を出したら反省も何もないよぉ」


「つ、次行きましょう、次」


「きゅー」


 ソロではないのか? だって?

 ……じ、時短のためかな?


「きゅー……」


「先生……」


「反省は次に生かすのです」


 おかわりでやって来たオークバロンを取ったことも非難されてしまった。だ、だって絶対に検索使って仕掛けてきてるじゃん。オークバロンだよ?

 現実では初めて見るから、マノンに初見プレイをさせるわけにはいかないよ。


 僕はそう確信してる。


 そう思わざるを得ない理由だって、ちゃんとある。

 マノンのスキルツリー。

 少なすぎる。


 プレイヤーキャラのはずなのに。

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