27 その破壊衝動はどこから

「ベニちゃんはどうする? ダンジョン一緒に行く?」


「きゅー」


 両手と翼を上げ、参加を表明するベニ。別人の作ったダンジョンなんて見ることなかったし、興味があるらしい。


「守る対象がいるということは、マノンの成長にも繋がりますね」


 戦力にはならないけど、ちびドラはダンジョンマスターの分身体だから死んでも問題ないし安全だ。


「安全とわっ!」


「ンフッ」


 ツッコミもサマになってきましたね、マノン。って言いそうになったけど、それはネムのキャラじゃないし心の中で。


 ヒントから判明した次に向かう場所。それはこの国にあるダンジョンの10~20層の中に隠されている。

 2日くらいは掛けて潜る必要ありそうかな。


 他所の魔王軍管理のダンジョンだからエレベーターが使えないしな。もちろん秘密の休憩所も使えない。

 こうなってくるとインベントリは便利だ。


 精霊たちもいるから、他の冒険者たちよりも快適な探索が可能だね。


 冒険者ギルドで、一応掲示板の依頼もチェックしておく。何でもかんでも持ち帰ってると、インベントリの中がゴチャゴチャになって整理が大変になるし……。

 何かに使える理論は現実よりシビアに判定しないとっ。


 素材は合成に使うから、油断すると必要なものも売ってしまいそうでさ。ついつい貯め込んじゃうんだよなあ。


「今回はマップを購入してから行きましょう」


「はーい」


「昨日買っておけば良かったですね」


 先生の万能感が減ってしまう。


「失敗しました」


「先生が完璧じゃなくて良かったよ?」


「そうですか?」


「そのほうがカワイイし」


 例えば誰かのためにすることが過剰なんだよってマノンに言われた。

 例えばお土産。

 例えば彼女の成長に数年費やしたり、と。


「あとねえ──」


 ボショボショっと耳打ちされた、"弱いくせにえっちなとこ"だって。

 その言葉で何事かと思われるくらいには赤面したようだ。体温が一気に上昇してしまった。


 ギルドにいる人たちに見られてる。

 真っ赤になって恥ずかしがる女の子なんて、みんな大好物だろ!?

 僕だって大好物だ!

 そりゃ見るさ!


「マ、マノン!」


「あはっ、そういうとこ大好きー」


 不意打ちのニッコリで会心の一撃。

 勇者のそういうとこ、ズルイぞっ。

 僕とマノンはベニにしばかれた。


 行きますか。


 ダンジョン攻略に向かう。ここの管轄は孤島の魔王軍。人間は自分たちが管理していると思っているようだけど、ダンジョンは全部どこかの魔王軍のものだ。

 だからダンジョンデザインも、それぞれ違う。


 孤島のダンジョンは、ベニの作るダンジョンとは雰囲気が違って、おどろおどろしい邪教の神殿風。

 設置してある松明も、わざわざ青白い炎を出すものだ


 雰囲気以外には、明かりをともすという効果があるよ。

 プレイヤーに優しさをもたらす運営のゲームデザインかどうかは分かんないけど、現実化したせいで魔王軍が人間に優しい感じに。


 攻略しやすくなっちゃうからな。

 まあ……そのほうが儲かるからかな?


 そして神殿風のダンジョンだから、ここもマッピングはしやすいタイプ。隠された部屋も、自然系より違和感を断然見つけやすいと思う。

 全部が全部、滝の奥に通路なんてことはないし。


 今日の目標は第5層への到達。

 3層まではスルーで良いかもな。

 敵もゴブリン、コボルト、オーク辺りが鉄板だろうしさ。


「隠し部屋は?」


「……見つかっていない部屋なら」


「やたっ!」


 一応発見されてる隠し部屋だって、魔物もアイテムもリポップする。稼ぐ場合は回っていく感じだからマップに記入されてるんだろう。

 お宝は数段落ちるものになるはずだけど。


 だけどマップに書かれてない場所もあるとは思う。教えないほうが稼げる場合もあるだろうしな。


「なのでそんなに良いものは出ないと思いますよ」


「見つけるのが楽しいんだから良いの」


 ガシャーンパリーンバコーン。

 そんなBGMを聞きながら、勇者行動は避けられないようだって思ったよ。


「だから邪魔しないでよねっ」


 未記載の隠し部屋に入ったら、ゴブリン&コボルトの混成軍と戦闘になった。

 隊長はコボルトナイトか。

 粗末ながらも装備を整えてあるな。


 1人だけ金属製の鎧が仇になったな、コボルトナイトくん。目立つせいで真っ先に雷の餌食になっちゃったよ。

 僕とマノンにとっては、10体程度じゃ脅威にはならないからすぐに終わった。


 でも1層からこれだと、王国民では勝てないだろうねえ。冒険しに来た王国の冒険者、居付いた人はほんの一握りだろうなあ。


「きゅー」


「どうしたの? ベニちゃん」


 シャカシャカっと書き込まれたボードを見ると、ベニは魔物のバランスを上方修正するとあった。

 我が軍のダンジョンは弱すぎると思ったらしい。


「少しずつお願いします」


 魔王軍、王国民、どっちも強くならないとダメだ。以前に来てたヤツらは飛行型だったから、コスト的に頻繁には攻めてこないと思うけどさ。

 それでも対処は必要だろう。


 幸いにもウチのダンジョン、儲かってるので色々と潤沢だ。

 孤島と王国じゃ人口が違うからな。

 なので対応はしやすいはずだよ。


「先生たちは色々考えてるんだね」


「え、ええ。まあ」


 マノンの、その破壊衝動はどこから……出てくるのかな?

 やっぱ"勇者の力"から?


 ガシャーンパリーンバコーン。

 ガシャーンパリーンバコーン。

 パリーンパリーンバコーン。


 リズムに乗ってまで壊したいの?

 僕もそこまではやったことないなあ。

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