37 ボス戦に挑むなら着るしかない。

「──れと、それと、あとこれ。それからこっちはねえ、みんなの分も買ってきたから、あとで集まって分けようよ!」


「どうしようママ、マノンがネムさんみたいになってしまったよ」


「ネムちゃん?」


「お土産は皆さんに買うものでしょう?」


「どうしようママ、ネムさんも分かってない」


 何かマノンにオカシイところでもあったかな?


 装備作成のために王国に帰還した僕たち。まずはベニ本体のところへ素材を送った。これはダンジョンの秘密部屋を使えばすぐなので簡単。

 どんなものにするかは事前に相談してあるし、製作開始してもらった。


 そしてマノンの帰省は2週間の予定。装備の制作にも時間がいるしね。カレーを食べさせてあげるんだ、って喜んでもらえるよ、って意気揚々と帰って来たところだよ。


 だけど困惑しているマノンの御両親。

 僕たちにはチョット意味が分からなかった。


「マノン、ネムちゃん。加減ってものを覚えなさい」


「アレッ!? 私も!?!?」


「そうだよ? マノン。確実にネムさんの影響を受けているからね」


 なんか僕が原因らしい。

 お土産の授業なんてしてないから、僕のせいじゃないと思うけど?

 教えたのって戦闘と冒険者的なことくらいだし。


 ……えっちなヤツはマノンが勝手に覚えた。

 しかも僕より上手な気がする。だって自分でするより…………いや、止めておこう。深く考えるのはキケンだ。


「都会に行くとこうなっちゃうのかしら?」


「た、確かに欲しいのがいっぱいあった……から……かなあ?」


「ははは、でもパパは嬉しいよ」


「もちろんママもっ!」


「じゃあじゃあ今夜は私が──」


 全てを虜にするマノンカレーの出番か。僕も手伝って大量に作ってしまおう。どうせみんなで食べたら、あっという間になくなるに決まってる。

 村人全員を虜にした結果、明日には全部消費されてしまうと思う。


 生鮮食材と香辛料とレシピは、マノンママに管理してもらうことにした。

 これで村人も大丈夫だ。

 カレーに飢えることはないだろう。


「20世帯1年分くらいはここに入れてありますので」


 さすがに1年以上、マノンを里帰りさせないなんてことはないからな。追加購入して戻ってくるよ。

 だけど常夏の国での活動が終わったら、どうしようかなあ。


 香辛料を買うために行くのも手間だ。かといって王国に輸入されているものは、結構高額になっちゃってるし。

 可能な限り買い込むのがベストか?


「ネムちゃん、マジックバックはさすがに……」


「私はいくらでも手に入りますから問題ありません」


 カレーなしの生活には戻れなくなったと思うので、諦めてください。現代の日本と違って保存用の道具が未発達。密閉容器がないからね。マジックバックだけが唯一の方法って状況なので、カビが生えて使えなくなってしまう。


「先生は言い出したら聞かないから、受けとってあげて。最初は村に5個くらい渡すとか言ってたのを止めたんだよ?」


「狩りにも使えますし、食料の備蓄という面で有能ですからね。やはりせめてもう1つ──」


「ほら、増えるからっ!」


 ぐいぐい押されて出発となった。

 謎だ。

 必要でしょう?


「まあコッソリ置いておいたので問題なしです。食材もさらにたっぷり追加してますし」

「問題ありだよ先生ぇ……」


 便利だけど高級品過ぎると叱られた。だけど僕的にはちゃんと人として見てくれる村のみんなが好きだからな。

 何かしてあげたくなっちゃうのだ。


 魔王軍だとの駒とか繁殖用のメスって感じで見られることが多いし。

 僕は僕で魔王軍を便利な道具として使ってるし。

 歪んだ関係だなあ。


 ってことで、マノンの村の人たちには──


「遠慮はしません」


 ──しないのだっ。


「少しは言うことを聞こうっ」


 聞ーかーなーいー。マノンとマノンの村に関しては聞く耳を持たぬッ。村の開発や発展という面ではちゃんと聞くよ?

 でも安全性を高める部分は諦めて欲しい。



 ダンジョンに戻って装備を受け取りに来た僕たちへ、自慢げに披露してくるベニ本体。


『見るが良い! 我のセンスはなかなかのものであろう?』


「ひ、久しぶりに聞くと違和感があるなあ。ベニちゃんの喋り方」


 いつもは「きゅー」だけ鳴いて、文字でやり取りしてるから仕方ない。そして変なところで女子力を発揮してるベニから、ラッピングされた箱に入っている装備を受け取る。


 ベニちゃんとして一緒に買い物とか付いて来てたから、人間社会のことを学んだってことなんだろう。

 ダンジョンマスターも外出したら変わるんだなあ。


 僕用の武器。

 オーブを付け替えて、属性付与可能なダガー。

 貫通力と破損耐性も付いているもの。

 炎のオーブ、雷のオーブも用意済み。


 マノンの武器。

 能力5%ダウンの付与をするロングソード。

 切断力と破損耐性付き。


 2人とも2本ずつ用意してもらっている。


 そして防具だけど……チョットだけセンシティブなものになった。ベニがビキニアーマーを知ったせいで。

 僕のは短パンブーツが特徴で、マノンのはお腹が丸見えなのが特徴だ。


 性能は良いものだな。

 ボス戦に挑むなら着るしかない。


 アーマーは耐物理。

 マントは耐魔法、耐熱。

 ブーツは隠密性能。


 全部+15%アップする装備だ。


「可愛いけど恥ずかしいなあ、コレェ」


「私は平気です」


 ただマノン。

 モジモジするとえっちなのでやめてください。


 そして全部ブラッドシリーズと名付けられたもの。

 預けた血液を使った僕たち専用装備に仕上がっていた。

 自身の血液を付けることで能力上昇がさらに5%付く。


 そんな説明を受けて、テンションの上がる僕たち。


「カッコいい!」


「それはなかなか」


『そうであろう!』「きゅー」


 胸を張るベニ本体の頭の上で胸を張るベニちゃん。

 なんかチョット悔しいけど、これは自慢されても仕方ないね。


 それじゃあ、再侵攻しますか。

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