12 僕は目隠しされた状態で、耳元でワーワー騒ぐマノンを背負って試験に挑んだ。

 竜鱗の軽装鎧。

 竜牙のロングソード。

 竜爪のロングソード。

 ワイバーンの飛膜で作られたマント。


 マノンのベルトポーチはマジックバック。

 僕のはインベントリを誤魔化すためのベルトポーチ。

 マジックバック系スキルはどう認識されるか分からないからな。


「うん、カッコいい」


 装備を整えると、テンションが上がるのはマノンも一緒らしい。


「ええ。頑張った甲斐があります」


「へへ。ありがと、先生」


 僕的に推しなのが、二刀流。

 竜牙のロングソードは背に。

 竜爪のロングソードは右腰に装備してるところ。


 背に装備してる剣は、7時5分の角度で襷掛けしてて右肩のほうに出てるよ。こうすることで一度に二本構えることができるのだ。


 右手に竜牙、左手に竜爪。

 シュリーンって抜く姿がカッコカワイイ。カッコカワイイので、慣れさせるためと言って何度も練習させてしまった。


 大事なことなのでお許しを。


 僕自身も抜く練習は何度もしたし、間違いではない……と確信してはいる。

 僕の短剣は腰の後ろに二本装備してる。シャリンッて抜く姿がカッコカワイイ。

 カッコカワイイので、鏡を見ながら練習したのだ。


 バッチリなのだ。


「そういえば登録時の試験では、雷と聖の属性を使わないほうが良いかもしれませんね」


「なんでー?」


「目立ちますからスカウト合戦に発展しそうです」


「え? 先生と私の2人パーティ? ダイジョブ?」


「もちろん」


 マノンは自分の強さをあんまり分かってない。比較対象が僕とかゴブリンキングしかいなかったしな。

 ノーマルゴブリン程度は村の側にもいたし、普通に村人が倒してたし。


 美少女2人で目立つのはよろしくない。

 だって虫が寄って来ちゃうじゃん。

 特にマノンは男女問わず目を引く部分があるし。


 今は鎧を着けているから平気だけどさ。

 どことは言わないが。

 僕のは最初から揺れは少ないので、アーマー系を装備しなくても問題ない。


 雑談をしながら冒険者ギルドへ。

 話ながらだとあっという間に感じるな。

 中央の大通りまではそれなりの距離があるけど。


「こんにちはー」


「ッ!?」


 カワイイかよ!

 冒険者ギルドに入る時、挨拶をするマノンに不意を突かれる僕。お婆ちゃんちに入るわけじゃないんだよ?


 商業ギルドに入った時は言ってなかったから、マノンの目的地じゃなかったってことなんだろうか。

 おのれ勇者めぇ。想定外の攻撃が効いちゃったぜ。


 そんなわけで、いきなり目立ったマノン。多くの視線を受け取ったせいで、ビクってなってオドオドし始めた。

 庇護欲メーターが上がるのを実感する。


 大丈夫だマノン。

 パッと見、僕たちはここにいる誰よりも強いから気にしなくて良い。


「人見知りでしたか」


「う、うん私も今気付いた」


 色々とチェックされてる感じもするから、余計に気になるんだろうな。護衛を求めてるなら俺たちが、みたいな顔してるのもいるし。侮った顔してコッチ見てるヤツらは低ランクかな。


「登録してしまいましょう」


「ぼ、冒険者になりに来ました。お願いしますっ!」


 元気良く受付でご挨拶。

 憧れで、こんな状態になってるのかもしれないな。


「マノン、落ち着いて。私たち2人の登録と、ランクアップ試験をお願いします」


「試験って言ってたの、ランクアップのため?」


「そうですよ。私たちが低ランクのままだと、狩場を荒らすことになりますので」


 受付嬢には心配された。

 マノンがアタフタしてるのを見られてるしな。でも問題なし。戦闘力という面では誰にも引けを取らない。


「私たちは冒険者登録していなくても、任務絡みの戦闘をしていましたので」


 弟子のマノンも、ゴブリンキングとのタイマンなら勝てると伝えておく。

 冒険者登録も任務の都合上、取っておいたほうが便利だからという理由を付け加えた。


 もちろんウソだけど。

 ホントはダンジョンに入りやすくなるってだけの理由だ。


 ダンジョンへはDランクからしか入れないからね。登録したばっかりだとFスタートになっちゃうから、ランクアップも同時申請した。

 依頼をこなしてないから、Cまでしか上がらないはずだけど、それで十分だ。


 案内された場所で、試験内容を言われた。ソロでの戦闘力と、デュオでの連携力。どっちも見るって。見学者がいると思ったが、茶化したり賭けたりと騒がしいから、なしになったそうだ。


 まずはソロでの試験。


「では私の出すゴーレムと戦闘してもらう。どっちからやるかね?」


「私からお願いします!」


「丁度いいので目隠ししましょう。見学者もいませんし、属性はありで」


「ええー? 目隠しはまだ苦手なのにっ」


「せっかくのゴーレムですから、有効利用させていただきましょう」


 生き物じゃないから、難易度が上がるんだよね。そしてゴーレムとかガーゴイルみたいなのは、あんまり相手にする機会がない。

 これはチャンスなんだ。


「良いのかね?」


「構いません」


「分かった。行くぞ」


 デバフ状態だったり、複数の敵と相対する時なんかには気配を読むのが重要になるから、大事な修行。

 木の精霊ジュカに頼んで、バークスキンを目隠しに使う。


「うわぁっ? なんか余計なことしてない!? 先生!」


「しています」


 精霊とゴーレムの違いが分かったみたい。


「しなくても良いのだが?」


「こんな機会はそうそうないので」


「もーーーっ」


 あ、雷のオーラをまとった。

 接近するゴーレムの拳に、紫電が伸びた。

 マノンはこうやって感知範囲を上げている。


 食事でブーストされてる彼女のステータスで、ゴーレムと木の精霊ジュカの攻撃も蹴散らせる力は十分にある。二刀の扱いも問題ない。

 腕を切り落とされたゴーレムは、成す術もなくなり試験は終了した。


「私も先生の試験を邪魔するからね!」


 僕は目隠しされた状態で、耳元でワーワー騒ぐマノンを背負って試験に挑んだ。

 まさかのデバフ連携を披露する羽目になるとは。


「試験は合格と言っていいが……無茶苦茶だな、君たちは」


 無事ランクアップが果たせたようです。

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