11 それによって"ゆりゆり"の扉が開くかもしれないのだ。

「マノン、口が開いています」


「だっておっきいんだもん」


 さすがに王都だけはあって、入るまでの待ち時間も長い。

 今から口を開けて城壁を見上げてると、街に入る頃には砂埃や虫が口に入ってそうなんだが。


「閉じなさい」


「はぁい」


 隙だらけのカワイイ女の子に見えたら、虫が寄って来ちゃうじゃないか!

 ネムである僕もカワイイ顔してるからな。

 隙を見せてはならないのだ。


 一人で行動してた時は、剣呑な雰囲気をまとってたら問題なかったんだけど、マノンと一緒だからなあ。

 1人はポヤッとしてて、1人は危ない雰囲気。


 そんなのだと余計に目立ちそうだ。

 剣呑オーラなしの方向で行動したほうが良いと判断した。正解なのかどうかは分かんないけど。


 前世含め……基本ボッチだったし。


「もうちょっとだ。楽しみだね、先生!」


 でも今が楽しいので問題なし!


「街に入ったら、まず商業ギルドに向かいます」


「冒険者ギルドじゃなくて?」


「住居を決めないといけません」


「宿にしないの?」


 そういえば相談してなかったな。

 僕も浮かれてたってことか。


「家を借りるつもりですが、マノンは宿のほうが良いですか?」


 お金はダンジョンマスターに交換してもらってるので、たんまり貯め込んであるから王都で借家も候補に入れられる。僕はストーリー中盤以降のダンジョンに先行して入ってたから、ダンジョン成金だ。


 インベントリにマジックアイテムも色々入ってるし、それも売ればお金になるし。

 ゲームの知識のおかげで、自由度も増しているからハッピーだ。

 必要な装備もダンジョン産にできるしな。


 魔王軍のハッピーセット、最高だよ。


「ウーン、宿暮らしには憧れがあるかな」


「宿暮らしのメリットは──」


 食事が出ることも含めて、ある程度の家事をやってもらえること。

 ただお風呂が共有になるのがデメリット。

 マノンには。


「マノンはおそらく見られますね。可愛くてスタイルも良い」


 おっぱいもおっきい。

 凄く見られると思う。

 "たゆんたゆん"は女子も見ちゃうって聞いたことあるし。


「せ、先生だってスラっとした美人じゃんっ」


「私は見られても恥ずかしくないですし」


 女子の内緒話は、門の通行料を払う直前まで続いた。

 美少女2人のボショボショ話の中身は、ほとんどがおっぱいのことだったことをここに記す。


「まず商業ギルドだねっ」


 やはりマノン的にはお風呂がネックだったようで、借家に決定した。その場合のデメリットもあるんだけど、家事程度だからな。


 ご飯は僕が作れるし、なんならマノンママのご飯もインベントリにはたっぷり入ってる。

 掃除だって精霊に頼めば、かなり楽になるから問題ないのだ。


 そして誰にも見られることなく、お風呂に入れるということが最大のメリット。

 それは水の精霊ハパのマッサージ付き洗浄(意味深)が可能であるということだ。


 まずは僕の痴態を見せる羽目になる気がするけど、それによって"ゆりゆり"の扉が開くかもしれないのだ。

 可能性を信じろっ!


「なんか家を借りるって、お金がもったいない気がする」


「個室にお風呂が付いてるような宿暮らしのほうが高いですよ」


 お金いっぱい持ってても、毎日6万円くらい出すのはチョット……。

 凄くもったいないです。

 ゴブリンで換算すると、毎日60匹処理しなくちゃだしさ。


 それを伝えたらマノンがガクガク震えた。


「コワイ、オウト……タカイ。ムラ、コイシイ」


「ホームシックが早いですよマノン」


 借家なら月に200匹で済むから大丈夫だと伝え、商業ギルドに向かう。その途中で念のために掃除道具は買っておいた。

 今日から借家で暮らしたいからな。


 今日の今日でイケるかどうかは、さすがに分かんないけど。



「大き目のお風呂があれば、場所は問わないということですね?」


「ええ。それでお願いします」


 街中の距離なんて、僕たちにはたいしたことないからな。大型荷物の移動だってインベントリがあるし。

 マノンにもマジックバックを渡してるから問題ない。


 リストを見せてもらい、月にゴブリン300匹の借家にした。1日10匹換算の家。

 大通り近くだと、もっとお高くなるようだ。

 街の端っこのほうだから、人気ひとけ人気にんきもないらしい。


 契約書にサインをし、鍵を受け取る。

 今日から住める場所っていうのも理由の1つだ。


「想像したよりも大きな家ですね」


「ねっ。冒険者も頑張ったら、こんな家建てられるんだなあ」


 引退した冒険者が晩年を過ごすために建てた家らしい。

 でっかい家。

 でっかいお風呂。


 チーレム野郎の家か?


「ピカピカの綺麗にしましょう」


「なんでそんなコワイ目してるの?」


「家は清潔でないと」


「ん? うん、それは分るけど?」


 チーレム汁は徹底的に除去せねばならないのだ。

 どこでナニをヤってるか分かったもんじゃねえっ。


「ベッドや絨毯も新調しましょう。行きますよ、マノン」


「あははは、何なの? そのやる気ー」


「行くのです」


 僕たちはまた中央区に戻ってきた。

 家具の新調もそうだけど、タオルとか石鹸とか、生活用品も買わなくちゃいけなかったからね。


 家の充実化に数日費やしたら、マノンのガマンが限界に達したようだ。


「早く冒険者になろうよ、先生!」


「今日行くつもりでした」


「その目は──今気付いた目っ」


 バレた!?

 ポーカーフェイスに振ったキャラメイクなのに、マノンの看破がシステムを突破してる。


「可能性が広がったのかもしれません」


「何言ってるの」


 マノンがゲームのシステムを使えるかもしれないんだ。

 マノン──最強の勇者になるかもな。

 抜かされないように鍛えよう。


「先生的見地による考察です」


「センセーテキケンチ? ナニイッテルノ?」


「要するにマノンには負けませんってことです」


「えぇ~? 私が勝ったことなんてないのに」


 マノンが強くなることは決定してるんだ。

 でも僕は、マノンが越えられない壁になりたい。

 先生であるために。


 いや、弟子が超えていくのが定番か?

 いや、でもなあ。


 ラストレガリアはやり込んだゲームだったし、例え相手がマノンでも負けたくはないな。

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