10 僕のは偽造した冒険者証だし、ちゃんと冒険者になろう。

 マノンの準備は終わっている。

 しかし村長の話が終わらない。

 "長"が付く役職の人は、話が長いのってどんな世界でも定番のようだ。


「であるからして、え~──」


 励ましてくれてはいるんだけど、マノンの表情も見てあげてよ村長。

 村の出口で長話。

 おさの癖に視野が狭い。


 勇者は長に殺される。


 マノンの急所は退屈ってことなんだろう。村長の話がクリティヒットし続けて、表情がなくなってるよ。1年我慢してたからなあ。

 冒険者登録が16歳からなので。


 やっと出発というところで、退屈な激励が続いている。

 僕は最初から眠たそうな目をしてるから、退屈でも変わりない。

 僕の任務も変わりなくて、とっても都合が良い魔王軍です。


 相変わらず勇者捜索と暗殺の任務に付いてるよ。

 ウチの魔王サマは、ちゃんとマノンの勇者力を感知したみたいなので。とはいえ、別の勇者と勘違いしてるようだった。


 ひょっとしたらだけど他の勇者も生まれてて、勇者の力が漏れ始めてる可能性もある。別の場所の魔王がいるのは確定してるからな。

 ガーゴイル使ってくれたおかげで儲けたので覚えてる。


 そんなわけで、勇者も複数いたって不思議じゃない。どんな人物なのかは分からないから、絡まないように動くべきだろう。

 マノン以外はプレイヤーがキャラメイクするタイプだし。


「つまりは、え~──」


 この1年で村の強化もチョイチョイやってきた。外壁の強化や、村人戦闘訓練など。必要なものは僕がインベントリで持ってくればいいし。

 ダンジョンは便利に使えるので、最大限利用させてもらってる。


 村を離れるマノンも安心できるだろう。


「ゆえに、え~──」


 さすがに村長の話を終わらせるか。


「そろそろ出発します。野営地まで行く必要がりますので」


 今気付いたって表情の村長。

 反省したまえ。


「ママ、パパ、行って来ます!」


 マノンも急にニッコリ。


「気を付けるのよ? マノン」


「ネムさん、マノンのことをよろしく頼むよ」


「お任せ下さい。別にいつでも帰って来られますし、ご安心を」


 だってご飯が強いからね。不思議な言葉だけど、この地方のご飯は強いのだ!

 ステータスアップのためのアイテム集めで"とあるモンスターの討伐数がエグイ"なんてことにならなくても済むよ。


 タネ集めしなくて良いのでチョイチョイ帰って来たい。


「先生、それを早く言って!?」


 そうだね、ごめんマノン。

 伝えてたら村長の話がすぐ終わったかもしれない。

 失敗だったな。僕も万能じゃないので許して欲しい。


「では出発しましょう」


「はーい!」


 マノンは念願の冒険者。

 僕は念願のゆりゆりルートのスタートだ。


 2人して浮足立ってるのか、足取りも軽い。早歩き程度の速度で移動してしまってるが……。


「マノンの持久力はどれくらいでしょうね?」


「5時間くらいゆっくり走って、そのあとにゴブリン殲滅させられたよ?」


 そう言えばそうだった。


「もうあの時みたいな変装はイヤだからね! 先生っ」


 しかもまだ根に持ってる。


「絶対にマノンの存在を知られてはいけない時でしたので」


「ムー」


 幸い持久力はあるみたいだし、2週間くらいで王都に到着できそうかな。

 ややのんびりの旅でも良いか。

 僕らの今後の予定としては……。


 まず王国で冒険者登録。そしてレガリアの情報集め。これはダンジョン内に隠されてるから、冒険者登録が必須になる。

 ダンジョンに入るのに、冒険者証を提示しなくちゃいけない。


 僕のは偽造した冒険者カードだし、ちゃんと冒険者になろう。


「私もマノンと一緒に正規品を取っておきます」


「えぇっ?」


「この冒険者カード、偽造したものです。出入りするのに使うだけでしたので」


「さすが魔王軍の人だぁ」


「ダンジョンは魔界と人間界への通路ですからね」


 はえー、みたいな顔してるマノン。不思議なことだらけなんだろうなあ。こんな設定は知るはずのないことだし。

 スキルツリーのことも教えたら、大混乱してたし。


「マノンのスキルツリーも、見ることが可能だったら良かったんですけど」


「あれは羨ましいなあ。私にも欲しかったよ」


「自由度が増しますからね」


 マノンはプレイヤー用のキャラ。

 だからスキルツリーが生えてても、おかしくないんだけどメニュー画面は出ないみたいで使えないようだ。


 こっちでマノンのスキルを操作できたら良いのに。僕のほうにパーティ編成みたいなのが出てくれば、可能性はあると信じておこう。

 冒険者になってパーティ登録をする。


 それが切っ掛けになりそうな気がしてるので、僕も正規に冒険者登録をしようと思ったんだ。


「先生はどんなスキルを取るつもりなの?」


「そうですね。魔法士関連はこのまま育てるつもりですが──」


 他はどうするかな?

 これからはソロ用からデュオ用にチェンジかなあ。マノンとパーティ組むし。補助系で良いのかなという気はしてる。マノンの攻撃力はガンガン上がるはずだしさ。


 取り直しもできるから色々試したって良い。

 バランス良く取っていこう。


 この1年は魔法士7盗賊3くらいの割合で熟練度を鍛えた。取ったスキルは忍び足、隠蔽、偽装、罠感知、罠解除、看破。

 ダンジョンで使うものと、魔王軍を誤魔化す用のもの。


 ステータスアップのパッシブ系はINT、DEX、AGI、MP、VITを追加で何個か取得してる。


 それから精霊の適性を増やした。

 火、地、光、闇の4種類。見つけ次第、使役したい。

 ウム。


「精霊の種類を増やして補助系ですかね」


「私は二刀流を鍛えて良い?」


「もちろんです」


 エンチャントはお任せあれ。

 火と光のエンチャントは、カッコ良さが爆盛りなので楽しみだ。

 精霊を見つけるっていう前提条件が難しいんだけど。


「さてマノン。野営地と森で野宿、どっちにしますか?」


「川の側で野宿!」


 ですよねー。

 マノンは川のお風呂、好きだもんな。

 野営地ではお風呂なんてないし、他に人がいるかもしれないし。


 村からはほとんど出たことのないマノンだし、知らない人は緊張するのかもな。

 王都……大丈夫か?

 ま、なるようになると考えておこう。


「では急ぎましょう」


 夜がやって来るので。

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