09 殺した勇者の髪の毛からアイテムを作るっていうイカレたアイデア。

「まずは私のことを話しましょう」


 村のみんなを集めて、説明しなければいけない。僕はこの村の敵じゃないということを分かってもらう必要がある。

 そのための4年半だったしね。


 スキルツリーのことは、じっくり考えよう。


「私は魔王軍の暗部に所属しています。勇者捜索と暗殺が任務でした」


 本当なら僕が襲うシナリオだったからな。


「ではなぜマノンに修業を付けていたのか。それは私が元人間の転生者だからです」


「そんなの寝物語の絵本じゃん、先生っ」


「でしょう? 私も最初は戸惑いました。なにせ魔王軍の暗殺者になってるんですから」


 しかもすぐ死ぬキャラだし!


「でもさでもさ、先生。それなら私と出会った時に……任務完了できたんじゃ?」


「私には未来の知識がありましたからね」


 単純にマノンとイチャイチャしたい。

 というのは言えないことなので、適当な理由で誤魔化す。


 未来の知識で、マノンが死ぬのはこの世界にとって非常に良くない結果が起こる。そんな未来を知っていると。


「過去の世界に転生したので──マノンを強くするために、この村に来ました」


 フンワリとカバーストーリをでっち上げても、暗殺者の偽装スキルがイイ感じに作用してくれる。

 過疎地にある村のみんなは、純朴な人たちなので信じてくれた。


 マノンが大事。

 この一点だけは僕の真実なので許して欲しい。


「だから先生は、たまにわけが分からない行動をしてたのかあ」


 パーティメンバー候補のフラグ回避。

 いまだに根に持ってるっぽい。

 アブナイ人認定しちゃったから。


 まあ唐突に、とある村を助けに行くとか……結構わけが分からない行動だし、仕方ないかもだ。


「私の目的は、マノンが勇者に覚醒して強くなることでした」


「でもなんでそこまでしてくれるの? 先生」


 二次創作的な理由で仲良くなりたいからです。


 っていうのも、もちろん言えないからゲーム内にある1つのシナリオを教える。

 サンドボックス系だから、別に魔王を倒さなくても良いしな。

 魔王はアイテムとか経験値がオイシイというのはあるけど。


「覚醒勇者だけが魔王を滅ぼせるからです」


 魔王の退治。

 それは覚醒勇者にしかできないこと。

 勇者と魔王は対の存在。


 覚醒した"勇者の力"が必要で、倒すか倒されるかの関係だ。

 だから──


「魔王は知覚することで、事前に動きます。覚醒前に勇者を殺すために」


 ──他所の魔王も動く可能性はある。


「魔王軍は、マノンの存在を知っていました。場所までは詳しく分からないみたいですが」


 捜索範囲は王国内っていうザックリ具合だったからね。だから偽装していれば、そうそう見つかることはないと思う。


「ということで、はいマノン。勇者を隠蔽する魔道具です」


 偽装用の"悪魔の瞳のネックレス"を着けさせる。予定してたので準備万端。

 追加でガーゴイルの腕輪も手に入ったので、これも渡して着けておくように言う。


 ラッキーだったな。僧侶フラグ回避の戦闘で手に入ったのは。さらに隠蔽と偽装に効果が乗る。これは僕の裏切りを誤魔化すためにも必要なので、常に身に着けておいてもらおう。


「あとはこれと、これ、それからこれとそれに、あれと──」


「先生!? なんか多いよっ!」


「4年前からマノン用に準備していましたので」


 冒険者用セットに覚醒勇者隠蔽セット。

 荷物も装備も増えてしまうのは仕方がないことだ。


 それに加えて、マノンの戦闘方法が二刀流に変わるからな。装備が今までとは違うものになる。

 盾を持たせてた分の防御力を、マジックアイテムで補わなければいけない。


 軽装鎧とブーツ、ガントレットを防御が上がる魔法の品に変更した。

 指輪にはINTとDEX。

 イヤリングにはAGIとDEXを付けてある。


 それから髪飾りには雷と聖属性を強化するもの。

 マントには耐火能力アップのものを用意した。


「そしてこれが秘蔵の一品」


 マジックバックを渡す。


「チョット、オチツコウヨ、センセェ……」


 僕にインベントリがあるから、一緒に行動するなら問題ない気もするけどな。やっぱりこういうのは持ってたほうが便利だしさ。


「どうしようママ。ネムさんがマノンを甘やかす」


「そうね、ネムちゃん。いくらなんでも過保護すぎるわ」


 そうかもしれないけどさ、覚醒勇者に殺されるフラグを回避したんだ。今日はテンション上がったっていい。


 "おめでとう僕"の日だからね!


 それにさ、これだけのマジックアイテムを渡してるんだし、マノンが大事だということも分かってもらえると思う。


「それにしてもマノンが勇者とは」


「そうよね。ただのお転婆な娘だと」


「私もビックリだよ」


「今日からマノンも、寝物語の絵本の登場人物です」


 村人もマノン自身も、彼女が勇者なのを知らない設定のようで困惑している。でも現実になっちゃったので、対応していかないとね。


「魔王軍への誤魔化し方ですが──」


 ゴブリン兵団はやられてしまったが、勇者は隙をついて僕が始末したと報告しようと思ってる。

 魔王軍サイドはダンジョンがとても便利なので、これからも使いたいからね。


「マノンの髪の毛を少しもらっても良いですか?」


 マジックアイテムに使えそうだし、偽装になるんじゃないかと。

 殺した勇者の髪の毛からアイテムを作るっていうイカレたアイデア。

 マノンに苦痛はないし。


 魔王軍サイドの考え方だよなあ。

 勇者を素材にっていうアイデア。

 ほら、悪魔なんかは目とかも素材になってるし?

 人間サイドの考え方も結構コワイよね?


「先生、私はこれからどうしたらいいの?」


「マノンは二刀流の修行です」


「冒険者じゃなくて?」


「ギルドに入会できるのは16歳からですし」


 それまでの1年は、村人も含めて戦闘訓練をやろうって提案した。

 村の強化を始めたほうが良い気がするんだよなあ。

 そのほうが安全になるし。


 勇者マノンが魔王に気付かれる可能性だってあるからな。あれはそういう能力っぽいから。偽装がどこまで有効なのかなんて、ゲームではできないことだったから分かんない。


「今までのままではいられない……そういうことかい? ネムさん」


「はい」


 以前ボンヤリ考えてた、レガリアを探し出して村を堅牢にするのがベストだと思う。食材がバフアイテムだからな、この辺り。

 レガリアでさらにパワーアップするかもだし。


 これは要検証。


「じゃあ来年になったら、先生と一緒に探しに行く! そのレガリアってマジックアイテムっ!」


 おっと、マノンから言い出してくれた。

 これはマノンに甘いご両親には止められない。


 僕の妄想が現実になりそうです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る