08 そっちの私は残像です。

 僕が到着した時にはゴブリン兵団がもう暴れていた。ただ……ゴブリンキングは村人たちをなぶるつもりなのか、自身は偉そうに座って手下が村内で暴れるのを見ている。


 マノンはジェネラルを相手取って大立ち回り中だ。

 まず最初に村のみんなを救出しておく。食材でステータスが高くなってるといっても、村人じゃあ数人でゴブリンキャプテンくらいだ。


 マノンから戦闘技術を学んで、少しは強くなってるみたい。だけどジェネラル級に襲われたら、ひとたまりもないはず。マノンが引き受けてるけど、ジェネラル複数相手だと倒すには至らない様子。


 村人のほうは精霊のみんなに、少しずつ力を使ってもらえば解決できるか。弱体化させて捕らえれば、あとは任せても大丈夫だろう。

 マノンは自力で解決させる。


 全員でレベルアップを目指すほうが、今後の役に立ちそうだし。


「どうやら間に合いましたね」


「ネムッ! 邪魔しに来やが──」


「来てくれたの先生っ!」


「──ぁあん? 先生、だと? テメェが? 獲物の?」


 キングくんが鋭い視線で僕を睨む。


「グヒッ、裏切りかよォ。ヒヒヒ」


 そして嬉しそうに笑い始めたキングくんの笑顔が、とてもニッチャリしてる。性と食、どっちの意味でも食べるつもりの顔か。

 でも残念ながら、お前たちはマノンの餌だ。


「裏切り? 何言ってんの。先生はずっと私の先生だ!」


「そうですね。私は以前からマノンの先生です」


「舐めたマネしてんなあ、ネムゥゥ! 見付けてたってのかよォッ!!」


 あとで僕のことやマノンのことを、村のみんなに説明しないとな。


「ええ──勇者は私が育てます」


「先……生?」


「イイじゃねぇかッ。オレサマがまとめて喰らってやる!」


「マノン。ちゃんとゴブリンジェネラルの相手をしなさい。私は──」


「オレサマだろァァアアアッ!!」


 キングくんの剣戟を受け流せば、ギャリィィンと火花を散らす。想像してたよりは技術が高く育ってるみたいだ。今のマノンには難しい相手。

 ここは予定通り、やられたフリしてマノンの覚醒を狙おう。


「くっ……想定以上の力ですねッ!?」


「ギャヒヒヒヒ、オラァッオラァァァッ」


「先生!!」


「マノンはジェネラルをっ!」


 早く倒してくれないかな。ジェネラルが残ったままだと、僕がやられるシーンを見せるのは危険になる。マノンが棒立ちになる可能性だってあるからな。

 それまでは"なんとかキングの攻撃を凌いでいるフリ"をしておかなくては。


「楽しませてくれよォ」


「セイッ、ハァーーッ!」


「おー、可愛い攻撃ィ、ネムちゃぁん!」


「ううっ、やりますねっ」


「ヒャヒャヒャ。勇者と一緒に来てもらってもイイんだぜぇ」


 徐々に僕の服が切り裂かれていく。キングくんが狙ってたので、乗ってあげた。といったって、僕も恥部を晒したいわけじゃないからね。

 肝心な部分は切られないようにコントロールしている。


「舐めるなあーーーーっ!!」


 あ、マノンがペシィされてしまった。無謀な突っ込みはダメだって教えたのに、焦っちゃったか。ま、いいさ。ジェネラルも倒したみたいだし。

 そろそろ僕のやられシーンを実行。


「マノンッ!」


 無謀な突撃をしてお腹に穴を開ける僕。


「せん……せ……?」


「ゲブ……マノ…………逃げ」


 ガク、パタリ。

 僕は大根役者かもしれないが、暗殺者のスキルがイイ感じに作用している。

 だから会心の死にっぷりを披露した……はず。


「やっちまったぁ。ヤルつもりだったのによぉ」


「先生ーーーーっ!!」


 残念そうなキングくん。

 最初からその妄想は叶わないよ。

 だって──


「うわあああああああああっ!」


 ──雷と聖属性の輝きをマノンがまとう。

 勇者覚醒だ。


「それが勇者ってヤツってかァ? メスガキィ、ウマそうじゃねえかよォ」


「先生の仇ッ!」


「頑張ってください、マノン。まだ少しだけキングのほうが強いですから」


 キングにやられてマノン覚醒させるために準備してた僕のスキル。

 もう一人の自分ワンモア

  暗殺者のスキル、便利である。


 もちろん精霊たちにも手伝ってもらってるから、今回のワンモアはリアルな死にっぷりに仕上がってたよ。

 そのせいで、村のみんなにはチョットだけ頑張ってもらう必要があったけど。


「は?」


「えっ?」


「そっちの私は残像です。ほら、修業中ですよ。相手を見る! 私にマノンのカッコイイ所を見せてください」


 村のみんなは助けてあるのでご安心を。


 もうゴブリンキングしか残ってない。

 キングくんも落ち着け。

 マノンの修行にならないじゃあないか。


「バカな! バカな! バカな!」


「この程度は増えてきますからね、マノン」


 ただのゴブリン兵団の1つだし。


「は、はいぃっ!」


 本来のシナリオスタートより1年早かった。もう明確にゲームとは違うシナリオで動き始めてる。

 クソー、二刀流の修行を始めてたらカッコいいシーンになるはずだったのになあ。


 残念。


「ネムちゃん、マノンが勇者ってどういうことなの?」


「それにネムさんが魔王軍を裏切ったとか」


「その辺りの事情は、あとでちゃんとみんなに説明します」


 気になるだろうけど今はマノンの大事なところだ。

 待ってて欲しい。


 っていうか、僕が魔王軍側って知っても普通に接近して来たな。

 マノンの両親は。


 信頼されてる──としたら嬉しい。

 しかしマノンの性格を見ていると……細かいことは気にしない2人なのかもしれない。


「失敗しました……かね?」


 マノンがキングを倒すまで隠れてたほうが良かったかも?

 マノンもキングも集中力を欠いているせいで、動きが悪い。これじゃあ修行にならないな。


「覚醒しただけでも良しとしましょう」


「アバァ!?」


「終わりです」


 サクッとキングを処理してインベントリに。


「わけが分からないよ!? 先生っ!」


 珍しくマノンに怒られてしまった。

 でも良いのだ。

 マノンの覚醒に合わせて、僕も覚醒したみたい。


 スキルツリーの解放だ!

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