22 勇者行動

 10層の魔物。

 人型、爬虫類型、獣型、虫型。

 下位クラスを引き連れて現れたり、9層までとは一味違うステージに入る。


「色々取り揃えてございます。お客様にはご堪能いただけることでしょう」


「あはははは何それ先生」


「魔王軍は運営側ですからね」


 ゴブリンジェネラルやオークチャンピオン。

 キラーパイソンやジャイアントセンチピードとか。

 キラービーにマザーシップビートルなんかも。


 虫系はウジャウジャ出てくるはず。

 ただ僕たちには相性がいいのでカモれるかな。チョット不安なのが、マノンはおっきいムカデとか平気かな? ってことだ。


 巨大な虫系は見た目が、ね。

 凶悪と言うか、ね。

 慣れないと心が"ヒュッ"てなるヤツだから心配してる。


 そんなマノンは今、ヒュージボアと戦闘中。これまでの人生で経験したことのない敵だから、苦戦している様子。

 僕も得意な敵じゃないな。


 巨大な蛇は耐久力も高いし、大きすぎて搦め手が効きづらい。単純に高火力で倒すのがベストな敵だと思う。

 つまり今の僕にできるのは──殴る蹴る突き刺すくらい。


「短剣では切断に時間が掛かります」


 風の精霊ナギの二酸化炭素中毒攻撃や、水の精霊ハパの猛毒の霧。パーティ組んでると使い勝手が悪い。

 マノンにも効いてしまう。


「頑張るっ!」


 雷のオーラも表皮を流れてしまってるから、あんまり効果がないみたいだ。なんというか……明らかに10層のレベルじゃない。

 チラッとベニを見ると、自慢げに頷いていた。


 素材を欲しがってるだけじゃないのかね?

 まあ経験値も高いし良いか。

 僕は巨大蛇の身体を駆け上り、頭部を殴り飛ばす。


「突き刺した状態で雷のオーラ!」


「アッ、はいっ! やあーーーーっ!!」


 バヅヅヅヅヅヅヅっと激しい音を立てて、雷属性がヒュージボアの中身を焼く。

 雷撃ってカッコいいし便利そうだし、僕も欲しいなあ。


「牙に皮、眼球。大型の素材だから儲かりそうだね!」


「ベニが欲しそうにこっちを見ています」


「食べるの?」


「いえ……アイテム用の素材だと思いますよ。秘密の休憩所からダンジョン機能を使って送ります」


「相変わらずのズルさ。そういえばさあ──」


 ダンジョンの魔物は死体が残らず、素材になるのが不思議らしい。

 僕も不思議。そういう設定だからとしか言えないんだけど、何かでっち上げて誤魔化す必要がっ。


「ダンジョンの魔物は侵入者を排除するだけの、意志を持たない──」


 ユニットみたいなもので、ダンジョン機能で魔力を元に作られている存在。なので生物じゃないから死体が残らない。


「とはいえ、私も詳しいことは分かりません」


 ベニの本体であるダンジョンマスターも、できるから作ってるだけっぽいし。

 量産型とか養殖みたいなものだよ、たぶん。


「養殖……」


「おそらく」


 運営の仕業なので。

 素材を剥ぐ手間がなくて良いじゃないか、ってことに落ち着いた。

 実際のところ、かなり楽になるからな。


「マノン、新たな敵が接近しています」


「はいっ」


 姿は見えないけど、マノンも羽音でなんとなく分かるんじゃないかな。

 僕は風の精霊ナギが教えてくれてるので、もう分ってるけど。


「キラービーの群れです」


「こういうのは楽で良いね、先生」


「ではマノンに任せましょう」


「行きまーす!」


 僕なら精霊を使って。

 マノンなら属性をまとって。

 凄く簡単に倒せる。


 いわゆる放置稼ぎが可能な敵だね。小型の虫系は相性が良いんだ。

 現実になってるからポケーっと立ってるだけなのは、苦痛だからできなくなった技ではあるけど。


 蜂は特にオイシイ魔物です。


「マノンの幸運に期待してます」


「分かったー。強く願うよっ」


 ハチミツ~ハチミツ~ハチミツは良いもの~、とか変な歌を歌いながら二刀を振り回しているマノン。その度に雷撃が暴れ、キラービーを仕留めている。


「13個出たよ先生」


「私と同じくらいのドロップ率です」


「じゃあ先生も運が良いんだよ」


 勇者力はドロップ率に影響なしと思っておこう。ただ勇者のさだめというものなんだろうか。

 マノンは隅から隅まで探索したがるね。


 ガシャーン。


 あと壊せそうなオブジェクトは壊そうとする。


 パリーン。


 現実世界でその行動を見ると、凄く変な人に見えるんだなあ。


 ボゴォバキバキ。


「やっぱり隠してた!」


 大きな木箱から、小っちゃいポーションがドロップしてテンションアップしてる。

 座ったお相撲さんが仕舞えるくらいの大きな木箱から、小っちゃいポーションがたった1個。


 凄い違和感。

 現実になった弊害かあ。そういえばゲームの時は気にしたこともなかったな。現実になったらやらなかったし。


「マノン……その行動は時間を無駄にしますから」


「で、でも何か入ってる気がするし!」


「魔物を倒したほうが効率が良いですよ」


「ウーン…………分かった。やめる。先生がそこまで言うなら……」


 ゲームでは僕も全部壊してたから分かるよ、その気持ち。

 でもね?


「マッピングを忘れています」


「ゴメンナサイ」


 まあ休憩所でマップを表示すればいいだけだから、このダンジョンではたいした問題じゃない。オブジェクト破壊に夢中にならなければ、マノンもマッピングはちゃんとやってくれるだろう。


 そんなマノンの勇者行動を見てたけど、やっぱり勇者力ってあるのかもしれないと思った。

 なんと言うか、彼女は順調に隠し部屋も発見した。


「こ、ここのは良いよね、先生? 隠し部屋だし、宝箱もあるし、何か隠されてそうだもんね!」


 テンション高い。

 落ち着けー。

 浮かれてると危ないよ。


「宝箱には罠があるかもしれませんから、不用意に触らないように」


「分かってる!」


 マノンはオブジェクト破壊に勤しむ。

 彼女は木箱破壊が好みのようです。次点で壺。

 僕は罠チェックだ。


 ガシャーンボコバキィをBGMに、罠チェックする。

 僕は勇者のお供のNPCの気持ちを理解した。

 うるせぇ……。


 そういえばお供のNPCに「勇者様、政務官殿に報告を済ませてしまいましょう」とかよく言われてたなあ。

 壺とか割ってると。


 お供に注意されるのは、勇者のさだめかもしれない。


「先生っ、天井から黒いのが!」


 何かを引き寄せるのも、勇者のさだめかもしれない。

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