21 こう言っておけば、どこかの権力の下で動いている感じを出せるでしょう。

 魔界から帰って来た翌日。

 僕たちは冒険者ギルドに来ていた。

 ちびドラの従魔登録が必要になったからね。


 ただ貴族に狙われた僕たちが、4日で普通に現れたので「どうなってんだ?」って顔で見られている。


「マノンはベニの登録をお願いします」


「分かったー」


 ベニ。ちびドラはメスのレッドドラゴンなので、マノンにベニヒメと名付けられた。僕の中じゃ、ずっとダンマスと呼んでたので違和感がある。

 でもベニヒメって名前、なかなか良い名前だと思う。


「8層のオークの森。狩場独占はなくなりましたので、これからはご自由にどうぞ」


 どうなってんだの圧が強かったので、教えることにした。僕たちの狩場はもっと下になるから、8層に人が多くても関係ないし。

 独占しても問題ないような場所に入り浸れば良いのだ。


 昨日魔界から戻ってすぐに調べたし、間違いない。宰相はできるヤツってことだ。女の子たちにも万能薬は使用されたようで一安心だ。


 ざわざわが大きくなっていく。

 ウム。稼ぎ時だから強くなるのです。

 ん? 受付嬢がスススっと寄ってきた。


「ネムさん、詳しい話をギルドマスターが聞きたいそうなのですが」


「詳しくも何も、今言ったことが全てですが」


「一応マスターに直接伝えていただけますか?」


「これから潜るので、少しだけなら」


「お願いしますね」


 ベニの登録が終わったマノンも連れて、ギルマス部屋に案内される僕たち。報告を求められたので、ホールで話したことを再度伝えた。


「もう報告されてると思いますが」


「ああ、そこまでは聞いている。私が求めているのはもっと深いところだ」


「では私が話せることを」


「よろしく頼む」


「私は話す権限を与えられていません」


「先──」


「もちろん、マノンにもです」


 口を出そうとしたので、マノンも黙らせる。

 めっ。

 喋っちゃダメ。


「話せませんっ!」


 こう言っておけば、どこかの権力の下で動いている感じを出せるでしょう。

 つまり、面倒な報告をしなくても良いのです。


 冒険者ギルドに直接は関係ないからな。

 悪徳貴族の悪徳行為は。

 だって国を売って天下取りしようってことだったし。


 狩場の独占がなくなるだけのことだ。


「ちなみに私もヤツと同じく男爵位を賜っているのだが?」


「私たちの回答に変わりありません」


「そうか。では知るべきことではない、ということか。分かった、下がってくれて構わない。ありがとう」


「いえ。では失礼します」


「しちゅっ、失礼します!」


 ダンジョンの秘密の休憩所に入るまで、マノンは硬~い表情をしていた。


「どうかしました?」


「だ、だって貴族っ! 緊張したぁ」


 あなた……貴族1人を殺処分してますが?


「しかも何言ってるのか意味が分かんなかった。喋っちゃダメってことくらいしか」


「報告が面倒でしたので『男爵のギルドマスターより、上位の貴族の命令で動いていましたので話せません』ということを伝えたんですよ」


「そんな事実はないのに!?」


「勘違いしてもらえるように話したので」


 国を魔王軍に売った悪徳貴族。

 国の恥で汚点な事件だったので発表もなく、闇に葬られるんじゃないかな?

 だから冒険者ギルドが関わる必要もないのだ。


「ということで、問題はありません。私たちはダンジョン探索に集中できますよ」


「うーん……良いのかなあ?」


「宰相には正確な情報を渡していますし、良いんです」


 そもそも僕は魔王軍所属の暗殺者。王国貴族の行く末には、こだわってない。どちらも程よく育って欲しい。

 弱いままだと他所からの攻撃に耐えられないからね。


 そのためにもレガリアを獲得して、マノンの故郷を強化しておきたい。ダンジョン機能を使っても、直にサーチできないのは分かってる。だから隠し部屋をメインに探索する予定だ。


 隠し部屋はダンジョン機能でサーチ可能。

 そんな部屋には強い敵や大量の敵が待機してたりする。経験値も素材も、お得に稼げるしレガリアの情報があったら、さらに儲けものだ。


 一石二鳥+αってヤツだね。


 ただ想定外なのはベニのことだよなあ。

 よく考えたら従魔登録なんてせずに、家で待っててもらえば良かった。だけどマノンが育てる気マンマンでな。


 連れ歩きたいみたいで、ダンジョンにも同行させてる。戦闘力はないから完全に癒し枠です。スキルツリーが出てくれば戦力になるだろうけど、ベニは分身。

 出てくるはずもない。


 ベニ的にはどこに連れて行かれようと気にしてない。本体はダンジョンの奥に籠ってるしな。命の危険はないし、僕とマノンの素材で満足しているようだ。


「ところで先生。最初は普通に探索してみたいんだけど」


「それもそうですね。マッピングも経験しておいたほうが良いでしょう」


「やったー」


 予定では他所の魔王のとこにも行くつもりだからな。深い場所のマップは売ってないだろうし、マッピングできるようになって損はない。


 マノンにとっては念願の冒険者。やりたいようにやらせるのが良いかも。ただ1層からやってると飽きそうだな?

 敵が弱いし。


「探索は下層からしましょうか。手ごたえがないのは緊張感もなくなりますし」


「じゃあ10層スタートみたいな?」


「そうですね。10層は幸いにも迷宮系ですし」


 迷宮系ならマッピングがしやすいから、初めて挑戦するならそのほうが良い。自然系のマップは自力で書くとなると難しいよ。

 ということで、10層のスタート地点である9層への階段側に出る。


 9層までと違って、罠も敵も少し強力なものになる10層。中級卒業くらいのレベルかな。僕たちには問題ないけど、油断したら怪我はするだろう。

 僕は罠関連のスキルツリーにも振ってあるから大丈夫だ。


「ではマッピングをお願いします」


「冒険スタートっ」

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