20 いや……安心してるということは…………良し!

 魔王軍ハッピーシステムの1つ、ダンジョン秘密の休憩所エレベーターを使って、魔界に降り立つ僕たち。


「寂しいところなんだね」


「魔力だけが豊富な世界です」


 僕はマノンを自室に案内する。上司への報告作業があるからね。その間待っててもらわないと。あまり連れ歩くことはしないほうが安全だと思うし。

 ゴブリンは女の子にすぐ寄って来るからなあ。


「おーっ、ここが先生の部屋!」


 物が少ない部屋なのに、そんな部屋を見てなんかテンションが高くなるマノン。

 どこに喜ぶ要素があるんだろう。

 ベッドにバフッとダイブした。


「なんか先生の匂い」


「マノン!?」


 何言ってんのだ?

 匂いを嗅ぐななのだ!


「男の匂いもない。良し!」


 何確認してんのだ!

 いや……安心してるということは…………良し!


「大人しく待っててください」


「はぁ~い」


 娯楽はないから暇だとは思うけど。

 ないない尽くしだし、家探しされても焦るものもない。

 大丈夫。


 ほとんどが移動とマノンの所にいたからな。ここを使ってたのって、転生したての序盤プレイの頃くらいだし。

 あと、マノン用装備の素材集めの時くらいか。


「別の魔王が王国に?」


「は。村を滅ぼして拠点を築こうとしていた可能性があります」


「分かった。そなたには他の魔王のことも調査してもらおう」


「了解しました。遠征を視野に入れても?」


「ふむ……まあ良かろう」


「は。ありがとうございます。では失礼します」


 可能であれば排除もしてくれってさ。

 よしよし。経験値はいくらあっても困らないから望むところだ。他所の魔王軍のところに遠征も許可が出たし、これで頻繁に報告しなくても良いな。


 素材が集まったら戻ってくる程度で。


「マノン、ダンジョンマスターのところに行きますよ」


「私の中ではねえ、いい物をくれるおじさんのイメージになってるよ。ダンジョンマスターって」


「おじさん……確かに年は重ねていますが」


「どんな人?」


「まあ、すぐ会えますから紹介はその時に」


 近場のダンジョンで認証キーを使って、ダンジョンマスターのところに移動する。


「りゅ、竜!?」


「預けておいた勇者の髪、装備は完成させていただけましたか?」


「うむ、待たせたようだが問題なく。2つであったな」


「はっ。ありがとうございます」


「そなたはなかなかに大胆な動きをしておるようだな」


「は、そうでありましょうか?」


「まさか勇者を連れ歩いておるとはな」


「ッ!?」


「せ、先生……」


「面白い、面白いぞ。何が目的かは知らぬが協力──待て! 待たぬか!! 協力すると言っておるのだ!」


 殺気が漏れてしまったようで、ダンジョンマスターが焦りだした。


「我とて殺されたくはないわ!」


「先生の本気の片鱗を初めて見たよ……」


「極秘にしていただきます」


「分かっておる。その代わりと言ってはなんだが──」


 マノンの髪の毛や爪を要求された。これは研究用だろうって分かる。

 でも僕のまで要求された理由が謎だ。

 "勇者の力"みたいな特殊な力は持ってないはず。


「そなたの異常な強さよ。あまりにも不自然である」


 ダンジョンマスターの権能でも分からないから、研究したいって言われた。

 この研究バカめぇ。

 でもそれで助かってる部分もある。


 しかし権能と勇者の研究で、マノンのことがバレてしまったのか。


「分かりました」


 協力するってことなら、まだマシではある。

 ついでなので血も渡すことにした。何かいいアイテムになるかもしれないし。


「じゃあ私のも渡そーっと。凄いの作ってよね!」


「コヤツもコヤツで恐れを知らぬ……」


 やれやれみたいな感じになってるダンジョンマスターだけど、それはこっちのほうが、だよ。まさか一発でバレるとは。

 権能なんてシステム、プレイヤーには知られてないものだし。


 協力的ならありがたい話だけど、魔王軍に発覚する可能性が上がったともいえるからな。

 もしそうなったら……。


「ウチの魔王サマにはご退場してもらうほかありませんね」


「我とて死にたくはないと言っておるではないか!」


「絶対ですからね?」


 ダンジョンが使えなくなるのは、相当痛い事態になるんだ。

 できればこのまま利用していたいので、ホント頼むよ。


「ねえ、ダンジョンマスターさん。飛べるアイテムって作れる?」


 自由か!

 いや、マノンはそれで良いか。


「マノン、やめておいたほうが身のためです。人は飛べない生き物です」


「試したんだ」


 風の精霊ナギでね。その結果、車酔いみたいになったし、上手く飛べないし、木に激突したし、弾け飛んで地面にも突撃した。

 やめたほうが良い。


 人は地面に足を付けて生きるものだ。


「それとこの薬の調査もお願いしたく」


 魔人薬も渡す。

 他所の魔王軍のアイテムということも添えて。


「我らにはない技術であるな。ウム、分かった。我がものにしてみせよう」


 ありがたやありがたや。

 増産できたら欲しいからね。

 経験値アップのアイテムは効率が良いのだ。


 ゲームによっては、LVは上げずにジョブポイントを稼ぐのが良いってのもあるけど、ラストレガリアはLVアップでスキルポイントが入るからな。

 LV上げは必要になるんだ。


 素材をダンジョンマスターに譲渡することが、現世での課金みたいなもの。

 せっせと課金して、敵に使って効率よく稼ぎたい所存であります。


「フム、そうだな。指輪を渡せ。追加で偽装効果を付与しておこう」


「それはありがたいですが」


「私もそなたらの仲間である。協力は惜しまぬよ」


「良かったね、先生」


 勇者の髪の指輪2個

  雷 聖 INT MP +5%

  怯え耐性 +5% 偽装 +5%


「ありがとうございます」


「ウム。それとだな、我との連絡用に連れて行くが良い」


「うわぁっ、カワイイ!」


 ちびドラゴンを渡された。


「我の分け身である」


「魔王軍は気軽に分身できるんだなあ。もう何でもありだって分かったよ」


 分身は魔王軍と関係ないが……だいたい何でもどうにかなる感じではあるな。ダンジョンのおかげで。


「ちびドラには機能停止機能を付けておる。見せたくないものもあろうて」


 我もそなたらの秘めごとには興味がない。とか言い出した。


「……っ!?」


「……? ッ!? コロシマスヨ?」


「見てはならぬと思うて付けたのだ! 可愛らしく寝る我を見て和むが良いぞ」


 匂い……でバレてるのか?

 水の精霊ハパに洗ってもらってるのに?

 野生の感なのか?

 おのれぇ。


 でもダンジョンマスターは気にしてないようで、ちびドラのほうは喋れないからと筆談用のペンとボードを渡してきた。

 なんかモヤモヤするけど、ちびドラとセットで受け取るしかない。


 マノンが気に入ってしまったしな。

 見た目がカワイイから分かるけど。


「仕方ありません。王都に戻りましょう」


「もう? なんか忙しないね」


 だよね。

 だから僕はマノンと村での生活は楽しかった。


 王都に戻ったら冒険稼業。強くなるための行動は必要だしするけど、のんびりも予定に入れよかな。

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