19 ゲームで経験値増やすアイテムって、現実になるとこういうことなのかも。

「愚者が! この場は我らが主、疾風の勇者様であらせられ──」


 おぉぅ……何者と問われるなら分かるけど、愚者ときたか。いきなりなじられるなんて、想像してなかったよ。

 でもそういうの、いらないんだよね。


「処分しに来ました」


 僕たちの目的はコイツらの排除だからな。というか、勇者とか言い出したからマノンの挙動が不審になっちゃってる。

 落ち着きなさい。


 本物……なのかは分かんないな。"勇者の力"が僕に分かるわけでもないしさ。マノンが勇者なのは知ってただけだ。


 まあ本物か偽物かなんて、どっちでもいいこと。


 この悪徳貴族は、魔王軍にも王国にも、当然僕たちにも邪魔になるヤツ。他所の魔王軍と取引してるようなヤツらなので。


「すでに宰相閣下も動いておられます。お分かりでしょう? 自分たちの未来がどうなるか──くらいは」


 マノン、落ち着きなさい。

 キラキラした目で見るんじゃあないって。


「ほう? 知られていたということか」


「閣下!」


「なに、構わぬ。計画を早めるだけのこと」


「「「「ははっ!」」」」


「知っていますか? 『構わぬ』とかいうやからが全員失敗することを」


「恐れを知らぬ愚者め」


 閣下、ここは私にとか盛り上がってる。


「始末せよ。魔人薬の使用も許可する。やれッ!」


「たあーっ!」


 あ、待ってマノン!?

 ちょっと魔人薬のことが知りたくなってるんだ。


「くっ、なんと卑劣な刺客かッ」


 薬を飲もうとした配下が、かろうじてマノンの初撃を回避する。回避系のスキル持ちかもしれないな。


「どの口が言うっ、女の子たちを泣かせて!」


 ただレベルは低いようで、僕は難なく魔人薬とやらを強奪できた。


「絶対許さないんだからっ」


「待ってくださいマノン。この薬に興味が湧きました。使わせてみましょう」


「で、でも先生!」


「使ったところで、ですよ」


 経験値が増えるかもしれないしな。

 奪ったサンプルはダンジョンマスター行きだ。

 解析してもらう。


「あまり勇者を舐めるでないわ!」


 青白い閃光が迸る。

 一応本物っぽいな……このおじさん。

 勇者力に目覚めて万能感があったんだろうが──


「戦闘力が高いとは思えません」


 PvP系プレイヤーのムーブを参照してるキャラとか?

 内政系もかじってる感じの?

 まさか転生者じゃないよな?


「ほら、早く魔人薬とやらを使ってください。EXPが増えるかもしれませんし」


「訳の分からぬことを」


 転生者じゃあなさそうだ。余計な能力とかはないと思っていいかもな。転生者だったら僕みたいにチートがあるかもしれないし、危険度が増すから。

 その点ではセーフだった。


「えっと、もういい? 先生」


「はい。どうぞ」


「我らが至高の剣の錆にしてくれる! 皆のものッ」


「「「「おうッ!!」」」」


「もーっ、わざわざ強くさせる意味が分かんない!」


 さっき楽できるとか言ってたのにー。とか文句の止まらないマノン。

 見た感じ1.5倍くらいの強化はされてる様子。

 問題はないな。


「マノンには仮勇者をお任せします。私は取り巻きを」


 経験値は勇者のほうが多いと思うので。

 偽物だったらハズレを渡したことになるから、本物であれ。


「死ねぇい!」


「えいっ!」


 ギィンと激しい音を立て、火花を散らす2人の剣戟。いい武器を使ってるようなので、あとで回収しよう。

 これが他所の魔王軍からもらった、マジックアイテムなのかもしれない。


「舐めっグワアァァァッ」


「しかし弱い。相手になりません」


「おのれッ、閣下の邪魔をさせるわけにはいかぬ!!」


 なんでこんなに慕ってるんだろう?

 約束された未来的なものを妄想して、判断力が低下してるんだろうか。

 それに強化されてるはずだというのに、少し剣を弾くとたたらを踏んでいる。


「かろうじて普通のオークと戦える程度ですかね」


「て、天下を我が手……」


 マノンのほうは終わったようだ。


「閣下ァッ」


 僕も残ってた2人を片付ける。


「他所の魔王と組んで天下取りですか」


「しかも変な薬に頼ってたよ」


「情けない限りですね」


「ね~」


 この程度の力じゃあどう足掻いてもムリだろうな。ただ、この魔人薬とやらは有効活用ができるかもしれない。

 経験値が増えてたっぽいので。


 魔人薬に対処する何かでもいいし、使ったヤツらを狩るのでもいい。むしろコッチが相手に使って、経験値を増やしたっていい。

 ゲームで経験値増やすアイテムって、現実になるとこういうことなのかも。


 つまりいつでも手に入るならお得ってことだ。


「ねえ先生。その薬、どうするの?」


「ダンジョンマスターに分析させて有効利用しようと思います」


「なんかまたヒドイこと考えてる?」


「私は効率のことを考えています」


「ヒドイことだー!」


 違うし?

 さ、アイテムを漁って魔界に行こうよ。見どころは皆無な世界だけど、ダンジョンマスターだけは良いよ。おススメできる。


「ダンジョンマスターかあ。私の装備とかも作ってもらえたりするのかなあ」


「マノンの装備は全部そうですよ」


「え、そうだったの?」


「良いものだったでしょう? 素材を厳選しましたからね」


「うわぁっ、ありがとう先生!」


 無邪気に喜ぶから可愛いんだよな、マノンってば。だからどうしても色々あげたくなっちゃう。遠征して他所の魔王軍も狩ろうかな?

 レガリアのヒントは、世界中に散らばって隠されてるかもだし。


 1つ目のヒントを見つけないと、どんなパターンか分かんないからな。


「ところで魔界の滞在期間はどれくらい?」


「すぐ王国に戻りますよ。マノンが勇者って発覚する可能性が高まりますし」


「なんだぁ」


 いや、だから見どころはないってば。

 上司に他所の魔王軍がチョッカイ出してきてることを報告して、ダンジョンマスターからアイテムを貰ったら帰るよ。

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