06 どこがとは言わないが、訓練してると揺れるからなあ。

 村の周囲は脅威を排除完了だ。木の精霊ジュカには念のため、引き続き村の守護を頼む。


 元気なゴブリンには風の精霊ナギが麻酔ガスをプレゼントして、ヨボヨボのゴブリンを量産していく。マノン用の経験値だ。


 もう敵兵団の士気は低い。ゴブリンキャプテンが倒されてるんだろう。逃げ出される前に足止めしないとな。

 僕はゴブリン兵を無力化しながら、マノンのいるほうに向かった。


「ヤァーッ!」


 マノンは順調にゴブリン兵の数を減らしていたようで、元気なゴブリンは今始末したヤツで終わり。

 フゥって息をつくマノンに声を掛ける。


「マノンお疲れさま」


「終わりました~」


「残してあるのでオカワリしてください」


「鬼だーっ」


「頑張って、マノン。全てがあなたの糧になりますから」


「はぁい」


 そう彼女から返事はあったけど、ブツクサ文句も言ってる。まあ仕方ないかな。強敵ってわけでもないし、途中からはただの作業みたいになってたんだろう。でもそれは、マノンが強くなった証だ。


 ほどなくしてゴブリン兵団の始末が終わった。村人を呼んで素材の剥ぎ取りを手伝ってもらうのが良いかな。


「マノン、ゴブリンの素材ですが──」


 魔石を半分くらいもらう程度で良いかなって相談した。正直言って、ゴブリンの素材なんて今さらなもの。

 それに売るとなると、王都の冒険者ギルドに行かないといけない。


 僕はそもそも冒険者登録していない。

 フリをしてるだけだ。


「──他の素材は村の復興に使ってもらおうかと」


「それが良いと思うっ!」


 今回の目的はパーティ候補のフラグ折りと、マノンの経験値稼ぎ。お金の問題じゃあないのだ。

 気を付けるべき部分は村との交渉時かな。


 マノンは声もカワイイから、黙っておくように伝えた。せっかくの凶暴風メイクが台無しになっちゃうし。偽装した彼女には、どこかの野蛮な戦闘民族感マシマシなタトゥーが顔に入ってる。


 僕も偽装してるから2人とも凶暴な感じ。

 候補メンバーのフラグ折りは、念入りにしておかなくてはいけない。確か冒険者を目指していたようなテキストがあったはずだ。


 王国軍絡みじゃなくても、普通にパーティに誘われる可能性があるからな。僕とマノンの未来には不要なものなのである。

 僕が作る現実二次創作には!


「なんだかご機嫌だね? 先生」


「おっと、油断してしまいました」


 これから交渉だし気を引き締めよう。

 とはいっても、こっちが求めるのは少しだから問題はないと思うけど。


「解体の手伝いを頼んできます」


「じゃあ私は先に始めてるね」


「はい。お願いします。今から口調を変えるので気にせぬように」


「おぉ、声色も変わった。先生の不思議がまた1つ」


 なんだい、ソレ。まあいいや。早く処理しないと獣も寄って来るから急ごう。

 水の精霊ハパに血の処理を頼んで、村に入る。

 僕の顔を見て恐れたような表情をする村人たち。


「村長に伝えよ。解体を手伝って欲しいのだ」


 ゴブリンの脅威は処理済みだということも教えた。何人かが駆け出したので、伝わるだろう。

 少し待てば村長がやって来る。


「村を助けていただいたとか。誠にありがとうございます」


「私にとっても都合が良かっただけのこと」


 魔石を半分もらうけど、残りはあげると言えば喜んでくれた。被害は少なかったようで、村にとっても儲けものだったんだろう。

 さっそく村人たちと一緒に解体を始める。


 パーティ候補メンバーも頑張ってくれている様子。彼らは暴れ散らかしてたマノンを見てるし、僕たちのことを若干ではあるけど恐れてくれたみたいだ。

 オッケー、懐かれないようにした甲斐がある。


 日が落ち始めるころ、やっと解体作業が終わった。さすがに80匹くらいいたからな。時間も掛かるよ。


「宴を開きますのでぜひ泊っていって下され」


「不要である。今回のことは彼女の試験ゆえ」


 このまま僕らは立ち去ることを伝えた。


「血の臭いを嗅ぎ過ぎた。落ち着かせねばならぬしな」


 フンワリと暴れちゃうかも? って雰囲気で伝える。マノンを見ながら。

 ステイだ、マノン。ステイステイ。言いたいことは分るけど、念のためだから許して欲しい。


 僕にとっては、今回のフラグ折りは大事なことなんだ。

 だって死亡フラグに繋がるヤツだし。

 念入りにマノンと分断しなくちゃ、なのだ。


「そうですか、残念なことです。ではこちらを」


 村長から魔石の入った袋をもらった僕たち。どこか安堵したような様子の村人たちに、手を振って立ち去るよ。

 この村にはもう用事がない。


 高速移動で村から離れ、野営の準備をしてたらマノンから文句を言われた。

 やむを得なかったのだ!

 仕方ないのだ!


「先生ヒドイ!」


「マノンは声もカワイイから仕方がなかったんです」


「だからって私が暴れん坊みたいにぃ」


 暴れん坊ではあるよ?

 お転婆だし。


「男は全員えっちなので、少しでも危険を回避しないといけません」


「それは……そうだけど」


 思い当たる節もある様子。

 どこがとは言わないが、訓練してると揺れるからなあ。

 マノンは立派に育った。


「そういえば力が強くなったんじゃないですか?」


 ゴブリンを弾き飛ばしてたし。


「あ、なったよ先生っ。ちょっとだけ強かったゴブリン倒したときに!」


「今回のボス、ゴブリンキャプテンですね」


 あのレベルの敵だと、もう余裕になっちゃったな。


「先生の言うこと聞いてたら、どんどん強くなれる」


 スゴイスゴイって無邪気に喜んでるマノン。


「変装を解くからこっちに」


 怖いタトゥーのせいで不気味になっちゃった。

 さっさと解いてたら良かった。

 もったいないことをした気分だ。


「そろそろ二刀流の修行を始めましょうか」


「ホント? やったー!」


 僕の短剣二刀流に憧れがあったみたいで、結構前からお願いされてた。正直言えばマノンにはロングソードにシールドっていう、鉄板装備が合ってると思うんだけどな。


 似合うしね!

 まあマノンは初心者用キャラだから、満遍なく成長するし平気かな。DEXが上がればパリィもしやすくなる。


「といっても少し先になります」


「えぇ~」


「別口の仕事がありますから」


 マノン用のロングソードも2本作らないといけないしな。マノンの村に行くのは2ヶ月後と伝える。


 マノンのパーティメンバー候補である、僧侶一家襲撃イベントが近い。

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